統合報告書制作

統合報告書制作のトレンド

2026年度も年度下半期にさしかかり、3月決算企業等の多くが統合報告書を発行をしています。毎年8〜9月くらいが発行のピークなので、10月以降はシンクタンクやコンサルティング企業が2026年発行分の統合報告書の分析を始めると思います。

さて、私は独立しサステナビリティ・コンサルティング業を本格的に始めたのが2009年後半からなのですが、2013年に当時のIIRCから「IRフレームワーク(国際統合報告フレームワーク)」が発表され、それから日本国内の統合報告書発行企業を毎年100社以上をチェックしています。で、そんなこんなで「IRフレームワーク」も発行からもう時じき15年となります。

そして、2020年代も後半に入り2030年も射程に入っていいますが、統合報告書もこの15年で大きく進化しています。欧米が大好きな人は、欧米企業のベストケースばかり喧伝する(コンサルも研究者も)のですが、日本企業の統合報告書もかなり報告品質が上がっていると感じています。

また、昨今はIRフレームワーク等のガイドラインによりすぎない、企業固有の価値創造を示すためのツールに進化しています。今まで以上にその品質(≒読者の情報ニーズとの合致)へフォーカスされている印象です。というわけで前置きが長くなりましたが、本記事では先行調査等を含めて、統合報告書自体の情報ニーズやあるべき姿などをまとめていきます。来年の統合報告書制作のヒントにしていただければと思います。

GPIF

質問:貴社のサステナビリティ情報開示が機関投資家に活用されていると感じますか?活用されていると感じる媒体をお教え下さい。
統合報告書:92.2%
有価証券報告書:41.2%
コーポレートガバナンス報告書:39.9%
その他:27.8%
出所:GPIF(2026)「第11回機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」

投資家はサステナビリティ情報をチェックするならどのようなメディアをチェックするのか。ほぼすべてが統合報告書とアンケートに答えています(企業側意見)。流石に、まずは財務データを確認してスクリーニングしてからチェックしているのだと思いますが、“チェックされるとしたら”統合報告書であることは間違いなさそうです。

なお、GPIFは長らくあった「運用会社が選ぶ『優れた統合報告書』」の発表を、2026年から「運用会社が選ぶ『マテリアリティの観点からの優れたサステナビリティ開示』」に変更し発表しています。またGPIF「2025年度サステナビリティ投資報告」のなかでは「サステナビリティ開示について媒体ごとではなく、まさに統合的に考える段階に来ています。」としており、コーポレートコミュニケーション全体としての品質向上を期待しており、統合報告書のあり方(立ち位置)についての視点を変えています。

結局、統合報告書は「御社に投資することで、中長期的にリターンが大きくなる理由を、端的に説明してください」という問いの答え(の一つ)だと思っています。企業におけるサステナビリティとは「企業が事業活動を通じて、コストを上回るリターンを持続的に生み出すこと」ですので、成長戦略には成長に資するESG課題(マテリアリティ)が求められるという、ごく当たり前の前提に立ち返ったとも言えるでしょう。なお、マテリアリティのすべてがESG課題とはなりません。財務インパクトに非常に大きな影響を与える課題があるなら、原則マテリアリティとしてまとめるべきですから。

生命保険協会

・サステナビリティ取組の情報開示について、約5割の企業が⼗分開示していると回答、また、約8割の投資家が、半数以上の企業が⼗分に開示を⾏っていると認識しており、企業のサステナビリティ取組の情報開示は⼀定程度進んできている。
・開示については、81%の投資家が統合報告書による開示を求めており、統合報告書を活⽤してサステナビリティ取組を含む対話を⾏っていると回答する投資家は8割を超える。
出所:生命保険協会(2026)「生命保険会社の資産運用を通じた『株式市場の活性化』と『持続可能な社会の実現』に向けた取組について

投資家は統合報告書での開示を求めている、という調査結果です。ちなみに、投資家が企業のサステナビリティ情報をチェックするメディアは「統合報告書」「サステナビリティレポート」「ホームページ(Webサイト)」が3トップとなっています。最近は、統合報告書発行企業がサステナビリティポートを廃止する例も一定数あるので、実質は「統合報告書」「ホームページ(Webサイト)」が2トップと言えます。

「投資家は統合報告書は読まない」問題は、当事者からよく聞く話ですが、ちゃんとした統合報告書は投資家とのコミュニケーションツールとして非常に有効に機能しそうです。「投資家は統合報告書は読まない」問題は、個人的には、投資家が読むに値しない統合報告書が多いだけで、統合報告書自体を否定するものではないと考えています。GPIFと生命保険協会のデータを見て改めて感じました。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング

・225社のうち、統合報告書発行企業204社を調査(全体の90.6%)
・統合報告書の総ページ数は、50~100ページの企業が約50%、100 ページ以上の企業が30%弱。100~150ページの企業は昨年度と比較すると10 ポイント強減少し、近年の増加傾向から転換
・開示形態(レイアウト)は縦型28%、横型72%の比率となり、横型を選択する企業は2023年度比で約2.5倍に増加
出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2026)「2025 年度の統合報告書の開示情報トレンドにみる、企業の情報開示の戦略」

「統合報告書のスリム化」は全体的な流れではないのですが、2024年あたりから確実に起きています。つまり、情報網羅性のある高評価企業が、マテリアルな項目に開示を絞り込む例です。ただ、私は、すべての企業がページ数の縮小をすべきとは考えていません。たとえば、中堅中小上場企業の多くは、これから統合報告書の品質を上げようという段階であり、発行して何年もたっていないため、サステナビリティ関連情報の充実が必須となります。開示品質が低いままでコンテンツ量を減らしてしまうと余計に品質低下となりがちです。

あと、ページ数は、前述したようにコーポレートコミュニケーション全体の情報開示を勘案する必要があります。いわゆる「すみわけ」です。Webサイトや有価証券報告書を含めて情報開示を統合的に考え、どのメディアでどの情報を出すのか、または出さないのか、という議論があってこそ意味をなすものであり、単にトレンドだからと統合報告書のページを減らすのは愚策です。

10ページ以上を社長のページに充てる企業は57.3%と半数を超え、そのうち15.1%が15ページ以上のボリュームになっている。

これも、わりと前からある傾向です。「トップメッセージ」は、すべてのステークホルダーが共通して読む、最重要コンテンツの一つです。トップの発言は企業姿勢そのものであり、企業を知りたければ社長を知ればいいわけです。私も、今年度も何社か統合報告書の社長インタビューのインタビュアーを担当させていただきました。責任の重さを実感しています。個人的には、トップメッセージは時間と予算をかけて作成すべきと考えています。

投資家以外の読者の存在

ここまで「統合報告書は投資家向けのメディア」としてきました。実際そうでなければなりません。ただ、主要読者は投資家だとして、2番目の読者(実際に読むだけではなく「読んでほしいと思う人」も含む)として、急浮上しているのが「従業員/社員」です。

統合報告書は、最も身近なステークホルダーである従業員が共感できないなら、ましてや投資家は共感しないだろうという意見も聞きます。また、サステナビリティ推進支援をさせていただいている企業様でも、社内浸透のテキストとして、統合報告書のダイジェスト版を配布している企業も少なからず聞いています。ここでいう従業員とは、一般層やパートタイムスタッフというよりは管理職層/リーダー層がメインです。

また、統合報告書は、よりビジネスモデルや中長期視点にフォーカスしているので、会社案内パンフレットよりも、自社の方向性や事業の理解がしやすい、という意見があります。会社案内はネガティブな情報がほぼない(統合報告書もネガティブな情報が極端に少ない会社も多いですが)ので、本当の意味で会社を理解できるかはあやしいものです。

私も統合報告書の読み合わせ会をするというほどではないにしろ、サステナビリティ研修の前にそもそもの統合報告書を一回読んで自社理解を進めておくのは、よい施策だと考えています。従業員にわかりやすいメディアではないですが、知ってもらいたい情報はたくさん載っていますので。

あと、私の大学での講義(学部生)でも、企業の統合報告書の読み方を教えたりしていますが、経営戦略としてわかりやすいし、Webサイトみたいに情報が散らばっていないので、企業分析に使いやすいんですよね。統合報告書は、投資家向けというのが第一義であるのは前提としながらも、幅広い層も読むことを想定して情報の動線を作る必要があります。余談ですが、昨年以降、想定読者として「AI」を明記する企業も数社あって、統合報告書の想定読者問題の難しさを感じるところであります。

まとめ

統合報告書を10年以上読み込んで思うのは、「時代に振り回されるメディア」であり「時代の要請を反映するメディア」であるということです。特に「AIフレンドリー」や「財務インパクト視点」などは、ここ数年の大きなテーマです。他にも前述したトレンドなどもありますので、さまざまな示唆として学びがあります。

ちなみに、アカデミアの世界でも統合報告書に関する報告が増えています。「Google Scholar」などで簡単に検索もできますので、お時間があるときに学術文献などもチェックすると、社内提案などの理論武装に使えるかもしれません。

毎年秋以降は、統合報告書制作の支援会社コンペや、制作会社との事前ミーティングがあると思いますので、本記事のトレンドを含めて検討事項にしてみてください。引用した資料はどれも興味深いものですので、気になる方はチェックしてみてください。(支援側を含めて)皆様の統合報告書制作のヒントになれば幸いです。ちょっと気が早いですが、2027年発行分の統合報告書のネタ集めもすでに始まっていることを認識しましょう!以下の関連記事も参考にしてみてください。

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