統合報告書アワード

アワードからの統合報告書制作の学び

執筆時点(2026年4月)で、3月決算の企業を中心に統合報告書を製作中という企業も多いかと思います。ということで、本記事の話題は統合報告書制作です。その中で今回は「日経統合報告書アワード(2026年2月発表)」を例に、想定読者となる投資家等は、統合報告書に何を求めているのかを振り返ってみましょう。

のちほど詳しく説明しますが「実効性」「コネクティビティ」あたりがポイントになりそうです。

日経統合報告書アワード:受賞企業

■グランプリ
味の素、伊藤忠商事、富士通

■サステナブル大賞
ANAホールディングス

■ガバナンス大賞
三菱UFJフィナンシャル・グループ

■準グランプリ
旭化成、J. フロント リテイリング、住友林業、積水ハウス、高砂熱学工業、東京エレクトロン、東京応化工業、富士フイルムホールディングス、三井不動産

■新人賞
ハーモニック・ドライブ・システムズ

■レジェンド賞
伊藤忠商事、大和証券グループ本社

■優秀賞
IHI、アサヒグループホールディングス、池田泉州ホールディングス、イトーキ、INPEX、荏原製作所、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、大林組、花王、鹿島建設、亀田製菓、九州旅客鉄道、栗田工業、神戸製鋼所、小松製作所、Sansan、塩野義製薬、十六フィナンシャルグループ、積水化学工業、双日、TIS、T&Dホールディングス、TDK、デンソー、東京センチュリー、南海電気鉄道、ニチレイ、NISSHA、日清食品ホールディングス、ニッスイ、日東電工、日本ペイントホールディングス、野村総合研究所、パーソルホールディングス、BIPROGY、ブリヂストン、マツキヨココカラ&カンパニー、三井住友トラストグループ、三菱倉庫、ミネベアミツミ、ミライト・ワン、森永製菓、森永乳業、UACJ、横河ブリッジホールディングス、横浜フィナンシャルグループ、りそなホールディングス、レゾナック・ホールディングス

出所:https://ps.nikkei.com/nira/jushou25.html

審査項目(1次審査基準、2025年)

1. トップマネジメントのメッセージ
2. 企業価値創造を実現するための企業理念の記述
3. 価値創造の実現に向けた自社固有のマテリアリティの抽出のプロセスの提示
4. 自社の経営資源の冷静な分析と中長期経営目標・戦略に関する記述
5. 投資家の分析に必要十分な財務情報・財務関連情報が記述されているか
6. 中期的業容の展開にあたり説得力のある資本配分政策・財務政策・事業ポートフォリオ管理の記述があるか
7. 「環境関連」情報のマルチステークホルダーへの説明とソーシャルインパクトに関する記述
8. 「社会関連」情報のマルチステークホルダーへの説明とソーシャルインパクトに関する記述
9. コーポレートガバナンス・システムの高度化が窺える記述があるか
10. 取締役の責任や役割、取締役会での議論の中身に関して有益な記述があるか

出所:https://ps.nikkei.com/nira/criteria.html

日経統合報告書 アワード審査講評

アワードでは「審査講評」という形で何人かの全体を通して感じたことなどが示されています。その中で、特に慶応義塾大学・浅野先生の審査員コメントが特に参考になるかと思います。ちなみに、浅野先生は『戦略的人的資本の開示運用の実務』(日本能率協会マネジメントセンター、2022年)という書籍での共著者です。お会いしたことはないのですが。私サイドの一方的な自慢です。

今回の審査では、情報の網羅性という点については、多くの企業で一定の水準に達しており、企業間の差は以前ほど見られなくなってきているという印象を受けた。その意味で、統合報告書の評価は、開示されている情報量そのものよりも、それらの情報がどのようなメッセージとして整理され、企業の将来価値と結び付けて示されているかという点に重きが置かれる段階に入ってきていると感じられた。
最終審査では、企業の成長性、投資対象としての魅力、トップメッセージのパッションや具体性、さらには株価を意識した経営姿勢など、多様な観点から議論が行われた。これらはいずれも、企業が中長期的に価値を創造し続けられるのかを読み解くうえで重要な視点である。
特に高く評価された企業の統合報告書では、企業の強みや戦略がどの市場や社会課題と結び付き、それがどのような競争優位を生み、結果としてどのような企業価値の向上につながるのかが、読み手に自然に理解できる形で整理されていた。個別の取り組みを列挙するだけでなく、それらを価値創造のストーリーとして統合的に示すことが、今後の統合報告書においてますます重要になると考えられる。

統合報告書の一貫性や結合性(コネクティビティ)は特に求められている印象です。でも現場からすると、SSBJ的な「つながりのある情報」は、ビジネスモデル自体を深く理解していなければならず、サステナビリティ担当者のみでどうにかできる話ではないので「CFOが統合報告書制作の責任者になるべき論」がかなり現実的になってきている印象です。

出所:https://ps.nikkei.com/nira/comment25.html

投資家目線のヒント

統合報告書に必要なものとして投資家が見ているのは「サステナビリティ推進活動」ではなく「サステナビリティ推進活動を通じて表れる経営哲学とアウトカムまでのストーリー」とも言えるでしょう。以前から言われていることですが、機関投資家が見ているのは、「サステナビリティ推進をしているかどうか」ではありません。サステナビリティ推進によって、いかに事業の質を高め、リスクを下げ、持続的な成長につながっているかどうか、などです。そこに合理性があれば、サステナビリティという言葉を前面に出す必要すらないのかもしれませんが。

統合報告書は、ガイドライン等の要求項目のデータを開示だけではなく、自社のリスクと機会は何なのかを時間軸(短・中・長期)で考え、最終的に会社をどう成長させたいのか、という経営哲学みたいなものが必要です。そうなると、優秀なCFOがいれば統合報告書もうまくまとめられそうです。なぜCFOの視点が重要と考えるのかというと、日本のサステナビリティ担当役員は事実上の部長職クラスで、CEO/CFO/COOという3トップの下にいるため、財務戦略にタッチできないことが多く、結果的に統合報告書に求められる戦略の取りまとめがしにくい、ということがあるのだと思います。

そもそも統合報告書は「サステナビリティ関連“財務”情報開示」であり、財務報告よりのメディアであるため、本来はCFOの責任範疇です。もちろん、CFOはサステナビリティに最も詳しいわけではないから、CSO(サステナビリティ担当役員)がパートナーとしている、というのが理想です。ある勉強会での話ですが「優秀なCFOがいる企業の統合報告書の質は高い」という傾向があるとかないとか。ぐうの音もでない、とはこのこと。なお“普通のCFO”であっても、優秀なCSOと一緒に統合報告書を作る場合も質が高くなる可能性もある、という意見もあったように記憶しています。

財務戦略の視点がないと、読者からは「人的資本のページに“ビジネスの話”が書かれていない」や「このサステナビリティ施策をやることで、事業の何が変わるのか」という指摘がでます。グリーンウォッシュ的といいますか、うまくいった結果ばかりを並び立てられても、将来も必ずうまくいくとは判断しにくいものです。だからリスクと機会、が重要なのです。だからこそ、結果に至るプロセスを見たい・目指す先を知りたいと思う投資家のニーズに向き合い、より詳細な経営戦略や目指す姿、経営者の想いやメッセージの発信が求められているのです。なお、アワード以外の以下の記事、調査も参考になるので、まだチェックしてない方は確認してみてください。

■参考資料
・生命保険協会(2026)|生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組について
・GPIF(2026)|GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「マテリアリティの観点から『優れたサステナビリティ開示』と同『改善度の高いサステナビリティ開示』

まとめ

統合報告書は、本当に奥深いメディアです。サステナビリティ部門だけではなく、組織の全部門による総合力が求められる面白いメディアでもあります。本記事では日経統合報告書アワードを振り返りながら、統合報告書のあるべき姿についてまとめました。私の意見よりもとにかく「審査講評」は必ず目を通していただきたいと思います。色々なご意見があるので(中には極端なご指摘もありますが)すべてが参考になります。

2020年代も後半戦に入り、2030年目標が見えてきた中で、改めてサステナビリティ推進活動および開示の実効性が求められるようになってきました。実効性なき開示に意味はなし!ということで、とても難しい話とは理解していますが、統合報告書の品質向上のために、本記事の内容を参考にしてみてください。私もコンサルティングをさせていただく時のために、より知識を磨いていきます。

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