サステナビリティ関連財務情報開示

統合報告書の解像度

最近、私がよく使う言葉が「解像度を上げる」です。「解像度を上げる」という表現自体の解像度が低くくて恐縮ですが、曖昧な表現を細分化し明確すると解像度を上げることができます。

統合報告書は、企業の理念やビジネスモデルを理解するのに役立つレポートのため、投資家向けのメディアはあるものの、自社理解を促すための資料として、従業員への社内浸透施策にも使う企業が増えています。

とはいえ、国内で1,000社以上から発行される統合報告書の多くが「解像度が低い」ままになってしまっているようにも感じています。このあたり思うところがあり、本記事であらためて解説させていただきます。

前提

まず、統合報告書の前提を確認します。統合報告書は「サステナビリティ関連“財務”情報開示」のレポートであり、サステナビリティ報告よりも財務報告の体裁が強いものです。中身はサステナビリティの話だけど、視点は一貫して財務視点。また統合報告書は、そもそも任意開示の自社PRレポートであります。いかに自社が優れているか、いかにビジネスモデルや成長性に期待できるか、などをステークホルダーにアピールしなければなりません。

とはいえ、サステナビリティの要素が大きいのは事実であり「ステークホルダーにネガティブ・インパクトを起こさない(限りなく減らす)状態でいかに事業成長させるか」が読者の関心事(情報ニーズ)です。

あと、統合報告書の大前提として、「企業として書かないと気が済まないコンテンツ」と「読者に読ませる必要があるコンテンツ」の見分けがついていないと無駄にページ数が長くなります。その情報、本当に読者に伝えるべきことですか?と。読者は知らなくても同じ意思決定をするのではないですか?

1. ストーリーテリング/ナラティブ

ストーリーテリング/ナラティブで語る、という話も意味合いとしては当然理解するのですが、言っている人たちごとに異なる主張であることも多く、結局言いたいだけやん、ということで終わってしまうこともあります。

では何をもってしてナラティブかというと、私が最近思うのはSSBJ基準にある「つながりのある情報」です。これは私が勝手に定義したものではなく、SSBJのものですから、わりとご納得いただけるのではないでしょうか。私は、どこぞのコンサルや制作会社の担当者ではなく、SSBJのロジックを信じています。私はこの「つながりのある情報」が、統合思考の具現化に大きく影響すると考えています。統合思考は「Connecting the dots(点と点をつなぐ)」がコンセプトだと考えています。

ほとんどの場合、情報は単体では意味はなく、比較や関連性を明示することでその情報に意味が生まれ、情報利用者の理解促進や分析の手助けとなります。この関係性の明示こそが「つながりのある情報」のポイントであり、コネクティビティやナラティブになるのではないでしょうか。トップメッセージとサステナビリティ戦略とマテリアリティとがつながっていない統合報告書が多いのは、みなさんも他社の統合報告書を読んで感じているところかと思います。

投資家は何年後にPBRがどれくらい上がるか知りたいのではなく(わかるならなお良いだが)、サステナビリティ推進活動と企業価値のつながりを示してほしいと考えます。情報同士のつながり(文脈・背景)は外部からは見えないからです。あと、統合報告書の簡素化の流れもあり、概念は文脈で意味が大きくかわるのに、その文脈の説明を省く統合報告書が増えている印象です。「わかりやすさ」を求めると、情報を省き抽象化することにもなるので、逆にわかりにくくなるというジレンマもあります。

ですので、ナラティブという、関連情報の文脈をベースにしたつながりの説明は相当難易度が高いです。気軽に使っている人を見かけると、それだと誰も幸せになれないんじゃないかなぁ、と思ってしまったりします。

2. キラーコンテンツの考え方

統合報告書のコンテンツに関しては、それこそ5年前と比べて格段にレベルが上がっていると思います。特に評価される企業も3つの統合報告書評価(日経、WICI、GPIF運用機関)を考えるに100社近くはありますよね。それでも、コンテンツの軸がわかりにくい統合報告書も一定数あると感じています。これが私にとって長い間、疑問に感じていました。わかりにくいのだけど、何がわかりにくいかわからない状態だったからです。

最近、言語化できたところでいうと「興味深い統合報告書は、冒頭から興味深い」です。会社概要の説明ばかりでビジネスモデルの説明が一向に始まらない統合報告書ありますよね。前提知識として必要なのはわかりますが、イメージ写真と会社概要ばかりでは読む気もなくなります。(AIはちゃんと読んでくれますが)よく映画にあるような回想シーンを冒頭に持ってきても読者は離れます。本編の話が進まないからです。たとえば「この統合報告書はどこから面白くなりますか」と聞いたら「全100ページの20ページ目からです」と言われとして、すべての読者が20ページ目から読むと思うんですよ。

誤解して欲しくないのは、100ページの統合報告書を作ってはいけない、と言ってるわけではありません。長くても全然いいです。100ページを超える統合報告書で評価が高いものもたくさんありますから。100ページを超えても“興味深い統合報告書”であるとすれば、それが冒頭から興味深いものだったのです。評価の高い統合報告書は最初の20ページだけ読んでも面白いのです。冒頭が面白いとその先にも興味が湧きます。だから、多くの(AIではない人間の)投資家サイドの方は、冒頭のトップメッセージを読むと、だいたい全体のクオリティがわかるというのかなと思うようになりました。

つまり、統合報告書制作の時に考える必要があるのは「この統合報告書のキラーコンテンツ(主要内容)は何か」です。企業として統合報告書でいろいろ伝えたいことはあるけど、その中でも絶対に読んでほしいコンテンツは何か。このキラーコンテンツが冒頭にあって、全体の組み立ての軸になっていると、メリハリもでるし、全ページを読まなくとも企業理解が進むようになるのです。

3. 理念と哲学

投資家などの意見を聞いていると「経営哲学を全面に出すべき」という意見を聞きます。私もこれは賛成です。極端ですが、サステナビリティやESGという表現を使わなくていいから、経営者の経営哲学、価値創造、中長期の戦略ビジョン、強みと成長性、ガバナンスの実効性、イノベーション創出、などをきちんと開示すれば、自然と統合報告書になりそうですよね。前述したように、統合報告書は財務報告よりのメディアなので、サステナビリティ視点は重要だけど、サステナビリティについて解説する意味合いはあまり大きくはありません。必要なのは、サステナビリティの説明ではなく、サステナビリティ推進によって起きた変化(アウトカム)とその財務的影響(インパクト)です。

経営哲学というと、いわゆる経営理念やパーパスの話になると思います。しかしながら、統合報告書における経営理念やパーパスなどの理念体系が掲載されていますが、いわゆる箇条書きで掲載されているだけで、ビジネスモデルや強み、リスクと機会などの要素と連動できていないので、第三者として何を読み取ればいいかわかりません。経営理念の解像度が低いというか、企業自身が本当に理解できているか疑問になるくらいです。

そういう意味では、統合報告書の「価値創造モデル」は重要だけど「価値創造モデルの図(オクトパスモデル)」は無意味という意見もあって、それも賛成です。あの見開きページから何を読み取ればいいのかよくわかりません。もうテキストで説明してくれたほうが理解が進むかも。トップメッセージもパーパスの解説も、単なる情報の羅列になっている企業の統合報告書の評価は低いです。結局、経営の解像度が低いのが根本的な課題の一つでしょうね。

では解像度を上げるためにはどうしたら良いのかという話ですが、定性的な話ばかりではわからないので、客観性あり、データや第三者意見など、分析的な解説が求められます。この背景情報のことを文脈といい、文脈を含めた説明がナラティブになる、という認識です。情報は比較や連動があって初めて意味を生み出すことができるのです

まとめ

個人的な感想レベルで恐縮ですが、統合報告書の解像度に関する話をまとめました。

統合報告書のアワード/ランキングを取るためには、審査員となる人たちの“好み”に答える必要がありますが、本質的な使い方として投資家をはじめとするステークホルダーの自社理解を促すレポートにしていきましょう。

ちなみに、統合報告書の制作会社/コンサルティングの選定も重要です。制作会議で「もっと解像度を高めていきましょう」という発言ができている人たちは信用できます。みなさまも「統合報告書の解像度」という視点を頭の片隅に置きながら、制作を進めてみてください。

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