統合報告書におけるトップメッセージ
サステナビリティ情報開示で最も重要なコンテンツの一つである「トップメッセージ」。ここでいうトップ(経営者)とは、原則としてトップマネジメントとなるCEOであり代表取締役を指します。
そんなトップメッセージですが、わりと求められるものは決まっているんですよね。統合報告書関連の情報開示ガイドラインで規定されないからといってなんでも自由にしていいとはなりません。では、どんな要素を含めればよいか。本記事ではこのあたりをまとめます。
ちなみに、たまにサステナビリティ担当役員の発言をトップメッセージとしている企業がありますが、サステナビリティ担当役員は組織においてトップではないのでミスリードです。CFO/COOがサステナビリティ担当役員を兼任している場合はギリギリOKとは思います。
トップメッセージの意味
トップメッセージの意味・意義について一度振り返っておきます。たいてい以下のようなものが挙げられます。
1. 組織のビジョンと価値観の明確化
トップメッセージを通じて、経営者がサステナビリティをビジネスモデルの基礎として位置づけることで、組織全体がサステナビリティに向かう姿勢を明確に示すことができます。サステナビリティにおける社内浸透においても、経営者が社内外へメッセージを発信することが求められています。
2. ステークホルダーへのコミットメント
トップメッセージの中でサステナビリティに関するコミットメントを示すことで、投資家、顧客、従業員、などの主要なステークホルダーに対して、組織のビジョンを伝えることができます。これにより、ステークホルダーに対して、自社がサステナビリティ推進に本気であることを認識されやすくなります。
3. 組織内の文化と行動変革の促進
トップメッセージにおいてサステナビリティに焦点を当てることで、従業員の意識が高まり、サステナビリティを考慮したビジネスモデルへの進化が期待されます。経営者が明確なビジョンを提示することで、サステナビリティへの取り組みが企業文化の一部となりやすくなります。
トップメッセージに含めるべきこと
統合報告書等の情報開示に関するガイドラインやアワードなどでは、トップメッセージにどんなコンテンツを組み込むべきかの示唆がえられると思います。基本的には、規定演技(ルール対応)をふまえて、自由演技(何を読者にアピールするか)のストーリーを描けるかという点が重要で、中期経営計画解説や活動報告など“トップでなくても語れるもの”は語らないのがよいとされています。
■トップマネジメントのメッセージ
1.メッセージに具体性と企業価値創造に取り組む熱意が感じられるか
2.自社の課題を冷静に把握しているか
3.トップとしての責任・役割についての言及があるか
4.メッセージが直近1年の事業環境や経営状況を踏まえたものになっているか
出所:日経統合報告書アワード 2024年の審査基準(1次審査基準)
たとえば、上記はとある統合報告書アワードの評価項目である「トップマネジメントのメッセージ」です。これがトップメッセージの正解かどうかわかりませんが、評価という意味では妥当な項目のように思います。これに加えて、昨今、特に重要視される「IRO(インパクト・リスク・機会)」に関する視点も必要です。他の詳細項目に関しては以下の記事も参考にしてみてください。
トップだからこそできること
サステナビリティに限らず企業は経営者次第でどうにでもなります。企業は組織なので、トップがNOといえばNOなんです。社会のニーズに反していようがトップがNOとするものをYESとすることは困難です。ですので、経営者の考え方がわかれば、組織の方針や戦略の方向性を知ることができる、というわけです。
あと、なぜ経営者のメッセージが大事なのかというと「企業の未来は経営者しか知りえない」からです。別に経営者は占い師ということではなく、経営者は自分で組織の方向性を決めることができます。未来がどうなるかを知ることはできませんが、将来どのようにしていこうとするかは経営者が決められます。経営者は自分の意思決定を理解しているので、経営者は未来の一旦を知っていると。だから企業の将来を知りたければ、トップメッセージを読みなさい、となるのです。
企業の将来は誰にもわからないものですが、経営者は企業の将来を決められる唯一の存在です。企業が何を目指すのかを知るには、トップメッセージを読み込み理解するしかありません。特に「将来の主力事業(今後何で稼ぐのか)」の言及でしょうか。また、企業を評価する時に必ずチェックするのは「経営者の力量」のため、コミットメント、行動力、戦略理解、将来イメージ、などもトップメッセージから、その有無を判断されるでしょう。このあたりの情報ニーズがあるので、積極的に開示しましょう。
あとその反対の側面も説明します。当然ですが、経営者といえども1人の人間としての能力は限られています。どんなに優れた経営者であっても、100メートルを3秒で走れるわけではないし、1日24時間しか使えません。だからこそ、経営者の想いを形にする(実効性)ために、取締役会の経営管理にサステナビリティを組み込んだり、組織的なサステナビリティの推進体制を作ったりするのです。
トップの説得の仕方
とはいえ、そもそもトップメッセージを発信する前に、経営者がサステナビリティに興味がないというパターンも多いでしょう。ある程度サステナビリティに意思決定しなければ作れない統合報告書なんて、2023年発行社数が1,000を超えたとされますが、それでも全上場企業で考えれば3割程度。まだまだニッチなメディアです。これらからもわかるとおり、上場企業の経営者でサステナビリティを深く理解している人は、多くはありません。少なくとも積極的な企業は3割程度です。
では統合報告書を発行していないレベルの企業では、そもそも経営者の理解度と実効性を上げる必要があります。そうなると、まず必要なのは、サステナビリティに関する知見を持たないことがリスクになりうるとの認識を持ってもらうことがです。今までサステナビリティを進めなくても問題がなかったとしたら、それはたまたまリスクが顕在化していないだけです。これまでの10年は問題なかったからといって、これからの10年で問題にならない保証はありません。
では経営者および取締役などを説得するにはどうしたら良いか。この15年のサステナビリティ経営支援の中で、わりと結果が出たと思われる施策は以下のようなものがあります。「外圧を使って正しい危機感を煽る」ということでしょうか。これらの外圧で根回しをするというか。あくまで例です。
■経営者へのアプローチ(根回し)
・サステナビリティは法律になっていきますよ
・サステナビリティは競合も本気でやってますよ
・顧客からESGアンケートで対応を求められているよ
・投資家からサステナビリティの質問きてるよ
まとめ
本記事では統合報告書を中心に、トップメッセージにおいてどのような視点が必要かというポイントをまとめました。組織の舵取りをする経営者の言葉は、第三者が組織を知るために最も重要なコンテンツであり、時間をかけてしっかりと作り込みたいところです。
ほとんどの企業において経営者がサステナビリティを深く理解してるわけではないので、統合報告書の制作担当者が、統合報告書やサステナビリティサイトの制作会社(コンサルティング会社)としっかり協議をして、会社の方向性も含めて経営者からの想いを引き出す必要があります。ここは手を抜いてはダメですよ。
今後の、統合報告書制作、サステナビリティサイト制作のヒントになれば幸いです。
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