サステナビリティトップメッセージ

重要度の高いトップメッセージ

あなたの考える「良いトップメッセージ」とはどんなものでしょうか。

トップメッセージは、単なる社長のエッセイになってはいけないし、サステナビリティ推進部門が骨子案から原稿作成までして最終チェックだけ本人にお願いするという形は、できる限りさけるべきです。しかし、上場企業の社長とはいえ、自社のサステナビリティから自分自身のESG的視点を取り入れた経営哲学を語れる人は多くありません。残念ながらこのジレンマがトップメッセージにはあります。

そして、そもそも、ガイドラインやESG評価等ではどのようなトップメッセージが求められているのかを、知らない人の方が多いと思います。そこで本記事では、トップメッセージの理想的な形はどのようなものか、解説をしていきます。今後の展開のヒントになれば幸いです。

※トップメッセージ:CEOメッセージ・社長メッセージ・トップコミットメントなどの表現を含む、サステナビリティ視点の経営者からのメッセージとします。ここでいうサステナビリティはESG・SDGs・CSR・などを含む広義のものとします。

GRIスタンダード

・組織の活動および取引関係全般において、経済、環境、ならびに人権を含む人々に与えるインパクトをマネジメントするための短期、中期、長期的なビジョンや戦略
・組織のパーパス、事業戦略およびビジネスモデルを通じて、どのように経済、環境、人々に与えるマイナスのインパクトを防止し、プラスのインパクトを実現することを目指しているか
・持続可能な発展に貢献するための短期および中期的な戦略的優先事項。その優先事項が、国際機関の発行文書とどのように整合しているかを含む
・組織および持続可能な発展に貢献するための戦略に影響を及ぼす幅広い動向
・持続可能な発展への組織の貢献に関連する報告期間中の主要な出来事、成果、失敗
・組織のマテリアルな項目に関連する目標やターゲットに照らした報告期間中のパフォーマンスについての見解
・持続可能な発展への寄与に関する次年度および今後3〜5年間の組織の主要課題、目標およびターゲット

出所:GRIスタンダード:2021「2-22 持続可能な発展に向けた戦略に関する声明」

日経統合報告書アワード

1.メッセージに具体性と企業価値創造に取り組む熱意が感じられるか
2.自社の課題を冷静に把握しているか
3.トップとしての責任・役割についての言及があるか
4.メッセージが直近1年の事業環境や経営状況を踏まえたものになっているか

出所:日本経済新聞社「日経統合報告書アワード2022 トップマネジメントのメッセージ 1次審査基準」

サステナビリティサイトアワード

・トップおよび組織のサステナビリティに対する姿勢が十分理解できるだけの情報量がある、発言を補足する活動およびデータが記載されている
・企業価値向上に貢献するKPIに言及している
・中期経営計画や理念体系とサステナビリティ活動との整合性について言及している
・中長期の将来への展望(戦略と目標)に言及している
・メガトレンド(国際的な外部環境)に注目し、国内外の社会情勢への認識と対応に言及している
・業界における重要課題への対応に言及している
・「リスクと機会」「強みと弱み」「戦略と資源配分」「実績」「将来の見通し」あるいは「課題と対応状況」などの両面提示がある
・サステナビリティに対して自分自身の言葉で情熱的に語っている
・サステナビリティが組織に与えたポジティブな成果の開示がある
・ステークホルダーに対して自社がサステナビリティを行うことのメリットおよびリターンの提示がある
・サステナビリティを経営課題と認識し危機感をもって取り組んでいる姿勢を示している
・時間軸(過去・現在・未来)にそった説明がされている
・パーパス(存在意義、使命、志)に言及している

出所:サステナビリティコミュニケーション協会「サステナビリティサイト・アワード2022 評価基準」から抜粋

GPIF

■トップメッセージ
・トップ自らの言葉で語られていること、普段の説明会等での発信と整合的であることが重要。ステークホルダーへ向けたメッセージとして企業価値やサステナビリティに関する考えを明確に示すことが求められる。
・当年度の取組み紹介だけではなく、経営哲学、経営判断の背景などCEOならではのコメントを迫力、臨場感を持って伝えて欲しい。
・長期的な視点に立った会社の方向性、課題認識、経営理念、パーパス、それらに基づく長期ビジョンと持続的成長戦略について社長の熱意が伝わるメッセージ、目標達成に向けた強い意思。
・トップメッセージを通じて投資家は企業のポテンシャルや課題について優先順位をつけて認識できる。最も個性を出してほしい項目。

■トップマネジメントのメッセージ(経営理念等)
・中長期的な企業価値向上に向けたトップ自身の熱い思いが伝わるメッセージが掲載されている。
・「目指す姿」に向けての課題認識と取組みが掲載されており、「サステナビリティ」、「CSV 経営」などへ具体的に言及する内容となっている。

■トップメッセージ・社外取締役のコメントもしくは対談
・企業の現状および将来見通しに関してトップ層の認識を確認するため。経営陣のリーダーシップ、取締役会の実効性等、ガバナンスの有効性の評価において参考にする。

出所:GPIF『GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」〜統合報告のなかで運用機関が特に重視する項目や記載を充実してほしいと考えている項目』(2022年2月7日発表)より抜粋

トップの発信が弱い理由

トップメッセージに関する、GRIスタンダード、アワード2件、GPIFの投資家サイドの意見、をまとめました。これらを考慮すると、定量的な何かというよりも、「経営哲学」「熱意・情熱」「パーパス」のような、思想・文化に近いものの開示が、トップメッセージで求められている傾向があるとわかります。

で、過去、統合報告書やサステナビリティレポートのトップメッセージをヒアリングから執筆したり、コンサルティングの一つとして社長インタビューを何十回もして感じたことですが、上場企業の社長って自身の経営哲学や情熱を持っている方がほとんどの印象です。ですのでこれらをIR担当やサステナビリティ推進担当がまとめて開示するだけなのに、ほとんどの会社がそれをできてないので、外部からはより求められてしまうという。難しいですね。

では、どこに改善点があるかというと「社長がパーパスを個人的なものとして語ること」があると考えます。社長自らの意思、自らの経験に基づきパーパスを語れば、従業員はもちろん外部の人間もそれが本物であると感じます。社長自らの個人的パーパスと結び付けて企業のパーパスを語ることで、社内外のステークホルダーに訴えかけることができます。

統合報告書でのトップメッセージ

サステナビリティサイトやサステナビリティレポートでのトップメッセージと、統合報告書でのトップメッセージは、情報ニーズが異なる(主要読者が異なる)ため書き方に工夫が必要です。

統合報告書のトップメッセージはとても重要です。トップメッセージを読まない投資家はほぼいないでしょう。で、読み慣れている人からすれば、社長本人の言葉か、できあがった原稿にちょっと赤字を入れるだけの関わりなのかわかると言われています。私もこの10年で相当読んできたのでだいたいわかります。

トップメッセージに社長自身の個人的な意見(意思決定)が入っていなければ、極論、社長のメッセージではないとも言えてしまいますから。具体性がないということは、メッセージの社名・社長名を変えても内容が通ってしまう、ということです。そもそも、これ意味がありますか?

あとは、統合報告書のトップメッセージって、社長としてのコミットメントも重要ですが、株式会社のチームとしての想いとかも含まれると思っており、社長が従業員の代弁者となる瞬間もあるのかなと思っております。いわゆる、主語が「われわれ(we)」になる書き方です。最近はカリスマ社長的アピールよりも、ガバナンスを強化した組織力の強さのアピールもポイントになります。

私は、非財務情報(定性情報)で最も重要なのはトップメッセージだと考えています。6つの資本と価値創造をどんなに語っても、トップが能動的なメッセージを出せない企業に実効性はない、とすら考えています。統合報告書では特に、強く独自性のあるメッセージを期待しています。パワフルなメッセージは読んでいてワクワクしますよね。

まとめ

本記事では、いくつかのガイドラインや評価、投資家サイドの意見、などをまとめました。トップメッセージに期待する声は、投資家だけではなく、多くのステークホルダーからもあります。投資家以外のステークホルダーにも届くメッセージが欲しいです。

私も、まだ完璧ではありませんが、統合報告書等のトップメッセージの制作に関わることが増えていますので、これらの視点を現場に届けていき、より精度の高いアウトプットを生み出していきます。

さぁ、最後にもう一度問います。あなたの考える「良いトップメッセージ」とはどんなものですか。企業側でも投資家側でもコンサル側でも、それぞれが答えを持つべきと思いますので、ぜひ考えてみてください。

関連記事
サステナビリティ関連財務情報開示が盛り上がっています
SX版伊藤レポート(伊藤レポート3.0)から学ぶべきことは何か
SDGsもトップコミットメント次第でどうにでもなる