サステナビリティ担当者に必要な知識とスキル
先日、当社のお客様から表題の「サステナビリティ担当者に必要な知識とスキルは何か」という質問を受けまして、まとめて記事にしてないなと思い今回記事にしました。
私は、事業会社のサステナビリティ推進担当者をしたことはありません。15年以上のサステナビリティ経営支援の中で、実務の支援をする中でその一部分の実務を行なっています。その中で、規模や産業特性によって実施する内容に差はあるものの、担当者のコンピテンシー(行動特性)はあると思いまして、簡単にまとめてみます。
サステナビリティ推進担当者で、新年度から配属になった方から、3〜5年目の中堅の方まで参考になると思います。
業務内容
サステナビリティ推進活動は、企業理念の実現や企業価値向上を目指した、長期視点で持続的な成長をするための社内外のステークホルダーとの連携が軸になります。ただ、組織規模の大きいプライム上場企業では、情報開示がサステナビリティ推進業務の大部分となり、本質的な長期視点による事業戦略や組織づくりを議論し進める話が少なくなっているのが問題ではあります。
ではサステナビリティ担当者の一般的な業務とは何か。上場企業を想定していますが以下のようなタスクがあります。ステークホルダーという視点がとても重要です。また、サステナビリティは「手段の目的化」が起きやすいので、常に活動のゴールを意識して、サステナビリティ開示のためのサステナビリティにならないようにしましょう。なお、ESG個別業務は各社各様なので省略しています。
サステナビリティ担当者の業務例
・法定開示:有価証券報告書(ESG関連項目)、CG報告書の作成
・任意開示:統合報告書、サステナビリティ関連のレポート/サイトの作成
・推進活動:ESGに関する計画策定、活動実施、進捗管理と評価
・調査対応:評価機関および各種アンケートの分析と対応
・社内調整:委員会、部会の運営、他部署との連携、業務への組み込み
・社内浸透:研修、コンテンツ制作、イベントの実施
・戦略立案:マテリアリティ管理(特定、実践、見直し)、経営計画や方針の策定
・情報収集:SNSやニュースサイト閲覧、他社事例研究、セミナー参加、イニシアティブの会合
・ステークホルダー対応:投資家、従業員、地域住民、外部機関、NPO等との対話および連携
必要な知識
「サステナビリティ担当者の必要な知識」は、これは色々な視点があるし、企業ごとに担当者に求められているものは違いますので、なんともいえないのも事実です。そこをあえて一般化すると以下のようなものになると思います。サステナビリティ分野といえども、自社の経営戦略(中期経営計画)、事業の強み、企業理念、企業文化、なども深く理解する必要があります。特に大手プライム上場企業は、統合報告書やサステナビリティレポート、サステナビリティサイトなどで、これらを含めた開示をする必要があるため、他の部門の誰よりも理解している必要があります。
逆に、サステナビリティ自体の知識は自社以外の話ですから、たとえば統合報告書の制作会社に色々と質問をして知識の帳尻を合わせるのでもいいです。組織の話はその企業の中の人でなければわからないわけですから、制作会社側ではどうにもなりません。さらに上の体系的な知識となると、サステナビリティ学を学べる国内外の大学院での学びになるでしょう。もしくは、サステナビリティ関連の学会に参加するもの良いでしょう。学会なので研究者(大学の先生)が多いのですが、企業のサステナビリティや環境担当者などもわりといらっしゃいますよ。
必要な知識
◯サステナビリティ全般
・グローバルトレンド
・ESGの基礎知識
・情報開示方法全般
・関連法令
◯自社および自社の周辺情報
・産業特性、競合状況
・経営戦略(中期経営計画)
・ビジネスモデル
・企業理念
・企業文化
必要なスキル
サステナビリティ担当者固有の必要なスキルはあるのか。必須の知識はありますがスキルというと固有のものは多くないでしょう。あげるとすれば以下のようなものがあります。コーポレート(バックオフィス)業務全般でも言えるかもしれません。スキルよりはマインドは重要かもしれません。
◯社内調整力
サステナビリティ推進活動は、すべての事業部門が関わるべきものであり、社外のステークホルダーよりも社内のステークホルダー(経営層、役職者、一般従業員)の壁が高いとも言われます。コミュニケーション能力ともいえますが、他の部門以上に社内調整のスキルが必要です。
◯情報収集力
サステナビリティの領域は、1年経てば法律もルールも変わってしまうことがあります。常にアンテナを高くし、国内外ではどんな動きがあるのかの情報収集をしましょう。サステナビリティ関連の社内研修が充実している企業はほぼないので、あるていどは個人対応で、SNS、書籍、セミナー、関連コミュニティ、などで積極的に情報収集をしていきましょう。
◯プロジェクトマネジメント
ビジネスパーソンとして必要なスキルではありますが、社内の部門や、社外のステークホルダーとのエンゲージメントやコミュニケーションがあり、推進プロジェクトを取りまとめる能力は他の部門よりも必要とされそうです。社外の人や組織を巻き込むには相応のスキルが求められます。
まとめ
サステナビリティ推進活動は、社会や組織を“良くする”ものであり、やりがいがあるものだと思っています。ただ、その全貌をまとめている書籍やWebサイトの資料はほとんどありません。本記事も簡単な解説となっていますが「サステナビリティ担当者に必要な知識とスキルは何か」という質問の回答にはなったかと思います。Aさん、見てますか。これが先日の質問の回答ですのでご確認よろしくお願いいたします!
サステナビリティ関連業務は、そもそも対応範囲が全業務にまたがるもので、前述した内容は一般的なものであはありますが、ESGはもっと細かいのでマニュアルみたいなものがないと大変ですね。このあたりは、大手企業のサステナビリティ推進担当者の方にヒアリングさせていただき、さらにブラッシュアップしていきたいと思います。
サステナビリティ推進担当者(部門は問いません)の方で、知識や業務など上記の話を聞かせていただける方がいれば「お問合せページ」からご連絡ください。情報をいただくかわりに、私からも色々と情報提供させていただきます。
参考資料
・本田健司(2021)「イチからつくるサステナビリティ部門」日経BP
・村上芽・加藤彰・渡辺珠子「サステナビリティ人材育成の教科書」中央経済社
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