サステナビリティと中期経営計画の関係
「サステナビリティを経営に組み込む」とは具体的に何を指すのか。一つは、事業戦略の中核となる中期経営計画にサステナビリティの要素を組み込むことが挙げられます。日本では、非上場企業を含めて3〜5年の経営戦略である中期経営計画を作る会社が多いです。中小企業でも、大枠くらいは作っている会社も多いのではないでしょうか。
中期経営計画が新しくなるタイミングで、サステナビリティをより組み込んだものにしようと動き始める企業もあるし、マテリアリティの見直しも行う企業も多いです。特に上場企業では、中期経営計画を軸に経営を進める企業が多く、中期経営計画にサステナビリティの要素をいかに組み込むかが、戦略への反映の重要要素になったりします。
では、サステナビリティを中期経営計画に組み込むとどのような形になるか、が問題です。というわけで、本記事では、サステナビリティの考え方を上手く取り入れた中期経営計画の事例を紹介します。今後の中期経営計画の見直しの際に参考にしてみてください。
企業事例
1. Daigasグループ
長期と中期を合わせて開示しており、全体的なビジネスの流れを理解しやすいです。
出所:サステナビリティサイト(コーポレートサイト内)
2. 大和ハウス工業
長期事業ロードマップを軸に、中期経営計画のKPIに財務・非財務両面を加えています。
出所:サステナビリティサイト(コーポレートサイト内)
3. ミロク情報サービス
中期経営計画がサステナビリティ戦略の実現に貢献するよう、整合性のある整理を行なっています。
出所:『「サステナビリティ2030」と「中期経営計画Vision2028」について』(2024年5月13日)
参考:味の素
3年程度の中期経営計画を廃止し、より長い時間軸から現状の経営計画を策定しています。中期経営計画はないですが中期の経営指標(KPI)はあります。
出所:中期ASV経営2030ロードマップ(2023年2月28日)
サステナビリティと中期経営計画
上記では興味深い4社を紹介しましたが「サステナビリティ 中期経営計画」で検索してもらえれば、いろんな企業の開示例を確認できますので、いろんな企業をチェックしてみてください。AIツールを使っての情報収集でもかまいません。
そもそもサステナビリティ戦略とは、経営および事業戦略の視点を長期化する意味合いがあります。10年後のあるべき姿を実現させるために今すべき意思決定は何かを見出す、です。結局「今までの10年間を振り返り、今後の10年間をどうしたいと考えていますか」の回答が、サステナビリティ要素を取り込んだ事業の中期経営計画および長期ビジョンです。多くの企業は「(事業の)中期経営計画」と「サステナビリティの中期計画」を別々に考えているので、サステナビリティが事業全体の基盤にならないのだと思います。
あと、界隈では話題となった、味の素が中期経営計画の公表をやめた話もあります。やめたと言っても中期の指標は残るのですが、目線は常に長期の事業成長にフォーカスし続けることを宣言できるのがすごいです。統制がとれる経営体制があるからこそできるのであって、多くの会社は真似しないほうがいいでしょう。で、中期経営計画がないと投資家が評価してないのか、というのは、2023年以降の味の素さんの株価を見ればいいかもしれせん。
言葉遊びではなく「サステナビリティ経営 = 経営」なんですよね。サステナビリティを語ることは経営を語ることでもあるのです。サステナビリティは長期目線の企業経営くらいの意味合いなのですが、広義になりすぎて、コーポレート業務全部がサステナビリティ業務みたいな、もうわけわからん状態になっています。
ですので、サステナビリティという別枠の何があるわけではなく、本来的には経営のリスクと機会を考えたときに、サステナビリティの要素が自然に考慮されるというものであって、別々に考えてもダメですよ、というのがセオリーです。
また、中期経営計画をあまり評価しない投資家の話も見聞きすることがあります。中期経営計画が前中期経営計画のマイナーアップデートでしかなく、経営戦略としての意気込みや仮説、長期視点(継続的な)の企業価値向上の話になっていないからです。中期経営計画もサステナビリティ戦略も形だけのものが一番危ないです。中期経営計画界隈にはグリーンウォッシュ的な概念はないのでしょうか。
中期経営計画はどうせ達成できないのだから意味がないという意見もその通りとも思います。でも10年単位の長期目標だと抽象的すぎて、(多くの企業にとっては)経営の指針にならないと思いますし、3〜5年の中期経営計画はなんだかんだで必要なように思います。中期経営計画がなくても進む方向を見失わないという、長期目標から中期のあるべき姿を描ける企業は中期経営計画を廃止してもいいですけど、そんな会社はほぼないので。
まとめ
本記事ではサステナビリティの考え方を上手く取り入れた中期経営計画の事例を紹介しました。他にも良い事例はたくさんあると思いますので、統合報告書やサステナビリティレポートをチェックする時にメモしておいて、まとまったら記事にしたいと思います。
有価証券報告書でのサステナビリティ開示義務化が進めば、より多くの企業がサステナビリティを事業戦略と統合させていけるとは思うのですが、上場企業全体で見れば、まだまだ一部の企業のみです。私も支援側の人間としてしっかりと支援させていただきます。
今後の中期経営計画の見直しの際に参考にしてみてください。
関連記事
・サステナビリティ推進におけるインパクト評価(効果測定)の課題
・サステナビリティの中期経営計画と長期目標の作り方
・サステナビリティ課題のあれこれ一覧