
2026年のサステナビリティトレンド
2025年もお世話になりました。2026年も当ブログをご贔屓によろしくお願いいたします。新年1本目の記事は、例年通り「最新サステナビリティトレンド考察」(2026年1月5日執筆)です。2026-2027のサステナビリティ/ESGのトレンドを紹介させていただきます。
もちろん、テクノロジー界隈ほど新しい技術やトレンドがあるわけではありませんが、官公庁等の動向や、グローバルな流れはわりと影響も大きいため、サステナビリティ全般の解説をさせていただきます。なお、作成は個人による抽出ですので、ピックアップしきれていない領域もありますが、それらは別記事にて今後解説をさせていただく予定となっています。2026年から2027年(2026年度)のサステナビリティ推進活動のヒントにしていただければ幸いです。
2025年の総括と2026年の展望
2020年代に入り、欧米、特に欧州では急速にサステナビリティ関連の規制およびガイドライン・イニシアティブが制定され、あらゆるカテゴリでサステナビリティ視点が求められるようになった。しかし、企業負担も大きく、また経済不安・政治不安が広がる欧州を中心に、規制緩和が急速に進む結果になった。残念ながらこの25年間の先進的な規制は、企業の競争力を欠くという結論になっている。
2025年は規制緩和が進み、多く規制が発効の延期や、対象企業の緩和(対象企業の縮小)が進み、厳しすぎた規制の揺り戻しが起きている。先進企業の多くはすでに相当な投資をしてサステナビリティ推進をしており規制緩和には反対しているが、政治の対立を含めて国レベルでの決定には残念ながら対抗できていない。
2026年はどうなるのか。専門家や関係者は、規制がどうなろうが継続してサステナビリティ推進すべきであるとするが、現実的には規制対象外となった企業で対応が減速し、コンプライアンスとなった環境や労働関連の規制対応以外は淡々とこなすという、これまでよりもさらに二極化された状況になりそうだ。時価総額が5,000億円を超えるような、国内全上場企業の上位1割程度が懸命にサステナビリティ推進を行う中、逆に言えば規制が緩和され、より実効性のある価値創造やリスク管理に資するサステナビリティ課題にフォーカスできるようになり、中堅中小の上場企業のサステナビリティ経営がさらに進化する可能性もある。
2020年代後半は、2025年の経産省「稼ぐ力の強化に向けたコーポレートガバナンス」の議論を含め、事実上の開示規制として進化してきたサステナビリティから、より企業価値向上や経営理念の実現など、ゴールの解像度を高めた取り組みが求められるようになる。規制や評価機関の対応は、基本的にリソースを使えば一定の評価を得られたが、稼ぐ力を高める動きは答えはなく、自社で考えなければならない領域も多く、対応と開示の二極化はますます進むだろう。
2025年も大きな社会変化があったが、2026年も大きな社会変化が予想される。正しい意思決定には、正しい情報が必要である。引き続き最新情報をチェックしながら、読者の皆様には正しい意思決定をしてほしい。
注目の5つのトレンド
1.情報開示動向
■日本
2025年3月、SSBJから、ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」、サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」、サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」の3つのガイドラインが発表され、時価総額が高い企業から義務化が進む。
また、有価証券報告書の人的資本領域に関するさらなる開示義務化もあり、有報でのサステナビリティ開示の“あり方”に注目が集まる。有報でのサステナビリティ開示が進むことで、統合報告書やサステナビリティレポートとの「すみわけ」の議論も進みそうだ。
■欧州
2025年に入りEUのサステナビリティ開示規制が緩和および延期され続けている。関係者は、発効の延期だけで対応しない理由にはならないとするが、法規制でなければ一部の先進企業をのぞき、多くの国や地域、企業は動かないのが現実である。日本企業も規制対象からはずれることが見込まれている場合、欧州ルールへの対応を保留する企業も増えている。状況を見据えながらも、マテリアルな課題の対応と開示は確実に行なっていきたい。
なお、グリーンウォッシュ関連規制などの、見せかけだけのサステナビリティ推進の否定は、本質的な活動をしている企業からすればポジティブに考えてもよいだろう。
■米国
米国は、2024年3月にSECの最終規則発表から様々な理由もあって延期され、さらに2025年からのトランプ政権による反ESGの流れもあって、州単位での規制はあるものの、大枠でのサステナビリティ開示規制の進展は見込めていない。当面のサステナビリティ開示規制の取り決めはなさそうだ。
なお、日本・欧州の動向と同じく、大手民間企業の実務レベルでは「ESG」という表現は使わないなどの動きはあるものの、サステナビリティ活動や基本的な開示を取りやめる企業は皆無であり、日本のサステナビリティ開示規制はそのまま実施になる予定なので、米国の方向性を注視しながらも淡々とサステナビリティ推進活動を進めていくのが良い。
2.反ESGの継続
米国を中心に全世界で「反ESG」「反DEI」の流れが続いている。この傾向は2026年も継続されるため、日本企業は英文開示において表現の調整が必要になるだろう。
反ESGは、政治的(イデオロギー)な反発、グリーンウォッシュの蔓延、懐疑的な投資インパクト、企業の過剰負担、などが原因とされており、また社会情勢として、欧州の不安定な政治と経済状況から、サステナビリティ推進の優先度が下がっているのも事実だ。
サステナビリティ推進の優先度が政治分野でも経済分野でも改善される見込みは弱く、少なくとも2020年代前半の世界で規制が急速に進んだ状況に戻るには、あと数年はかかりそうだ。企業としては、規制対応はしながらも、持続的な成長や価値創出にフォーカスし、マテリアリティに対して確実なアプローチをしていきたい。
3.サステナビリティ推進の概念の広がり
昨今はサステナビリティの概念や影響範囲の広がりによって、サプライチェーン全体のサステナビリティ推進の成果を求められるようになっている。そして昨今対応が進む領域が、非上場の子会社・関連会社のサステナビリティ推進である。ESG評価は上場親会社をメインに評価されるが、実務やCO2排出のスコープ3のような概念もあり、商取引や関係性の深い企業の対応レベルの底上げが急務である。
また、昨今の非上場化する大手企業の増加により、サステナビリティレベル低下も課題になっている。大手企業が非上場化する場合、筆者のヒアリング等含めると、その多くではサステナビリティ推進員会が解散し、サステナビリティ推進部門も縮小され、それに合わせて予算等のリソースも減る傾向にある。少なくともサステナビリティ情報開示の量が著しく減少する。
非上場企業であってもサステナビリティの考え方は経営上有効に機能する例も多いのだが、サプライヤーを含めて自社以外の企業と連携し、価値を創出する視点がこれまでより重要となりそうだ。また、子会社等に関してもエンゲージメントを進め、マテリアリティの取り決めや価値創造にフォーカスした取り組みの指南などを進め、グループ全体のサステナビリティのレベル(評価)の向上を目指そう。
4.生物多様性保護の進展
TNFDから2023年に提言が発表されて以降、国内外で企業の生物多様性対応が急速に進み始めている。2026年も引き続き注目されるカテゴリとなる。
グローバルではISSB基準の次の枠組みとして以前から注目されており、2025年10月には国際規格「ISO17298」が発行されるなど、様々な規格で生物多様性の対応と開示のガイドライン化が進んでいる。国内でも、環境省による「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ」の公表、「ネイチャーポジティブポータル」の開設、など積極的に動き始めている。生物多様性のオフセット/クレジット対応を含めて、2026年も目が離せない。
ただし、生物多様性対応では、気候変動対応(CO2排出量削減)ほど明確な指標があるわけでもなく、取り組みの難易度は非常に高い。中堅中小の上場企業では、最低限の環境保護活動にとどまり、2026年中の積極的対応は期待できなさそうだ。
5.AIツールの普及
企業が統合報告書制作にAIを使い、投資家・評価機関が統合報告書評価にAIを使う。数年前では考えられなかったが、まさにそういった時代が到来している。機関投資家の一定数がAIで一次評価を行いさらに分析までしていることを公表している。もちろんAIはツールのため、情報開示だけでなくあらゆるサステナビリティ推進活動や企業評価の中で活用されるだろう。企業の規模・業種問わず、相応の影響が考えられる。
統合報告書を発行する企業のほぼすべてでPDFを開示しているが、投資家や評価機関はこのPDFで評価分析するのであって、AIフレンドリーな統合報告書制作を進めていきたい。特にPDFでは以下の課題に注意してほしい。
■書式
・独自フォントを控える
・太文字、多様な文字色、を控える
・マテリアリティを図解だけでなく文章でも説明する
・用語の一貫性に注意
・極端に小さな文字は使わない
■構造
・PDFにロック(暗号化等の制限)をかけない
・PDFタグを適切につける
・画像としてテキストやデータを埋め込みすぎない
・図表には説明文をつける
・図表には一貫したデータ表記を行う
・図表は横方向に読ませる
・セルの結合や空欄を作らない
出所:サステナビリティのその先へ「AIが変えるESG/サステナビリティ情報開示」(2025/9/1)
注目のキーワード/潮流
■環境
・GHGプロトコルの改訂が大詰め
・改正GX推進法の影響
・排出量取引「GX-ETS」がスタート
・削減貢献量の今後
・太陽光パネル/蓄電池の技術革新
・トランプ関税によるエネルギー調達の混乱
・COP30での気候対応資金の議論
・「サーキュラーパートナーズ」での産官学連携
・「自然資本プロトコル」
・「グローバル循環プロトコル」
・ISSBの生物多様性基準の状況
・ブルーカーボンの広がり
・グリーン水素の普及状況
・データセンターの電力問題
■社会/人材
・人的資本規格「ISO30414」改定と「ISO30201」の新設
・内閣府「人的資本可視化指針」の改訂
・「ウェルビーイング」の普及
・サプライヤーエンゲージメントの強化
・TISFD、IDROs(影響・依存・リスク・機会)の概念普及
・フリーランス法および下請法の改訂に実効性はあるのか
・「DEIA」(多様性、公平性、包摂性、アクセシビリティ)
・顧客からの環境と人権の対応圧力がさらに高まる
・女性取締役採用のさらなる増加
■ガバナンス
・深刻化する情報セキュリティ事故
・公益通報者保護法の改正
・ESGのオーバーコンプライアンスを防げるか
・コーポレートガバナンスコードの改訂
・大手企業の取適法違反が続出
・経産省「稼ぐ力のCGガイダンス」の影響
・「AI役員」の登場
■情報開示
・有報での人的資本開示の強化
・GRIの改訂が相次ぐ
・統合報告書における「価値関連性分析」の普及
・EDINETタクソノミ(ISSBタクソノミ)の導入
・SASB基準改正案の動向
・SSBJ基準の対象外企業への浸透レベル
・ESG開示のXBRL対応の広がり
・アジアでのサステナビリティ開示規制が進む
・情報開示のAI評価(投資家)とAI活用(企業)が進む
・「TNFDレポート」の発行企業数の成長鈍化
■金融
・ESGマネー逆流継続するか
・システムチェンジ投資/変革型投資の登場
・金融イニシアチブ「NZBA」の活動終了の影響
・GPIFがインパクト投資の検討を開始
・伊藤忠商事が「オレンジボンド」を発行
・インパクト加重会計が進むも評価は二極化
・米「グリーン・インパクト・エクスチェンジ」の設立
■その他
・反ESGのトレンドはどれだけ進むか
・高市新政権によって関連法規制はどう変わるか
・ポストSDGsの議論は2027年から開始
・国連事務総長の交代による国連の影響力
・大手から寄付付きビールの再販売、定着するか
・サステナ文脈でパーパス(PMVVなど)のさらなる普及
・ステークホルダー視点の「サステナビリティ広報」が広がる
・オーバーツーリズムに企業は何ができるのか
・多角的な関係性を考慮する「ネクサスアプローチ」
・「EUグリーントランジション指令」の影響
・AI活用によるサステナビリティ領域への影響
作成者
安藤光展(あんどう・みつのぶ)/サステナビリティ・コンサルタント
一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会 代表理事。法政大学 客員研究員。環境経営学会 理事。専門は、サステナビリティ経営、サステナビリティコミュニケーション。国内上場企業を中心に15年以上サステナビリティ経営支援を行う。テレビ・新聞・週刊誌・ニュースメディア等でも解説や連載を多数担当。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』など多数。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。