サステナビリティ課題

サステナビリティ課題とは

「サステナビリティ課題」って、わりとたくさんあるわけです。ここでいうサステナビリティ課題とは、気候変動問題や人権問題というカテゴリの話ではなく、サステナビリティ推進における包括的な課題を指すこととします。

サステナビリティの意味範疇が年々広がっており、直接売上を上げない事業活動はすべてサステナビリティと定義されてしまったり(実際は気候変動対応など売上の上げ方もサステナビリティが関わるので事業活動のすべてとも言える…)、なかなか理解が困難な部分もあります。

というわけで本記事では、最近私が感じているサステナビリティ推進における課題をまとめて一覧にしてみました。きっとサステナビリティ担当者の方は頷きながら読むことになるでしょう!

サステナビリティ課題一覧

訴訟問題

日本のメディアでもアメリカの「反ESG」「反DEI」の動きがよく報道されます。世界では国レベルでサステナビリティ推進の力が弱くなっているようにも感じます。一つの原因は「訴訟の問題」があります。ESG反対派(保守派)から訴えられる可能性が高い、またはアファーマティブアクション等が違憲とされる例もあり、アメリカ大手企業は訴訟対策として大々的な活動を控えるようになったとされます。だから「グリーンハッシング(積極的な開示を控えること)」が生まれたとも言われる、わりと根深い問題です。

ちなみに、アメリカで反ESGとされ、サステナビリティ関連の方針や目標を撤回・修正する大手企業も増えていますが、コーポレートサイトを見ると、活動自体は淡々としているみたいですから、サステナビリティ推進活動のすべてがストップするわけではないようです。今後どうなってしまうんや。

差別問題につながる

アメリカはとくにアクティビストが多い国の一つですが、前述した訴訟を含めて企業にアプローチするアクティビストが実績を出しています。その一つの視点が「逆差別」です。マイノリティ(全体の数割)支援は、マジョリティの権利を侵害しているという主張です。採用でも能力が同じであれば人種及び性別のマイノリティを選ぶとする企業も一定数あり、マジョリティ側からすれば差別であり“椅子”を奪われることに怒りを感じている人いると聞きます。

日本でもそうですね。役員を育てるのに5〜10年かかるなんて言われますが、たいした実績もないのに女性従業員が部長職、もしくは執行役員や取締役に就くことを批判する男性も実際います。全体の平等性を考えれば、私はまずは役職に女性枠があってもよいと思いますが、選定基準などは明確に示す必要はもちろんあります。

投資リターンにつながるのか

サステナビリティの課題を上げる中では投資家のニーズははずせません。投資家サイドは、ほんのわずかでも利回りを増やそうと日々努力している中で、企業の過剰なサステナビリティの取り組みがあれば納得しにくいですよね。ESGスコアが上がればリターンも高まるみたいな調査結果もありますが、よく言われるようにリターンが高い企業がESGを進めやすい(推進するリソースがある)可能性もまだまだあります。というかESGの相関関係は分かっても、因果関係は証明するのほぼ不可能でしょう。

例えば、多様性推進はいいけど、その活動で資本コストは改善されるのか、企業価値の向上が期待できるのか、と。極論、その多様性推進で将来の売上はどれくらい上がりますか、という話ですね。上がると根拠があるのであれば開示すればいいし、根拠も自信もないのであれば、最低限の取り組みだけにしましょうよ、となります。

社会正義としては、野心的な目標を掲げて業界最高水準でサステナビリティの取り組みを進めましょう、がセオリーです。しかし、業績も株価も横ばいもしくは低迷する企業が、ESGだサステナビリティだといっていれば、投資家としては、他にやるべきこと、つまりそもそものビジネスモデル改善が先じゃないの?という話があるでしょう。最近は、あらゆる経営コストが上がる中、サステナビリティ推進も本当に意味がある事、つまりマテリアルな活動に注力すべきなのでは、と私は思います。長期視点と短期視点のバランスが重要ですね。

サステナビリティ推進の目的

これもよくある課題ですが、サステナビリティ推進の目的ですね。特に上場企業のサステナビリティ推進のゴールは大きく2つしかないと考えています。「企業理念の実現」か「企業価値の向上」です。まさに、この2つのゴールに資するサステナビリティ推進活動がマテリアリティであるはずで、マテリアリティの実践こそがサステナビリティ戦略であるべきなのです。御社はどうでしょうか。

細かくみれば、ESGの各分野、気候変動対応や人的資本改善・品質管理、組織力強化、みたいなマテリアリティになるんですけど、それでもマテリアリティはあくまで手段なので、「企業理念の実現」か「企業価値の向上」という最終ゴールをより意識すべきと思います。

経済動向の影響を受けやすい

わたしがこの20年近くサステナビリティ界隈を見てきて感じるのは、サステナビリティ推進が進むタイミングが明確にあります。それは日本経済全体や当該企業の業績が良い時です。これはプライム企業でもグロース企業でも同じで、最悪数年で倒産するような財務状況・事業環境の時に、直近はコストを大きく出して10年後に企業価値を最大化しましょうと言っても、目先の利益に固執するわけですよ。

これは個人でも同じで、蓄えや日々の収入(利益)がなければ、10年後のことや、いわゆる綺麗事や他人(社会全体)はどうでもいいんですよ。というか気にする余裕がない、というのが正しいでしょう。サステナビリティ推進が直接的な売上につながることが少ないので、どうしても後回しになってしまうのです。サステナビリティは「重要ではあるが緊急性はないタスク」になってしまいがちのため、経済・社会の動向の影響が大きいカテゴリでもあると思います。

なんでもサステナ問題

サステナビリティはその広範囲な性質から「なんでも」問題がよく起きます。「なんでもサステナ問題」「なんでもマテリアリティ問題」などです。本当は「財務に関わらない課題 ≠ サステナビリティ課題」なのに、直接的に売上に関わらない業務はすべてサステナビリティへと割り振られ、サステナビリティ推進担当者の守備範囲が急速に膨れ上がってしまう問題です。

ちなみに「なんでもマテリアリティ問題」は、マテリアリティは通常5項目程度、多くても10項目程度にすべきなのですが、15〜20項目またはそれ以上をマテリアリティとする課題です。マテリアリティが10個と20個では単純に使えるリソースが半減しますので、成果も半減する可能性が高いです。どれも重要だという主張は理解するのですが、意味はないので絞りましょうが結論です。

で、特に上場企業であれば、資本コストとか企業価値とかが重要と言われる中、「企業のマテリアリティとなるものだけをサステナビリティとする」としないと、何千というサステナビリティ課題をすべて完璧に対応するとか不可能ですから、なんでもサステナビリティ課題にまとめないでほしいです。サステナビリティという概念は、誰の視点で、かつどの次元で語るかを明確にしないと議論がかみ合わなくなってしまうものですし、注意が必要です。

長期的目線が足枷になる

長期的目線が足枷になる場合も多いです。世界中の経済や政治が不安定化する中、長期目標のみが正義と言われると、企業はビジネスがやりにくくなります。EUの国々や大手企業だって、EUのサステナビリティ開示規制に大賛成というわけでもなく、策定済の枠組みの緩和や発効延期を求める声があるくらいです。

で長期目線というと、たとえば、長期的な競争力を磨くための「研究開発費」や「新規事業開発費」を抑制したとします。ある程度の事業規模を持つ企業であれば、数年は問題なく経営できます。むしろ研究開発や新規事業開発の費用がほぼない分、利益が出やすくなります。(よくあるコストカットではある)

しかし、事業が苦しい中でも研究開発等を地道にしてきた企業では、現在の主要ビジネスモデルの減退が見えても、新しい商品・サービスを展開し苦境を打破できる可能性があります。しかし、何年も研究開発を疎かにした企業は、新しいネタがなくジリ貧になる可能性があります。製造業は特にこれです。ですので、渋沢栄一がいうように「中庸」(バランス)が重要になるわけです。

手段と目的の履き違い

サステナビリティは一部が法制化されているがゆえに、結論ありきの話が多いのも課題です。たとえば、ダイバーシティ推進活動自体が目的となってしまいゴールがない場合も多いです。これは何が問題かというと、課題の一つは「手段と目的の履き違い」です。

企業のサステナビリティ推進活動は、本来は何かしらの経営課題を解決するために行う手段であったはずなのに、やる気もないのに方針を作ったり、結論ありきで取締役に1人以上女性を入れるなど、活動自体が目的になってしまっています。これでは誰も幸せになれません。サステナビリティ推進の先に、どんなゴールがあるかを常に意識する必要があります。そのために、長期目標を作ったり、理念とマテリアリティを紐づけたりするわけです。

誰のための活動か見えにくい

サステナビリティ推進をすることで、ステークホルダーの誰が喜ぶのか。ESG評価機関や各専門家は評価してくれるでしょう。でもその人たちはお客様でもないし投資家でもないわけです。たとえばCO2排出量が少なくなって喜んでくれるステークホルダーは誰ですか?と。CO2排出を減らさなくてよいわけではありませんが、専門家は事実をもって危機感を煽るだけで、顧客にもならないし、アドバイスをくれるわけでもなく、予算を持ってきてくれるわけでもありません。政治的な動きの責任も大きいですが、あらゆるカテゴリのサステナビリティ推進は、成果やステークホルダーの顔が見えにくくなっているのも課題と考えています。

NIMBY問題

NIMBY(Not In My Back Yard:我が家の裏庭ではやらないで)問題も、サステナビリティ推進の大きな壁になります。たとえば、公共のために必要な施設や事業を認めるものの、自分の居住地域内での建設には反対する住民がいます。保育園の騒音問題なんかはメディアでも取り上げられます。

NIMBY問題が起きるのは、サステナビリティは「総論賛成・各論反対」が顕著なカテゴリだからでしょう。社会が良くなることで困る人は原則いません。でもその社会を良くするために“あなたが”費用を払ってくれとなれば、誰もがお金持ちからお金もらってくれ、我が家は貯金も少ないし出せない、というわけです。ですよね。この「総論賛成・各論反対」はサステナビリティ推進において、非常に大きな問題です。その性質が反ESGを引き起こしているとも言えるのではないでしょうか。何か良い方法はないものか。

正解がない、という問題

サステナビリティの根本的な考え方としてですが「正解がない」ということもあります。その人にとっては、その価値観こそが正解であり、他人の価値観を全面的に正解として受け入れることは困難です。宗教・政治などは特にあてはまります。多様な価値観の受け入れは重要ですが、それでも心情的には真逆の意見を受け入れるのは苦しいものです。

あと、自分が最善と考えた選択が誰にとっても正しい選択であるとは限りません。価値観というものは思っている以上に複雑で、自分という一つの価値観だけで善悪を語ることは本来できません。そもそもひとりひとりの「正義」が異なる中で、どのようにエンゲージメントするかを考えないとだめですね。

私がよくいう「『正義』の反対語は『もうひとつの正義』である」です。サステナビリティにおける正解は常に不正解を内包しているのです。ですので気候変動陰謀論者は自分が陰謀論を言っていると思わないのです。確固たるエビデンスがある気候変動対応こそが陰謀論であると本気で考えているわけですね。誰とはいいませんけど、賛成しなくていいので、反対するのはやめてくださいよ。

サステナビリティだけでは成果は生まれない

サステナビリティの文脈でも、パーパス、ブランディング、マーケティング、イノベーション、トランスフォーメーション、などがよく語られますが、原則としてサステナビリティ推進のみでこれらの成果を生み出すことは不可能です。あくまでそれらの変化を受け入れられる組織や文化があれば、他の施策を含めて成果になることはあるでしょうけど、通常は、社会変革や組織変革は「必要性」だけでは起きないし、企業も社会も変化は受け入れられないものです。最初はどうしたって反対派しかいないから。

サステナビリティ推進って、極論、変化しましょうという話なんです。今までの延長線上にはゴールがない、だから成果をより創出するために変化しなければならない、と。サステナビリティであろうがなかろうが、この変化を受け入れる理念と文化がなければ、何をしても無駄です。これも、サステナビリティ推進のわりと根本的な課題と考えています。変化する勇気もないのにトランスフォーメーションとか使うんじゃないよ。おとといきやがれ!

まとめ

というわけで、最近感じるサステナビリティの課題を12項目ほどピックアップしました。私の愚痴が大半みたいになっていますが、サステナビリティ推進にあたり、政治的な理由も含めていろいろ大変ですよね。

さらに、個別項目のサステナビリティ課題(気候変動対応、人権問題など)もあるわけですから、サステナビリティに対応することが、本当にサステナブルな企業および社会の構築につながるのかわからなくなってきます。まずは、文字通り、マテリアリティがマテリアルなので、戦略を軸をブラさないようにしましょう。

企業ではコントロールできないサステナビリティ課題における課題といいますか、なかなか不条理なことも多いですが、私は企業のサス担の皆様の味方ですので、共に前を向いてがんばっていきましょう!

関連記事
統合報告書の中身が思いつかない担当者様へ
マテリアリティ特定は企業のためか社会のためか
サステナビリティ・マーケティングの限界を理解せよ