サステナビリティマーケティング

サステナビリティ・マーケティングとは

マーケティングでもブランディングでもありますが、少し前までは「サステナビリティな視点を積極的に取り込れましょう!」という論調があって、それ自体は良いことなのですが、最近は反ESGの話もあってかトーンダウンしている印象があります。

いわゆる「サステナビリティ・マーケティング(サステナブル・マーケティング)」という考え方があり、そこそこ研究者がいる注目領域だと思うのですが、環境配慮消費の限界なども含めて、企業側のエゴで消費者にとっては正義ではないというか、モヤモヤすることもあります。

そこで本記事では、サステナビリティ・マーケティングの現状の課題感と、サステナビリティ・マーケティングの次の一手についてまとめます。

サステナ「高いと買わない」5割超

環境配慮といったサステナビリティを打ち出す飲食料品や衣料品について、消費者の過半数には響いていない、という調査データがあります。これらの結果は紹介する調査以外でもかなり多いです。

サステナブルマーケティング

サステナブルマーケティング

出所:サステナ「高いと買わない」5割超 価格差5%内なら購入 3割 デロイト調査、60~70代は許容度高く

文字通りで解釈していいと思いますが、若年層はどんなに環境配慮等があっても高ければ買わないという人が多い、というものです。背景でいえば、若年層は所得(可処分所得)が少ないためより価格にシビアになるということもあるでしょう。また、若年層は、環境配慮意識が高いからこそ、価格が商品価値として成立するのかを見極めているということかもしれません。

私自身の経験ですが、昔、環境・人権に配慮したいわゆるエシカルな結婚指輪を買おうと検討したことがありますが、値段に納得できず(主に妻側)買えませんでした。私だけならまだしも、身近な人を説得することもできないレベルです。エシカルな商品に意味はないと言っているわけではないのですが、現実問題として手が出しにくのも事実です。消費者には、社会課題の手前の「自分のお財布との相談という課題」があるので、直接的に社会課題解決を持ってこられても、対応できない場合があります。

また「Z世代は社会貢献意識が高い」という論調もよく見聞きしますが、行動や購買を調査すると「高年齢のほうが意識も行動も高い」という結果もよく見聞きします。この調査でも後者の結果ですね。まぁBtoB製造業でいえばエシカル(サステナビリティ調達)はもはや当然なのでプレミアムにすらならない印象です。

環境配慮消費の限界

環境に配慮した製品を選びたいという消費者ニーズがあるのは事実だと思います。私もこの層です。この機運の高まりが社会的なサステナビリティ推進に貢献しています。ただし、これは環境側面のサステナビリティにとっては望ましくないソリューションである可能性もあります。なぜなら、消費し続けることでサステナビリティを実現することはできないからです。

サステナブルな新しい商品を買うよりも、今ある商品を少しでも長く使う努力をしたほうが、CO2排出等の環境負荷が低いです。エシカルな商品でも環境負荷ゼロのものはありませんので、エシカルな商品でも売れれば売れるほどエコではありません。もちろん、最初から環境配慮商品を買って、なおかつ長く使い続けるがベストなのは言うまでもありません。

事例としては、たとえばパタゴニアによれば、新品を買わずすでに所有している衣類の寿命を9か月間延ばすことにより、炭素排出、廃棄される物、そして水使用のフットプリントをそれぞれ20~30パーセント削減できる、とのこと。(パタゴニア|Worn Wear より)まぁ、そういうことなんですね。ですので、本気で環境負荷を減らしたいのであれば、エシカルだろうがなんだろうが、新しい服は売らないことが最もエコだったりすのですが、企業側からすれば現実的には売らないわけにはいきません。

では環境的な訴求には限界があるとした時に、サステナビリティ・マーケティングはどうあるべきか。サステナビリティ・マーケティングの未来像の一つとしては、環境以外の「インパクト(社会的インパクト)」の可視化と最大化でしょう。一石二鳥、一石三鳥、の取り組み施策です。環境配慮以外の価値をいかに生み出せるのか。このあたりがポイントになりそうです。

サステナビリティは王道ではない?

多くの方が感じていることだと思いますが、以前ほどマーケティングにおいてサステナビリティをテーマにしなくなっています。東日本大震災直後から王道の一つであった「コーズマーケティング(寄付付き商品の販売)」も、今ではほとんど見ません。

経営戦略にサステナビリティが組み込まれた結果、マーケティングのベースにもサステナビリティが組み込まれ新たに強調する必要がなくなった、ということもあるかもしれません。ただそれは一部の企業のみで、ほとんどの企業ではグリーン・マーケティングはマーケティング手法としてあまり成果がでないと気づいた結果でしょう。

通常のマーケティングで成果がでない商品・サービスが、グリーン・マーケティングをしたところで…おっと失礼。グリーン・マーケティングではグリーン以上の価値を顧客に提案できていないのでしょう。「グリーンがプラスされ競合商品に勝る価値」は消費者に届いていないのかもしれません。サステナビリティ推進が難しいところは、このようにマーケティング単体で考えてしまうと、財務インパクトの最大化が最優先になり、責任あるビジネスの本質から離れてしまうことが多いのです。

たとえば、エシカルを主軸に置くファッション系ブランドでは、グリーンでエシカルなことが存在意義なので、グリーン・マーケティングを今後もしていくのでしょう。これ良い悪いという視点のみでは語れませんが、現実問題として、ユニクロや無印良品が比較的エシカルな服の販売をするのと、小規模なブランドが数百〜数千点の服を売るのとでは、実際のインパクトは全く違うので、これらを考慮しても、なおあまりある価値を生み出せているのか、今一度振り返る必要があるでしょう。御社があってもなくても社会課題は解決も緩和もしません、って言われたら悔しいじゃないですか。

企業のメディア受けのいいグリーン・マーケティングも、期間限定・商品限定で実施し全体の1%に満たない売上で、企業としての社会的なインパクトは皆無みたいな例も多くあり、この10年で消費者がそのあたりの実態を理解し始めている側面もあると思います。企業のマーケティングとしては、本物しか残れない大変な時代になりました。

では、逆に次に“勝てるサステナビリティ・マーケティング施策は何か”が注目ポイントになります。これは私の個人的な予想を含めてなので詳しくは書きませんが、「マーケティングの社内文脈(組織論的な視点)」とか「インパクトの再解釈」みたいなものかなと考えています。

長期的なコスト

サステナビリティに関連する施策は成果創出まで時間が長いものです。よくアパレルや日用品、食料品メーカーでは、短期的なサステナビリティを絡めたキャンペーンを見かけます。では10年間続く、いや、少なくとも5年連続で行われたマーケティング施策はどれだけあったでしょうか。

ほとんどのマーケティングは、社会課題の解決や緩和を目指しているのではなく、文字通りマーケティング施策としての機能を求めるので、多くの企業では長期のマーケティング施策は考えられないのです。これがマーケティングの限界でしょう。これはマーケティングは意味がないという話ではなく機能としての話です。

たとえば「5年後に売上を必ず最大化できるから、最初の4年間は結果がでなくてもしょうがないでしょ?」と言われてGOサイン出せる部門長はいないでしょう。マーケティングの実施期間では1年間だって効果なしは難しいだろうし、サステナビリティの視点でそのままマーケティングは実現不可能だと思います。だから長期のマーケティング施策は、そもそもマーケティングの範囲外なので社会課題解決に貢献するのは難しいのです。

『資本主義の中心で、資本主義を変える』の著者・清水大吾さんは以前から「サステナビリティとは、儲けない勇気を持つことだ」という趣旨の話をしています。「儲けない」というのは短期の時間軸の話で、長期的にはしっかりと儲かってみせるという覚悟を持って、真剣に日々を過ごすことが重要だとしています。

パーパスの社内浸透などもそうですが、結果がでるまでは相当のリソース(費用・時間)がかかります。それでもパーパスは全従業員が知るべきであり、自分の言葉に置き換え日々の事業活動を行うべきということで、コストをかけて施策を長期的に行いますよね。10年後に成果が最大化されるかわからないし、短期では相応のコストが発生するし、それでも経営層が意思決定をするのです。本気でやるぞ、と。この意思決定をグリーン・マーケティングでできればいいのですが、矛盾も多く実践は非常に難しいです。

御社は「儲けないマーケティング」を実践する勇気がありますか?

まとめ

今回はサステナビリティ・マーケティング(サステナブル・マーケティング)の中でも、グリーン・マーケティング的な話をまとめました。マーケティングには限界がある。だけど、未来を信じて長期的な実施の意思決定をできれば、他社よりも未来へ先に到達することができるでしょう。難しいからこそ実現できれば先進企業と呼ばれ、メディア露出が増え、先行者利益を得ることができます。

2024年の今、ESG評価が高い企業のほとんどは、それこそ10年以上前からサステナビリティに積極的に取り組んできた企業です。社長の才能や予算というよりは、単に「動き出したのが早かったから」だけに見えます。超大手企業であっても、2023年から本気だして取り組みましたといっても、数年で先行企業に追いつくことはありません。サステナビリティの世界では短期のジャイアントキリングも下剋上も起きません。

インパクトを出したいなら、ステークホルダーから信頼を獲得したいなら、サステナブルなマーケティングで業界1位取りたいなら、最初は規模が小さくとも今年から動き始めるしかありません。もちろん、なんでもやればいいわけではありません。「グリーンウォッシュ(見せかけだけの環境配慮)」はより評判を下げることになるので。

というわけで、問題提起のみして本記事も終了となります。世の中大変なことばかりですが、一緒にがんばっていきましょう。ありがとうございました。

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