インパクト評価

インパクト評価

私が主宰している「サステナビリティにおける社内浸透研究会」で「インパクト評価/インパクト測定」をテーマにした時がありまして、その学びを含めて記事にまとめたいと思います。

サステナビリティ推進活動のインパクトを評価・測定(効果測定)する。サステナビリティの効果測定は難しいと言われますが、意味があるかは別として、サステナビリティ推進活動自体の定量評価はセオリーがあり、難しいものではありません。理論的には可能な話ではあっても、さまざまな要因があってインパクト評価が実行できていない企業が多くありますよね。

インパクト評価を行うための時間・予算・ノウハウがない…というのが現状かと思いますが、別に予算や時間をかけなくても、簡易的なインパクト評価を行い効果検証を行うことはできます。ではどういう考え方ががあるのか。このあたり含めて解説します。

インパクト評価とは

インパクトとは「事業活動の結果として生じた社会的・環境的な変化や効果(インパクトコンソーシアム)」と定義されます。インパクトは企業の事業活動によって生み出された成果および社会変化に注目する考え方で、インパクト評価とはインパクトを評価・測定する手法を指します。また、その成果のストーリーライン(論理的な道筋)を「ロジックモデル」と言います。

ストーリーラインは、たとえば統合報告書では価値創造モデル(価値創造プロセス、価値創造ストーリー)などとも言われます。価値創造のプロセスがオクトパスモデルにはなっているけど、ロジックモデルになっていない企業の皆さん。反省してください。その価値創造プロセスは論理的に破綻してますよ!

というわけで、そのロジックモデルは、主に以下の4つの要素で構成されます。作成者は、これらの構成要素を書き出し、それらを合理的につなぎ合わせることで変化を説明します。

資源(インプット):事業活動のリソース
活動(アクティビティ):事業活動の実施
結果(アウトプット):事業活動の成果
変化(アウトカム):アウトプットによって起きる変化
※リソース:ヒト・モノ・カネなど

ちなみに、これらは必ずしも定量的な指標で取りまとめる必要はありません。定性的なものでも、第三者には価値創造の流れがイメージできるので、マテリアルな活動は積極的にアウトカムの開示をしましょう。私は、なぜロジックモデルが必要かというと、最終的な変化となるアウトカムこそが、ビジネスにおける付加価値の創出であり、そのビジネスを行う社会的意義になるからと考えています。

インパクト評価とPDCA

なお、サステナは長期的取り組みが多いため、1年でみるとPDCAではなく「P→D→P→D…」になりがちです。だからロジックモデルの仮説をたて、中長期的に変化を追えるようにPDCAを組み立てましょう。アウトカムが明確になることで、PDCAのCとAを明確にすることができます。

たとえば、サステナビリティ推進活動のPDCAは以下のような流れで進みます。

1. 活動の目的とゴールを決める
2. KPIを決める
3. 活動を進める
4. データを収集する
5. データを分析する
6. 次の活動テーマを見つける
7. (1)に戻る

これはロジックモデルの実務とも言える話ですので、日々のサステナビリティ推進活動が適切な企業はインパクト評価もわりとしやすいのではないかと思います。少なくとも何千万円払ってコンサルティング会社に頼むほどではなさそうです。

インパクト評価の専門家は最初から厳密さを求めると思いますが、私の結論は、インパクト評価はスモールスタートで開始し、まずは厳密さよりも道筋(ロジックモデル、ストーリーライン)を構築することにリソースを使い、毎年その変化(アウトカム)をより丁寧に測定し管理していくことが必要と思います。

インパクトを誰が求めているか

インパクトには「財務的インパクト(経済的成果)」と「社会的インパクト」があります。単にインパクトと言われた場合は社会的インパクトを指すことが多いです。「インパクト・マテリアリティ」などがそうですね。ただ、最近はサステナビリティ推進におけるインパクト創出が、企業価値創造の文脈で語られることもあり(インパクト加重会計など)、純粋な社会課題解決までのアウトカムという意味合いで使われることは、一部のセクターやビジネスのみの印象もあります。

もちろん、上場企業を評価する投資家などは、サステナビリティ推進活動が将来キャッシュフローや資本コストにどのような形で関わるかという財務的インパクト(シングル・マテリアリティ)にフォーカスしてほしい、と考えているため、社会的インパクトとしての完璧な効果測定を期待していないようにも思います。企業の社会的インパクトを重視するインパクト投資などもありますが、経済リターンや投資額が小さいなどの課題もあると聞きますし、今後の注目ではありますが、すぐにどうこうなるものでもなさそうです。

ですので、本来的には財務的インパクトと社会的インパクトが、同じ事業プロセス(KPI)で達成できることがベストですが、そんな項目はあまりないためロジックとしてはなかなか困難と言えます。人的資本関係でやっと議論が進んできています。2000年代前半から、財務面だけでは企業やビジネスモデルを正しく評価できないということで、非財務のインパクトを考慮するという話が、また、結局は財務ですよねという堂々巡りになっている印象もありますが。

財務側面は超重要事項ですが、インパクトを無視して良いとはならないはず。ですので「インパクト(アウトカム)は誰が求めているか」という命題を企業ごとに整理しておかないと方向性がぶれてしまいます。社会課題解決による受益者以外のステークホルダーで誰がハッピーになれるかわからないと、ロジックモデルが破綻しかねません。

評価のプロセスの課題

サステナビリティ推進活動のプロセス(定性的事象)を評価できるのが、インパクト評価の醍醐味でもあります。財務は結果(数値)以外の要素は評価されませんが、非財務は結果もプロセスもどちらも評価対象であるというか。最近は、サステナビリティ推進活動と財務もしくは企業価値との関係性(相関関係・因果関係)を明確にするために、インパクト評価を行う例もあります。古くは環境会計などもあります。

ただ大きな課題としてインパクト評価自体が目的化してしまうことがあります。極端な例ですが、インパクト評価のレビューとして「過去の広告費と広告効果を分析した結果、広告費を増やせば売り上げが伸びることがわかりました!」みたいなこともあるわけです。さすがにそれはわかってたでしょみたいな。振り返る必要があるのはわかりますが、インパクト評価もリソースが必要なため、そもそもの評価対象を選ぶ必要があります。惰性でインパクト評価している企業は反省してください。そのリソースを推進実務に投資しましょう。

あと、インパクト評価の透明性・妥当性において、定性評価ではなく操作がしにくい定量評価の比重を高めるべし、という声があります。それはそうなんですがこれにも課題があります。まず、機械的な定量評価が困難なプロセスをどう評価するか。目標に対する達成率、行動指標の進捗率、などは定量評価はしやすいものの、チームへの貢献活動や部下や後輩の育成貢献度、エンゲージメントスコアなどは、どうしても主観による点数化をしなければなりません。個人の主観が入らない100%客観的な定量評価というものは、なくはないですが極めて少ないのが実情です。そこに完全なる妥当性を求めるのは難しいのです。

あとは「インパクトの大小は誰がどうやって決めるのか」「そもそもインパクトを特定手法のみで測ることができるのか」という問題もあります。一言でインパクトといっても、気候変動対応や生物多様性から、貧困・格差問題、ガバナンス領域のインパクト評価など、ESG全般の多岐に渡り、それぞれで数値が出せたとしても合計することはできません。ですので「全体としてのインパクトの総和」の算出は困難です(できなくはない)。そんな状況でも、第三者はピンポイントのインパクトを見て、企業という組織全体のインパクト創出を評価しなければならないという。最近のインパクト評価ではこのあたりは解決できたのでしょうか。

インパクト評価の価値

サステナビリティ推進活動のアウトカムを明確にするためにインパクト評価をすることは大賛成ですが、そこに“コストをかけてでもすべき”という論調には反対です。実際のコストを払わない外野(専門家)はなんとでも言えますが、サステナビリティの現場は予算に余裕があるわけでもないところがほとんどですし、実際の推進活動に使うべき数百万円から数千万円を測定に使って、実際のインパクトを目減りさせることが正義なのかわかりません。

ですので妥協案として、測定をする仕組みを低コストで導入して徐々に精度や規模を大きくするのがよいと考えています。たとえば、プライム上場企業といっても中小規模の企業はあるわけで、中小規模の上場企業がTCFDに完璧に対応するために「数千万〜数億円・1年・従業員2〜5人」というリソースをかける必要あるの?とは思います。投資家もそう評価する人もいます。

当然、インパクト評価を事業会社だけで行うのは難しくコンサルティング会社などを使う必要があるのですが、わりといいお値段することもあり、インパクト評価をするために推進活動の予算が減ってしまい、インパクト自体が減ってしまう可能性もあります。これらをふまえて全体のバランスを考える必要があります。これもインパクト評価自体が目的になってしまう問題の一つです。

インパクト評価は「目指すべき姿」を明確にし「何を変化させるのか」を決めるべきものであり、インパクト評価のロジックモデルはステークホルダーとのコミュニケーションツールでもあり、評価自体が目的なのではありません。

評価自体を目的化させないためには、インパクト評価のKPIをできる限り通常業務内で測定できるものにすべきです。通常業務とは別のKPIにすればするほど実務では対応しきれず機能しなくなりがちです。つまり、経済価値と社会価値を矛盾なく同時に生み出す方法を価値創造プロセスとして対応および開示すべき、というのは理想です。難しいんですけど最終的にはここに辿り着く気がします。

あと、サステナビリティ推進活動のステークホルダーや社会の変化(アウトカム)は、本当に自社の努力によってのものなのか、外的要因やタイミング(運)の影響になることなはないのか、という点も問題になります。つまり、結局のところ、相関関係はわかっても、因果関係を明確にできるものは多くないと。逆に、KPIを追いかけるばかりだと、一定の効果は上がっても、ステークホルダーの心の動きやインサイトがまるで理解できなくなって、数字が変動する理由が分からなくなっていきます。ステークホルダーの顔が見えなくなったり、KPI以外の可能性が目に入らなくなっていたら要注意です。

インパクトと企業価値

最近「企業価値向上に貢献するESG施策を特定する」という考え方が流行ってます。私はインパクト評価の延長線上の話であり、とても重要なことと考えています。ただ疑問なのは「企業価値向上に貢献しないESGはしなくていいの?」あたりでしょうか。相関関係を証明できたとして、儲かるのはコンサルだけで、事業会社や投資家には結局、参考情報以上の価値がない場合もあります。

極端な例ですが「取締役の平均年齢が低いほうが企業価値が高まる」という分析結果があった場合でも、取締役会は「全取締役の平均年齢を引っ張っている年長者を辞めさせる」ことはできないでしょう。そうするとのその分析は何のためにしたのでしょうか、なるわけです。なお、何度もいいますが、自社における企業価値向上に貢献するESG課題を導き出すことは非常に重要です。そこには課題もあるというだけです。

インパクト評価によるアウトカムの可視化がすべてのステークホルダーに求められているかというと必ずしもそうではありません。例えば、投資家は社会的インパクトはあまり求めてません。企業が仮に社会課題を解決できたとしても業績が必ず上がるとは言えませんし、逆に疲弊して利益率が下がる可能性があるくらいです。「サステナビリティ関連財務開示」が求められている理由もそこでしょう。社会課題解決は、企業の存在意義を示す一つの結果であり、それが最優先事項はないからです。投資家はリターンを求めるわけですから、上場しているBコープやインパクトIPOと言われた多くの企業の株価(ダウントレンドが多い)が評価の結果でしょう。

それでもアウトカムを可視化する意味はありまして、それは「ステークホルダーを巻き込む」意味合いが強いです。自社のサステナビリティ推進活動で、多様なステークホルダーが共創を行うような場合(コレクティブインパクト)、社会課題解決は共通の目的となりやすくです。そして、社会課題解決を共創の目的とした場合はその目標設定・進捗管理において、社会的なインパクト評価は欠かすことはできません。前述したとおり、インパクト評価の「ゴールと目的」がないと形骸化しやすいので注意しましょう。

まとめ

サステナビリティ推進活動は効果測定が難しい。とはいえ理論上はインパクト評価で効果測定できるので、マテリアルな活動を中心にインパクト評価していくのが、現実的な答えになりそうです。

私はインパクト評価の専門家というわけではありませんが、この15年で見聞きしていて、まだまだクリアすべき課題があるのかなと感じています。しかし、インパクト評価を適切に行うことができれば、成果の可視化から企業価値創出までロジックを作ることもできるでしょうし、上場企業であれば投資家への説明もより明確になるでしょう。

インパクト評価の手法自体はわりと確立されていて、色々な団体・企業が方法を開示しているので詳細はインターネットや書籍で確認してください。前述の解説を含めて、参考になれば幸いです。

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