非上場企業サステナビリティ

非上場企業だからこその悩み

最近よく質問を受けるのが「スタンダード/グロース上場企業のサステナビリティ戦略」とか「非上場企業(非上場化企業含む)のサステナビリティ推進」です。要は、プライム大手企業のように投資家からのプレッシャーが強くない企業の場合は、外圧が小さいためなかなか進まないという話です。

別にステークホルダーは投資家だけではないのだから、少しずつでも進めればいいと思うのですが、経営層が動かないため対応は難しいと。とはいえ、推進担当者として何もしないわけにもいかず悩んでいるサステナビリティ推進担当者が一定数です。特に、2023〜2024年に上場廃止となる元大手上場企業の担当者の方の悩みは大きいです。すでに数社ほどご相談いただいています。

サステナビリティに関する情報の多くは大手上場企業を想定されたものです。中には中小企業向けというサステナビリティ推進指南の話もありますが、問題は上記の「非上場の大手企業のサステナビリティ推進」です。このロジックは実は確立されてません。というわけで、一部ではありますが、このあたりの話を今日はまとめたいと思います。

なお、ここでいう非上場企業とは、スタートアップ/ベンチャーなどの中小企業を含めての意味とします。

非上場企業におけるステークホルダー

たとえば、上場企業と非上場企業で決定的な差は「ステークホルダーの強弱」でしょう。上場企業は、時価総額が10億円だろうが10兆円だろうが、上場している以上、投資家からのプレッシャーはあるし規制にも従わなければなりません。では投資家からのプレッシャーと規制がほぼない非上場企業はどうすべきか。ポイントになるのは「ステークホルダー」です。

非上場企業の主要ステークホルダーは誰かと考えると、多くの企業では「従業員」「顧客」「取引先(仕入先)」がメインとなるでしょう。つまり、非上場企業におけるサステナビリティの意義とは「従業員や顧客や取引先に選ばれるために、信頼される企業になること」とも言えます。そのために、透明性の高い経営をし、倫理的なビジネスを行い、働きやすくやりがいのある仕事および職場環境を作り出すと。

企業価値を左右するのは投資家からの評価だけではありません。サステナビリティに対する企業の取り組みが、顧客企業や消費者から前向きに評価され、その価値が商品・サービスの価格に反映されて初めて、サステナビリティ経営が真の企業価値向上につながるのです。サステナビリティでは「リスクと機会」とは言われますが、非上場企業は機会創出を軸にサステナビリティ施策を組み立てるとよいでしょう。

非上場企業にとっては、サステナビリティ戦略がなくても明日のご飯を食べるのには困らない、というのはごもっとも。とはいえ、中長期でみたら、非上場企業もステークホルダーを無視した経営を続けるのは危ないと思いますけどね。

非上場企業が目指すサステナビリティ

特に上場廃止による企業のサステナビリティ推進活動の衰退は悲しいものです。この1〜2年で上場廃止した企業の、サステナビリティ担当者の方と何人かと話をしたことありますが、統合報告書廃止は仕方ないとしても、サステナビリティレポートもサステナビリティサイトも更新停止、進行中の外部を巻き込むプロジェクト推進も停止、などなどは悲しい。会社の決定とはいえ、何年もかけてやっと形になったものはとくに辛いです。また始めるといってもゼロからなので成果でるのまた5年後とかですよ。

では、上場廃止組ではない大手非上場企業は、どのようなサステナビリティ推進活動をしていけばよいか。それこそ、Bコープ取得や、国内2トップESG調査対応(日経と東洋経済)を検討すべきだとは思います。評価項目を含めてサステナビリティ推進活動の参考になるし。

非上場でも従業員数の少ない中小企業では何をすべきか。一つの基準としては、主要顧客の「サステナビリティ調達ガイドライン」をサステナビリティ推進の基準にする方法です。営業的にもトップにも理解しやすい取組です。中小企業はBtoB企業も多いので、大手企業では調達ガイドラインもあると思うしこれで決まりでしょう!

あとは自社は上場企業で、お客様が中小企業メインで、お客様にもサステナビリティを進めてもらいたいけど、どうしたら良いかわからない、という企業担当者に何人も会ったことがあります。例えば地銀とか中小向けコンサル会社とかをイメージしてください。そういう企業は、サステナビリティ・コンサルティング機能を作って、顧客開発するとよいでしょう。製造業だと、本気の企業は調達先や顧客の企業に対してサステナコンサルに近いことしているところありますよね。バリューチェーンでのサステナビリティ推進というか。スコープ3まわりは特にでしょう。

対応すべきサステナビリティ課題は何か

非上場企業では、投資家のプレッシャーがないためにサステナビリティが進まない。正しいかどうかは別として、これもよく聞く話なので、ほとんどの場合はそうなのでしょう。とはいえ、サステナビリティの中でも、非上場企業でもきちんとすべきなカテゴリの一つが「労働安全衛生」です。労働安全衛生法および労働関連法の対応が必要なので、本来的にはコンプライアンス対応でもあります。非上場企業で外部の目があまりないとはいえ、労働者を守れない企業は倒産してよし。

もちろん、社員を1人でも雇えば組織なので、最低限のガバナンスというか、組織の責任の所在や、情報セキュリティなどの策は必要です。このように、実はサステナビリティという呼び方なだけで、組織がすべき施策のうち、わりと多くがサステナビリティというカテゴリになったりします。というわけで逆説的ですが、非上場企業もサステナビリティをしましょうね。

あとは人的資本あたりでしょうか。人的資本経営は、非上場企業も大いに関係があります。上場企業ほどの開示義務はないものの、従業員へのアプローチは組織規模に関係なく重要だからです。むしろ社員数が少なく、従業員ひとりひとりの経営への影響度が大きい中小企業こそ、人的資本経営の概念を取り入れるべきです

逆に、ある程度リソースを絞ってもよいと思うのは情報開示領域です。開示規制がかなり減るので開示は基礎的なサステナビリティ情報(マテリアルな情報)にしぼりましょう。

注力すべき領域は何か

非上場企業において、どのような戦略、マテリアリティ、PDCAプロセス、を考慮すべきか。サステナビリティの進捗ステージによって変わりますが、リスクと機会という視点でいえば機会(ビジネスオポチュニティ)の強化でしょう。

サステナビリティを進めたがらない経営者が世の中の大半ですが、勘違いされている方が多いので改めて言います。サステナビリティ推進をすることで、自社のビジネスモデルの壁となるサステナビリティ課題を解決および緩和させることで、事業展開をスムーズに進められる可能性があります。つまり、サステナビリティ推進は社会のためというより、将来にわたりビジネスモデルを安定化させるという、自社のための取り組みなのです。社会貢献は結果であり目的は自社のためなのです。

非上場企業こそ、ステークホルダーの枠が狭いので、より利己的な利他主義になっていいというか。社会変化とステークホルダーの要請に対応し、従来のビジネスモデルを変化させたり、新規ビジネスを始めたり、事業整理をしたりするのです。

他に注力すべき分野ですが、たとえば、私の会社もそうですが、非製造業の小規模事業者であっても、大手上場企業と取引を始める時は「サステナビリティ調達アンケート」が契約書とは別に送られてくることがあります。で、この主要顧客からくるアンケートの項目を、自社のサステナビリティ推進項目にするのです。

顧客からくる調達アンケートのサステナビリティ項目だったり、顧客が重要視をしている(マテリアリティ等)サステナビリティ項目だったりを、自社の重要課題に落とし込むのです。特に中小企業にとっては現実的な選択の一つです。顧客から取引停止を受ける前にサステナビリティ進めましょうね。顧客の要請となれば、会社も動き始めざるを得ません。

まとめ

非上場企業であってもビジネスをしている以上ステークホルダーは存在します。特に顧客・従業員は最重要ステークホルダーですので、顧客や従業員が求めているサステナビリティ課題にまずは対応すべきです。

なお、グロース/スタンダードの中堅中小上場企業も、実態は非上場企業大手に近いと思いますが、金融庁はSSBJ基準の任意対応をグロース/スタンダード企業にも推奨していく方針となっていますので、SSBJ基準対応等を少しずつでも進めていきましょう。

狭義の意味でサステナビリティを考えるのではなく、ビジネス実務との関係性をシンプルにして、非上場企業はサステナビリティ推進活動をしてみてください。ぜひお試しあれ!

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