スタートアップESG

スタートアップが対応すべきESG

スタートアップ界隈でもESG(サステナビリティ)が注目され始めています。ここでいうESGとは「社会課題としてのESG課題解決ビジネス」ではなく、上場企業とおなじく「自社のESGをどうやって進めるか」という視点の話です。

結論からいうと、スタートアップ(≒ベンチャー、中小企業)が注力すべきESGは「S:労働安全衛生/労働慣行」と「G:コーポレートガバナンス」なのですが、別に従業員3人の会社が、従業員3万人の会社と同じESG推進活動をやれということではありません。ではスタートアップはどのようにESGを進めればいいか。よくある“べき論”ではなく実務的なところが知りたいですよね。

ということで本記事では、スタートアップのESG対応に関する先行調査を確認しながら、実務としてどのような対応が期待されているのかをまとめます。スタートアップの関係者の方は今後の経営のヒントに、投資家(ベンチャーキャピタル)関係者の方はエンゲージメントのヒントにしてみてください。

1. メリットとデメリット

まずはESG対応のメリットを紹介します。色々なところで色々な人が言っていますが、だいたい以下のようなものです。理由というよりは、まずはこういうこともあるということを覚えておいてください。

■メリット
◯企業価値の向上および維持
・事業機会の創出
・リスク管理の抑制
・社会性向上による評価向上
・ブランドイメージの構築
・資金調達が有利になる
・公共調達入札での優位性向上
・サプライチェーンから除外されるのを防ぐ

◯ステークホルダーへのアプローチ
・ステークホルダーの関係性強化
・採用エントリーの増加
・従業員エンゲージメントの改善
・従業員の定着および労使関係の健全化
・意識ある顧客へのPR効果
・好意的なメディア報道
・消費者とのトラブル防止

■デメリット
・コストがかかる

※拙著『未来ビジネス図解 SX&SDGs』より引用し一部修正して掲載

2. ESGが営業にも関わる時代に

ESG推進活動によって様々な課題解決や成果創出が期待できます。目先のコストだけではなく、中長期的な成果とメリットを見据えて実践すべきです。逆に取り組まないことで、上記の逆のことが起きてしまう可能性があります。これはスタートアップでも上場企業もほぼ同じです。

特に営業的な側面は注目です。今の上場企業はサプライヤーにESG関連のアンケートを送ってその進捗度を確認してきます。製造業なのにESGアンケートが来ていないとすれば、逆に取引する上場企業が心配になるくらいです。もう昔とは違うのですよ。たとえば、私の会社のようなメンバー数人の企業(非製造業)でも受け取ったこともあります。スタートアップでリソースがないからESG対応しませんという企業は、取引してもえなくなる可能性があります。スタートアップも大企業のサプライチェーン内にいることが多く今の時代は無視できません。社会的なコストを自分たちだけ負担せずに経営できると思うなよ、ということでしょうか。

スタートアップでESGに取り組むことが企業価値向上につながるといいますが、またそのロジックを上場企業でもよく見聞きしますが、実態は「企業価値向上につながる“場合もある”」でしょう。ESGに取り組む企業の中でも、ある種の競争がありますし、すべての企業が同時に価値創出をできるかというと、間違って進めている企業の存在も含めて、なんとも言えないです。ただ、何もしなければ何も生み出せないので、やらないよりやったほうが価値向上に貢献する可能性が高まるのは間違いないです。

3. スタートアップの時間軸を意識せよ

また、ESGの成果は中長期的なものがほとんどで、いかに他社より早く始めるかが競争力的には重要です。まだ数は多くないですが、スタートアップにもESG対応を求める企業は一定数あるので、少しずつでも早くから取り組むことが重要です。

ちなみにESG推進のアウトカム/インパクトとして「イノベーションが加速する」とかは、ちょっと怪しい論調かと思います。そもそもイノベーションを起こせるのはビジネスモデル自体でありESGではありません。ESGはグダグダでもイノベーションを起こしている企業はたくさんありますが、逆は見たことがありません。ごく一部の企業ではESG推進によってイノベーションが加速することもあるでしょうが、一般論としては不十分のように思います。

ESGというか、もう少し大きな意味合いでサステナビリティとしますが、サステナビリティ推進の目的は「信頼される企業になること」です。ステークホルダーから信頼され、ステークホルダーから選ばれる企業になるために、組織はESGに対応しなければならない、と考えています。

これは私の持論ですが、この考え方は10年以上前から変わっていません。ESG対応にはメリットもデメリットもありますが、あまり短期的に狭い視野だけで見ずに、長期的な視点でそもそもなぜ対応しなければならないのかを考えましょう。もちろん、スタートアップは大企業に比べて長い時間軸に耐えるだけの余力がないのもたしかです。ですので、これはもうバランスを考え実行するとしかいいようありません。だからスタートアップでも注力すべきでESG課題をまとめたマテリアリティが必要なのです。

あとそれでいうと、スタートアップの初期フェーズでは完成された商品・サービスはほぼなく、理念というか目指すべき未来像とかが“売り物”でもあります。このあたりは事業型NPOと近いでしょう。こう考えると、そのESG推進活動は、その理念の実現に貢献できるのか、という視点も重要です。

4. コーポレートガバナンス強化

前置きが長くなりましたが、まず対応すべきは数多あるESG課題の中でも「G:コーポレートガバナンス」です。ほとんどのスタートアップの社長は、コンプライアンス対応は二の次です。まぁ、これは仕方がないし、私も恥ずかしながら独立してすぐ(約15年前)はコンプライアンスやリスク管理の知識なんてありませんでした。

これは上場企業もそうですが、社長の倫理観の低さが組織の課題になることも多いですが、まずは、ビジネスモデル自体の違法性はないかとか、オペレーションに法的リスクはないかとか、このあたりのマネジメントから対応するのが現実的でしょうか。この15年で千人以上のスタートアップの社長に出会ってきましたが、もう、色々と“緩い”人が一定数いて余計な心配をしてしまうくらいです。(真面目な人もたくさんいますけど)

スタートアップに限りませんが、他社のESGに貢献するビジネスをする企業自体がブラック企業(労働搾取など)だった、なんてことはよくある話です。日本のNPOでも株式会社でもやりがい搾取的なビジネスモデルをとっている企業ありますよね。どことは言いませんけど。わりと界隈では有名なNPOや企業もあるので知っている人はいますよね。世間は狭いものです。

国内独立系のベンチャーキャピタルで、将来の事業拡大(上場含む)を見据えてシード期からから経営層の倫理教育的な取り組みをしている例も出てきています。事業で失敗するならまだしも、経営者の非倫理的な行動や発言でブランドおよび組織が崩壊するのはくだらなすぎます。マジで注意しましょう。リソースがないとか言っている場合ではないです。

5. 情報セキュリティ対応

あとガバナンスでは「情報セキュリティ対応」なども重要です。情報漏洩対応は組織規模に関わらず積極的に行いたい領域です。何度もいうようにスタートアップにはリソースがありません。だからこそ、ブレーンというかESGに詳しい支援者を味方につけるとよいでしょう。すべてを自社で行うのではなく、ステークホルダーを巻き込みながら、ビジネスチャンスを見出したり企業価値を高める取り組みをしましょう。顕在化したらビジネスが終わってしまうようなリスクは確実に対応しましょう。

最近では、法令違反やガバナンス不備によるスタートアップの倒産や大規模損害の事例が増えており、独立系のVCで弁護士を確保し、投資先スタートアップの法務支援を行う事例もあります。不祥事が業績やレピュテーション(評判)に与える影響は大きいです。できることは限られますが、スタートアップでリソースがないからこそ、知恵を使って工夫しながら進める必要があります。

6. 労働安全衛生とエンゲージメント

「労働安全衛生」と言われて、具体的な項目がイメージできる人はスタートアップにはほとんどいないと思います。大企業のサステナビリティ推進担当者も業務細分化の影響で、実はよくわかっていないという人多いかもしれません。また近い概念で労働慣行もありますがここでは労働慣行を含む広義の労働安全衛生とします。

具体的には「従業員の健康管理」「労働環境の整備」などがあります。スタートアップの取れる選択肢は少ないですが対策をしなくてよい言い訳にはなりません。詳しい内容を知りたい方は労働安全衛生マネジメントシステム「ISO45001」あたりを掘り下げるとよいでしょう。

もう一つ重要なのは「エンゲージメント」です。本記事では詳細まではまとめませんが、従業員エンゲージメント向上施策を行い「離職率低下」「人材確保」「生産性向上」などを目指しましょう。このあたりの詳細は人的資本開示ガイドライン「ISO30414」や、内閣府「人的資本可視化指針」などを参考に深掘りしましょう

7. 事業機会創出

ガバナンスで組織強化を行い、労働安全衛生と従業員エンゲージメントの強化を行って、次に行うべきESG推進活動は「事業機会創出」です。これは通常の新規ビジネスとは異なるものです。製造業で多いのは「環境配慮型製品の開発」です。アパレルがイメージしやすいと思います。例えば「とてもエコな素材や製造方法で作った服」です。要は顧客側の環境活動に貢献できる商品の展開です。環境配慮型製品は、販売側の環境活動にもなりますし、顧客側の環境活動にもなるというWINWINのビジネスモデルです。

スタートアップはサービス事業が多いですが、たとえば、スタートアップの展開する情報管理ツールがDXのための有効なツールだとすると、生産性向上、アナログ管理廃止にともなうペーパーレス化、などの効果が期待できるようなツールとして修正して販売するとか。事業機会の創出は、自社のESG推進にもなるけど、顧客のESG推進にもなることもあり、社会的インパクトをさらに大きくできます。本当は、これを主力ビジネスでできればベストではあります。スタートアップだからこそ、ESGという視点を取り入れ、いかに多くの価値を生み出すビジネスを行えるかという「儲かるESG」(≒SX,サステナビリティトランスフォーメーション)の展開を目指すと良いでしょう

参考資料:スタートアップESGの調査レポート

以下、スタートアップのESGに関するビジネスレポートです。ご参考までに。

◯ジェネシア・ベンチャーズ(ESG Report 2023)
https://www.genesiaventures.com/genesia-ventures-esg-report-2023/

◯経済産業省(上場・未上場スタートアップのIR・開示に関するガイダンス 2023)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000757.pdf

◯KPMGコンサルティング(国内スタートアップシーンESG活動調査 2023)
https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/jp/pdf/2023/jp-startup-esg-survey.pdf

◯MPower Partners、BCG(ESG×スタートアップ レポート 2022)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000079736.html

補足

本記事を執筆するにあたり、ジェネシア・ベンチャーズの河合将文さん、宮原綾子さんにインタビューをさせていただきました。ありがとうございました。かなり興味深いデータもありますので、ぜひジェネシア・ベンチャーズのスタートアップとESGに関するレポートをチェックしてみてください!

>>ジェネシア・ベンチャーズ(ESG Report 2023)

まとめ

いまのスタートアップから将来の上場企業が生まれると思うと、スタートアップの初期フェーズからESGに対応するメリットも結構あると思うのですが、ポジショントークと言われればそうだとしか言いようありません。

今はスタートアップと言っていますが、もちろん、いわゆる「中小企業のサステナビリティ推進」の話と同義であり、中小規模事業者のすべてに通じる話だと思っています。まぁ、ここまで記事にまとめて思うのは、大企業でも実は同じことが言えるではないかという…。

私のビジネスの場合、お客様のほとんどは上場企業および非上場大手企業なのですが、昔から、いわゆる社会起業家とかソーシャル・スタートアップと呼ばれる人たちからご相談をいただき無料(初回のみ)で対応してましたが、深く関わることはなく成果が見えないため悩んでいたのですが、2023年からは費用をいただき本気で伴走する形にしました。企業価値向上および事業成長に貢献します。初回のご相談は無料なので、ESGに詳しい専門家の壁打ち相手を探している方は、以下のページからご連絡ください。

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