サステナビリティ戦略

サステナビリティ戦略を実装する

サステナビリティ戦略。これほど誤解され、使い古され、実態がわかりにくい概念はないかもしれません。

そもそもサステナビリティ戦略をどう定義するか、ですらままならないのですが、セオリーで言えば、マテリアリティ特定であったり、サステナビリティ視点を中長期の経営計画に組み込んだり、というものをサステナビリティ戦略とすることが多いです。

定義も重要なのですが、もっと重要なのは実行です。戦略は実行できてはじめて成果が生み出せるわけですから、文字通りの“絵に描いた餅”にならないようにしなければなりません。そこで本記事では、サステナビリティ戦略(サステナビリティ経営)のあれこれをまとめます。戦略を経営に実装するために、綺麗事では終わらせないために、何をすべきなのか。このあたりの解説をします。

1. 完璧なサステナビリティ経営は目指さない

サステナビリティには課題同士のトレードオフ、つまりどちらかの社会課題解決を優先すると他が犠牲になるという、相反する関係が少なからずあります。たとえば「環境負荷を著しく削減できる取り組みを行ったが、人権問題・労働問題が増えてしまった」というものです。環境問題は、政治の問題でもあり経済の問題でもある、という話とも同じです。

サステナビリティは非常に広範囲な概念であり、また関連し合っているため、特定の課題解決のためには、いくつかの課題を同時並行で進めなければならない場面もでてきます。個別のサステナビリティ推進活動を見ると間違ってないが、全体的な施策として負のインパクトが大きくなってしまう、という複雑な要素が絡むことが起きます。すべての物事には少なからずトレードオフがあるはずなのに、存在もしない完璧な結果(トレードオン)を求めすぎではないかと。

トレードオンは、相反する事象の両立を目指す考え方です。サステナビリティ経営の世界では「経済インパクト(財務)と社会インパクト(非財務)」を中心にトレードオンが“できる”とされています。特にベテランのコンサルタント系の方が主張するイメージです。これは私も重要な視点と考えていますし、実現を目指すべきとも考えています。

ただ、非常に難しいんですよね。「相反する事象」は文字通り相反する概念なので直接交わることは絶対ありえません。トレードオンを可能にするには「別の視点で2つの異なる概念に共通項を見出して概念を統合する」という考え方があります。それがパーパス(経営理念)の実現、企業価値の向上、というゴールなのですが、このゴールの話もなくトレードオンの議論が出てくるので、実現不可能なことを突き詰めて実行できている組織なんていくつあるの…となるわけです。

「サステナビリティ推進活動の副作用」って実はゼロではないのですが言及する企業は少ないです。極端な例ですが「ある人権対応施策は成果が期待できるが環境負荷が高い施策でもある」とか。この表裏一体な矛盾にどこまで気付けるか、が重要なのです。本来的には、サステナビリティ基本方針の本質は「経済的価値と社会的価値の創出が相反する状況になった場合に、どのような行動を選択するか」という指針であるべきです。ありもしない完璧な理想を掲げることがすべてとは思えません。あえて実現不可能な道に進みたいのであれば別ですが、サステナビリティ戦略の実装となると、もう一工夫が必要です。

2. サステナビリティ戦略で成長にフォーカスする

これまでのサステナビリティは、欧米を中心とした普遍的な価値観を実現するための取組みという趣旨も強く、人権尊重、環境対応、法令遵守、組織の透明性、説明責任などの価値観が基盤として組み込まれていました。そのため、欧州も米国も規制を積極的に行ってきたのがこの20年でした。しかし、2025年の欧州でのサステナビリティ関連規制の緩和や延期など、政治・経済からくる社会不安から経済活動の足枷となっていた規制の緩和が進みました。これまでの20年の施策をベタ褒めする自称専門家は多いですが、現実ではやり過ぎでしたというのが結果の一つとなっています。(規制が無意味とは思っていませんが)

欧米型の概念でサステナビリティを整理するとリスク対応に偏りがちであり、特に中小企業の経済活動には負荷が大きすぎるという話ですが、本来的に目指すべきはパーパスの実現であり、企業価値の向上です。リスクと機会でいう機会面の強化でもあり、この成長余地の追求こそが、サステナビリティの事業メリットになるわけです。

従業員数が数人から数十人くらいの中小企業では成長を目指さないという社長も一定数いますが、ビジネスモデルはいつか陳腐化してしまうので、常に新しい取り組みを行い、次の儲かる事業を育てていかないと、会社の売上・利益の維持はできないんですよね。これは私の会社も同じですから、現状維持のために新しい取組みを毎年しています(それが成功するかは別の話)。

このあたりの説明が難しいのですが、「サステナビリティ推進で社会課題解決」ですら手段や結果であって目的ではありません。サステナビリティ推進の目的は、パーパスの実現であり、企業価値の向上でなければなりません。ビジネスモデルにおけるリスク管理が無意味ということではなく、企業価値を毀損するレベルのリスクであれば早急な対応が必要ですという話なだけです。ですので、サステナビリティ戦略ではもっと成長性や事業機会の視点が必要になるのではないでしょうか。

3. いかに変化できるか

サステナビリティ戦略の実装は、しばしば「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」と呼ばれます。サステナビリティを経営戦略に組み込むことは、従来の戦略からの“変化”が求められるからです。変わることは大変なことなのでほとんどの企業や個人は変化を嫌います。とはいえ、社会が変化している以上、変わらないことが経営にとって良いことであるかは別問題です。

私は、世の中のすべての企業にはサステナビリティ経営の可能性があると考えています。たとえば、今はサステナビリティ先進企業と言われる企業であっても、昔は全然ダメだったわけです。やろうと思えば企業は良い方向に変われます。とはいえ「できることから一つずつやろう」では間に合いません。ひとつひとつの企業に「できないことに挑戦しできるようになる」ことが求められるのがサステナビリティなのです。大変なことですよ、ほんと。変化とは何かを変えることですが、新たに挑戦することも変化だと考えています。サステナビリティを綺麗事と考えているうちは、サステナビリティを進めても成果は生まれにくいですし、綺麗事でも実現できると信じているから結果もついてくるものです。挑戦なくして成長なし!

将来起こりうるリスクと機会に関連する問題を自分たちで探し、手を打つことを怠らず、調子が良い時も悪い時も長期視点で将来へ備えることが、長期のビジネスやその成長につながるのです。足元が好調な業績なのであれば、それは過去に行った努力の結果です。この過去→現在→未来という時間軸での“変化”を明文化したものが、まさにサステナビリティ戦略です。どんな成長投資を行って、どんな社会変化に対応していくのかを明確にしなければ、将来に結果を残すことはできません。変化なくして成長なし!

まとめ

サステナビリティ戦略が間違っていれば、どんなに実行力が優れていても成果には結びつきません。ゴール設定とスタート方法が間違っているからです。特に大手企業は開示やESG評価対応に追われがちと思いますが、組織の次期中期経営計画や社長交代のタイミングは、もっとも変化を起こしやすいタイミングの一つですので、ぜひ変化に挑戦してみてください。

サステナビリティと事業成長に関しては、先日「サステナビリティで稼ぐ力/成長性を高める方法」という記事も書いたのでこちらもお読みいただけると、よりご理解いただけると思います。サステナビリティを実装するためには、戦略と実践が必要なのですが、実際には簡単な話ではなく、試行錯誤しながらも上手くいかない企業も多いようです。困難な目標だからこそ実践できれば評価される側面もありますのでがんばっていきましょう!

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