SSBJ統合報告書

SSBJ基準の義務化

サステナビリティ関連財務情報開示(SSBJ基準)の義務化は「27年3月期適用」の予定となっていますが、対象範囲が時価総額3兆円以上で約70社ほどとされています。時価総額上位企業の担当者の皆様、ご機嫌いかがでしょうか。

私は毎年100社以上の統合報告書をチェックしているのですが、それでも時価総額上位企業を完全に網羅しているかというとそうでもなく、上位企業でチェックしていない所もあるなと思い、だったら感想を記事にしようということで今回の記事になりました。

開示義務化となる媒体は有価証券報告書ですが、統合報告書も書けない企業が有報でまとめられるかというとそうでもないと思うので、現状の開示対応進捗度を確認する意味で統合報告書をチェックしました。

有報での開示ですので適当な開示はできません。現時点を含めて、これまで時価総額だけが高く対してサステナビリティへの対応と開示をしてこなかった企業もありますが、これからはそうはいきません。開示が義務化となれば、セーフハーバールール(条件によって違反を回避できる)があるものの、適切な開示をしないと「法令違反」になってしまうので洒落になりません。

というわけで、8〜9月が統合報告書発行のピークということで、2024年10月の執筆時時点のまとめをします。企業ごとの統合報告書レビューはしませんが、全体について感じたことを簡単にまとめます。記事の中段の時価総額ランキングで、企業名をクリックしてもらうと統合報告書のページに飛べるようにしてあるので、気になる企業のレポートをチェックしてみてください。

なお、発行していない企業(見つけられなかった)もありますのでご注意ください。

サステナビリティ情報の開示義務化

SSBJ統合報告書
出所:第4回金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ「事務局説明資料(10月10日)」

まずはSSBJ基準の義務化の復習をしましょう。まだ決定ではないですが、現時点では27年3月期からプライム企業の最大手企業群から義務付ける見込みです。27年3月期適用は「プライム上場の時価総額3兆円以上」、28年3月期適用は「プライム上場の時価総額1兆円以上」、29年3月期適用は「プライム上場の時価総額5,000億円以上」です。執筆時点の時価総額で考えると、27年3月期で「約70社」、28年3月期で合計「約180社」、29年3月期で合計「約300社」、が適用見込みです。

全上場企業(約4,000社)で考えれば、時価総額トップ10%未満が5年以内に義務化となるだけで、上場企業の90%以上は2030年まで義務化はなさそうです。当初、全プライム企業が対象になるという議論が多かったので、ここ数十年で最大の事件かと思っていましたが、この手の話では毎回ある条件緩和によって救われた企業もあるでしょう。

とはいえ、2030年代前半には全プライム企業で義務化になる予定ですので、特に時価総額が小さいプライム会社は、今から少しずつ動かないと間に合わないです。ご存じのとおり、サステナビリティ推進施策で結果が出るまでに5年以上かかるものもありますから。組織規模が小さくリソースがないという言うのであれば、予算ではなく時間を味方にするため、1日でも早く動き始めましょう。

なお図解にもある通り、スタンダード企業もグロース企業も開示義務化ではないものの対応は推奨されています。特にプライム企業と取引が多い企業は、サプライチェーンの一角として相応の対応を求められそうですけどね。

時価総額3兆円以上の企業(72社)

1. トヨタ自動車
2. 三菱UFJフィナンシャル・グループ
3. 日立製作所
4. ソニーグループ
5. ファーストリテイリング
6. キーエンス
7. リクルートホールディングス
8. 日本電信電話
9. ソフトバンクグループ
10. 三井住友フィナンシャルグループ

11. 三菱商事
12. 信越化学工業
13. 伊藤忠商事
14. 東京エレクトロン
15. 中外製薬
16. 東京海上ホールディングス
17. KDDI
18. 任天堂
19. 三井物産
20. 第一三共

21. ソフトバンク
22. JT
23. ホンダ
24. みずほフィナンシャルグループ
25. HOYA
26. 三菱重工業
27. 武田薬品工業
28. キヤノン
29. デンソー
30. オリエンタルランド

31. 富士通
32. アドバンテスト
33. セブン&アイ・ホールディングス
34. ダイキン工業
35. 村田製作所
36. MS&ADインシュアランスグループホールディングス
37. 三菱電機
38. ゆうちょ銀行
39. 大塚ホールディングス
40. 富士フイルムホールディングス

41. 日本郵政
42. テルモ
43. SMC
44. 丸紅
45. ディスコ
46. ファナック
47. ブリヂストン
48. オリックス
49. 住友商事
50. コマツ

51. ルネサスエレクトロニクス
52. 三井不動産
53. NEC
54. 第一生命ホールディングス
55. 豊田自動織機
56. TDK
57. ニデック
58. NTTデータグループ
59. 東海旅客鉄道
60. オリンパス

61. 東日本旅客鉄道
62. SOMPOホールディングス
63. 花王
64. パナソニックホールディングス
65. アステラス製薬
66. イオン
67. 日本製鉄
68. ユニ・チャーム
69. スズキ
70. 野村総合研究所

71. LINEヤフー
72. 大和ハウス工業

※次点:三菱地所、味の素(時価総額2兆9,000億円以上)
※時価総額ランキングは「Yahoo!ファイナンス(2024年10月11日)」より引用

所管

今回、改めて時価総額3兆円以上の企業の統合報告書を読みました。国内最大手企業群なのに、こんな統合報告書しか作れないのかという企業もありましたが(そもそも発行していない企業もあるが)、概ねサステナビリティを経営戦略に取り込もう、成長戦略とサステナビリティを統合しよう、と真面目に考えているものでした。

では、時価総額上位72社のうち、統合報告書関連のアワードや高評価を得た企業はどこでしょうか。「第3回日経統合報告書アワード」(2024年2月発表)でグランプリ企業は、では日立製作所・デンソーでした。「統合リポート・アウォード2023」(2023年12月発表)でアワード受賞は、伊藤忠商事・デンソー・MS&ADインシュアランスグループホールディングス・日立製作所、東京海上ホールディングス、でした。
「GPIFの運用機関が選ぶ優れた統合報告書」(2024年2月発表)では、日立製作所・ソニーグループ・デンソー・村田製作所・伊藤忠商事・三菱UFJフィナンシャルグループ・野村総合研究所・三菱商事・東京海上ホールディングス、でした。日立製作所とデンソーの統合報告書は非常に高評価でアワード総なめ状態です。

2027年3月期から適用義務化の約70社は、人に言われる前にすでにSSBJ基準の対応を進めていると思いますが、当たり前ではありますが、別に時価総額が高いからといって、統合報告書での情報開示が評価されているわけではありません。わずかですが、統合報告書を出していない企業もあります。有報の開示義務化でちゃんとしたデータとインパクトを開示できるのかというと難しい気もします。

気になるというか、決算時期もあるとは思いますが、2024年10月時点で2023年版の統合報告書しか出てないのは、多くが10月までには2024年版を出している中、どのように評価されるか気になるところです。あと、今回72社の統合報告書読みましたが、発行日時(次回発行予定も)くらい書こうよ…と思いました。2024年10月時点で「統合報告書2023」が最新版の企業とか2024年版を探してしまいますよ。

■参考:日立製作所・デンソーが最高評価-「統合報告書アワード」考察(2024)

まとめ

有報と統合報告書は別メディアなので、SSBJ基準による有報のレベルが必ずしも統合報告書と一致しませんが、特に規定がない自由なメディアでさえ適切な情報開示をできない企業が、規制ガチガチのメディアで適切な開示できるとも思えず、今回記事にまとめてみました。個別企業へのコメントはしませんが、最上位70社でもピンキリな品質で色々感じるところがありました。

2025年3月にSSBJ基準が確定すれば、そこからはサステナビリティ関連財務情報開示の支援を行うシンクタンクや大手コンサルティング会社が色々な分析レポートを出してくると思うので、そちらもチェックしてみてください。公開され次第、私のX(Twitter)で適宜シェアしていきますのでフォローしておまちください。

>>安藤光展|X(Twitter)

とりあえず、時価総額70位以上の企業担当者は、サステナビリティ情報の開示義務化がすぐ控えているので、最速で対応する準備(コンテンツとしては統合報告書です)をしていきましょう。他の企業も様子をしている場合ではなく、少しずつでも歩みを進めていきましょう。

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