ブラック企業とは何だったのか

先週、厚生労働省から「若者の「使い捨て」が疑われる企業等への重点監督の実施状況」というリリースがありましたね。

9月に書いた、「ブラック企業の皆様お気をつけ下さい。今月は「過重労働重点監督月間」です。」で行われた、“ブラック企業”と思われる「重点監督の実施事業場(5,111事業場)」の調査まとめです。

(1)違反状況:4,189事業場(全体の82.0%)に何らかの労働基準関係法令違反
・違法な時間外労働があったもの:2,241事業場(43.8%)
・賃金不払残業があったもの:1,221事業場(23.9%) 
・過重労働による健康障害防止措置が実施されていなかったもの:71事業場(1.4%)

(2)健康障害防止に係る指導状況
・過重労働による健康障害防止措置が不十分なもの:1,120事業場(21.9%)
・労働時間の把握方法が不適正なもの:1,208事業場(23.6%)

(3)重点監督において把握した実態 
・80時間超:1,230事業場(24.1%)
・うち100時間超:730事業場(14.3%)
若者の「使い捨て」が疑われる企業等への重点監督の実施状況|厚生労働省

そもそも労働基準関連法違反しているだろうという「疑わしい企業」への重点調査と聞いていたので、半分くらい明確な違反があるんじゃないのと思ったら、全体の82%でしたと。逆に“疑われてた”18%の企業がどのように回避したのかも気になる所です。

とまぁ、それはさておき、思わぬ伏兵が隠れていたのも事実です。

調査の実施に関して、これまで法律が厳格には適用されてこなかった日本の労働行政におけるパンドラの箱を開けてしまうのではないかと危惧する声も上がっている。

日本では欧州とほぼ同レベルの立派な労働法制が整備されている。だが実際には労働基準法はほとんど守られておらず、厚労省側もその実態はよく承知している。日本の労働行政における「ウラ」のルールは「大企業の雇用を維持するためには、多少の法律違反には目をつぶる」というものであり、実際、多くの法令違反が黙認されてきた。
厚労省のブラック企業調査。労働行政のパンドラの箱を開けてしまったとの声も

今まで“労働関連法は守られないものだ”とされ黙認されていた「暗黙の了解」が破られ、雇用の維持が今後難しくなるのでは?という話です。

欧州の失業率が高いのは、法律や権利を守るがあまり、雇用を維持できなくなっているという側面もあるそうで、ブラック企業を退場させたら、それはそれで困っちゃうなんて場面も出てくるかも。

ブラック企業

先日「祝・流行語大賞受賞! 「ブラック企業」とは結局何なのか?」でも書いたように、流行語になるくらい注目されている話題がブラック企業論なのです。

議論だけで何も社会は変わらなかったのが、今まででした。しかし、流行語になったからというわけではありませんが、さすがにマズいと動いた結果、82%が法を守らぬ犯罪企業でした、と。むむー、な自体です。

82%は残念だったとしても、そもそも、なぜ長時間労働等の仕組みはなかなか改善しないのでしょうか?そんな従業員の使い捨て具合がよくわかる、興味深い調査結果を先月に内閣府が出しています。

労働時間が長い人ほど、上司が長時間残業の人に対して「頑張っている人」「責任感が強い」などポジティブなイメージをもっていると回答。有給休暇の取得率が少ない人ほど、上司が有給休暇を取得する人に対して、「仕事より自分の時間を優先する」「仕事が少ない」などネガティブなイメージを持っていると回答。
ワーク・ライフ・バランスに関する意識調査・速報

コレね、すごくわかります。先日終了した、とある案件のトップ(中小企業の社長)がこういう考えの人でした。「(スタッフの)〇〇さんは、いつも遅くまで仕事していて偉いね」って言っていたのを何回か聞いたことがあります。いやー、色んな人がいますよね。

現場のCSRって何?

僕も3年半ほどあったサラリーマン時代(2005〜2008年ころ)もこんな上司ばかりでした。有給休暇を取得しにくいのはもちろん、申請しようとしたら「冠婚葬祭以外認めない」とか「一般社員は基本取得できない」とか。

また見込み残業で勤務時間が9〜20時だったのですが(今はわかりませんが)、事務所が閉まるので追い出され、結局自宅作業か土日出勤みたいなで更にタスクをこなしてました。

多くの会社は「従業員は宝であり大切にしています」と言います。でも実態となると…。これらを“よくある話”で終わらせてはいけないです。

先々週発売の拙著『この数字で世界経済のことが10倍わかる–経済のモノサシと社会のモノサシ』でも書きましたが、総務省の平成24年就業構造基本調査によれば、年間就業日数が200日以上働く人(会社役員を除く)について、週間就業時間60時間以上の人は、全体の11.2%(478万人、男390万人・女88万人)だったそうです。

週60時間以上ということは、週5日勤務の1日12時間労働以上となります。現実的に考えれば、朝9時に出社し、退社するのは夜9時以降がほぼ毎日で、場合によっては最終電車(深夜0時前後)の直前まで勤務しているという実態だと推測されます。

オランダは、週のうち29時間が労働時間で、平均所得は47000ドル(約470万円)。政府がワークライフバランスを奨励していることもあり、週4日労働がかなり定着しているとのこと。日本と単純比較はできないものの、政府が大きな仕組みを作らないと民間だけではどうしよもできない部分が多い気がします。

注目を集める「ホワイト企業」

今年に入ってだと思うのですが、公共性の高い仕事をされている方が「ホワイト企業」という女性がはたらきやすい企業をピックアップしています。

僕は、経団連の調査をまとめた記事「大企業のCSR担当者必見! 女性が活躍する企業事例まとめ74社」や、「女性の活躍と経済成長は、オフセット的CSR活動なのかもしれない理由3つ」という記事を書きましたが、これもフォーカスは女性。

東洋経済も「ホワイト企業トップ300」という調査結果を今年始めに発表しているのですが、新卒離職率に注目しているので、上記の例とは評価基準が異なります。

「女性が働きやすい・女性が活躍」という切り口で企業を見ているのは、当たり前ですが、みんな女性なんですよね。企業の損益とか関係なく「自分さえよければいい」という視点が大きいことに、残念さを感じます。結局、自分が働きやすければそれでいいのかよ、と。

男性のキャリア形成と比べて、女性のキャリア形成は「妊娠・出産」というプロセスがあるため、一般的に難しいとされています。僕もそう思います。そのキャリア形成を支援する仕組みは絶対に必要ですし、制度がある企業を選ぶというのもわかります。

ただ、ダイバーシティとか、ホワイト企業というとなぜ「女性の活躍」だけにフォーカスされるのかわかりません。男性も女性も障害を持つ人もLGBTの人も“みんなが働きやすい労働環境”が整っている企業をホワイト企業と呼ぶのであれば、それに異論はないのです。

ごく一部の経営課題だけを取り上げても、余計本質から遠ざかると感じるのは僕だけではないはずです。日本に420万社ある法人の中で、たった100社程度をホワイト企業とするのは構いませんが、そこの企業に入れない、その他多くの就職希望者は放置なのですか?それが正義ですか?

まとめ

いかがでしたでしょうか。

色々、ご批判をいただきそうなオピニオンだとは理解していますが、どれもこれも、数ヶ月で解決できるような社会課題ではありません。ですので、より多くの人がこの問題について議論しあい、より良い答えを導けるように努力すべきだと思います。ですので、あえて、記事にさせていただき、問題提起しました。

あなたの会社は、ブラックですか?それともホワイトですか?それとも…?

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