マイケル・ポーターのCSV
今回は「共有価値創造(Creating Shared Value = CSV)」の、定義の話を。
ここ数年、本当に色々な人が、このコンセプトをブチあげており、で結局なんなの?感が出てきたので、今一度、意味を確認しようということです。
マーケターなどが特に、「CSR」や「サスティナビリティ」より好んで使う傾向になるのですが、CSR関係者はその行き過ぎた行動に警鐘を鳴らしている状態です。
参照:「CSRからCSV(Creating Shared Value)へ」は、なぜ間違いなのか
というわけで、僕を含めた第三者のCSVの定義はどうでもいいとして、企業自体はどのような定義をしているのか。5社の事例を確認してみましょう。
※画像は「共通価値の創造とは?|ネスレ」より引用。
企業のCSVの定義とは
1、ネスレ
社員が順守すべき基本的な価値観や諸原則をまとめた「ネスレの経営に関する諸原則」の中には、“「共通価値の創造(Creating Shared Value = CSV)」が事業展開の基本である”ことが明記されています。日々の業務の中で関わるさまざまなステークホルダーの皆さまにとっての価値を創造するためにできることを考え実践することが、社員一人ひとりの責務であり誇りでもあります。
ネスレ日本トップメッセ―ジ
「共通価値の創造」には、国際規格・基準だけでなく、社内の「行動規範」、「経営に関する諸原則」、「マネジメント及びリーダーシップの基本原則」など、厳格な規則に対するコンプライアンスが必要となります。「共通価値の創造」は私たちが事業を行う手法であり、私たちが社会一般とつながる方法なのです。
共通価値の創造とは?
なるほど、なるほど。ネスレさんにとって、CSVは枕詞みたいなものなんですね。マイケルポーター教授の定義と若干異なる気もしますね。ただ、ここまで言い切られると気持ちよいですな。
確か、マイケルポーター教授はネスレからCSVのコンセプトを学んだ(教えてもらった)と言われてますし、まさに元祖CSVな会社です。
2、伊藤園
伊藤園グループは、経営理念「お客様第一主義」に基づき、ステークホルダーの皆様のご意見を拝聴し、ステークホルダーの信頼を得ることを旨として、法令遵守を徹底し本業を通じて国際規格ISO26000/国内規格JIS Z 26000に即して7つの中核主題に取り組み、「世界のティーカンパニー」を目指します。また国内及び世界で「グリーンエコノミー」を実践し、新たな食文化の創造と生活提案を行い、社会の課題解決と伊藤園グループの成長を両立する「共有価値の創造(CSV)」により、持続可能な社会・環境の実現に貢献します。
CSR憲章・CSR推進基本方針・ESDの推進
伊藤園は、書籍「CSR新時代の競争戦略: ISO26000活用術」(笹谷秀光、2013)も出されているように、CSVというワードを使い始めていますね。ネスレほどではなく、全体としては、CSRというワードがメインで、補足的な価値観として使っているみたいですね。なるほど。
ただ、他の項目では基本CSRというワードを使っていますし、わざわざ新しいCSVという概念がなければ自社のCSRが説明できないというわけでもないみたいです。今後のコミュニケーション動向に注目ですね。
3、ユニリーバ
もうユニリーバは世界でもトップクラスなCSR推進企業です。「ユニリーバ・サスティナブル・リビング・プラン」は超有名なCSRステートメントの一つです。
で、ユニリーバはCSVというワードを使っていない様子。ではなぜピックアップしたかというと、CSVを説明するコンサルやマーケターがよく事例としているからです。
非常にわかりやすいので気持ちはわかるのですが、本人はそうはいっていないし、外部の人間がとやかく言うことでもないのかなとも思ったり。
CSVでもCSRでもどっちでもいいですけど、ユニリーバの取組みは勉強になりますので、一度ウェブサイトをチェックすることをお勧めします。
4、キリン
「復興応援 キリン絆プロジェクト」で東日本大震災復興支援に携わる中、私たちは事業を通じて社会課題の解決に取り組むことの意義を改めて学ぶことができました。
キリングループはこれまでも事業を通してCSRを推進してきましたが、昨年度は事業と社会課題とのつながりをしっかり踏まえ、CSVを経営の中心に据えていくことを決意し、福島県産の梨の果汁を使用した「氷結和梨」の発売で新たな一歩を記すことができました。本年は国内でCSVの成果創出を加速させるとともに、海外においてもキリングループならではのテーマでCSVを推進していきます。
※CSV(Creating Shared Value)は、これまでのCSRを一歩進め「社会課題への取り組みによる社会的価値の創造」と「企業の成長」を両立させる経営コンセプトです。
トップコミットメント
CSVといえば、有名ななのがキリン。これはマイケルポーター教授の「CSR=慈善事業(フィランソロピー)」というコンテクストを反映しておりますな。
「CSRってそんなダメな概念なの?」って疑問がある方もいると思いますが、アメリカ的というか、CSRは社会貢献活動の総称と定義すれば、たしかにポーター教授が以前から言っていた、戦略的CSRとかCSVのコンセプトが出てくる意味もわかります。
ただ、第三者意見で荒井さんが言っている通り、とはいえ通常のCSRとほとんど変わらない用法と情報整理も多いので、CSVとするのであれば、もっと突っ込んだCSVの話があるとわかりやすいですね。
活動自体は素晴らしいのだから、CSRかCSVかどっちかに統一してほしいよね。これは他の企業でも言えますが、一般の人はみんな混乱してると思うよ。もったいないなぁ。
5、アフラック
当社が生命保険会社として社会とともに歩み、相互に発展していくためには、「お客様」に安心をお届けすること、「株主」の期待に沿うような成長を実現すること、アソシエイツをはじめとする「ビジネスパートナー」と相利共生の関係を築くこと、「社員」の多様性を尊重し働きがいのある職場を提供すること、「社会」に貢献する活動を積極的に推進することなど、当社とかかわるすべてのステークホルダーに対する社会的責任を着実に果たしたうえで、社会と共有できる価値(Shared Value)を創造(Create)していく企業経営(=CSV経営)を実践していくことが不可欠だと考えています。
アフラックのCSV経営に向けた取り組み
事例紹介などではあまり出てきませんが、生命保険のアフラックも「CSV経営」というワードを使っています。
アフラックはある意味わかりやすく、混同されやすいCSRとCSVを並記する書き方はしておらず、ウェブサイトではCSRというワードがあまりでてきません。
CSV、社会貢献活動、環境活動、といった使い方ですね。このあたりは非常に参考になります。BtoCの企業だったら、CSVを言いたいのであれば、CSRというワードを極力さけるべきなのかもしれませんね。
CSV関連の本・書籍
CSVを学ぶ本もいくつか紹介しておきましょう。
CSV時代のイノベーション戦略(藤井 剛)
参照:CSV経営のマネジメントの要訣を説く本「CSV時代のイノベーション戦略」(藤井剛)
CSV経営―社会的課題の解決と事業を両立する(赤池学・水上武彦)
参照:CSV(Creating Shared Value)の事例集! CSV事例の良書「CSV経営」(赤池学・水上武彦)
ソーシャルインパクトー価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える(玉村 雅敏)
参照:日本企業のCSV経営事例の本「ソーシャルインパクト」(玉村雅敏)
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 06月号
ポーター教授の論文掲載号です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
どうせ多くの担当者の方はマイケルポーター教授らのCSVや戦略的CSRの論文とか原典すら読まず、「これからはCSRではなくCSVだ!」みたいな人なんだろうし。あっ、上記の企業担当者の方がどうかはわかりませんけどね。
結果出せるならどっちでもいいから、さっさとやれやとか言っちゃだめですよ!
そうはいっても、僕らみたいな第三者が語るCSV論とはまた違った表現などが見られて新鮮ですね。
できれば、カタカナ語ではなく自分たちの会社らしい単語に置き換えられると一番いいんですけどね。三方良し的なヤツね。今後の動向に注目しましょう。
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