CSV経営事例
今回の読書メモは「ソーシャルインパクト」(産学社、玉村雅敏・横田浩一・上木原弘修・池本修悟)です。
タイトルは「ソーシャルインパクト」ですが、ソーシャルインパクトの解説(?)よりは、CSV経営例として事例紹介が中心となっております。インパクト測定などの専門的で難しそうな話はほとんどないので、スラスラ読めました。
広告会社・博報堂の松澤巧さんの「つながってミール」という活動が、博報堂のCSR活動として公式に認定された、という話が面白かったです。まさにCSRのボトムアップの事例ですよね。ソーシャルインパクト自体は小さくとも、継続してやっていることは素晴らしいことだと思います。
あと、ワクワークイングリッシュの事例も興味深かったです。一時期、女性の社会起業家として注目されていたので以前から社名だけは知っていたのですが、CSR系の書籍に事例として挙げられたのはあまりないと思います。
この手の書籍だと紹介される事例はいわゆる大手企業ばかりで世の中の大半を占める中小企業には参考にならない場合も多いです。そんななかで従業員数十人(日本は数人?)の企業の事例は色々学びがあると感じました。
個人的に感じたのは、CSRやCSVという単語を使うのであれば、その定義をもっときちんと解説してほしかったなと。例えば「日本式CSV」という表現が使われていたのですが、CSVはCSVなわけで日本式がついたら、それマイケルポーター教授のCSVじゃなくね?みたいな。
ちなみに、最近のマイケルポーター教授の講演資料(Shared Value Leadership Summit:2014など)を見る限り「CSVは、資本主義の修正と新たなイノベーションであり、競争戦略である」、「CSRはフィランソロピー(慈善事業)である」、みたいな発言があるので、本書のCSVとはちょっと方向が異なる気もします。どっちが正しいとかではなく。
ただでさえ「CSV見直し論」がCSR関係者などから増えている状況を考えると、より明確にすべきなのだと思っています。そもそも、CSV論はアメリカ的な話であり、ヨーロッパや日本を含めたアジアのCSRとは異なる文脈のはず。このあたりは、きちんと説明して欲しかったです。
有名な事例を中心にいくつも紹介されていますし、改めて日本企業のCSR活動について考えるにはよい本でした。初級者向け。
最近CSV経営を推している、ネスレ、キリン、伊藤園、の事例は本書には載っていませんのであしからず。ちなみに、マイケルポーター教授より、ネスレの方が先にCSVという概念を作ったとも言われています。これ豆知識ね。
CSVについての参考記事
・最新CSV事例から学ぶ、マイケルポーターの“CSRからCSV”待望論
・「CSRからCSV(Creating Shared Value)へ」は、なぜ間違いなのか
・マイケルポーターの戦略CSRとCSV(Creating Shared Value)を深く学ぶための良記事10選[2013年版]
ソーシャルインパクト
【主な掲載事例】
・ヤマトグループがビジネスで取り組む地域活性化支援「プロジェクトG」
・自治体と企業が市民価値を共創する公共施設、武雄市図書館
・遊休施設を再生させた、アールプロジェクトの挑戦
・コーズリレーテッドマーケティングの先導事例―王子ネピアの途上国支援「nepia千のトイレプロジェクト」
・地域に貢献するサービス業としてコンビニ型店舗・ドライブスルー型店舗、商店街活性化に取り組む大垣共立銀行
・新事業の探索・開発の新たな方法、フェリシモの部活(「フェリシモ猫部」)
・会社のビジョンを浸透させる資生堂の社会貢献活動「未来椿活動」
・イノベーティブな縁側として機能するヤフーの社員食堂「BASE6」
・日本マイクロソフトの東日本大震災被災地支援
・フィリピンの貧困地帯で100の事業創出をめざす、ワクワーク・イングリッシュ ほか