CSRと企業利益のコンテクスト
「CSRの追求は企業の最善の利益とはならないのではないか」。
企業がCSR活動をするあたり、100%この質問が出る事でしょう。CSRや社会貢献活動は企業の利益に貢献するのか、と。
今回は、サスティナビリティという視点で考察してみます。
「CSRで差別化戦略!」みたいな“儲かるCSR”の流れを否定するわけではないのですが、CSRとビジネスの間にある文脈を理解しているのが前提となります。
1、サスティナビリティは企業利益に貢献するのか
「グリーン」なビジネス戦略について私が話すと、誰かが必ず尋ねる。持続可能性の追求は、企業の最善の利益とはならないのではないか、と。もっともな質問ではあるが、残念ながら、この質問は大きな誤解に基づいている。常に変化している世界で企業をどう運営すべきかを、正しく理解していないのだ。
(「持続可能性」で見えてくる新たな競争とビジネスモデル)
ここで、CSRに関する豆知識。
「持続可能性」といったら、「環境」の話しか出てきませんのであしからず。
何と言いますか、企業のサスティナビリティといえば、根幹は社会性を加味した「まっとうな仕事をする」が前提条件にあると思うのですが、なぜかそれらは語られず、環境活動の側面しかオピニオンや調査に出てこないのです。
だってさ、企業理念がそもそも“サスティナビリティ”を考慮していないとかも多いじゃないですか。上場企業であっても、ですよ?
まー、そんなことはさておき、色々と誤解が多いのがこの業界。定義が広すぎるのが、元々の原因なんですけどね。
具体的な例を示そう。ゼロックスは(他のプリンタメーカーも同様だが)、顧客のプリント枚数の削減に協力している。顧客は紙やエネルギーを節約でき、ゴミも減らせて、環境への負荷とコストを削減することができる。
「そうやってグリーンな目標を追求していたら、ゼロックスの利益や雇用は減るのではないですか?」
私がゼロックスCEOのアーシュラ・バーンズに同様の質問をした時に返ってきた答えを紹介しよう。「そうかもしれません。でも、他社にそうされたら、もっと大変なことになります」。ゼロックスがグリーンで顧客に優しいソリューションを提供しなくとも他社がやる。つまり社内から自発的にイノベーションを進めるのではなく、外部から食われてしまう、ということだ。
(「持続可能性」で見えてくる新たな競争とビジネスモデル)
このあたりの折り合いをつけるというか、コストに対して、未来のリスクをどれだけ消化できるか、というのはCSR戦略でも重要なポイントであります。
CSR活動および戦略策定のフィードバックの時に、「儲からないからやめよう」(コストだから止めよう)という意見が出たらアウトですね。大抵出るんですけど。
そもそものCSR戦略の目標設定がおかしいんですよね。コーズマーケティングなど、かなりビジネスライクな領域なのか、そもそも前述のゼロックスみたいなリスクヘッジの意味合いも強いのかなど、KPIの設定がおかしいと、何やっても無駄になってしまう気がします。
2、環境ビジネスの市場規模(産業規模)
では、そんな環境ビジネスや、企業の環境経営の市場規模を振り返ってみましょう。
2011年は、環境産業は82兆円、雇用規模227万人という巨大な市場規模となっており、同レベルの市場規模では「食品産業」「医薬品」「レジャー」など、誰もが経験・体験したことがあるメジャーな市場があります。
そして、2020年には120兆円規模の市場となり、雇用規模は280万人程度となるという推計が出ます。
環境省が定義する“環境産業”とは、「環境汚染防止、地球温暖化対策、廃棄物処理・資源有効利用、自然環境保全の4大項目からなる環境産業分類」のことを指します。
また、環境省は市場規模推計に産業関連の情報を加味し、環境産業の付加価値額は約35兆円(2010年の名目GDPの約7.5%)、輸出額は約7.7兆円、輸入額は約1.5兆円との試算結果を出しています。
規模として大きいというのもありますが、まさに伸びている市場であり、私たちが「エコ」と呼んでいるものが、ここまでの規模感だと知って驚く人も多いかと思います。
サスティナブルなビジネスが120兆円というわけではないのですが、今後も市場規模が拡大し、他社に喰われる企業が続発しような予感がします。
参考文献
・環境産業の市場規模に関する情報(環境省、2013)
・環境産業の市場規模・雇用規模の推移(環境省、2013)
3、参照記事10選
ちょっとこれだけじゃ、「持続可能性(環境経営)で競争優位にたてるのか」の問いの答えがまだ見えない!という人のためにいくつか参照すべき記事をご紹介します。
差別化戦略
・みんなで一緒にコーズマーケティング? 買物で社会貢献ができる「ウェブベルマーク運動」
・後発でも結果をだせる!?コーズ・リレーテッド・マーケティング事例「い・ろ・は・す」
・“おもしろいCSR”と、CSV(競争戦略)と、社会貢献について考えてみた
・CSR活動の戦略とは?インパクトとオリジナリティの差を考えるための3つのポイント
・マイケルポーターの戦略的CSR、CSV(Creating Shared Value)を考察するための良記事22選
サスティナビリティ
・企業が歩むべきCSR活動がわかる書籍「持続可能な未来へ」(ピーターセンゲ)
・持続できないサスティナビリティ・CSRにならないための3つのポイント
・サスティナビリティの良事例!ユニリーバのCSR「サスティナブル・リビング・プラン」
・環境経営がビジネスを成功に導く?環境ビジネス本「エコがお金を生む経営」
・グリーン経営とは何か?サスティナビリティ戦略構築の3つのポイント
まとめ
いかがでしたでしょうか。
3つのポイントとして「サスティナビリティは企業利益に貢献するのか」、「環境ビジネスの市場規模」、「参考文献(記事)」を挙げさせていただきました。
本稿タイトルの「持続可能性(環境経営)で競争優位にたてるのか」という問いの答えですが「やり方によってはたてる」ということでしょうね。
市場はある。で、実例もある。ということは、やってやれないことはないということ。
CSRがリスクヘッジであることはあまり語られませんが、あなたの会社の経営戦略を立てる際には、外的要因の一つに「サスティナビリティ」の要素を入れるだけで、色々捗ることもあるでしょう。
持続可能性の追求は、企業の最善の利益となるか。この答えは、あなたの行動次第でいかようにも変えられるということはまずは知っておいて下さいな。