
環境表示ガイドラインが13年ぶりに改定
環境省が2026年3月に「環境表示ガイドライン」(以下ガイドライン)を改定しました。前回の改定が2013年3月なので、実に13年ぶりの大幅なアップデートとなりました。
このガイドラインを知らないサステナビリティ担当者も多いかもしれませんが、今回の改定は、マーケティングや広告担当者だけではなく、サステナビリティ推進、広報、IR、法務、商品企画などにも関係する話です。今回の改定の大きな背景にあるのが世界的に進む「グリーンウォッシュ規制」です。
グリーンウォッシュとは、実態以上に環境に配慮しているように見せる行為や表現のことです。私はこのブログでも10年以上前からグリーンウォッシュについて取り上げてきましたが、当時と現在では社会的な意味がかなり変わりました。以前は「企業の広告表現として望ましくない」という話が中心でした。しかし現在は、誤解を招く環境主張はレピュテーションリスクだけではなく、規制・訴訟・取引リスクにつながる可能性があります。
環境省自身も、欧州をはじめ、世界的にグリーンウォッシュへの視線が厳しくなっていることを改定理由として挙げています。つまり「環境に良いことをしているので積極的にアピールしましょう」という時代から、「何を根拠に、どの程度、環境に良いと言っているのか」が問われる時代になったということです。
とはいえ、完全な法律でもないためか、一部のコンサルや専門メディアがノリで取り上げる程度で、実務に踏み込んだ解説は以外と少ないです。というわけで本記事では、実務的な側面を踏まえて解説します。
環境表示とは何か
そもそも「環境表示」というとどのようなイメージを持ちますでしょうか。たとえば、商品パッケージのエコマークのようなものを想像する人が多いかもしれません。しかし今回のガイドラインが対象とする範囲はもっと広いです。「環境表示」とは、説明文、シンボルマーク、図表などを通じた製品・サービスの環境主張を指します。さらに重要なのは、商品・サービスの取引に直接関係しない「事業活動」「イメージ広告」「企業姿勢」などもガイドラインの適用範囲に含まれることです。
たとえば、私の観測範囲では、テレビCMで「当社は環境にやさしい会社です」「サステナブルな未来を実現します」といった表現をよく耳にしますが、あれらはグリーンウォッシュ(違法)である可能性が高いということです。私も週末の夜はたまにテレビを見ますが、グリーンウォッシュな広告ばかりですね。大手日本企業が積極的にグリーンウォッシュをしている事例として、すがすがしく思います。ちなみに、サステナビリティ分野の専門メディア(Web・冊子ともに)でも、そのグリーンウォッシュな広告や広告記事を掲載しているので、メディアの社会的責任も合わせて感じています。
なお、消費者庁から2026年8月に「環境ラベルに関する実態調査報告書」が発表されています。消費者庁のいう景品表示法は法律であり、グリーンウォッシュなどの環境表示違反はこちらで罰せられるイメージです。いずれにしても、環境省と消費者庁が2026年に、サステナビリティ情報開示の規制に動いたということです。
ガイドライン概要

ガイドラインの「5つの基本項目」
今回のガイドラインでは、ISOなども考慮され、企業が確認すべき事項として「5つの基本項目」が整理されています。ポイントは以下の通りです。
1. あいまいな表現や環境主張は行わないこと
2. 環境主張の内容に説明文を付けること
3. 製品のライフサイクル全体を考慮すること
4. 環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能で、情報にアクセスが可能であること
5. 製品または工程における比較主張はLCA評価、数値等により適切になされていること
ここで特に注目したいのが3番目です。旧ガイドラインにもライフサイクルを考慮するという考え方自体はありましたが、今回の改定では「製品のライフサイクル全体を考慮すること」が5つの基本項目に明確に組み込まれました。旧版では「検証に必要なデータ」「情報へのアクセス」が別々の基本項目でしたが、それらを統合し、ライフサイクル視点を前面に出した形です。
要は、一部分だけ切り取って「環境に良いと言わないでください」ということです。たとえば原材料の環境負荷は下がったけれど製造時のエネルギー使用量が大幅に増えた、使用時のCO2排出量は減ったけれど廃棄時の環境負荷が増えた、というケースもあり得ます。環境負荷には必ずトレードオフがあります。だからこそ「この部分だけ環境負荷を減らしました」という事実をもって、製品全体を「環境にやさしい」と表現するのは慎重であるべきなのです。環境配慮型製品を全面に出す企業もありますが、全売上の1%にも満たない状況だったり、実態としては難しい場合も多々あります。なお、環境配慮型製品が意味がないという話ではなく、それをアピールしすぎるとグリーンウォッシュになりかねません、という趣旨です。
「環境にやさしい」は基本ダメ
今回のガイドラインで担当者がまず確認したいのがあいまいな環境表現です。ガイドラインでは「あいまいな表現によって環境への配慮を大まかにほのめかす主張」を避けることを求めています。例として「環境に安全」「環境にやさしい」「地球にやさしい」「グリーン」「自然にやさしい」「持続可能」などが示されています。こうした表現を使うのであれば、単独で使用せず合理的な説明を付けることが必要になります。
「持続可能」まで例示されている点は、サステナビリティ関係者としてはなかなか興味深いところです。企業サイトを見れば「サステナブルな商品」「地球にやさしい製品」「環境に配慮したサービス」といった表現は大量にあります。これらの言葉を使ってはいけないという話ではありませんが、原則NGくらいのイメージを持っておく必要があります。環境対応の根拠と成果を示せば問題はないのですが、すべてのコミュニケーションに詳細説明を加えるのは現実的には不可能ですので、よほどの理由がない限り使わないほうが良いです。そもそも「環境にやさしい」という表現がどうしても必要な場面なんてないと思うのですがいかがでしょうか。
では企業はどう対応すればよいのか。私は今回のガイドライン改定を「情報開示のチェックリスト」とだけで捉えないほうがよいと思っています。本質的にはサステナビリティ・ガバナンスの話です。たとえばマーケティング部門が新商品の広告でCO2削減を訴求するとします。その数字は誰が算定したのか。比較対象は何か。対象範囲はどこまでか。データはいつのものか。第三者が根拠を確認できるのか。CO2削減できる商品・サービスであっても、売上が伸びれば通常スコープ1,2,3は増えますので、その兼ね合いはどうなっているのか。
これらは特定部門だけでは判断できません。商品開発、調達、環境、サステナビリティ、広報、マーケティング、法務などの連携が必要になります。ですので今後、大手企業では環境表示の社内審査のような仕組みを整備する必要があるでしょう。情報開示をしてからサステナビリティ部門に「これ大丈夫ですよね?」と確認するのでは遅いのです。企画段階から、環境主張とそのエビデンスをセットで管理する必要があります。開示は、開示を行う組織的な体制づくりが重要なのです。
なお、「グリーンウォッシュを恐れて環境情報を発信しなくなること」もあり、これは「グリーンハッシング」とも言われるの考え方ですが、基本的にはグリーンハッシングはあまり気にしなくてよいです。多くの企業は、そもそも十分なサステナビリティ情報開示が行われていないため、自動的にグリーンハッシングの状態になっているからです。
まとめ
今回の環境表示ガイドライン改定は、13年ぶりということもあり、一見すると地味ですが、私は企業のサステナビリティ情報開示(コーポレートコミュニケーション)における重要な転換点の一つだと考えています。
今後は「環境に配慮しています」と言うだけでは不十分です。何に配慮しているのか。従来と比べてどれだけ改善したのか。ライフサイクル全体ではどうなのか。その根拠となるデータは何か。第三者が確認できるのか。つまり、環境情報開示にも説明責任がより強く求められるようになってきたということです。結局、そのサステナビリティ推進活動とは「どのステークホルダーに、どれだけ(経済的・社会的な)価値提供をできるのか」という話ですね。役に立たない(価値を生み出せていない)活動ばかりだからグリーンウォッシュと言われるのですよ。
そして身も蓋もない話をすれば、環境表示で最も重要なのは表現テクニックではありません。成果(アウトカム)です。事業活動そのものに環境価値がなければ、どれだけ優秀なクリエイターや担当者が言葉を整えても、成果につながらず意味がありません。逆に、環境価値があり、その根拠となるデータを適切に管理していれば、必要以上にグリーンウォッシュを恐れる必要もありません。
サステナビリティ情報開示は「良く見せる技術」から「成果を伝える技術」へとニーズが変化しています。今回の環境表示ガイドライン改定は、その流れを改めて示したものではないでしょうか。担当者の方は今一度、下記資料を確認してみてください。
◯関連資料
・環境省(2026)「環境表示ガイドライン」
・環境表示ガイドライン 参考情報(別冊)
・環境表示ガイドラインの活用方法がよくわかるQ&A
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