
統合報告書のダイジェスト版
2026年も残りわずかですが、統合報告書制作のアドバイザーや、大学の研究会での会話だったりで話題に上がるようになったのが「統合報告書のダイジェスト版」です。
統合報告書のダイジェスト版とは、本編となる統合報告書(60〜100ページ程度)の要点だけを20〜40ページ程度にまとめた冊子を指します。企業によっては冊子(PDF)ではなく動画にまとめる企業も一定数あります。意図は、企業ごとに異なるのでしょうが、ダイジェスト版の想定読者としては自社従業員をはじめ投資家やESG評価機関・専門家以外の層が多いです。発行社数はまだまだ少ないですが、数十社程度は簡単に見つけられるレベルです。なんとなくその存在を知っていた関係者も多いかと思いますが、いくつかの事例を含めて解説させていただきます。
※各社サイトへのリンクは執筆時点
統合報告書 ダイジェスト版
たとえば、伊藤忠商事だとダイジェスト版を「要点を短時間で確認できるようにしています」と説明しています。またニッスイは「統合報告書の内容を抜粋し、ニッスイグループの基本的な情報をコンパクトにまとめた冊子です」としています。伊藤忠商事は「統合レポートとしての必要な要素はしっかりと残しつつ、要点を短時間で確認できるように整理しました。本ダイジェスト版をご活用いただき、伊藤忠商事の持続的な価値創造ストーリーの要点をご確認ください。また、各スライド下部に冊子で更に深掘りされているキーワードや関連するコンテンツについてリンクを設けています。ご関心・ご興味に合わせて統合レポート本文も是非、お読みいただけますと幸いです。」とも言っているので、目的ベースで開示メディアを分けていると考えられます。
ダイジェスト版事例
・伊藤忠商事
・DMG森精機
・日鉄物産
・ニッポンハムグループ
・あすか製薬ホールディングス
・ニッスイグループ
・日鉄物産
統合報告書 ダイジェスト動画版
統合報告書のダイジェストを冊子(PDF)ではなく動画にしている企業もあります。ダイジェスト動画だけではなく、ESG説明会のアーカイブ動画など、統合報告書を補足するような情報の動画パターンも増えています。統合報告書を発行する約1,200社の中だと数%程度かと思いますが、統合報告書を細かくチェックする時間がない層、たとえば自社従業員などには、動画のダイジェスト版のコンテンツは使い勝手が良いですし、社内報的に使っている企業も増えているようです。
ダイジェスト動画事例
・しずおかフィナンシャルグループ
・カナモトグループ
・クレディセゾン
傾向と対策
まず全体の方向性の確認をします。数年前から、統合報告書のページ数を減らす動きが加速しています。私は10年以上前から言っていますが、100ページを超える冊子を表紙から最後までしっかり読み込むことは人間には不可能(時間・分量的に)なので、良い傾向だと考えています。
極端な例ですが、たとえばリンナイの統合報告書は、本編自体がダイジェスト版として作成されています。ダウンロードページでは『当社グループのサステナビリティ活動について、全体像を分かりやすくお伝えするために、冊子版の「リンナイレポート(統合報告書)」は、ダイジェスト版として編集しています。冊子に掲載されていないそのほかの取り組み事例、詳細情報、関連情報などはホームページの「CSR・社会・環境」に随時、掲載していきます。』としています。
統合報告書もやっと単独ではなく、サステナビリティ関連情報開示(コーポレート・コミュニケーション)メディアの中の“棲み分け”を議論されるようになってきています。他のメディアとの一貫性や整合性があってこそ、情報がステークホルダーに伝わりやすくなるので、その先にあるステークホルダーの行動変容につながる可能性も高まります。
これは今後かなり重要な考え方で、すべてのサステナビリティ関連情報をフルバージョンの冊子型統合報告書に詰め込むのではなく、たとえば「統合報告書 = マテリアルな情報/ストーリー」「統合報告書ダイジェスト版 ≒ 会社案内」「サステナビリティサイト = 詳細データ」と役割分担するアプローチです。理論上は「ステークホルダーごと」もしくは「目的ごと」にメディアを作り、ステークホルダーの情報ニーズにあった情報提供をすることが重要です。
しかし予算と時間の都合上難しく、最大限の読者への配慮が統合報告書のダイジェスト版ということなのかもしれません。とはいえ、伊藤忠商事が示している通り、ダイジェスト版を入口として、できれば統合報告書・本編や、詳細情報のあるサステナビリティサイトをチェックしてほしいというスタンスが定石となりそうです。ダイジェスト版は社外だけではなく、統合報告書フルバージョンを読むモチベーションがない自社従業員用としても使えます。ただし、統合報告書のダイジェスト版(PDFおよび動画)を以前はしていたが現在はやめている、という企業もあります。ダイジェスト動画も他の自社メディアとの兼ね合いもあるでしょうし、ダイジェスト形式がすべての企業にとって正解かというと、そうでもないのかもしれません。
あと、ダイジェスト版のメリットとしては、AIでフルバージョン統合報告書を中途半端に要約されるくらいなら、発行側で情報を厳選してダイジェスト版を作った方が良いかも、という点です。AIがダイジェスト版をどのように解釈するかは知りませんが、人間向けのメディアとしてダイジェスト版は機能しそうな気がします。
まとめ
統合報告書のダイジェスト版を考えるためには、そもそものサステナビリティ関連情報開示の全体像を明確にする必要があります。私はこれを「解像度を上げる」と表現していますが、ダイジェスト版ありきの議論ではなく、サステナビリティ開示の全体像を明確にすることが重要です。それこそ、統合報告書の序盤にある「ツールマップ(情報開示体系)」の詳細版をはじめに作りましょう。流行っているから当社もダイジェスト版を作ろう、はまったく無意味であり愚策です。
そもそも、自社のサステナビリティ関連情報開示は、誰のために、何のために、どのような情報を、どのようなメディアで開示していくのか。そして、それらのメディアを使って、ステークホルダーとどのようなエンゲージメント(コミュニケーション)をしていく予定なのか、などを検討しなければなりません。
最後に身も蓋も無い話を。統合報告書の本編の品質が著しく低い企業は、ダイジェスト版を検討する前に本編の制作に時間と予算を集中させるべきです。本編の品質が一定程度見込める企業だと自負があれば、ぜひダイジェスト版の検討をしてみましょう。本記事が御社の統合報告書制作のヒントになれば幸いです。
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