グリーンウォッシュ

グリーンウォッシュとは

私が以前から指摘している課題に「グリーンウォッシュ」があります。グリーンウォッシュとは、見せかけだけで実態が伴わない環境対応や表現を指します。昨今では環境分野だけではなく社会全般の事柄についても指すようになりました。その場合は「SDGsウォッシュ」「ESGウォッシュ」「サステナビリティウォッシュ」などとも言われます。グリーンウォッシュは消費者の誤解を生みやすいため問題となっています。

グリーンウォッシュと指摘されることの多くは広告や情報開示(コミュニケーション)です。もちろんグリーンウォッシュな行動が指摘されることもありますが、事業活動は開示されないと第三者ではわからないため、基本的には企業側から発信された情報をグリーンウォッシュとすることがほとんどです。

さて、そんなグリーンウォッシュですが、世界中で規制が進み始めており、本記事ではトレンドを含めてまとめていきたいと思います。

グリーンウォッシュ規制

2024年1月、EU理事会はグリーンウォッシングを禁止する指令案を正式に採択しました。指令案は、グリーンウォッシングを用いたマーケティング方法を禁止することで、消費者が製品を購入する際に、適切な情報を得た上で判断できるようにすることを目的としています。

■ポイント
・実証できない一般的な環境訴求は禁止。
・「環境に優しい」「自然に優しい」「グリーン」などの表示を用いた根拠のないマーケティングは禁止。
・製品や企業活動の一部にのみ該当する環境訴求をもって企業活動全体に関する環境訴求を行うことは禁止。

つまり、日本では大丈夫だった広告表現など中途半端な環境訴求マーケティングは、ヨーロッパなどでは法令違反になる可能性があります!ということです。大変なことですよ。日本では、根拠を示さず「環境に優しい」「エコ」というワードを使う広告および開示は非常によく見聞きします。テレビCMとか特にそうです。グリーンウォッシュを糾弾しているサステナビリティ関連の雑誌(国内では数社)でさえ、グリーンウォッシュな広告があるくらいでどうにもなりません。誰か指摘しなさいよ。

なお、欧米を中心に業界団体や監督官庁などもグリーンウォッシュの取り締まりを強化しています。日本は規制がないから問題ない、と感じたあなた、実は日本でもグリーンウォッシュによる監督官庁からの再発防止措置命令が名指しで行われています。ちなみに、世界では監督官庁だけではなく、消費者や環境団体による企業を対象とした訴訟も増えているそうです。

参照:JETRO|EU、グリーンウォッシング禁止法を採択、根拠ない「環境に優しい」など表示禁止(2024/2/21)

日本のグリーンウォッシュ事例

2022年12月、消費者庁は生分解性プラスチック製品を販売した10社に、十分な根拠がないのに自然に分解されるかのように表示したのは景品表示法違反(優良誤認)にあたるなどとして、再発防止などの措置命令を出しています。ただ、欧州等で取り締まりが厳しい企業広告などは、消費者庁の管轄ではないため、日本ではそのあたりは野放しになっていると。

これは一つの事例ですが、消費者庁が本気で調査すれば、もっと摘発できるとは思います。今指摘を受けていなから自社は問題ないと他人事の企業は、いずれ指摘される可能性がある(グレーゾーン)ので、他人の振り見て我が振り直せ、です。

ここでは事例として挙げませんが、日本企業でも相当数がグリーンウォッシュを日々しています。私、昔から言っていますが、EUのグリーンウォッシュ禁止法でNGとされている「環境にやさしい」は不適切な表現と言っていましたが、テレビCMなどでほんとうに見聞きします。

参照:日本経済新聞|偽の「エコ」に世界の目厳しく 消費者庁も初の摘発(2023/7/22)

環境広告は難しくなる?

ブリュッセルのNGOの調査によれば環境関連の広告表現のうち50%以上が使えなくなる、というデータも。今回のEUグリーンウォッシュ規制により、EU加盟国は2年以内に国内法に反映する必要があり、施行されれば、カーボンオフセットは「ポジティブ」や「ニュートラル」と表現できなくなります。

また、サステナビリティ情報開示のように保証(第三者検証)が必要という話もあるらしく、規制は必要だろうけど、コミュニケーションの足枷にはなってしまうかもしれません。時代の流れなのである程度の諦めは必要なのでしょうけど。

参照:NIKKEI GX|EUグリーンウオッシュ規制可決 広告表現「半数が要改善」(2024/2/5)

グリーンウォッシュ事例

■ドイツ銀行
2023年9月、米国証券取引委員会(SEC)は、欧州最大級の資産運用会社であるドイツ銀行の投資部門DWSがESG投資プロセスに関し誤解を招くような表現を行った件で、同社を起訴したと発表した。DWSは1,900万ドル(約28億円)の罰金で和解し、SECが資産運用会社に科したグリーンウォッシュの罰金としては過去最大となった。
引用:SEC、ドイツ銀行子会社DWSに約28億円の罰金。グリーンウォッシュ調査を受けて

■エールフランス航空、ルフトハンザ航空、エティハド航空
2023年12月、イギリスの広告基準協議会(ASA)は、仏エールフランス航空、独ルフトハンザ航空、アラブ首長国連邦(UAE)のエティハド航空に対し、環境への影響について誤解を招く広告を禁止すると発表した。
引用:航空会社の「グリーンウォッシング」広告を禁止 英広告協会

■グリーンウォッシュの罰金額
グリーンウォッシュ01
引用:Corporate Knights|Here are the nine biggest corporate greenwashing fines

自称グリーンなマーケティングが原因?

グリーンウォッシュの一番の問題は、そもそもマーケティングや広報・コミュニケーションに“サステナビリティ的な何か”を無理やり組み込むな、という点です。サステナビリティの視点を、マーケティングやコミュニケーションに取り込むのは重要なのですが、ほとんどの場合にウォッシュになるので、まずビジネスモデル自体の社会性を高めることを先にしましょうよ、と。

データ(根拠)を揃えるとか、あいまいな表現を使わない、専門家等のレビューを受ける、とか色々テクニック的なグリーンウォッシュ対策はあります。ですが、そもそもグリーンでないビジネスモデルに対して、グリーンをアピールをしようと思うほうがすごいというか。サステナビリティの話って「言っていることとやっていることが違う」という状況が最も批判されるのであって、まさに実態を伴わないマーケティングがまさにこの状態なのでダメですという話です。

グリーンなマーケティングは、できるのであればすべきであるとは思いますが、それには前提条件があるのにそれを無視している企業が多いので、マーケティング支援会社を含めてどうにかしてくださいよ。というかマーケティングしたいなら、下手にグリーンにせずに普通にマーケティングすればいいと思いますよ。実際に、グリーンハッシング(批判されないように開示を控え実際より環境に配慮していないふりをする)という考えもあり、中途半端が一番の問題です。

グリーンウォッシュの対応策5選

最近のトレンドや、15年のサステナビリティ推進支援のキャリアの中で気づいた部分を含めてまとめると、以下の5つポイントを最終チェックとして行うとよいと考えます。グリーンウォッシュは未然に防げるものなので、きちんと対応しましょう。

1. そもそもマーケティングに環境訴求が必要なのか
2. 根拠のない宣伝文句になっていないか
3. 知見があるスタッフに内容確認したか
4. 定義のあいまいな表現を使っていないか
5. 暗示的なイメージ訴求をしていないか

最も重要な要素が1番です。そもそも、その企業ブランディング、その商品/サービスのマーケティング、に「環境にやさしい」とか「カーボンニュートラル」とかの表現は必要ですか、と。普通いらないんですよ。これらは手段ではなく結果であることも多く中途半端なことするなと。つまり“具体的に開示せよ”につきます。

これは企業だけではなく、ブランディングやマーケティングの支援会社にも責任があるし、顧客に提案するあなたたちはプロなんだから、その指摘をしなさいよ、と。それで顧客はグリーンウォッシュとして企業名を挙げられ恥をかいているわけですから、子供騙しな表現はそろそろやめましょう。もし、この5つのポイントを確認したけど、それでもNGOや消費者団体からクレームを受けてしまったら、それは正直に受け止めて改善していきましょう。

参考文献
・電通「サステナビリティコミュニケーションガイド2023」
・Futerra「the Greenwash guide」
・TerraChoice「the Sins of Greenwashing」

まとめ

最後に重要なのでもう一度言います。曖昧で消費者の誤解を招くような表現を徹底的に排除しましょう。グリーウォッシュなマーケティングで儲かったとしても、顧客の中には“騙されて購買している層”が必ずいますので、ステークホルダーを重視するサステナビリティの考え方とは逆の行動になってしまいます。

そもそもサステナビリティの視点があれば、逆にグリーンなマーケティングは精緻化されていきそうですが、なかなかそうならないところが問題とされる所以でもあります。

御社は、胸をはってグリーンウォッシュをしていないと言えますか?もしくはお客様等のグリーンウォッシュに加担してはいませんか?

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