グリーンウォッシュ

SDGsやESGのグリーンウォッシュ

2018〜2019年ごろから、サステナビリティ関係者だけではなく、一般の方にまでSDGsやESGの考え方が浸透してきて、とても素晴らしい傾向と思いながらも、大きなトレンドが浸透する時に起きるのが「ウォッシング」です。

「グリーンウォッシュ/グリーンウォッシング」「SDGsウォッシング」「ESGウォッシング」といった言葉に代表されるように、実態を伴わないにサステナビリティに対するステークホルダーの視線は、かつてないほどに厳しくなっています。

グリーンウォッシュとは「表面上だけの環境活動」という意味で、ネガティブなイメージで使われることが多いです。ここで何が問題かというと、グリーンウォッシュな活動をする企業は、ほとんどの場合で意図的ではなく、完全なる善意からしており余計にタチが悪い点です。問題の根幹は「なんちゃってマテリアリティ」と近いのかもしれません。

最近はSDGs分野で特にウォッシュが起きており、課題の啓発も含めてまとめたいと思います。

グリーンウォッシュとは

グリーンウォッシュから解説しますと、コミュニケーションとして非常に有害なため、世界では規制の方向で動いています。

現状では、2021年1月、欧州委員会によりウェブサイトの調査が行われ、調査対象となったウェブサイトの約半数がグリーンウォッシュだという調査発表もありました。(欧州でESGが進んでるという人多いですがこんなものです。どこの国もピンキリなのです)

まず、フランスが、世界初となるグリーンウォッシュに直接的な制裁措置を課す規制法(2021年4月)を導入しています。このような動きを含めて、欧米を中心に金融当局がグリーンウォッシュの規制を理由に市場に介入する姿勢を見せ始めているようです。

デンマークでは、企業による実態を覆い隠したグリーン金融商品の販売を取り締まり、投資家のサステナビリティ報告を監視する部署を設置しています。米証券取引委員会も、ESGに関連する企業や投資家の違法行為を特定するためのタスクフォースの設立を進めてます。ドイツでは、投資家が金融当局に対し、全ての金融商品のサステナビリティを5段階スコアで評価するよう求める動きがあるそうです。タクソノミーも対グリーンウォッシュとも言えますが、もう謝って済むような空気感ではなくなってきています。

※参考:フランスがグリーンウォッシュ規制を導入

ちなみに、Bコープのアパレル企業・オールバーズは、サステナビリティ界隈で著名な先進企業ですが、このレベルの企業でさえグリーンウォッシュと言われてしまうのだから大変です。というのも、オールバーズは先日、ニューヨーク州で同社の環境負荷表示が正確でない可能性があるとして訴訟を起こされています。環境対応を前面に打ち出せば打ち出すほど、消費者やNGOが詳細をチェックしこうした訴訟リスクは高まります。なかなかしんどいですね。

このあたりの参考としては「グリーンウォッシュを避けるための表現ルールブック 英プロヴィナンスが公開」あたりの記事を読んでみるとよいでしょう。

部分最適のウォッシュ

さて「SDGsウォッシュ」ですが、グリーンウォッシュのSDGsバージョンです。主に企業の見せかけだけのSDGs推進活動などを指します。色々なメディアや書籍でもSDGsウォッシュを取り上げられていますが、そもそもSDGsウォッシュを起こす企業は対して情報収集しないでしょうし、なくなることは今後もないでしょう。「ESGウォッシュ」とは、グリーンウォッシュのESGバージョンです。たとえば、環境負荷の低い製品の開発と販売をしていながら、従業員への労働安全衛生や人権の配慮が欠けている、などがあります。

どちらにもつながるのですが、昔から「我々のビジネス自体が社会貢献である」という問題外の発言をする経営層の方がたくさんいます。勘違いしている人が多いので説明しますが、昔、多摩大学大学院の藤井敏彦先生が言っていた「豆乳CSR」です。

ロジックとしては「豆乳は体によい → 顧客の健康に貢献できる → 社会的意義のある商品だ → 豆乳ビジネス自体がCSRである」というものです。でも違いますね。豆乳の製造と販売のビジネスプロセスの中にも環境問題や人権問題は潜んでいますので、どんなに豆乳が素晴らしい製品で人々の健康に貢献する社会性の高い商品だったとしても、そのプロセスがESG課題だらけではどうにもなりません。

つまり、豆乳CSRの勘違いからわかることは、サステナビリティとはマクロ(全体最適)の視点が重要であり、一つの側面の社会性(部分最適)だけでサステナビリティ全体を語ってはいけません、ということでしょう。

SDGsの課題

SDGsはなぜウォッシュになりがちなのか。この5年を見てきていくつか心当たりがあるのが以下のような課題です。

・覚えにくい(17のゴールを正確に言える人いる?ましては169のターゲットなんて…)
・優先順位がわからない(マテリアルな項目が示されず、重要なものが何かわかりにくい)
・「やっているフリ」がしやすい。(審査や資格がいらないため、自称SDGsビジネスが多すぎるし、バッジも許可なく使える)
・ESGと同じ文脈でSDGsを理解している。(出自は同じ国連系だが、まったく異なる概念です)
・全売上の数%程度の環境配慮製品を、全面的にアピールしてSDGsとしている。(部分最適ダメ、ゼッタイ)
・製品の環境負荷の低さをアピールしているが、強制労働等の人権課題関与が疑われることについて言及していない。(アパレルが多いかな)
・期間限定のキャンペーンしか行わず、社会的成果を最大化しようとしていない。(短期施策のみでサステナブルな企業になった事例などない)
・パーパスやミッション/企業理念などにSDGsの要素を組み込み変更したが、現場ではこれまでの取り組みから何も変わらない。(ビジネスは現場がすべて)

このあたりはかなり“あるある”だと思います。御社はどうですか?

事業そのものがSDGs?

いや、もう、「事業そのものがESG・SDGsに貢献している」という表現をトップがしてはダメです。世の中のすべてのビジネスモデルにはESGの課題要素があるわけで、貢献どころが負荷をかけている側なのですから。この考え方自体がウォッシュです。SDGsどうこう言う前に自社の労働慣行を見直しましょう。

自社の活動をSDGsとポジティブに結びつけることだけにとどまって、ネガティブな面を無視してはなりません。確かにネガティブ情報の記載は社内OKが出ないこともあり開示は難しいとは思います。しかし開示しなくて良い理由にはなりません。本来バランスよく開示すべきですが、まだ多くの企業が対応できていません。ネガティブループに目をつぶると、イメージアップだけを狙ったウォッシング(やってるふり)と非難されかねません。

ちなみのForce for Goodという組織で2021年9月に、SDGsを達成するための資金不足が総額最大で100兆米ドル(約1.1京円)に拡大したとの試算結果を発表しています。新型コロナ等の超弩級の課題により資金ギャップが広がる形となっています。ただでさえSDGsはスタート時点から達成が不可能という活動資金状況が続いていたのに、コロナでもう……こういう状況で、企業がSDGsに貢献するには、相当なアウトカムとインパクトが必要なのですが、御社は本当に貢献できてますか?という。

関連資料

特にSDGsウォッシュについては、以下のレポートや書籍も参考になると思います。ぜひチェックしてみてください。オフィシャルの資料だけでも十分すぎるノウハウがあります。すべて、無料・日本語です。

・国際連合広報センター「SDGsレポート2021」
・GRI,PRI,UNGC「SDGsに関するビジネス・レポーティング イン・フォーカス:SDGsに関するビジネス・レポーティングにおける投資家ニーズへの対応」(IGES翻訳版)
・GRI,UNGC「SDGsに関するビジネス・レポーティング SDGsを企業報告に統合するための実践ガイド」(IGES翻訳版)
・GRI,UNGC「SDGsに関するビジネス・レポーティング ゴールとターゲットの分析」(IGES翻訳版)
・GRI,UNGC,wbcsd「SDGコンパス」(IGES翻訳版)
・電通「SDGsコミュニケーションガイド」
・泉貴嗣「やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門」(技術評論社)

まとめ

グリーンウォッシュがはびこり“悪貨が良貨を駆逐する”ことも実施起きていますが、それでも世界を良くするために、色々な人や企業が動いています。とても素晴らしいことです。

世の中に完璧な企業はありません。だからこそ、常にSDGsやESGの推進活動の中でグリーンウォッシュが起きている、という前提の元、どれだけ排除できるかを考えましょう。

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