SDGsウォッシュと企業
SDGsの考え方が大手企業を中心に浸透してきていますが、その評価/効果測定はまだまだ浸透してないように思います。また、SDGsのKGI/KPIをCSRに組み込む(開示する)企業は増えているものの、その評価基準や評価手法はあいまいなままです。How にコミットメントする企業は多いのですが(〇〇を推進します)、成果・結果にコミットメントする企業はまだまだ少ないです。
そのような状況の中、企業はSDGsをどのようにCSRに組み込み現場レベルで実践できるのでしょうか。結論から言えば、企業としては、SDGsをサプライチェーン/バリューチェーンでマッピングし、実践できない限り“ウォッシュ”でしかないのです。
そこで本記事では、2020年以降にどんなSDGs対応をすれば良いか、企業目標とKGI/KPI設定、課題モニタリングの重要性、インパクト評価のポイント、SDGsウォッシュ、などの視点でまとめます。
企業とSDGs経営のおさらい
まずはSDGsのおさらいを。SDGsの基本コンセプトは色々あるのですが、確実に暗記すべきは以下の点です。
◯基本理念
「誰も置き去りにしない」「世界の変革」◯企業対応
「バリューチェーン・マッピング」「アウトサイド・イン・アプローチ」
SDGsは、基本理念を念頭に、企業の具体的なアクションとして「バリューチェーンのインパクト評価」と「アウトサイド・インによる外部環境起点の戦略構築」を推進しましょうという話です。
SDGコンパスの表現でいえば、「バリューチェーンをマッピングし影響領域を特定」し「指標を選択しデータを収集」して「優先課題を決定」する、ということが一連の大きな流れになります。
あとこれは企業だけではないですが、SDGsの原則も当然ながらおさえる必要があります。「世界の変革(Transforming our world)」と「誰も置き去りにしない(No one will be left behind)」というスローガンです。
トランスフォーメーションは、現在の延長線上に“良き未来”は存在しないため、大きな社会変革を起こす必要がある、という考え方。文字通り、我々の世界を変えよう、という話です。現実的には政治・文化・宗教などを劇的に変えることは不可能なので、手法として「デジタルトランスフォーメーション」をし、テクノロジーにより人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる、ということが必要だと言われています。テクノロジーの進化なしにSDGsは語れません。
「誰も置き去りにしない」は、SDGsの諸項目をご覧いただければわかりますが、書いてあることのほとんどが直接・間接を問わず「人」に対するものです。社会問題とは最終的には人につながっている、という事実を念頭に置き、CSR活動を進めなければなりません。このあたりの基礎概念を理解している前提で、企業担当者はSDGsを語らなければなりませんね。つまり、自社のCSR活動は、最終的に世界の変革に貢献しているのか、世界の人々の生活を良い方向を変えられているのか、を考えましょうと。
コンセプトの理解の重要性
17のゴールや169のターゲットを気にしなくていいわけではないですが、大前提となるコンセプトをまず理解しないと、何も始まりません。私は、全上場企業のCSRウェブコンテンツは定期的にチェックしていますが、17のゴールと自社事業の紐付けを気にしすぎて、基本コンセプトを無視している企業が結構あることを知っています(御社のことですよ!)。
17のゴールはCSR活動において、そもそも「MECE(モレなくダブりなく)」ではありません。17のゴールだけでバリューマッピングやインパクト評価のロジックモデルを組むと、どうしたって無理がでます。当然、SDGsのターゲットやインジケーターレベルでみても、CSR活動を網羅してはいません。何が言いたいかというと、SDGsで言及されていない社会課題は探せばたくさんあるのです。
つまり、SDGsはCSR活動やステークホルダー・エンゲージメントにおいては、そのままでは役に立たないフレームワークなのです。まずこれ重要。そもそも、SDGsは企業向けのものではないですからね。ですので、SDGsのグローバルイシュー(世界)をローカルイシュー(日本)に落とし込み、それをどこまで当事者(自社)として、イシューを身近なものにまとめられるか。これができればベストです。
フレームワークでいえば、ISO26000は行動ガイダンス、GRIスタンダードは開示ガイドラインであり、アウトサイドイン志向のものではありません。逆にSDGsはアウトサイドイン・アプローチを軸とした概念であり、中長期戦略を考える時に有効なフレームワークです。CSRにはさまざなガイドラインがありますが、どれが正しいではなく、どれをどうやって使うか、が試されているのです。
加えて言えば、SDGsは「主語が大きい」のが問題です。「人類70億人が…」「世界平和を…」「社会に大変革を起こす…」と言われても、よくわからないのです。全世界・マルチステークホルダーで考えるメリットとデメリットがありますので、このあたりを理解してないと、SDGsを使うどころか振り回されて終わってしまいますよ、と。
社内におけるSDGsの展開
SDGsのワークショップ(ゲーム含む)をして“自分ごと化”をするのは良いことですが、会社員であれば、SDGsは個人よりも所属組織のスタイルに合わせる必要があります。少なくとも、組織は従業員を束ねなければならないので。この個人と組織のSDGsの理解と方向性の差は、かなり問題だと思っています。いわゆる、部分最適と全体最適の話です。ミクロとマクロの問題というか。
SDGsをワークショップで学ぶのはいいですが、個人の想いを出し過ぎてしまうと、組織としては部分最適の集合になってしまい、全体最適で成果を最大化しにくくなるおそれがあります。結局1ヶ月もしたら、「SDGsを知っているか」と聞けば全員手を挙げますが、「SDGsの目標と目的は? SDGsには何が書かれている?」と聞いてもほぼ答えられないでしょう。CSR担当者でさえ17のゴールを言えない人多いですよ。
また、自社だけでCSR活動を完結させても小さなインパクトしか出せないように、SDGsでも同様のことが言えます。業界・業種・地域を超えてどこまでパートナーシップを広げられるかがSDGsのポイントなのですが、どの企業でも自社のみの事業にマッピングするという、おそまつな開示がばかりですね。自社だけではなく、バリューチェーン全体でマッピングしなさいとあれほど言っているのに…。
社会にとって重要なのは御社ではありません。重要なのは御社を含めたバリューチェーンが、社会にどんな価値提供をしてくれるか、だけです。外部不経済を引き起こしてばかりのバリューチェーンは社会にいりません。むしろ迷惑なのでなくなってください、レベルですから。
SDGsは広報キャンペーンか
昨今のSDGs対応は「広報キャンペーン」に終始している事例がほとんどです。いわゆる「SDGsウォッシュ」な状態である企業は結構多いです。SDGs関連のアワード受賞企業でも、人権・労働問題で毎日メディアに取り上げられるなんてこともありますから。今後必要になるのは「SDGsマテリアリティ」でしょう。今の総花的な取り組みとの関係性を提示するのはなく、もっとしぼり、SDGsの中でのマテリアリティ特定を行うのです。(チェリーピッキングにならないように!)リソースを集中させて結果出してナンボですから。
逆に、今の自社のマテリアリティ特定にSDGsを完全に組み込んでいる、という企業であれば問題ないでしょうが…そんな企業実際に何社あると思います?
あと「SDGs活動」「SDGs経営」「SDGsビジネス」ってワードがあるのが興味深い。いや、言いたいことはわかるのですが絶対使い方おかしいと思います。つまりSDGsは文字通りゴールであり経営手法ではないわけです。SDGsがビジネスのHowとして表現されてしまうと、仮にHowでいいとしてもそのアウトカム/インパクトはどうなるの?という話です。
第三者としては、SDGsをポジティブにのみ語っている(両面提示できていない)企業は、大抵「SDGsウォッシュ」だと思った方がいいですね。
SDGsの現実的側面
SDGsロゴの掲出で社会が変わるわけではありません。そもそも、なぜ他社ではなく御社がSDGs推進をしなければいけないんでしょうか?
SDGsは「今のビジネスモデルは、あと10年続けるだけの経済価値・社会価値・環境価値があるものなのか。あるのであればそれはどのようなものか」ということを、企業サイドに問うています。当然、どこまで課題解決に貢献できるか、というのはありますが、現実的には、まずはトリプルボトムラインへのインパクトの話がファーストステップかと。
ほとんどの業種が成熟産業となり競争が激化する中、個別ビジネスを10年続けるのはかなり困難です。やはり、自社の商品・サービスも「パーパス(存在意義)」にそぐわないとなれば、統廃合するのが必要なフェーズなのかもしれません。
1社単独でSDGsをしようとすると、普通のCSR活動になるわけです。ステークホルダーとの協業や、業界団体はさんでの競合とのコラボ・プロジェクトなどになると、SDGsっぽくなります。(本質がどうかはさておき)
たとえば、自社がどんなに環境負荷が低いビジネスモデルだったとしても、バリューチェーンで前後の企業が環境負荷の高いビジネスモデルだったとしたら、社会全体としては環境負荷は減っていないことになります。事業活動はステークホルダーを介して様々なモノや事象とつながっています。これをまず理解しなければなりません。
あとはアウトサイド・インの考え方です。これはSDGsの代名詞でもあるといえるほど、企業側が重要視するべき概念です。今の業績や活動から将来の目標を設定(予測)するのではなく、めざすべき目標を先に決めて、そこにたどりつくために(ギャップをうめるために)どんな戦略や目標の設定が必要になるのか、を決めることです。逆算、バックキャスティング、ともいわれます。
バックキャスティングの弱点もあって、理想論・綺麗事で終わってしまう可能性が高いことです。2030年の目標を決めた経営層は50〜60代であり、2030年以降には会社にいないことも多いわけで、そりゃ自分が責任を問われないから、理想論でまとめますよね、と。理想を描くのは重要。でも100%不可能なことを宣言するのはコミットメントとは言いません。
SDGsへの企業の貢献
企業サイドは、自らの事業活動によるSDGs目標達成への貢献度合いを、どのように認識・把握しているでしょうか。
SDGsで定義される「評価指標(インジケーター)」は「目標(ゴール)」に対する国やグローバルでの達成度を測定するものです。組織単位での測定にはそのままでは活用できないものがほとんどです。SDGsのインジケーターは企業単体でどうこうできるものではありません。一つの国が動いても足りないレベルなのです。
よって一般的には、特定のSDGsと関連性のある非財務指標から因果関係のある代理指標を見つけ出し、それを基に独自のKPI指標として整備することになります。この一部はマテリアリティとなりますが非常に難しい作業となります。ほとんどの場合、CSR活動とSDGs達成の因果関係は証明できません。企業として対応したか・していないか、という対応レベルの評価が現実的には限界でしょう。
あと、これはCSVやソーシャルビジネスの弊害とも言えるかも知れませんが、「社会課題があるから解決しよう」という対症療法的なアプローチの限界が見え始めています。もちろん、対処療法は目の前の困った人を助ける意味で重要ですが…。そんな中で、SDGsは根本的な課題へダイレクトに対応しようという話のはずで、そのためソーシャルセクターやパブリックセクターから注目を浴びたはずなのです。
たとえば「ゴミ拾い活動」(対処療法)も重要だけど、「なぜこの街はゴミが多いのか」を調査し、根本課題をひとつずつ解決していくことで、最終的にはゴミ拾いをしなくても綺麗な街になる、というわけで。社会問題が目の前にあるのであれば、対処療法をしながらも根本的な課題を解決しなければなりません。これを私はフローレンス・駒崎さんの受け売りで「川上と川下の問題」と呼んでいます。今後は、SDGsの実践(CSR活動)のモニタリング、やSDGs対応に向けたインパクト評価は、今後のSDGs推進の大きな課題となるでしょう。
まとめ
CSRでもSDGsでもなんでもいいけど「自社が存在することで世界がどう良くなるか」という部分をしっかり考えたほうが良いでしょう。
「競合にどう勝つか」とか「経済的価値を生むSDGs/CSR」にばかり考えすぎて、社会における存在意義がなくなってきている企業があまりに多いです。そもそも「社会を良くする」ことができない企業が社会に必要とされる存在であると思いますか?
競合と比べるべきは、SDGs対応の進捗度ではなく、社会的インパクトをどこまで出せるか(≒ 社会に必要とされるか)ですよね。インパクトが出せればSDGsにも貢献できます。この順番は重要かと思います。SDGs対応は、CSR企業評価に大きく影響するのは間違いありませんが、グローバル・イシューであるSDGsを、どこまでローカル・イシューに落とし込み、自社の企画・実践に落とし込めるかは、第三者として見どころです。
まぁ、グローバルだろうがローカルだろうが、社会とステークホルダーと真摯に対応していく(これをインテグリティやオーセンティシティといいます)点をしっかり追えば、何の問題もありません。主語を大きくしすぎないで、どれだけ当事者として関わることができるか。SDGsのネクストステージは間違いなく「インパクト」になり、その評価が変わりそうです。
とにかく、企業は社会やステークホルダーに真摯に向き合い、「言行一致」「有言実行」でCSRを進めていただければ。「嘘を言わない」「批判されるビジネスはやらない」とか、いわゆるまっとうな経営をすることが、CSRそのものであります。皆様、SDGsに対応しているつもりが、脇の甘さを露呈することにならないように。
関連記事
・マテリアリティ特定におけるESG/SDGsと監査・アセスメントの話
・SDGs時代のCSR企業広報・コミュニケーションのあるべき姿
・SDGsが企業の課題・問題として語られないのはなぜか