サステナビリティ社内浸透

社内浸透の大きな課題

私、実は、サステナビリティ推進における「社内浸透」(≒インターナルコミュニケーション/インナーコミュニケーション)に興味があります。

サステナビリティ推進の実務的な課題として、それこそ10年以上前からある課題が社内浸透です。ここでいう社内浸透とは、従業員に対してサステナビリティやパーパスなどの理解を促し行動を押し進める活動を指します。またはそのプロセスとなる従業員間コミュニケーション自体を指すこともあります。

要は、従業員に対して、サステナビリティの理解を促すことです。この社内浸透を行うことで、日々の業務にサステナビリティの概念を組み込んでもらう、というものです。サステナビリティには労働環境改善の項目も多く、従業員にとっても悪い話ではないのですが、SDGsなんて綺麗事でしょ?という人も多く(確かにSDGs自体は綺麗事の塊である)、なかなか理解が進みません、と。

昨今、最も言われるのは、一般従業員というよりは、経営層(取締役および執行役員)へのサステナビリティの理解促進でしょうか。経営層以外の従業員がサステナビリティ大賛成でも、特に社長がNOといえばそれで終わりですから。

というわけで、これだけサステナビリティ関連事項が、法制化(女性活躍推進法など)および開示義務化(有報での人的資本開示など)されても、いまだに動かない企業もあるそうで、そういう企業担当者は何をすべきかというヒントをまとめます。

博報堂プロダクツ

サステナビリティ社内浸透

社内向けコミュニケーションを、より魅力的で効果的なものにするために重視したいことTOP3は、「マネジメント層の行動促進」(40.7%)、「一般社員の行動促進」(36.5%)、「一般社員の認知・理解促進」(36.5%)と、マネジメント層から一般社員まで幅広く「行動促進」に注力する意向が強い。
出所:【企業のサステナビリティコミュニケーションに関する調査】サステナビリティ推進、注力施策は「総合的なコミュニケーション」5割以上 いかに顧客を巻き込み、行動を促進するかがカギ

これ、すごく重要な示唆があると思っています。私は、サステナビリティの社内浸透は「アウトプットの場を増やす」ことが重要なポイントとさんざん言ってきましたが、言い換えれば、これはすべての従業員の行動促進をしましょう、ということであります。このあたりに多くの企業担当者が気づいていることが、素晴らしいなと思いました。情報をインプットする(研修実施、社内報の充実など)ことも重要なのですが、行動にならないと価値は生まれませんので。

東洋経済新報社

サステナビリティ社内浸透
出所:2023年東洋経済CSR調査・評価説明会

これは、ESG企業評価を行っている東洋経済新報社でのアンケート調査です。こちらもサステナビリティ推進実務担当者が母数になっているのですがなかなか興味深いデータです。一番高い割合の課題が「サステナビリティに対する従業員・現場の理解」です。いわゆる社内浸透が課題です。他の項目よりも圧倒的な1番になっているように、やはり社内浸透に課題感を感じている担当者が多いようです。

ERGの可能性

私は「創発型責任経営(2019年)」という著書で、従業員が中心となるボトムアップ型のサステナビリティ推進の可能性を提言しました。その中で社内浸透にも触れていますが、従来の部門・部署を超えた取り組みを行うことでより成果を生み出せると考えています。

これは「ERG(Employee Resource Group、従業員リソースグループ)」の活用ともいえます。ERGは「会社公認社内サークル」「社内コミュニティ」みたいなものから、社長直下の特命プロジェクト推進チーム、まで特定の要件や共通点を軸にした部署横断のグループを指すイメージです。

サステナビリティ社内浸透

社内浸透に関する研修やコンサルティングで、よく上記のような図解を作りますが、社内浸透を進めるフェーズでもっとも困難のは「ステップ3:行動化」です。「ステップ1:見える化」「ステップ2:自分ごと化」は研修やワークショップで対応できますが、ステップ3はステージが異なり、研修だけで対応できるわけではありません。そこで、ステップ3でERGを意識して組織していくのです。すべてが理論立てられているわけではありませんが、今、社内浸透がうまくいっていないというのであれば、挑戦する価値があるかなと考えています。

研修だけでは浸透しない

ほとんどの人は、ルールでは動きません。人はメリット(自己利益)で動きます。自分がこれをやりたい、これをしたほうがメリットがある、と感じれば自然と動き出します。それが研修などのインプットだけでは生み出せないのが致命的です。そして研修の知識は1週間もすればほとんど忘れてます。「伝える」という仕事は難しくて、きちんと伝えられたと思っても、数日でほとんどを忘れられるものなのです。

サステナビリティの社内浸透の目的で「理解促進」があります。しかし、従業員がサステナビリティの理解を深めたところで、別に行動をするわけではないですから、目的としては不適切である可能性が高いです。そう言う意味では、まず行動できる場や仕組みで行動してもらう必要があるのではないかと。つまり、行動しながら学ぶというプロセスです。学んでから行動するより場当たり的にはなりますが、活きた知識が習得できます。

研修が有効なアクションに結び付かない一番の理由は、合意形成の難しさです。サステナビリティは総論賛成を得やすいのですが、一方で短期利益と中長期利益、経営と現場、部署と部署の壁など、さまざまな対立と分断が起きがちなテーマであるからです。この課題は研修だけでは解決しません。サステナビリティはほとんどの人にとって矛盾だらけの概念です。だからこそ、実践をし続けている企業はすごいわけです。これを組織の仕組みづくりを併せて行うことで解決するのです。

行動を促す仕組みづくり

とはいえ、サステナビリティ推進担当がいきなり「学んだ知識を使い、現場で考えて実践してください」は親切なようで不親切です。その考える時間が与えられないのにどうしろと。ですのでボトムアップが仕組み化できるまでは、社内に変化を起こすためトップダウンが必要です。しかしトップと現場は必ずしも近くないので、意識や時間の差が生まれてしまうでしょう。そのため「ミドル・ボトムアップ」というか、現場責任者と現場スタッフのチーム対応も必須となります。

トップのメッセージは「サステナビリティをできればしたい」ではなく「サステナビリティを進めないと淘汰される」ものと常時発信しなければなりません。単純な話で従業員自身が腹落ちできるよう、社内浸透をしなければならない理由と意味を伝え続けるのです。

参考記事

個人的に、サステナビリティの社内浸透は10年以上高い関心をもっています。もちろん、サステナビリティ・コンサルタントとして、企業支援をさせていただいたこともあります。その中で見えてきた考え方・課題・解決方法などを別の記事でもまとめています。ご興味がある方はこちらもチェックしてみてください。
サステナビリティ/SDGsの社内浸透の5つのポイント
サステナビリティ/SDGsの社内浸透はなぜ難しいのか
価値を生み出すサステナビリティの社内浸透の4つのポイント

まとめ

社内浸透はすごく難しいです。ゴールがないから果てしなく感じることもあるのですが、本質を見極められれば対応策もでてきます。

まず自社ですべきは現状分析なのですが、その前に社内浸透の定義を明確にすべきです。社内浸透ができていない企業で一定数あるのが、そもそも定義・成果を明確にできていないので、そもそもPDCAが回せないというのがあります。まず、社内浸透が課題というのであれば、課題を明確にして全社的な課題解決に取り組みましょう。

本記事が、御社のサステナビリティ推進における社内浸透活動のヒントになれば幸いです。