サステナビリティ社内浸透

社内浸透のコツとは

サステナビリティ/SDGsの活動を進める中で、すべての企業がぶつかる壁の一つが「社内浸透」です。サステナビリティの社内浸透はどの企業も課題としています。ESG高評価企業でも現在進行形の課題です。

過去、当ブログでも社内浸透に関する記事を何度か書いてますが、改めて課題感やコツなど、最近の自身の気付きを紹介したいな、と。

ですので本記事では、サステナビリティを社内浸透させるための方法・事例・考え方を改めて紹介します。ちなみに、紹介するのはサステナビリティの社内浸透施策ですが、パーパス/企業理念/ブランドなどの社内浸透施策にも通じると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。

※サステナビリティ:CSR,ESG,SDGs,などを含む広義のものとします

SDGsの社内浸透に関する調査

SDGs社内浸透
・勤務先でのSDGsの浸透状況を尋ねたところ、具体的に行動ができていないと感じる人が50.6%
・「全く進んでおらず、SDGsの知識がある社員/職員もいない」と答えた人が20.6%と最多

SDGs社内浸透
「SDGsの目標が定まっており、行動ができている(一部、全体含め)」と答えた人に、SDGsを推進する上で課題となったことを尋ねたところ、「SDGsの取り組みに対するメリットを知っている人が少なかった」が23.8%、「そもそもSDGsを知っている人が少なかった」が20.0%。

出所:【SDGsの社内浸透に関する調査】50.1%の人が「具体的な行動ができていない」と答えた調査結果を公開

上記のような調査は面白いし学びがあります。上記の調査結果はまだ行動できている人や企業が多いですが、私の肌感覚ですともっと「具体的に行動ができていないと感じる人」は多いくらいではないかと。

「全く進んでおらず、SDGsの知識がある社員/職員もいない」と答えた人が2割いる、というのはいわゆる「サステナビリティ人材」の不足が課題になっている感じがあります。社内にノウハウもないし、SDGsの社内浸透につながるタスクをリーダーシップをもって進めているメンバーがいない。もしかしたら、サステナビリティ推進チームには人もノウハウもあるけど、全社的に認識されていない、という可能性もありそうです。

いずれにしても、自身の行動の動機になるような、メリットやノウハウもないことも多く、そもそものインプットが足りていない感じもあります。研修を増やせばノウハウが身に付くわけではないですから難しいところです。

1.トリガーを明確にする

ではどのように進めればよいか。一つのヒントは「顧客からの要請をトリガーにする」です。社会やステークホルダーの意識が変わろうが法律ができようが動かなかった経営層も、顧客にサステナビリティ対応を求められたり、調達アンケートが来たりするとやっと本気になります。

特に顧客からのEcoVadisやsedex対応要請があって、本格的に始めたという会社が急速に増えています。社会の変化ではなく、その社会変化によって行動変容した顧客から変化を促される、という形ですね。要は、社内のサステナ担当の要請よりも、顧客要請のほうが影響が大きいのです。(私は10年以上前から対応しましょうって言ってましたが!)

結局は「1回の役員研修よりも1回の顧客要請」が効くようで、その顧客要請をトリガーとして、社内に取り組み推進を促す(=社内浸透)ほうが効く場面も多そうです。結果論的ですが、これが社内浸透と呼べるならそうなのかもしれません。

2.行動システムを変える

私はサステナビリティは、経営の原理原則と感じていますが、原理原則って実は腹落ちしにくいものだとも思っています。ほとんどの人間は、専門外の原則を理解できるだけの体験や知識がないからです。もちろん、前提知識があっても理解できる人は少ないのですが。

ですので、社内報やイントラネット、サステナビリティレポートで従業員にインプット(知識獲得)をし続けても、それで本質を理解できる人は多くないです。知識だけ持っていても、その状態を社内浸透しているとは言えませんよね。

ですので、私は社内浸透のキーワードとして「半強制化」がポイントだと考えるようになりました。たとえば、サステナビリティ関連の資格取得で給与が増える(月数千〜1万円ていど)と推奨すると、多くの人が自分から勉強を始めて資格取得のために知識を集め始めます。

サステナビリティだけではないですが、新しい知識や概念にたいして“斜に構える”従業員の方は、どの企業にも一定数います。だからこそそういったいわば野次馬のような人たちも巻き込むには、行動システムを変えることも必要です。

3.カルフォルニア・ロールの法則を取り入れる

サステナビリティの社内浸透にも「カルフォルニア・ロールの原則」(新しいものに馴染みのものを混ぜ違和感をなくすこと)が役に立ちます。サステナビリティを通常業務に混ぜ込むのです。良い意味でごまかし、馴染みの業務の中身だけ変えるのです。

これは「熟知性の法則」という心理効果に近いと思いますが、人間は知っているものには警戒心が薄れる(逆に知らないことには警戒心を持つ)ので、新しい概念を社内に展開するときこそ、既存の仕組みや表現の中で展開することで認知を高めるのです。

従業員の行動を大きく変化させるのは難しいです。というか無理です。ポイントは少しずつ継続的に変化させることです。ちょっと見て変化しているかわからないくらいがちょうどいいです。変化には抵抗がつきものです。変化にはリスクがあり、その不確実性が人々を不安にするからとされています。従業員は基本的に変化を好まないということを理解し、社内浸透施策を進めましょう。

4.原因と結果を分析する

サステナビリティが社内に浸透しないのは、情報が行き渡っていないというより、インプットはできているけどアウトプットを妨げる何かが原因という場合もあります。アクセルとブレーキの同時踏みはダメですなのです。アクセル(推進)だけではなくブレーキとなる原因の特定と除去(組織変革)も必要なのです。

つまりサステナビリティ推進ができていない理由を「きっかけ(行動トリガー)」と「原因(システム要因)」でわけて考えるべきなのです。性善説的に従業員のマインド変化を期待するだけではなく、企業の組織や文化などのシステム変化も同時に進めなければ、アクセルとブレーキの同時踏みになってしまう可能性があるのです。

サステナビリティなどの“善なること”に対して、ほぼ全ての人は「総論賛成・各論反対」であり、自らマイナス要因を取りに行くことはほぼしません。みんな社会課題は解決したいけど自分が損することは嫌なのです。この心理的な部分、物理的な仕組みの部分、両方の課題解決が必要です。

あとは、そもそも「社内浸透の目的は何か」を定義しきれていないだけの事例も見聞きします。社内浸透は手段であり、それによってなにかのアウトカムを期待していたはずなので、そのアウトカムを明確にしよう、と。社内浸透した結果起きるポジティブな変化をKPI化するといいです。

5.インプット/アウトプットの幅を広げる

サステナビリティへの理解を促したところで、従業員の行動はあまり変わりません。理解促進は知識が増えるだけで、人の性格や行動を変えることはできないことが多いからです。だとすれば、知識提供よりも行動の場を提供したほうが早いのかもしれないと考えるようになりました。社内浸透に必要なのはインプットだけではなくアウトプットもなのです。

30年以上前から環境が重要だと世界中で言われ続けています。ところが30年以上たって解決するどころか悪化しているというのが現状です。すべてが企業のせいというわけではありませんが、啓蒙啓発は必要ですがそれだけでは社会は変わりません。結果をもたらすのは知識ではなく、その知識を使った行動だけです。

また私は「他の知識と断絶した知識は存在しえない」と考えています。サステナビリティの周辺知識のない人に、その重要性を伝えても自分ごととして理解しにくいものです。しかし体験として、たとえばNPO主催の河川ゴミ拾いをしたことがあるとか、エコな商品をわざわざ選んだことがあるとか、そのような些細なものでも体験があると、それらがサステナビリティの一つと理解できるのです。体験というか前提知識というか。前提知識がなければ何がサステナビリティの取り組みか理解できないのです。

ですので、社内浸透のポイントの一つとして「サステナビリティを従業員自身で定義させる」があります。従業員自身に、サステナビリティはこういうものだと、自分で腹落ちできる定義を見つけてもらえたら大成功です。これができないと当事者意識は生まれません。

社内浸透は従業員に当事者意識をもってもらうことがすべてですが、当事者意識は当事者にならないと生まれにくいため(≒原体験)、擬似的にでも自身の通常業務とサステナビリティをどのように結びつけられるかという、実践的な視点の獲得が必要になります。これをワークショップで代替する企業も多いですが、前述した仕組みづくりのほうが先な気もしています。そもそも、一番最初にすべきことは「サステナビリティが社内浸透している、とはどんな状況か」という社内浸透の定義を最初にすべきです。

サステナビリティやSDGsは、専門的な職業名や組織機能名である前に、全ビジネスパーソンのリテラシーだと思うわけです。サステナビリティに理解のある経営者、人事担当者、営業担当。それぞれの業務の成果に少なからず影響を与えるからです。

企業事例

いくつか、サステナビリティの社内浸透の企業事例を紹介します。各社独自の取り組みもありますが、やはり地道で確実なエンゲージメントやコミュニケーションを増やす施策がほとんどかなと思いました。社内浸透施策に関して拙著『未来ビジネス図解 SX&SDGs』でも詳しく解説していますのでご確認ください!

ダイフク|サステナビリティの社内浸透
伊藤忠商事|サステナビリティの社内浸透
アイシン|サステナビリティの社内浸透の取り組み
帝人|サステナビリティの社内浸透
三越伊勢丹ホールディングス|「私たちの考え方」の社内浸透に向けた取り組み

まとめ

社内浸透について5つのポイントにまとめて解説しました。すべての企業のすべてのフェーズに当てはまるとは思いませんが、課題を感じている企業担当者のみなさまのヒントにはなるでしょう。

ゴールのない壮大な課題であるサステナビリティの社内浸透に唯一絶対の解はありません。インプットとアウトプットのバランスをとり、組織の仕組みづくりまでを見据えた取り組みをしていきましょう。はっきり言って難易度MAXです。まだ指針のあるESG評価向上のほうがゴールが明確なくらいです。(これもまた困難ですが)

サステナビリティの社内浸透の課題感については、以下の記事等でも解説しているので、興味があるひとは確認してみてください。

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