サステナビリティ/SDGsの社内浸透
サステナビリティやSDGsの社内浸透施策は、サステナビリティ推進担当者の重要ミッションの一つです。
しかし、この課題の根は深く、それこそ10年以上前から3大課題(トップの理解、社内浸透、効果測定)なんて言われるくらい、どの組織でも程度の差こそあれ課題として存在しています。
昔から、社内浸透施策は、インターナルコミュニケーション(社内広報)の文脈で色々と研究されたり、関連書籍等もたくさんあるわけですが、テーマがサステナビリティだと、一気に難易度が高くなっている印象です。
当ブログでも定期的に社内浸透をテーマにまとめているわけですが、今回は課題の深堀というよりは、いくつかの視点を整理するような形でまとめます。
サステナビリティの理解促進
推進部門からサステナビリティと言われても、従業員はすぐに理解できません。どういうサステナビリティ課題が自分たちの目の前にあって、それを自社の商品サービスがどう解決し、それによってどんな価値が生まれ、自分たちにとってどんな意味を持つのか、という一連のストーリーで伝える必要があります。情報だけを提供しても浸透はしません。そう考えると、社内浸透とは「サステナビリティという共通言語で会話できる従業員を増やすこと」であるとも言えます。社内浸透は、共通言語を作ること。個人によってイメージの異なるものを伝えてはいけません。
サステナビリティ課題に対して、すべての従業員が組織の人間としても個人としても、誰しもが加害者であり被害者でもあります。つまり“無関心な人”はいても“無関係な人”はいないのです。これをどこまで伝えられるかで意識が変わってきます。
社内浸透は、そもそもの前提として、従業員こそが企業の最も重要な資産であると考えなければなりません。その前提があり、従業員ひとりひとりへサステナビリティへの理解や共感を促し、従業員が行動を起こすことで事業への浸透を図り、新たな価値を生み出す活動(価値創造)、とすべきなのです。つまり、社内浸透は一つの手段であり、その目的を明確にすべきです。
実施の目的とは
そもそも、サステナビリティを従業員に理解させようとするのは良いことですが、多くの場合、仕事における「組織の目的」と「個人の目的」は別のことがほとんどです。これが一致しているのが理想ですが、現実的に組織の目的を達成しても自分のメリットが皆無なので、組織と個人の目的やゴールが同じものになることはほとんどありません。
そのため、価値観を個人に押し付けたところで、心の底からサステナビリティ推進をしよう、とはならないのです。従業員の多くはサステナビリティ自体が嫌いなわけではありません。単に「自分がやる意味がわからないこと」をするのが嫌なのです。単純に面倒だから嫌いという人もいるでしょう。このあたりの状況整理は早めに行う必要があります。
経験上、サステナビリティの問題意識と解決策を社内の誰も持ってない企業は皆無です。では、なぜそれがうまく進まないかと言えば合意形成ができないからです。サステナビリティ担当者と話をしていると、特に大企業では「社外の壁」よりも「社内の壁(社内調整)」を突破するのが難しいと聞きますし、社内ヒアリングを第三者としていてもそう感じています。前述した理解促進ではないですが、このあたりの目的や、そもそもの前提をまず解決しないと、社内浸透がスムーズに進まなくなります。
まず、サステナビリティ推進における、全従業員のゴールのイメージが一致していなければなりません。そうでないと、同じ目標に向かって協力し合うことも出来ないし、各々自律的に動いても効率的に目標に向かえません。そのため、全員とゴールイメージを共有し、何を成果とするの認識を合わせることが大切です。
なぜ組織は変われないか
社内浸透においては「なかなか変わろうとしない人をどうするか?」という質問をよくいただきますけど、極論、まずは放っておきましょうと答えてます。まずは、意識レベルが高く行動力がある人(すぐに火がつく人)からいかないと、動かない人から火をつけるのはとても大変ですから。これは先進企業の事例研究で実証済みで、たとえば、サステナビリティ視点の社内ビジネスコンテストなどは、この課題解決手法としてよく取り入れられていました。
ですので「これまで習慣化してきたことを捨てる提案」というのは大体上手くいかないんですよね。変わることはエネルギーが必要ですし、どんなにメリットのあることでも、二の足を踏んでしまいます。ですので、現実的には「組織内で新しいことを新しいと言わず、今までのことを少し変えるだけと言い張ること」がよいです。サステナビリティという何か新しいことを始めるわけではない、と。
あと、社内で変化を起こし何かを浸透させたい時は、それにまつわる「仕組み」「ルール」などに名前を付けるとイメージしやすいです。近いのは、たとえばビジネスコンテストなどです。ただ「サステナビリティ推進を各部署で行ってください」ではなく「ビジネスコンテストをします。社会に貢献する業務の新しいアイディアを教えてください。表彰もしくは金一封を差し上げます」です。
サステナビリティとは、既存の事業展開に、社会的な視点を加えることでビジネスモデルの変化を促すものでもあります。つまり、サステナビリティの社内浸透は、今までの企業文化を否定することにもつながるという側面もあるのです。そのため、今までのルールとは違うルールを使おうとすると、当然反発が起きます。浸透を進めれば進めるほど保守派は反発を強めます。組織では“正しい意見”が通るとは限らないのです。だからこそ、人をどう動かすかを徹底して考えなければなりません。
人を動かすということ
最終的に人は内発的動機でしか動きません。外的圧力(法律、政府や社会の動き)が行動のきっかけになることはありますが、その瞬間だけで継続した取り組みになることはあまりありません。きっかけを仕組み化したり、意義や意味を見直し、従業員個人の内発的動機に結び付けられるかがポイントです。
ですので、社内浸透の初期フェーズでは、有志や意識レベルの高い層をまずは巻き込み込むようにします。そこからフォロワーを広げ全社員に波及させます。私の経験上、社内浸透はリーダーよりもフォロワーが重要な意味を果たします。有志などの意識レベルが高い層にさえ浸透しないのであれば、それはその考え方がそもそも間違っている可能性が高いです。
サステナビリティを浸透させるときに、情報量を増やそうとしますが、それではサステナビリティの理屈がわかるだけです。理解しても1週間もたたず内容の9割を忘れ、元のルーティンに戻ってしまいます。ですので、知識より行動(アウトプット)に注目すべきです。
日々の業務活動がサステナビリティとリンクしてこそ初めて自分ごとになって浸透していきます。そうすると、日々の事業活動自体がサステナビリティの体現となります。アクションそのものがメッセージになるというか。理屈(正論)ではほとんど人は動きませんが、同僚の行動は従業員個人に大きな影響を与え行動を変えさせる力をもっています。人々の考えを変えるのではなく、人々の行動を変えることにフォーカスする。宝くじは買わなければ当たらないのと同じです(確率はさておき)。
身も蓋もない話ですが、これらのロジックは理想論であり、社長が本気でサステナビリティ推進を語り続けるだけで、従業員は動く(動かざるをえない)のですが…。そのため、トップを口説き落とすことが最も社内浸透に近かったりします…。
組織の機能不全
企業において、組織で物事がうまくいかないのは、その原因は個人ではなくシステムの問題であることが多いです。新しいシステムへの変更は、多くの場合において「総論賛成、各論反対」の壁にぶつかります。サステナビリティは重要だけどコストをかけて取り組むほどのものではない、というものですね。
業務は「考える」「決める」「実行する」の3つで成り立つと思うのですが、この3つを縦割りの組織構造で細分化して効率化しているのが日本の典型的な大企業の特徴です。たとえば「実行する」だけを担っている現場の従業員は、自分の業務がサステナビリティ推進にどれほどの意味があることなのか、ひいては社会にとって良いことなのかイメージしにくいかもしれません。
基本的に問題点はシステムや組織にあるので個人に責任追求をしてはいけません。個人の善意によりかかったサステナビリティ推進は100%破綻します。組織のシステムをいかに作り上げるか。これは社内報で情報提供することよりも重要度が高いです。
社内浸透は「全従業員が一丸となって…」なんて言ってすぐなれるほど、簡単ではないということです。社内浸透させると言うことは、従来の考え方をアップデートすることであります。社内に浸透しないのならば、それはいままでの“習慣”がやめられないからです。
社内浸透は、ある種の変化であり、今まで考え方を否定するものでもあります。ですのでほとんどの人にとって苦労/苦痛を伴います。まずはそれを担当者は知るべきです。理想論だけでは仕事になりません。現実的には組織と従業員は相対する利害関係にあるのですから(文字通りステークホルダー)。
原因と結果
社内浸透がなぜ多くの企業で課題であり続けるのか。私も10年以上考え続けていますが、一つの解は「原因と結果を分けて考える」でしょうか。
人が直接認識できるものは「結果」であり、その裏にあるのが「原因」です。たとえば「SDGsの社内浸透に苦労している」という企業があったとしましょう。しかし「社内浸透できていない」という結果があるからといって、「では社内報作りましょう」では問題が解決しないことがあります。こんな会社は実際多いですよね。
その理由の一つは「社会浸透できない、という結果へのアプローチだから」ということが考えられます。つまり、社内浸透しないのは、情報量や伝え方が問題だったわけではなく、SDGsに関する「企画が意味不明」「ESが低くやる気がない」「効果測定のKPIが不適切」などの原因に対してアプローチをしなければ、問題は解決できないということです。
ここでいう原因はボトルネックなので、ここを解決できると一気に進むことが予想されます。多くの企業で「社内浸透」が大きなテーマになっていますが、これは結果であり、原因は企業ごとに異なることがほとんどです。時間は少しかかりますが、きちんと整理して原因へのアプローチをしましょう。
まとめ
久しぶりに社内浸透について考えをまとめましたが、永遠に解決できないのではないかと思うくらい、難易度が高いものです。担当者の皆様の日々の苦労が目に浮かびます…。
ちなみに、社外からのリアクションを得ると従業員の意識や行動が一気に変わることがあります。社内浸透は、社内で完結しないというか。たとえば、ニュースメディアで自社のサステナビリティの取組みが取り上げられると、なんだか嬉しくなるアレです。
結局、サステナビリティ・SDGs・ESG・CSR、なんでもいいけど、これらのサステナビリティに関連する概念を社内に浸透させようと思ったのであれば、相当な工夫が必要だよ、ということでしょうか。ここ数年は、社内浸透の支援は少ないですが、課題が明確な企業担当者の方はご連絡くださいませ。
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