サステナビリティ広報

最近、サステナビリティ推進部門だけではなく、広報やPRの部門がステークホルダーエンゲージメント(ステークホルダーコミュニケーション)を進めるような形が増えている印象です。少なくとも私のお客様は広報部門が増えています。

広報部門はマルチステークホルダーとのコミュニケーションを重視します。これは本来的なPR(パブリックリレーションズ、社会・ステークホルダーとの関係性作り)とも言えます。世の中には、色々な考え方の人がいるし、想いはどんなに丁寧に伝えても100%は伝わらないので、その前提で何度も何度も繰り返し同じ想いを言い続けることが大切ですから。

しかし、最近「言ってること」と「やってること」にギャップのある企業が増えてきた気がします。言行一致していないというか。おそらく「行動はすでに準備してて、発信を皮切りに変化への追い風を」ということもあるでしょう。でも想定以上に世間の目は厳しく「発信だけして実態が追いついてない」と思われ炎上…てなケースが出てきているような。

というわけで本記事では、サステナビリティ実務というよりは、広報とサステナビリティ・コミュニケーションについて、考えてみます。

サステナビリティの文脈

広報視点でみると、サステナビリティの話はストーリーテリングとして、企業のコミュニケーション要素を社会やステークホルダーの文脈に合わせる概念として広がってきています。たとえば、社会課題と創業の想いをリンクさせたり、ビジネスモデルと課題解決に向けたベクトルとリンクさせるとか。

社会課題とは文字通り社会全体の課題なので、企業の視点を一段高く持つことができ、コミュニケーションの文脈を広げることができます。それらすべてが意図して文脈として作ることができるかというと難しいですが、少なからず機能訴求でありきたりに終わる、という可能性は少ないでしょう。

このように、コミュニケーションの主語が企業から社会に移行できることができれば、ステークホルダーもコミュニケーションに当事者意識を持ちやすくなり、情報を自分ごと化しやすいでしょう。広報には社会的な文脈が重要です、と。

企業の広報をより社会的文脈に合わせにいく(企業文脈→社会的文脈)ことはトレンドではあります。毎日のようにCSR/ESG/SDGsというワードをテレビ・新聞でも見聞きします。サステナビリティはマルチステークホルダーが対象となるのだから、広報としては情報の受けて側(ステークホルダー)ごとの文脈に合わせる、という考え方になっていきます。私はこれを「相手の言葉を使う」と言っています。正論だけいえば皆が共感するというわけではありません。

ステークホルダーエンゲージメント

私は、この10年の流れをみてきて、ステークホルダーエンゲージメントの要決は「当事者意識」と考えています。ステークホルダーエンゲージメントは、間接的ステークホルダーであるメディアとの関係性構築(プレスリリース含む)というよりは、株主・投資家、従業員、顧客、といった直接的なステークホルダーと企業の立ち位置を明確にして、その利害関係が調整され、あらたな価値を生み出している状況を指します。

よく広報では「その情報にニュースバリューはあるのか」と、情報価値を問いただすことがあると思いますが、ステークホルダーエンゲージメントは、まったく同じ情報でもステークホルダー視点に情報をよせていくことで、当該ステークホルダーには価値がなかった話題も価値をつくりだす、ともなります。

サステナビリティの重要タスクであるステークホルダー・エンゲージメントは、PRともかなり重複しますし、パブリックアフェアーズとも重複するところが多いです。企業がステークホルダーとエンゲージメントする時、企業はステークホルダーから一挙手一投足が見られています。すべてとはいいませんが、企業のロジックで広報をしている企業もそれなりにあるので、エンゲージメントの実践を通じて、社会の空気、ステークホルダーの関心・インサイトを理解する努力をしましょう。

実践

サステナビリティを意識した広報には文脈が必要としましたが、社会の文脈を知るには自社のステークホルダーを理解しなければ始まりません。ですので、まずすべきことは、自社のステークホルダーを明確にすることです。いわゆるバウンダリー特定です。自社のビジネスモデルのバリューチェーンの中で、どこにいるステークホルダーに、どんな影響(ポジティブ/ネガティブ両面)を与えているのか、という話です。

本記事では深く解説をしませんが、ステークホルダーエンゲージメントは「企業と社会」「企業とステークホルダー」とされがちですが、実際の現場では「人と人」の話になります。これはバウンダリーがわかっていれば、イメージができると思います。

人間がいちばん嫌がることは「価値観の押し付け」です。この当たり前のことが分かっていない人が多いのは残念です。人間はみな顔が違うように考えも違って当たり前です。そういう視点でいうと、昔から、外資とか日本のグローバル企業では、「パブリックアフェアーズ」(公共戦略コミュニケーション)という部門や担当者がいまして、2010年代前半なんかはサステナビリティの情報開示を担当していた時期がありました。もちろん、今でもありますが、多くはサステナビリティなどの部門を作り、そこで関連する情報開示をするようになっています。このパブリックアフェアーズはまさに社会視点、ステークホルダー視点の話であります。

価値観と社会的成果のイメージはサステナビリティ担当者の学びにもなると思うので、パブリックアフェアーズについて調べることもをお勧めします。まずは「PublicAffairsJP」なんかのメディアで学ぶのがお勧めです。

社会の潮流を捉えてそこに自社の活動を重ねていく。広報では、自社サービスと社会トレンドとの接点を作ることが必要です。自社の商品・サービスの単なる紹介ではなく、社会課題解決にこの新商品がどう貢献できるのか、ステークホルダー満足度を高めながら、同時に社会問題解決にどう貢献できるのか、をアピールするイメージです。

まとめ

ステークホルダー・エンゲージメントと重なることも多いため広報・PR系の勉強会もそれなりに参加してますが、今では普通にSDGsやESGの話がでてきます。大手PR会社でもESGを積極的にアピールするところが増えていますね。

ただ、広報部門としてのサステナビリティ情報発信をする、という狭義の捉え方がほとんどで、部門を超えてPR/CSR/IR/HR(私はこれを「4Rグループ」と呼んでいます)が協力して、組織の全体最適としてサステナビリティを考えられる段階ではないのかと。広報は社内外への情報発信も多いので、自社のサステナビリティ推進のリーダーになれると思っています。

今はまだ広報・PRではテクニックとして語られることが多い印象ですが、今後はいろんな視点から、サステナビリティの考え方が広がると思うとワクワクします。以上です。

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