SDGs広報

CSR/SDGsの広報術

SDGsが施行となった2016年以降、当ブログでもSDGsをテーマにした記事をよく書くようになっています。私の関心もそうですが、世間の関心の高さから、読者ニーズが高いと思いまとめている側面もあります。そして今回もテーマがSDGsなのですが(今回も!)、本記事は経営論ではなく「社内外への広報」を中心にまとめます。

SDGs対応を進める企業では、社外にはSDGs単体のレポートやCSR関連レポート、社内には社内報やイントラネットなどで、SDGsを中心としたCSR情報の発信をしていると思います。先日「社内報のCSRコンテンツで、CSRは社内浸透するのだろうか」という記事にもまとめましたが、社内報にもSDGsやCSRの特集が増えているという話を複数の制作会社の方から聞いています。

コーポレート・コミュニケーションだけではなく、CSR/SDGs広報なども重要になっていますし、CSR関連の社内外のコミュニケーションやエンゲージメントでは、色々なワードがでてきています。要は企業にSDGs推進のメリットがあるということですね。

そこで本記事では、CSRやSDGsにおける社内外の広報活動における課題をまとめ、その解決方法などをまとめます。

情報発信の心得

社外だろうが、社内だろうが、広報(情報発信)の本質的な意味の方法論は何十年も変わっていません。(手法は大きく変わっているが)

この手の情報発信における心得と申しましょうか、気をつけるべき点は「エゴを満たすだけの所作になっていないか」です。価値観は押し付けた瞬間にエゴになってしまします。SDGsやCSRが国際的に重要であることは間違いないのですが、正論をステークホルダーに押し付けたところで、ステークホルダーの理解を助けたり課題解決には貢献できません。

またコンテンツを作るうえで多くの人は「性善説」すぎるように思います。つまり“読んでもらえるだろう”という前提で文章を書いているのでは、ということです。もちろん読者の中にはゆっくりと、興味のあまりない部分まで読んでくれる人もいるでしょう。しかしほとんどの人は日々の生活に忙しいのです。オンでもオフでも。そのため、いわゆる“斜め読み”がほとんどなのに、詳細を作り込んでも伝わらないケースもあります。基本は「人は自分にしか興味がない」という前提でコンテンツを工夫することが大切だと思っています。

また、CSR活動が先行していない状態で、SDGsを広報やコミュニケーション全般に落とし込もうとすると、表面上の話に終始することになり、いわゆる「SDGsウォッシュ」の状態になりがちです。SDGsの広報・コミュニケーションといっても、単にアピールをすれば良いわけではありません。むしろ実態を伴わないアピールはマイナス評価にすらなってしまいます。なぜSDGsウォッシュになりがちかというと、建前を強調する(綺麗事が多くなる)ことが問題の一つです。ステークホルダーの多くは、企業の建前を知りたくて情報にアクセスするわけではありませんから。

広報の成果

広報そのものの成果に関してはいろいろな評価指標があります。しかし、CSRやSDGsの広報を、今までの経済合理性の高い指標にあてはめると、うまくいかないことも多々あります。そもそもCSRやSDGsが経済合理性とは趣の異なるものだからです。そのためイシュー(社会課題)やアウトカム(成果)にフォーカスしなければならないものの、どういった指標で成果を測るかは至上命題であり、以前から界隈でずっと課題とされている領域です。

また前述の綺麗事(建前)の問題点でいえば「成果に貢献しにくいこと」があります。なんとなく良いことを言っているとは感じるものの、情報発信だけで何かの社会課題が解決することはありません。そこで最近のCSRコミュニケーションでは、経済的・社会的な成果として「企業価値」というワードをよく使うようになっています。

経営効果の有無というよりは、そのCSR/SDGsの社内外への広報活動によって、どれだけ企業価値向上に貢献しているのかを示すことが、成果の見える化に貢献します。事業活動の価値創造にどれだけ結び付けられるか。そこが焦点になっています。事業活動をSDGsと紐づけることで、どんな価値創出に貢献するのかという、アウトカムのイメージを持っておくのも重要です。

広報のロジック

以前からCSRコミュニケーションにはストーリーテリングが必要と言ってきました。なぜなら、ステークホルダーは論理(ロジック)だけでは企業の意見に納得しないことがあるからです。「論理的な正しさ」と「わかりやすさ/共感しやすさ」はイコールではありません。

たとえば、どんなに社会に良いとする商品・サービスでも、価格が高ければ社会貢献に興味がある人でも購買しない、というわけです。ですので、対外的な広報としては、CSRやSDGsで自社の正当性をアピールするより、人間性をアピールするというか、機能面ではなく情緒面のアピールが必要で、その文脈の基礎となるのがストーリーテリングだと考えています。

CSRにおけるストーリーテリングとは「必然性をデザインすること」でもあります。自社が、なぜCSRをしているのか、なぜSDGsに向かって動いているのか、という Why を情報発信し続けることで、無機質な情報が少なからずイメージで理解しやすくなります。特にCSRやSDGsの概念は広範囲すぎて自分ごとにしにくいので、「なぜ今この話をしているのか」という背景・文脈を省略すると、誰にも伝わらない情報になってしまいます。

CSRやSDGsの広報としては「パブリック・アフェアーズ」の意味合いも強いです。パブリック・アフェアーズ(public affairs)とは、公共的面から見た企業広報のこと。 企業の社会的責任を認識し社会に対して積極的に貢献するために行う広報活動を指します。通常の広報活動以上に工夫が必要なことも多々あるかと思います。

わかりやすさ

御社のCSR情報開示は“わかりやすい”ですか?

広報においてわかりやすさが欠如している例もなくはないですが(不祥事対応などは特にお粗末な企業が多い)、わかりやすさは、現代的な広報においてとても重要な視点となります。たとえば、以下のポイントはわかりやすさを高める上で重要な視点となります。

わかりやすさのポイント例

・前提(相手の前提知識を確認する)
・情報量(相手が理解できる情報量に絞る)
・要約(話の概要をまず伝える)
・構成(理解しやすい順番に話す)
・比喩(相手が知っている単語で説明する)

CSR/SEGsへの興味

そもそも、CSRやSDGsに興味があって、なおかつ能動的かつ主体的に情報収集をしているステークホルダーはごくわずかです。

社会貢献的な興味関心がミレニアル世代以下の年齢層で高まっているなどのデータもありますが、細かくみるとちょっと曖昧なところもありますし、現実的な問題として「世の中の大半の人はCSR/SDGsに対して興味がない」という前提を持てるかどうかがかなり大事な気がしています。

これは何の分野でもそうですが、中心になって推進する人たちが思ってるほど、みんな関心もないし努力もしたくないし、いかにめんどくさくなく楽させてあげるかを追求したものが広がっていくものです。「裸の王様」というか「コップの中の嵐」というか、身内ネタで終始してしまうのは、このカテゴリで20年で毎回失敗してきたところなのを理解しましょう。SDGsやCSRを“身内ネタ”として作り込んでしまったら外野がしらけて当然。わかりやすさも何もありません。

つまり、SDGs関連の広報やコミュニケーションの限界を知るべきです。ステークホルダーへの広報活動やエンゲージメントだけで、経営課題が解決するこは、まずありえません。また、どんなにわかりやすく伝えても、ステークホルダーが理解しリアクションをしてくれる保証はありません。

知覚とわかりやすさ

経営学者のピータードラッカーはコミュニケーションについて、以下のように定義しています。

すでにわれわれはコミュニケーションについて4つの基本を知っている。すなわちコミュニケーションとは、「知覚」であり、「期待」であり、「要求」であり、「情報」ではない。
「マネジメント 基本と原則」(P・F・ドラッカー、ダイヤモンド社)

特に「知覚」という概念はわかりやすさを理解する上で重要な概念です。ドラッカーはこのコミュニケーションにおける知覚について「受け手の経験に基づいた言葉を使わなければならない。言葉で説明しても通じない。経験にない言葉で話かけても理解されない。知覚能力の範囲外にある。」としています。わかりやすい表現とは、情報の受け手の“知覚能力の範囲内”である表現である、ともいえるでしょう。

別にドラッカーに言われなくても、よく考えれば当然の話なのですが、これがCSRコミュニケーションやステークホルダー・エンゲージメントとなると、意外に見落とされがちなのです。SDGsという概念をSDGsというワードを使わず、より身近な言葉で、なおかつ業務の中でも使っている表現で説明できなければ、それはただの「情報」であり、コミュニケーションにはなりません。

ステークホルダーの、文脈・利害関係・地域・文化・世代などによって関心は異なり、なおかつ常に変化をしています。そういう社会状況の中で、ステークホルダーの情報ニーズを見極め、ステークホルダーの“わかりやすい表現”での開示が求められています。

まとめ

CSR/SDGsの広報・コミュニケーションやエンゲージメントは難しいです。

広範囲のステークホルダーとのコミュニケーションにゴールはないので、これは広報部門等と連携してCSR部門が動くしかないですね。加えて、トップの理解というか、CSR広報の重要性とステークホルダーに果たすべき役割みたいなものが共有されていると、社内展開がよりスムーズにいくでしょう。このあたりの根回しは重要ですよ。

そもそも「SDGs広報」「SDGsコミュニケーション」なんて表現自体がおかしいといえばそうのなのですが、CSRには見向きもしなかった、広報や広告関係の方が注目し始めた功績は大きいと思います。ちなみに「SDGs経営」も私は違和感があるのですが、経産省などがガッチリ使っているので、そのうち企業サイドでも認知が広がるかもしれません。

というわけで、散らかったまとめになってしまいましたが、コーポレート・コミュニケーションを、今一度見直してはいかがでしょうか、という話でした。100点とるのは難しいけど100点を目指すことはできます。みんなで、100点を目指してがんばりましょう!

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