SDGsと経営戦略

人でも企業でもCSR/サステナビリティでも、本音と建前があるものです。

先日「コンサルタントも陥る企業の罠「SDGsウォッシュ」とは」という記事を書きましたが、反響がそれなりにありましたし、今、まさにSDGsウォッシュな事例が増えている印象があります。私のようなSDGs推進をサポートする側が“こじつけ”としか言えないようなロジックを、顧客に提供する場面なんかに出会うことがありまして、モヤモヤすることが多いです。建前が社会において必要であることは否定しませんが、必須なことでは決してありません。

というわけで、本記事ではSDGsウォッシュと、戦略における本音と建前についてまとめます。

インパクトの存在

そのSDGs対応が建前か本音(本気)がどうかを知る簡単な方法があります。それはCSR活動の“アウトカム/インパクト”を見ればいいのです。つまり、宣言したことに対して「実際にできているのかどうか」「成果創出ができているのか」を確認するということです。

宣言だけで終わっている企業は「SDGsウォッシュな企業」です。騙されてはいけません。その企業のCSR活動はSDGsにほぼ貢献できていません。SDGs対応を建前で終わらせないためには、結果をだしてそれを証明するしかありません。結果とは、社会的価値(社会的インパクト)の創出です。

SDGsの目標達成のために具体的に何をしていますか」。CSRウェブコンテンツやCSR報告書でSDGsだなんだと言っている会社のCSR担当者でさえすぐに回答ができません。できても抽象的な回答ばかり。まさに「本音と建前」ですね、っていう。建前上では行なっているといっても、実際のところはこれからですという話なのです。「SDGsに正式にコミットメントしている」という企業でも、その実態は「SDGsを事業とマッピングしている」というものから、「SDGsに基づき事業ポートフォリオを見直した」とするものまでレベル感は多種多様なのです。

あと、これはマテリアリティの弊害とでもいうかもしれませんが、企業に重大な影響を与える事項や優先度の高い事項に取り組むために、明らかに企業の現在の事業内容をマッピングしただけの「チェリーピッキング(自分に都合の良い事例だけを並び立てること)」が行われています。本来は17のゴールは文字通りのKGIであり、169のターゲットがKPIにならないといけないのですが、このあたりの戦略面の曖昧さも気になるところです。

SDGsの捉え方

SDGsは「目標」ではありますが「目的」や「手段」ではありません。例えば、SDGsは5W1Hでいえば「What」であり実践する際には「How」がいるわけです。そのHowこそが具体的なCSR活動なので、What(SDGs)ばかりを議論したところで経済的・社会インパクトは生まれません。つまり、その時点でステークホルダーの誰も幸せになれていないのです。誰も幸せにできていないということは、企業の存在意義がない、ということになってしまいます。

結局、前述したように、建前としてはSDGsだなんだと開示をしていても、CSR活動の成果の開示すらままならない大手企業が一定数あります。SDGsはキングオブ正論です。しかし正論が現場的に常に正しいとは限りませんし、正論がステークホルダーへの価値創出を行なってくれるわけでもありません。ちなみに、そもそもCSRとSDGsは文脈が違うので(そもそも主語が違う)、本来は同じ土俵で比較してはダメだと思うのですが、本記事では便宜上まとめてあります。

SDGsは盛り上がっている?

SDGsは、大手企業を中心に関心が高まっているように見えますが、情報開示面を超える実態上の取り組みはさほど進んでいるようには思えません。多くの企業におけるCSRのように、ビジネスの本流とは別の義務的な取り組み、コストとして最小限対応すべき取り組みとなっている可能性があります。

海外の動向に詳しい方の意見をお聞きしてますが、欧米ではSDGsは日本ほど盛り上がっていないと聞いています。実際は、重視している企業もあるとは思いますが、日本政府が進めるほどにはSDGsが国全体で進んでいる印象はないと。海外メディアを見る限り、なんとなく感じていましたが、最近確信に変わりました。

私は元々、SDGsだろうがなんだろうが、足元のCSR/サステナビリティ推進活動をきっちりやって結果出していきましょう、というスタンスです。SDGsがあるからCSRをしているわけではない、という一部の主張にとても共感しています。

SDGsを本気で進めたいなら、マネタイズできない領域の活動も必須であり、それはいわゆる社会運動化を指しますし、経済合理性の観点からこれには反対する人もでてくるでしょう。何か特定の価値観を貫こうとすると、それとは別の価値観や正義を持つ人と対立することになります。

日本企業は本気で「社会を変える」ってポジティブに語る人が多いですが、現実的には「現在の社会と価値観とシステムを否定する」ことなので、多くの人によっては価値観を完全に否定されることになります。これで穏便にすむはずがないですね。それでも御社は「社会を変える」活動をしますか?誰かを否定することも厭わないということでいいですか?それくらい覚悟が必要なんですよ。

コストや時間が通常のビジネスプロセスよりかかることになっても、それを実行する気概があるのかどうか。建前だけSDGs対応を宣言して、本音では「まわりがしてるから」「やれといわれたから」という小学生の言い訳みたいなことを思っていては、進みません。そんな簡単な目標ではないのですよ、SDGsは。だから“にわか”が多く、大手企業の一部でしか盛り上がっていないという話もわかる気がします。

SDGsのビジネス側面

SDGsは「サスティナブル・デベロップメント」だけれど、よく意味を見ると「開発」と「保護」という相反する課題をウルトラCでひとつのコンセプトにしたものでもあります。BOPビジネスやインクルーシブビジネスの良い部分をとてもうまくまとめた概念です。ノーベル平和賞級のコンセプトです。

ただし、SDGsに問題がないわけではありません。例えば、文化・芸術の発展、LGBTや宗教問題などについては明確には触れられていません。また、本来のコンセプトである「誰も置き去りにしない→人類の幸福」を追求するならば、SDGs達成のその先(2030年以降)についても考え始める必要がありますが、それについてもあまり言及はありません。

企業が経済合理性を軸に活動をしてきて、今の多くの社会問題が置き去りになっている事実があります。CSVやSDGsの機会面などの、経済合理性の高い活動に注目が集まるのはよいことですが、本質を理解している人も少なく、結局、今までのビジネス慣習となんら変わらない世界となっている事象に頭を悩ませています。

まとめ

SDGsは建前で行う意味はさほどないので、もっと本質的なCSR活動をしたほうがよいと思います。経営戦略においても、なんとなくSDGsを紐づけるのではなく、SDGsが提起している本質は何かを理解しましょう。

御社のSDGsの社会課題への対応は、多くのステークホルダーが共感するものでしょうか。多くのステークホルダーが納得し、応援したくなる活動でしょうか。まさか自社の利益のために活動しているわけじゃないでしょうよね?

とにかく昨今は企業の透明性(裏表がない状態)がよく見られるようになってきています。SDGsウォッシュにならないよう、本気で本音なSDGs推進活動をしていきましょう。その先に、社会課題解決への貢献や、ステークホルダーの幸せなどがあるでしょう。大変ですががんばりましょう。

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