サステナビリティ推進

サステナビリティは組織の問題

サステナビリティ推進活動を進めるにあたり、さまざまな課題がありますが、最初にして最後の課題ともいえるのが「組織の問題」です。サステナビリティ推進の仕組みの問題とも言えます。

もう15年近くサステナビリティ推進支援をさせていただいていますが、社外のステークホルダーよりも、その前の社内の壁のほうが高い企業も多いです。サステナビリティ・コンサルタントと名乗って仕事をしている人は少なからず感じているのではないでしょうか。サステナビリティ推進における組織の課題は相当根深いです。永遠の課題と言っても過言ではないでしょう。

このあたりの質問も最近多くて、改めて考えを整理したいと考えていました。というわけで、サステナビリティ推進における組織の課題の調査データなども参考に解決方法についてまとめます。皆様のサステナビリティ推進のヒントになれば幸いです。

なぜサステナビリティは進まないのか


出所:【調査】「現場の迷い」をどう解決するかが、企業のサステナビリティ推進のカギ

上記の調査結果は面白いです。サステナビリティを進める上での組織の課題は、「人員不足」「兼任であまり動けない」「社内の知識格差が大きい」あたりだそうです。つまり組織に「人と知識が足りません」と。みんな知ってましたけど!

サステナビリティに挑戦したら確実に報われるのであれば、すべての企業が人的リソースを投入をするでしょう。ただ、実際には報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやる仕組みや制度を作るのは困難です。その壁を超えた企業だけが高いESG評価をされるのですが…。

開示でいえば、統合報告書は、2013年にフレームワークが発表されて10年ですが、10年で発行した企業は800社後半で、全上場企業の2割程度。8割の企業は、2017〜2018年ごろからメディアや投資家がこれだけSDGsだサステナビリティだと言っているのに無視し続けた企業です。単純計算、8割の上場企業には組織的なたか〜〜〜い壁がありそうですね。

サステナビリティ推進の経験者を外部から採用するのもありますが、数からいえば自社でサステナビリティ人材を育てるしかありませんし、まさに昨今言われる人的資本にもなります。Howの「投資家とエンゲージメントする」「統合報告書/サステナビリティレポートを発行する」「E/S/Gそれぞれの取り組みを進める」などが、重要なのは間違いないですがそもそもの組織内の体制・仕組みをどうするかも考えないと、穴の空いたバケツに水をそそぐ状況になってしまうのでよろしくないです。(これがG/ガバナンスの強化の本丸だったりするのですが)

EとSは、Gがあってこそ本領発揮されるものです。組織の課題解決なくしてサステナビリティなし!

予算の確保

サステナビリティ
出所:【調査】「現場の迷い」をどう解決するかが、企業のサステナビリティ推進のカギ

予算取りに関する課題では、「未知の分野のため予算の予測がつきにくい」「成果に対する費用対効果が説明できない」といった回答が多いですね。予算の予測は相見積もり取って相場をつかめば解決できますが、効果測定の問題はかなり深刻です。そもそも知識も情報も人材もないのに効果測定できないでしょ…。

予算がなくてもできるサステナビリティ推進活動はたくさんありますが、当然ながら予算があったほうができることは増えますし、予算がないばかりに二度手間で時間と人的リソースを浪費するという非効率なこともあります。

これはサステナビリティ・コンサルタントとしてのポジショントークになってしまいますが、「予算」とは結局「覚悟」です。予算があった上でコストのかからない施策をするのと、予算がないから安く済むことをやるのとでは、同じ施策でも次元が違います。予算がないと低コストが最優先になるので施策の本質を掴む努力をおろそかになり効果検証も雑で終わることがほとんどですので。

なお、予算がなくてもできる活動や予算の取り方などのHowの部分は、拙著『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌコーポレーション、2022)で詳しくまとめてますので参考にしてください。

予算はバロメーターになる

予算がないというのはつまり、会社にとって優先課題ではないか、サステナビリティに対する経営陣の理解が浅いかのいずれかでしょう。どちらにせよ経営者が全力で取り組もうとしていないという関心が薄いテーマなので、そんな状況で何をやったっても中途半端で終わります。まずやるべきは推進施策を探すことではなく予算をぶん取ってくることです。綺麗事だけでは前に進めません。

特に日本では不景気になると「コスト回収期間が短い投資(再現性の高い投資)」に予算が投入されます。ですので、多くの日本企業では、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、コロナショック(2020年)などの大きな出来事の直後では、サステナビリティ関連の予算が大幅に削減されたりしました。今は、よほど業績が厳しい企業でなければ、多くの会社が人材・予算をサステナビリティに向けているという印象です。上場企業は開示が義務化されたのも大きいです

予算を取ってこれれば苦労しない!というご意見は本当に共感するのですが、現実的には人も予算もかけない領域で高い成果が生まれることはほぼありません。これらの現実的な考えのもと「サステナビリティ推進をする一番のポイントは何ですか」と質問されれば「予算です」と答えるようにしています。

逆説的ですが、予算を一定レベルかけるとなると社内の注目度も上がりますし、失敗したくないので経営陣の積極的なモニタリングが始まります。それからサステナビリティの重要性に気づきより積極的になった企業もあります。なお、予算があれば、サステナビリティ推進経験者を採用することもできます。予算があればすべてが解決できます!(例外は認めます)

縦割りの弊害

組織の大きな課題の「人がいない」「予算がない」もさることながら、組織構造自体の問題もあります。サステナビリティ推進担当者の多くはコーポレート部門に属しており、新規事業や事業創出よりの話になかなか関われないのも事実です。だから、サステナビリティ担当者が主導する統合報告書は、事業機会側面の開示や事業機会創出の取り組みが弱いことが多いとされます。まさに、縦割り分業制の弊害。統合思考が組織に根付かない限り本当のリスクと機会の対応は進まないです。

これが文字通りの組織の壁です。またESGの実務分類も、企業の中での役割分担上も混乱を招く原因の一つです。「ES」と「G」はまったく異なる概念ですし、「E」と 「S」そして「G」の推進担当部署はそれぞれ異なるからです。 サステナビリティ部門単体でEとSあたりは進められますが、Gは取締役や全社的な取り組みも多く、タッチできないGの領域が存在します。つまり厳密な話でESGを管理する部署がないと。もちろん、この課題を解決するために、社長を委員長とする部門横断のサステナビリティ委員会(ERG的な何かでもいい)と、サステナビリティ担当役員(サステナビリティオフィサー、CSO/CSuO)が存在するのですが、まだまだ実施している企業は少ないです。

結局、責任を取りたくないんですよね。経営者も取締役も。スタート時点で足りないのは人でもなく予算でもなく責任を明確にすることなのかもしれないです。文字通り、社会的責任を明確にするんですね。誰もがわかっていることになのに、縦割りの問題を解決するのは相当難しいです。

こうやって、サステナビリティ推進における組織の課題を考えてみると、サステナビリティの実態は「社会的な視点を取り入れた組織のトランスフォーメーション(≒SX、サステナビリティトランスフォーメーション)」なのかなと思います。多くの物事は作ることより運用するほうが難しい。外部環境は常に変化しているので、常に適した改善が回る仕組みになっていなければ、運用されている状態を継続するのは無理だから。継続するには仕組みが必要で、仕組みは組織的に実行することでもあります。

まとめ

サステナビリティ推進をする上で実務上の課題としては、かなり難易度の高い「組織の課題」について解説をしました。組織の課題は、明確になったところで解決策もなく途方にくれることも多いですが、改めて小手先のエンゲージメントや開示だけでは、サステナビリティが進まないことはご理解いただけたかと思います。

この組織の課題を認識したところで解決できない徒労感はかなり大変ですが、通常のサステナビリティ推進活動と同じく、中長期の目線で少しずつでも改善していくしかないのかなと思います。

結論、これから本格的な推進活動をする企業担当者は拙著『未来ビジネス図解 SX&SDGs』を読んで実務にいかしてください!(宣伝)

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