サステナビリティKPI

サステナビリティ/ESGのKPI

ここ数年、マテリアリティ特定からのKPI(重要業績評価指標)設定や、情報開示の重要項目から逆算して推進活動のサステナビリティ/ESGのKPIを決める支援をさせていただきました。その支援の中ででてくる質問や課題はだいぶ似ているなと感じてまして、この記事で気付いた点をまとめることにしました。

まず、そもそもの話をすると、サステナビリティKPIは、基本的な数十項目(CO2排出量・女性管理職比率など)以外は、たとえば同じ業界でも企業ごとに異なるサステナビリティKPIが設定されています。そのため基礎項目以外は、他社事例はあまり参考になりませんので考慮が必要です。

サステナビリティKPIは、マテリアリティに紐づく例も多いですが、マテリアリティにない項目をKPIとすることもありますので、自社の目標・戦略に合わせて基礎項目以外はKPIを独自設定しなければなりません。

というわけで、本記事ではKPI特定の方法から、気をつけるべき注意点などをまとめます。

1. サステナビリティKPIとは

サステナビリティ経営の目的は持続的な企業価値創出を実現することである、と認識しています。ですので企業としてどのように価値創造をしていくかを示すために、長期ビジョンを策定し3〜5年ごとのフェーズに区切って目標や課題を中期経営計画(マテリアリティ)などに落とし込んでいきます。中経をやめたと味の素が発表して話題になっていましたが、中長期の目標自体は普通に決めてましたし、普通の企業には中期計画は必要だと思います。

その中長期目標がKGI(ゴールの定量的指標)となり、そのKGIを実現するための目標がKPIとなります。で、そのKPIを、企業価値創造に関連する重要な財務・非財務目標として活動・開示をしていきます。これがKPIの特定と管理のごくおおまかな流れです。ですので、マテリアリティが特定されているのにKPIが決められていない企業とかたくさんあるのですが、私からすれば言語道断です。指標がないと意義のある活動なんてできませんから。

それと誤解もあると思うのですが、KPIを活動のゴールのように認識している企業があります。これは各社のサステナビリティKPIを見れば一目瞭然ですが、KGIとKPIを一つの表に並列に掲載していることがあります。これ絶対ダメなやつです。

当たり前ですが、経営目標に貢献しないサステナビリティKPIは意味がありません。つまり、KPIとは「ビジネスを成功させるための鍵となる数値目標」であり、まずは「この事業活動において成功とは何か」を決めなければなりません。この成功の指標化がKGIであります。

成功を定義せずに成功することはできません。当たり前なのですが、世の中には「成功した状態を定義できていないのに成功を語る企業が多い」のです。これ、いわゆるウォッシュです。つまり「ゴールがないマラソン大会」みたいなもので、地獄絵図になること間違いなしです。KGI決めてからKPI決めましょう。

統合報告書の「非財務ハイライト」などで、サステナビリティKPIっぽい指標を開示している企業も多いですが、あれあまり意味ないですね。KPIは文脈(目標・戦略・KGIなど)があってはじめて活きるものであり、単体では第三者に有用な数値にはなりえません。企業が出したい数値しか出さず、企業価値創出とどのように関連しているかわからない場合も見たことあります。非財務ハイライトの非財務指標の見せ方は工夫しましょう。

2. サステナビリティKPI事例

さて、サステナビリティ/ESGのKPI企業事例をいくつか紹介します。基本的には「サステナビリティ KPI」とか「ESG KPI」とかネットで検索してもらえれば、企業の開示がヒットしますのでそちらも合わせて確認してみてください。

サステナビリティKPI
出所:デロイトトーマツグループ(2022)「ESGデータの収集・開示に係るサーベイ2022」

サステナビリティKPI
出所:HULIC|重要課題に関するKPI/目標と実績

3. サステナビリティKPIの課題

課題はたくさんあるのですが、ここでは2点指摘させていただきます。「改善できない指標」「時間がかかる指標」です。

一つは、改善できない(コントロールできない)指標を設定してしまうことです。たとえば、日本の人口減少を自社が対応すべき社会課題群に入れている企業は多いですが、人口は一企業でどうにかなる指標ではありません。特にサステナビリティは非常に広範囲な課題(人口・貧困・健康など)が多く、ローカライズせず直接的なゴールにしてしまうと、コントロールできないKPIを設定してしまう、つまり改善活動ができないという意味のない指標となりがちです。

もう一つは、数値捕捉に時間がかかってしまう指標です。たとえば、CO2排出量は、計算式と基礎データがあれば先月の数字を出すこともできます。しかし、人的資本投資など結果の多くが表出されるまでに時間がかかるものは、先月の数値を管理することがあまりできません。かといって、毎月従業員満足度を調査しても有意義とも言えないので現実的ではありません。つまり、サステナビリティ推進活動におけるPDCAをまわしていくには、直近の数字が出せてそれを管理できるKPIである必要があります

御社のサステナビリティKPIは上記2点の課題を抱えていませんか?もしあれば、次のKPIの見直しの際に必ず変更してください。無駄なことを散々しておいて、サステナビリティ関連部門は予算がない、人が足りない、成果が出ない、とか言わないでくださいね?(ただ担当者のせいではない例もたくさんあるので、難しい課題ではあることは承知してます)

4. モニタリング機能としてのKPI

これも課題ではある「モニタリング機能としてのKPI」です。つまりKPIはただ測定すればいいわけではく、実際の活動に活かしてこそ意味があるのです、という話です。ですのでKPIは「アラートが出たらアクションするための指標」と言い換えることもできるでしょう。

たとえば、川のいくつかの場所で水量等をKPIとしてモニタリングしている場合、上流で増水しアラートが発せられれば、すぐに避難行動に繋げることができます。そのため、数値の変化を観察することがKPI(モニタリング)の目的ではなく、最適なアクションをすることが目的なのです。

一般的にKPIはゴールの定量指標であるKGIからブレイクダウンして作ることが多いのです。しかし指標をモニタリングしていて変化が大きくなった時にどうアクションするかまで決めていないことがあります。これではKPIを設定した意味がありません。

5. 目標設定の課題

これはKPIとしてと言いますか、KGIを含めてのサステナビリティ目標の設定のポイントです。以下の点に注意して、KGI/KPIを特定していきましょう。

■目標の陳腐化
サステナビリティは常にトレンドが入れ替わります。ですので残念ながら、半年なり1年なりの期間の具体的な目標を立てるということ自体が無意味な場合があります。結果、陳腐化した目標が残ったまま、期末を迎え、「本当にこの目標で評価していいの?」ということになるのです。

■不公平な目標
従業員が個人ごとに能力が異なるため、まったく同じ活動目標を立てても意味がありません。しかし、逆に個人の能力差によって目標を変えるとなると、同じ給与なのに能力の高い人は高い目標を、能力の低い人は低い目標を、背負うことになり明らかに不公平になります。これは実務に直結するKPIであれば特に起こりえます。

■手抜きの目標
最も深刻な課題が「達成度で評価をする」というKPIです。どれだけやれば100%なのかということが決めてしまえば、100%以上のことをする必要はないし上司に求められることもありません。もちろん100%を維持することに意味があるKPIがあるのも事実ですが、オペレーションを考えると新しい価値創出につながっているわけでもなく、かなり限定的な使い方しかできませんので注意が必要です。

まとめ

サステナビリティKPIについて色々と解説させていただきました。KPI自体は、関連書籍もたくさんありますので、何冊か購入してKPIの基本的な考え方を今一度振り返ってみましょう。

明確なゴール(KGI)が決まれば、手段(KPI)は自ずと決まります。もし、今、自社のサステナビリティKPIが正しいのかどうか迷っているのであれば、KPIが間違っているのではなく、KGIやマテリアリティ自体の設定が間違っている可能性があります。ゴールが不明瞭な状態でKPIを決めたら本当はいけないんですよ。

サステナビリティ推進もビジネスですから、「最小のリソースで、最大の成果を生み出す」が基本動作です。最適なKPIを決めて、成果に貢献するPDCAをまわしていきましょう。サステナビリティ推進で結果出して、社内外のステークホルダーを“ぎゃふん”と言わせましょう!

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