SDGsウォッシュ

SDGsとビジネスモデル

日本人はみんな大好きSDGs。書店にいけば専用コーナーがあり、TVコマーシャルでは「SDGs」「サステナビリティ」「カーボンニュートラル」などの表現が多様される時代です。

SDGsの認知度調査もだいぶ減りましたが、ウォッチしていると認知度90%を超えて「エコ」なみの認知度になりました。さて、これまたみなさんのご存じの通り、SDGsは2030年が達成目標年であり、2023年が折り返しとなります。

しかし…SDGsはネットではよく叩かれています。綺麗事ばかり言っているな、と。それはそうなのです。メディアも企業もSDGsをポジティブに語りすぎなのは私も気になっています。

そこで本記事では、SDGsについて私が最近感じていることをまとめます。前半では、関連調査の紹介もします。なお、個人がSDGsに向けた活動をすることではなく、あくまで企業経営におけるSDGsについてのまとめです。

SDGs関連調査

エン・ジャパン

・6割が「仕事でSDGsに関わりたい」と回答。関わりたい理由、第1位は「仕事でも社会貢献性を感じたいから」。
・半数が「転職先を選ぶうえで企業のSDGsに対する姿勢や取り組みを重視する」と回答。重視する理由第1位は「企業も持続可能な社会の実現へ取り組むべきだから」。
出所:『エン転職』1万人アンケート(2023年3月) 「SDGs」意識調査

エンワールド・ジャパン

・推進は、外資系企業は経営層、日系企業は専門部門が主管
・4割の企業がESG/SDGsの専門職を配置済、2割が専門部署・役職を増やす意向
・ESG/SDGsの推進部門、1位は「経営層」
・推進する上での課題は「リソース」や「評価・目標設定方法」
出所:グローバル企業 ESG/SDGs推進度調査

企業広報戦略研究所

・ESGに関する取り組みの認知経路では、「メディアの番組・記事」の接点が最も高い結果にメディアでの報道がESGに関する取り組み認知のカギ
・4割超の生活者がESG/SDGsの取り組みを認知後に行動具体的なアクションは「ウェブサイトの閲覧」(17.0%)がトップ
出所:生活者1万人を対象とした『2022年度ESG/SDGsに関する意識調査』結果

企業広報戦略研究所

今後重視する広報活動を見てみると、1位が「ESGやSDGsにおいて自社に期待される役割を把握・分析している」で、過半数が今後重視すると考えており、2位と4位にもESGやSDGsに関連する項目が入りました。こうした結果からも、近年重要度が高まってきているESGやSDGsが企業広報の業務テーマとして加わってきていることがうかがえます。
出所:上場企業を対象とした「第5回企業広報力調査」結果 広報担当者が今後重視する広報業務の1位は「ESGやSDGsにおいて自社に期待される役割の把握・分析」

Earth Company

回答した経営層・管理職のうち、47%が「自社の取り組みはグリーンウォッシュ・SDGsウォッシュになっていると感じている」と回答。また、48%は「SDGsやサステナビリティの重要性に共感していない」と答え、SDGsを理解し本質的に取り組むことに前向きな経営層・管理層は全体の約半分という結果になりました。
出所:日本SDGs後進国? 1000人の管理職への調査結果から日本企業の本音を読み解く

帝国データバンク

SDGsへの取り組みによる効果について、「企業イメージの向上」が37.2%でトップとなり、「従業員のモチベーションの向上」(31.4%)も3割台だった。総じて、SDGsへの取り組みによる効果を実感した企業は66.5%となった
出所:SDGsに積極的な企業は5割超に 取り組む企業の66.5%が具体的な効果を実感

損害保険ジャパン

この一年で、SDGsについて学ぶ機会があったのは全体の約60%で、特に10代は、80%以上の人が、SDGsについて学ぶ機会があったと回答しているのに対し、30代以上は、約半数の人が「学ぶ機会はとくになし」と回答しています。
出所:SDGsの達成や社会課題解決は誰がやる?「SDGs・社会課題に関する意識調査」から見えてきた傾向

SDGsのゴールはほんとにゴール?

SDGsはそもそも企業向けのフレームワークではないのですが(1社だけで世界の貧困解決はできない)、一番の問題はゴールと言っておきながら、ほとんどの企業にとってはゴールになっていない点です。

つまり、2030年目標って2015年時点では長期目標とされていましたが、2025年が目前の今はすでに中期目標となっており、2030年を課題解決のゴールとするには期間が短すぎるのです。ただでさえ、コロナで多くの指標が悪化しているのですから。

2030年に企業が解散するわけでもないのに、2030年ゴールが重要といわれても、なかなか対応が難しいというのも現状です。もちろん、中間目標として考慮すると言う意味ではとても良い枠組みだとは思いますが、ターゲットやインジケーターを見るかぎり、中期で達成できるレベルではないので最終的には、なぁなぁで終わると予想しています。

極論、SDGsが達成できたとしても、イコールで日本企業の業績が上向くわけではないですし、企業にとっては、SDGsはゴールではなくマイルストーン(中間目標)と考えたほうが自然だと思います。2016年の施行時から「達成できないけど目指すことに意義がある」という意見もありましたが、上場企業は特にビジネス成果が期待されているわけで、目指すことに意義があるという慈善活動的に投資しにくいし、やはり成果を求めない活動は、そもそも継続が難しいですよね。

SDGsには17の目標と169のターゲットがあるので、自社の事業に結び付けることは比較的容易ですがウォッシュ(見せかけだけの活動)になりがちです。本来、SDGsのゴールは、現状の積み重ねではできないことですが、現在の事業にSDGsの考え方をリンクさせることによって、自分たちの事業は正しいとSDGsの目標に沿った美しい話を、どんどん積み上げてしまうわけです。これはダメですね。

SDGsの実質的な定義

では、SDGsがなぜここまで普及したかというと、ひとつは社会課題を17のゴールに再定義できたから、だと思います。ゴール自体は昔から(MDGsの時代から)言われていたことですよね。「再定義」ってめちゃくちゃ重要です。現象を定義づけし言語化/見える化することで多くの人が認知できるようになるわけですから。

SDGsなどは複雑な社会現象や概念に対して言葉が定義されてバズワード化して広く普及しました。ただ、これは指摘する人が少ないですが、SDGsのゴールは一民間企業には主語が大き過ぎるのですよ。せいぜいESGで、しかしESGですら世界中でその定義が批判すらされ始めてるから、より細分化してカーボンニュートラルとかビジネスと人権、とか個別の概念で整理すべきと思います。

国連がSDGsを定義しまとめあげたこと自体は素晴らしいことですが、「持続可能な開発」って結局は人間のためなのですから、自国や自社が不利になるような定義・解釈はしないよねという。こうやって、グローバル・ルールと見せかけた、国連ルール・欧州ルール・米国ルール・日本ルールみたいな、微妙なローカルルールができて、定義が細分化されてしまっているのであります。誰が収拾するねんこれ。

SDGsは達成できるの?

これまで人々は歴史の中でさまざまな社会課題をビジネスの力で解決し、人々の暮らしをより豊かにしてきました。これは事実です。しかしすべてではありません。これまでビジネスで解決してきた社会課題の多くは、経済合理性が高く自社のみで解決できる課題が中心です。その結果、今の地球には、経済合理性が低く自社だけでは解決できない壮大な課題が沢山残されてしまっています。

まさにこれらの集合体がSDGsです。当たり前ですが、今まで解決できなかった社会課題なので、解決するには相当の努力が必要です。企業だけではできないのでNPOや自治体・政府との連携も必要ですし、どのようにロジックモデルを見せられるかが重要。規制(法律)も必要です。

2016年当時から言われていましたが、SDGsの達成度でいえば、コロナやウクライナ紛争などの影響もあり、100%不可能でしょう。世界中がトランスフォームすれば達成できるとしていますが、これが難しく、みんな四苦八苦しているという。貢献度という視点であれば色々と関わりを示せる企業もありますが。

ここで問題は、いまだにSDGs関連のフォーラムや大型セミナーなんかを民間会社がやっていることです。有識者やソーシャル・スタートアップ経営者が語るだけで、何の課題解決にもなっていません。宣言や啓蒙より行動が重要って、SDGsの生みの親(国連の偉い人たち)が言ってましたよ。あなたには聞こえてませんか?無駄とは言いませんが、このままでは文字通り達成は難しいでしょう。SDGsの目標未達成が決定的なのが現実である以上、日本政府や企業はこの未達成の問題に向きあって、本当にすべきことは何かを真正面から考え行動することだと思います。

企業が表面的な活動しかしないから、SDGsがネット散々叩かれているのではないですか。これは、私を含め、コンサルティング企業もメディアも事業会社も、みんなが考えを改めて、本気で行動する(成果を生み出す)方向に進めないと、と考えています。未達なら未達なりに社会に貢献する方法を考えましょうよ。

今後もSDGsは有効なのか

SDGsも15年間が実施期間なのですが、これだけ社会の変化が大きい時代に15年同じ目標ってどうなのという議論もあります。2010年代前半では重要な社会課題ではあったけど、10年近くたったらやや不適格というか、17のゴールが古くなっているというか、社会課題をMECEできていなくて抜け漏れた社会課題の議論が別枠で語られるというもの、これはこれで問題だったりします。2015年に設定されたこれらの課題が未来の課題の全てとは限りませんし。SDGsの課題は、17のゴールなど社会問題を単純化しすぎている側面もあります。

SDGsの169のターゲットは普遍性のある項目も多いですが、2015年に設定されたこれらの課題が未来の重大課題とは限りません。2015年にコロナ感染症を予想できなかったように、他にも規定されない重大課題がでてくるでしょう。(17のゴールは抽象的なので包括できますが)

ちなみに、SDGsの有効性だけを喧伝する民間や自治体の「SDGs認証および登録」は、その団体に認められただけで、社会やステークホルダーから認められたわけではないから気をつけましょう。認証企業の活動と開示がSDGsウォッシュであることなんてこれでもかとありますから。

ただ、金融機関のSDGs認証や登録制度は良いかなと感じています。金融機関のSDGs認証をとっておくと、資金調達が優遇されたり、認証企業コミュニティでネットワークが広がったりというビジネスメリットもあるので、SDGs推進のためというより、経営の総合力を高めるという視点で活用するのがベストですね。

SDGsとビジネスモデル

SDGsウォッシュでいえば、フリーライダーの問題もあります。「SDGsをビジネスチャンスに!」と言っている企業は、その活動で得た利益を社会・ステークホルダーに還元しているという話はあまり聞きません。自社で消費して社会に還元しないというSDGsのフリーライダーな企業が一定数あります。特に「SDGsコンサルティング」を掲げている企業がフリーライダーになりがちです。気をつけましょう。

SDGsに取り組むなら、まずは自社のやってきたこと(負の影響)を見つめ直し反省して悔い改めるところが出発点だと思うのです。しかし多くの企業が「こんな素晴らしいことを始めました!」をスタート地点にしてPRしてるのは典型的なSDGsウォッシュと思っています。

また、SDGsの課題は、企業主導で解決に貢献できる課題もあれば、政府やNGOが主となって解決すべき課題もあります。一企業ですべてのSDGsの目標に貢献することなどできないし、そうする必要もありません。自社のビジネスモデルの社会的インパクトをきちんと考えましょう。

SDGsなど、すでに決まった国際ルールに違反するのは避けるべきですが、すべてのサステナビリティ推進活動をSDGsの視点で考える必要はありません。169のターゲットに入らないサステナビリティ推進活動だとしても、それが社会やステークホルダーのためになるものであれば実行すべきです。

だからといって、SDGsの「18番目のゴール」とか、三方よしではなく「四方よし」とか、表現はなんでもいいいからやることやってください。17のゴールに貢献すらできていないのに、18番目ばかり目指してどうするのさ。

みんなはひとりのために

SDGsだと17のゴールが注目されがちですが、ビジネスセクターに有効なのはSDGsのコンセプト(スローガン)だと考えています。たとえば、SDGsの「誰も置き去りにしない(Leave no one behind)」というコンセプトがあります。ただ日本の文化的に理解が難しい側面もあるのかなとは思います。日本人的に理解しやすいであろう近いコンセプトとして「みんなは1人のために(All For One)」があります。たとえばSDGsの社内浸透(インターナルコミュニケーション)では「みんなは一人のために」を使うのもありです。結局、社会課題の当事者の1人にどこまで寄り添えるか、は重要ですね。

たとえば、数万人の方が亡くなってしまった大規模な自然災害があったとします。その時に「数万人がなくなった1つの自然災害」ではなく「1人が亡くなった事故が数万件あった自然災害」というような捉え方です。例えが微妙で恐縮ですが、数字の向こう側にある当事者性を想像することの大切さを考えさせられますよね。

誰も置き去りにしない。SDGsはこう言いますが、企業はビジネスにおいて本当に「1」にリアリティを感じて活動できているかというと難しいところです。今本当に思うのはSDGsは17のゴールの前に、コンセプトである「誰も置き去りにしない」を意識すべきです。ビジネスと人権とか、まさにこの話ですよね。

あとは、個人にフォーカスするならば、社会課題に持つべき意識としては「すべての人が被害者であり加害者でもある」という点です。社会やステークホルダーと接点がない人間は誰一人としていません。物事の多くは、完全に善悪で分けられるものではなく、グラデーションがあるのが普通です。ですので、個人も企業も、正の側面と負の側面があることおベースとして、視点が偏らないよう考えを整理したり活動をしていきたいですね。

まとめ

最近、私が感じているSDGsに関する視点をまとめました。前半のSDGs関連調査も興味深いものもあるので、気になるものは詳細をチェックしてみてください。

SDGsが日本のビジネスセクターに与えた影響は、良くも悪くも大きいものだと思います。特にサステナビリティ関連が盛り上がり始めてきた時にちょうど登場し、ベストなタイミングで登場したSDGs。本当にタイミングが絶妙でしたよね。これが5年前の2010年に発表されていたらMDGsと同じ道を辿ったことでしょう。

前述したようにSDGsをSDGsだけに限定せず、様々な視点でビジネスに活かしていただきたいです。というわけで今回は以上です。

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