CSRと広報の接点と課題
最近、CSR/SDGs広報関係の相談が多いので、広報担当者にもCSR担当者にも、前提知識として知っておいていただきたい内容をシェアします。
私のお客様は、以前から広報(コーポレート・コミュニケーション)部門の方が多いですが、非財務情報開示だけではなく、既存の広報活動に、よりCSR的な要素を組み込もうとする企業が増えている印象があります。今後も統合思考の名の下に、CSR報告書やCSRウェブコンテンツ以外でも、CSR的な情報発信は今後もされていくでしょう。
そこで本記事では、CSR広報に必要な“3つのポイント”を紹介します。3つのポイントとは「受益者を明確にする」「“伝わらない”を知る」「ステークホルダーエンゲージメント」です。順に説明します。
1、受益者を明確にする
最近は、CSR的な広報カテゴリの認知が上がっています。ワード的には「CSR広報/CSR広告」「SDGs広報」「ESG広報」「サステナビリティ広報」「社会課題解決型広報」「社会課題解決型PR」「社会課題解決型広告」あたりでしょうか。とはいえ、どれもごくたまに見かける程度のものではあります。これらでいうと、広報というよりコミュニケーションやパブリックリレーションズというとイメージがわきやすいかもしれません。
そこでの問題は、受益者は誰か、が省かれがちな点です。
CSRでは「主語」と「受益者」を明確にしなければなりません。これは活動でも情報開示/コミュニケーションでも同じです。CSRは抽象的な概念であるため、意識しないと主語(企業自身)は明確であっても、どこにいる・どの受益者(ステークホルダー)に貢献できるのか、という視点が曖昧になってきてしまいます。
たとえば、CSR界隈ではよく「社会に貢献する」という表現を使いますが、企業と同じで社会というのは厳密には存在しません。人々が集まった集団等の総称にすぎません。社会という存在と握手したり会話をしたりすることはできません。つまり、社会という実態がないものに貢献すると言っても、その言葉に大した意味はない、ということです。
広報ではステークホルダーごとに言葉を選ぶ必要がありますので、どこにいる・誰に・どんなことを・どうやって伝え・どんなリアクションを期待するか、まで設計して実践していきましょう。
2、“伝わらない”を知る
ストーリーテリングとか、内面をうまくまとめて開示する手法もあり勘違いしてる人が多いのですが、企業の内側(動機)なんて、ステークホルダーにはわからないんですよ。たとえば、人間でも同じで、夫婦や親子でさえ最終的には他人であり、10年単位で会話をしてきた関係性であっても、相手の気持ちを100%知ることはできませんよね。
そうなると結局のところ“他人から見える言動”が大事ということになり、企業は広報に予算をかけると。何を考えてるかよりも、何をやったかを言うことが、ステークホルダーの理解を進めてくれる、と。
それはそれでいいのですが、何をどうやっても“伝えられない”部分があります。この状態をCSRでいうと、以下のような課題になると思います。
・ビジネスモデルとステークホルダーとの関係性が認識されてない
・ステークホルダーへの価値提供が客観的に示されていない
・企業とステークホルダー間の利害調整について考慮がなされていない
つまり、ステークホルダーに“当事者意識”を持ってもらえるようなコミュニケーションができていない、ということです。前述した「主語と受益者」の話ではないですが、CSR活動の成果を明確にしておかないと、誰も当事者にならないままことが進んでしまい、またその活動報告が曖昧なままされてしまうと。
そう考えると、CSR評価の高い企業には熱意のあるCSR担当者の方が“必ず”いるので、オーナーシップって大事だなと改めて思うわけです。CSRの話題は伝わりにくいと知っているからこその工夫が必要です。
3、ステークホルダーエンゲージメント
特に広報部門の方は「パブリックリレーションズ(PR)」の考え方は熟知されていると思いますが、CSR広報に必要なのは「ステークホルダーエンゲージメント」です。概念自体は非常に近いものですが、後者はよりステークホルダーという視点を重視しているのが特徴です。
CSR活動は、そもそもステークホルダーがいないと成り立たないものです。たとえば、社会貢献性の高い技術や仕組みをもっている企業があったとしましょう。でもその存在だけでは意味がなくて、顧客というステークホルダーがいてはじめて「そのサービスを買う」というエンゲージメントが成立するといったものです。
ステークホルダーエンゲージメントという考え方がなぜ重要なのかというと、企業と社会との間にある登場人物(ステークホルダー)と、新たな関係性を構築(エンゲージメント)することによって、はじめて価値が生まれるという視点を提供してくれるからです。
もう一ついうと、企業とステークホルダーの関係性に終わりはなく原則として続くものです。ですので、広報を単発ではなく、ステークホルダーとの関係性を深められるような、中長期的な視点が必要になってきます。
日々の広報活動に中長期の目線を提供し、視線を強制的に上げてくれる(上を向いて歩こう、です!)考え方がステークホルダーエンゲージメントでもあります。そういう意味では、CSR広報と通常の広報の差って何か特別なものではなく、視点の違いだけなのかなと思います。
まとめ
私は広報そのものは専門ではないので深く言及しませんが、広報関係の方にも、CSR関係の方にも、どちらの視点でも実践のきっかけになればいいなと思いまとめました。
CSR情報開示は国際的なルールがありますが、広報は基本的に自由なので、CSR視点ではできなかった自由な発想と開示が広報文脈では行えます。
あと、CSR広報でいえば、実社会では“正しい意見”が通るとは限らない、というのもあります。どんなに自社の活動が社会的正義であっても、ステークホルダーがそれを正義と認知するかは、また別の問題であるのです。企業とステークホルダーの利害が一致したからといって、イコールで価値が生まれるわけでもありません。あー、大変。
今回紹介した3つの視点で、貴社の広報活動およびCSR情報開示のレベルを上げるヒントになれば幸いです。
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