サステナビリティトレードオフ

サステナビリティは矛盾ばかりである

サステナビリティは矛盾ばかりである。サステナビリティ推進派の方がこのような主張を聞けば、そんなことはない、というのでしょうが、現実問題として矛盾が多いのも事実です。

私も企業様のサステナビリティ推進を支援する立場であり、20年近く活動をしてきている者なのですが、「サステナビリティ推進におけるトレードオフ問題」は、多くのコンサルタントが言うほど簡単な問題でもなく、20年前から残る大きな課題の一つです。

で、みなさんこう思うはずです。ではどうしたらトレードオフが乗り越えられるのかと。最近『サステナビリティ戦略の実装』という書籍を出版しまして、研究・執筆のために50社以上のインタビューをしてきたのですが、その中でこのトレードオフを解決できるかもしれない気づきを得たのでまとめたいと思います。トレードオフの解決方法は一つではないし、また企業ごとによって異なると思いますので、一つの参考情報としてお考えください。

トレードオンは実現できるのか

2026年現在の状況について簡単に振り返ります。2020年代前半は、サステナビリティ・ESG・SDGsが非常に盛り上がり、あらゆるセクターやステークホルダーが対応を進めてきました。しかし2020年代半ばにむけて、特に2022〜2023年あたりをピークにあらゆる数値が悪化します。以前からありましたが「サステナビリティ/ESGのブームは終わった」という主張が一気に増えました。

私の感覚では、サステナビリティ施策が衰退しているわけではなく、サステナビリティを考慮した現実主義になっているだけのようにも見えます。つまり、企業価値向上をはじめとする財務インパクトに貢献するサステナビリティ施策にシフトしているという形です。社会正義としてのサステナビリティ推進は落ち着き、事業成果に貢献するサステナビリティを事業視点で考えるようになることはよいことなので、これ自体は悪い発想ではありません。

サステナビリティ経営の本質的課題として「経済的価値と社会的価値との両立」があります。論点としては大きく2つ。「経済性は高いが社会への負の影響が一定レベルある事業」と「社会的価値は高いが経済性が低い事業」といった、トレードオフをいかにマネジメントするか、というものです。ここで言う「トレードオフ」とは、二つの概念が両立困難で相容れない関係性を指します。

トレードオフ課題の解決って根性論が多いのです。トレードオン(経済的価値と社会的価値との両立している状態)もですね。自社事業がトレードオンになれば理想ですけど、目指してできることかというとそうでもないのです。主要事業をトレードオンにできる企業もゼロではないのですが、そんな事業があったとしても事業規模が小さいプロジェクト単位のものだったりします。もしくは非上場の中小企業など組織規模が小さい会社か。

「『と』の力」

『と』の力」という考え方があります。この考え方は、私の師匠である(勝手に尊敬しているだけ)渋沢健さんが、渋沢栄一『論語と算盤』を語る時などに説明する話です。つまり「利益か環境」という二者択一ではなく、「利益と環境」のどちらも重要視するというものです。渋沢栄一は以下のように言っています。

極力仁義道徳によって利用厚生の道を進めて行くという方針を取り、義理合一の信念を確立するよう勉めねばならぬ。
(できるかぎり社会正義のための道徳によってビジネスを進めていくという方針をとり、義利合一の信念を確立するよう努力すべきである)
※渋沢栄一「論語と算盤 第4章仁義と富貴:義利合一の信念を確立せよ(P145)」

私の愛読書の渋沢栄一『論語と算盤』でいえば、論語(倫理)が先か、算盤(利益)が先か、という二律背反にするのではなく、倫理的な利益を稼ぐビジネスモデルこそより多くのステークホルダーに貢献できるのではないか、という主張です。この、融合と言いますか統合した考え方が「『と』の力」です。現代的には「統合思考」の一つとして言えるのではないでしょうか。

企業は営利を目的とした組織であり、特に上場企業となれば業績を落としてまでサステナビリティ推進をすべきではありません。ですので、ビジネスモデルと統合できないサステナビリティは、進めたくても現実的に厳しいというのが企業側の本音でしょう。

それこそ、業績が悪い企業や、投資家やステークホルダーの圧力が小さい業種では、サステナビリティ推進はあまり見られない傾向もあります。「それどころではない」です。3年で会社が倒産してしまうかもしれない状況で、30年後のための投資はできません。ですので、中小企業のサステナビリティ推進が鈍いのはリソースだけの問題ではなく、構造的な問題だとも思います。サステナビリティ推進活動は短期的には必ずコストになるため、すべての企業のリソースが有限である以上、成長投資以外の領域は疎かになりがちです。非常に難しい課題です。

経済合理性との戦い

サステナビリティ推進活動のすべてに経済合理性があるわけではありません。そのため法律で規定された領域を最低限として進める企業が多いのです。リスク管理を含めて事業機会創出につながりにくい活動をサステナビリティ推進活動としてしまえば、トレードオフしか成立しなくなります。

ではいかにトレードオフを乗り越えればいいのか。一つの解としては「トレードオフを乗り越えられる仕組みにトップがコミットメントをする」です。トレードオフはサステナビリティ推進の構造上必ず起きてしまう問題です。乗り越えるには、コストやリスクを一定レベルで許容しなければなりません。つまり、成長投資としてサステナビリティ推進をビジネスモデルに構築できるかがカギになります。また、短期でみればコストではあるものの、高い確率で将来の財務インパクトに貢献しうるのであれば、ストリー(プロセス)を明確にして、社内外のステークホルダーに示すしかありません。この時間軸の整理と開示が重要です。

■トレードオフを乗り越える3つのポイント
1. 現場が利益を最優先しない意思決定の仕組みを作る(コスト/リスクの「許容度基準」を作る)
2. 経営理念実現や企業価値向上という最終目的を明確にする(コストではなく成長戦略への投資と考える)
3. 長期的な利益創出施策を短期投資効率だけで判断しない(短中長期それぞれの成果の時間軸を整理する)

ただし、これらも、一つの考え方・手段でしかありません。究極的には、トレードオフを乗り越えるにはイノベーションしかありません。トップのコミットメントだけでは不十分です。しかし、イノベーションはそんなに簡単に起こせるものではありません。ですので99%の企業はトレードオフを乗り越えられないのです。これは私だけではなく、前述の渋沢健さんもイノベーションの重要性を訴えています。

まとめ

サステナビリティ経営の課題とは、トレードオフの問題でもあります。とはいえ、トレードオフを解決するのは非常に難しく、私がサステナビリティ経営推進の支援を始めたころ(2009年)から、ほとんど進展がない企業も多いです。

社会性(社会正義)だけでは企業は前に進めません。これは永遠の課題ではありますが、逆説的ですが、トレードオフを解決できるビジネスモデルを作ることができたら、最強の企業になれると思いませんか?これを目指している企業も多くあります。私は、一人のサステナビリティ・コンサルタントとして、様々な取組みを行う企業事例をX(旧Twitter)で発信していますので、こちらも参考にしてみてください。

余談ですが、このあたりの経営哲学の学びとして、私は『論語と算盤』を強く推奨しています。サステナビリティ推進担当者の皆様の思考の助けになるかもしれません。とはいえ『論語と算盤』が難しくて挫折した方も多いと思います。最近、全文の口語翻訳の書籍が発売されましたので、こちらから入るとわかりやすいです。以上ご参考まで。自称『論語と算盤』のエバンジェリストより。

◯参考文献
・渋沢栄一『論語と算盤』角川ソフィア文庫
・守屋淳:訳『詳解全訳 論語と算盤』筑摩書房

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