サステナビリティ社内浸透

サステナビリティの社内浸透には目的が必要

サステナビリティ推進における社内浸透は、多くの企業にとって課題であるにも関わらず抜本的な解決方法もほぼなく、大きな課題感を持っている企業担当者の方も多いのではないでしょうか。

法政大学でサステナビリティの社内浸透の研究をしていて、その時に先進事例インタビューを通じて感じたのが「目的の重要性」です。もちろん、目的・目標のないビジネスはビジネスはないわけですが、サステナビリティの概念自体は抽象的で、目的・目標を明確にしていない企業も多いです。しかし先進事例では、目的を明確にし、中長期の視点で取り組みを進めていました。

ですので、ここで改めて「目的・目標・手段」のフレームワークで情報を整理して、サステナビリティの解像度を高め、より成果を生み出せる取り組みの参考にしていただければと思います。

社内浸透を定義する

まず、概念の整理をさせてください。あなたは「社内浸透とは一言でいうとは何ですか」と聞かれ、どのように答えるでしょうか。文字通りの辞書的な意味は以下のとおりです。

(サステナビリティの情報、習慣、考え方が)社内に浸透した状態やその取り組み
※浸透:[情報・習慣などが]人々の間に行きわたること(三省堂国語辞典・第八版)

これを否定する人はいないはずです。しかし、この辞書的な意味合いで社内浸透を理解していると、社内浸透は絶対にできません。解像度が低く、実務的ではないからです。私はこの3年間の研究の中で見出した定義は例えば以下のような考え方になります。

■これからの社内浸透の定義
・目的達成のために従業員を巻き込む組織変革プロセス
・サステナビリティ戦略の実効性を高めるための情報伝達プロセス
・持続可能な未来に向けた行動変容のトリガーとなる対話

つまり、サステナビリティにおける社内浸透とは「サステナビリティ戦略を組織に実装させるプロセス」であるということです。ですので、従業員向けの研修・ワークショップ・イベントでサステナビリティの概念を周知する“だけ”の活動は、厳密には社内浸透ではない可能性もあります。社内浸透を狭義の意味(辞書的な解釈)で考えるのではなく、組織のマネジメントシステムの中でとらえ、その機能を構築していくことが社内浸透の本来的なテーマであると考えます。

社内浸透の大前提

さて、前述したように、そもそもの社内浸透の定義を明確にすることが重要です。そして、社内浸透を進めるためには、何よりもまず「目的・目標・手段」を考える必要がある。これは私の結論です。細かく分解すると以下のようになります。

■目的(Why)
・サステナビリティは何のために行うのか
・サステナビリティを推進する理由は何か
・社内浸透で誰の何を変化させたいのか

■目標(What)
・目的を達成するために何を目指すのか
・目的を実行対象として具現化したものは何か
・何を「あるべき姿」と設定すべきか

■手段(How)
・目標を達成するために何をすべきか
・どのような取り組みを行うべきか

この問いを立ててから、社内浸透の企画をしていますか?まさかいきなり研修やeラーニングの企画を作り出してないですよね?

手段の目的化を防ぐ

これは我々コンサルタントや研修教材事業者が悪い側面も大きいのですが、社内浸透がいきなり HowTo の話から始まるのが非常によろしくないです。「社内浸透=研修」もしくは「社内浸透=コンテンツ作り」のようになってしまい、目的の議論が見えないことが多く、それで成果が出ないと言ってもしょうがないのかなと思います。

サステナビリティもそうですが、社内浸透も実施をしようとした理由があったはずです。何かの経営課題を解決するために。社内浸透というと、研修かツール作りをまっさきに考えてしまう企業が多いのですが、関係者の方には申し訳ないですが、これらどうでもいいことです。目的・目標が決まれば、我々コンサルに頼まなくても、自ずと取るべき手段が見えてきます。「社内浸透のために何をすべきかわからない」という状態であれば、それは目的・目標がないという証拠になります。

何度も言うように、目的・目標が決まれば「何をすべきか(HowTo)」の選択肢は絞られるので、あとは選ぶだけです。社内浸透の手段自体は何百パターンもないので、難しい話ではありません。手段から社内浸透施策を考えるから「手段の目的化」が起きるのです。手段の目的化は百害あって一理なし、です。適切な目的設定こそが、手段の目的化の回避につながります。

これも言うと企業担当者様に怒られそうですが、社内浸透の効果がでないというのであれば、それは効果がでる施策が行われていないだけではなく、そもそもその効果測定自体の定義が曖昧だったり、測定不可能な夢物語であったり、KGIが設定されていないKPIである、などがあるのです。

私の研究の全てが正しいとは言いませんが、結局、「サステナビリティ戦略の実装をするための社内浸透施策になっているか」を、どれだけ突き詰められるかがポイントだったりします。サステナビリティ戦略の実装や組織変革(行動変容)はとても難しいということをご理解いただけたかと思います。

目標設定の解像度が低い

ちなみに、ここでいう目的は、多くの場合「企業価値の向上」か「経営理念の実現」の2点のみです。ここが最終的なゴールになります。ただ、この目的を達成するためには、多くのプロセスを辿る必要があるため、目的を実現するための目標が重要になるのです。サステナビリティ戦略のように「風が吹けば桶屋が儲かる」理論に近いものこそ、そのプロセスの可視化と制度化が求められます。

では目標はどのように考えれば良いか。従業員視点でいうと、目標の定量的成果ではなく、なぜその目標になったのか、なぜその目標が目的達成にどう貢献するのかという「意味」を理解してはじめて腹落ちします。従業員が、その目標をなぜ追うべきのか、達成するとどのステークホルダーがどう喜ぶのか、を理解していない状態で掲げられた目標は、どれだけ正しくても達成されない可能性が高いです。従業員からすれば、その目標達成に一生懸命になる意味が理解できないからです。多くの従業員は、社内浸透のやり方を知りたいのではなく、社内浸透の意味を知りたいのです。正論が正解とは限らないとはこのことですね。

人間は納得していないことには本気になれないし、腹落ちしていない目標はただの作業指示になります。逆に、目標の背景や意義が腹に落ちた瞬間、行動量も質も一気に変わる可能性があります。授業員ひとりひとりに、自分ごと化が起き主体性が生まれ、チーム全体の浸透スピードが上がる。だからマネジメントの仕事は「目標を決めること」ではなく「目標の意味を伝え切ること」であると考えます

目標数値の説明ではなく、目的を達成するために目標があることを説き、ストーリーで伝え、未来像を示し、なぜ今それをやるのかを徹底的に共有していきます。意味のない目標は誰も追わないし、逆に意味のある目標達成のムーブメントは誰も止められません。目標達成自体が従業員のモチベーションとなりうるのです。ですので、サステナビリティの社内浸透では、「問題の解き方」を教えるのではなく「問題自体の解像度を上げ、その背景」を教える必要があるのではないでしょうか。

目的を動機にする

動機の話をしましたので「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」にも少し解説します。内発的動機づけとは、文字通り人間の内側から湧き起こる、興味関心、やりがい、成長意欲、などを指します。逆に外発的動機づけとは、評価・制度や報酬、罰則など外的要因による、行動の動機づけを指します。社内浸透の文脈では、自分ごと化(当事者意識の醸成)が注目されるので内発的動機が重要視されがちですが、社内浸透の先進企業では外発的動機となる制度やアウトプットの設計も充実している傾向がありました。従業員個人の精神状態に依存しすぎない仕組みも必要なので、結論どちらも重要という話であります。

行動の動機は多くの場合内発的なやる気を指しますが、これに頼っていたらいつまでも前に進めません。やる気を言い訳にしない仕組みが必要です。その仕組みを私は「目的と目標」「ルール」であると考えています。ここで言うルールとは、従業員としてのあるべき姿、行動規範、人事制度などと思ってください。とはいえ、実践と実装はそんな簡単な話ではありません。
そもそも人間は変化に対するモチベーションは低いわけです。変化とは、現状の何かを否定することでもあるので、わりとつらいです。仮に変化の先によりよい職場環境等があったとしても、目の前のエネルギーが必要な変化には二の足を踏んでしまうものです。これが普通です。社内浸透で、行動変容や組織変革を目指すのはいいですが、その道のりは多くの人にとって大変なことであるという前提は理解しておいてください

「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」に両方効く、動機の根源的要素もあります。それがまさに目的です。ですので、組織のパーパスの個人のパーパス(マイパーパス)の統合、みたいな施策が流行るのでしょうね。ちなみに、マイパーパスを定めたところで多くの課題解決には至りませんがその話はまた別の機会に。マイパーパスを真剣に考えた結果、組織のパーパスとの乖離に気づいてしまったり、組織にマイパーパスのゴールがないと気づいたり、それらの結果転職を考えたりしないといいですね。

まとめ

サステナビリティにおける社内浸透を推進し、サステナビリティ戦略を実装するという中では、目的と目標が重要になるというお話でした。

目的・目標・手段の全体最適こそが成果の最大化につながると信じているのですが、本当に多くの企業で手段の話しかされないのは、現代における大きな問題だと思っています。もちろん、企業だけではなく、コンサルティング等で事業会社様の支援をする方も含めて、この何十年も抜本的な解決がされていない社内浸透の課題解決に動いていきましょう。

ちなみに、拙著『サステナビリティ戦略の実装』では、事例や目的・目標に関して深掘りして解説しているので、ご興味がある方はぜひ購入してください。また、サステナビリティの社内浸透に関わる企業担当者の方のコミュニティも運営しています。こちらもご興味があれば、以下から内容をご確認くださいませ。

北田皓嗣,安藤光展(2026)『サステナビリティ戦略の実装:組織行動を促す社内浸透の設計学』千倉書房

2026年度 サステナビリティにおける社内浸透研究会

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