GPIFが評価するサステナビリティ情報開示
サステナビリティ推進担当者にとって大きな課題の一つが「投資家に評価される情報開示」ではないでしょうか。
投資家と言っても様々な投資家がいるわけですが、日本で最も影響力を持つ組織の一つであるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の動きはよく話題になります。ですので、本記事ではGPIFがどのような開示を評価しているのかをまとめました。(厳密に言うとGPIFが委託する運用機関の評価ですが便宜上GPIFとします)
これらの調査結果から、実際に投資サイドが企業の何を見ているかがわかります。今後のサステナビリティ情報開示におけるベンチマークや開示のヒントとしてください。
優れた統合報告書
■3機関以上の運用機関から高い評価を得た「優れた統合報告書」
伊藤忠商事、日立製作所、オムロン、リコー、東京海上ホールディングス、味の素、積水ハウス、アサヒグループホールディングス、キリンホールディングス、三井化学、三菱UFJフィナンシャル・グループ、MS&ADインシュアランスグループホールディングス
加えて、本発表資料には「統合報告書をどのように企業分析や企業との対話に活用しているか」ということで、運用受託機関のテーマごとへのコメントもまとめられていますので、良事例の抽出だけではなく、このあたりも確実にチェックしておきたいです。
要は、統合報告書の意義は、サステナビリティ関連財務情報開示であり、投資家とのコミュニケーションツールでもあるわけです。たとえば「ビジネスモデル・価値創造ストーリーの理解」という項目では以下のような意見が出ていました。
企業理念・ビジョン・歴史の確認を通じて、企業がどのような価値観に基づき経営されているか、また様々な時代を通じてどのような成功と失敗を重ね、その結果として現在のビジョン・事業ポートフォリオを有するに至ったかを確認している。
企業評価の観点では、長期的な企業価値創造に向けて、外部環境や内部要因の重要要素を踏まえて、企業経営が有機的合理的に組み立てられているかを確認する。
任意開示資料である統合報告書については、経営トップの経営戦略や各企業のビジネスモデル(儲ける仕組みであり、利益創出の源泉)を理解する媒体として重視している。
出所:GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」(2023年2月発表)
重大なESG課題
今回、「人権と地域社会」が新たにパッシブ運用機関全社から重大なESG課題として挙げられました。欧州各国では現代奴隷法が施行され、人権デューディリジェンスの義務的要請がなされています。その結果、サプライチェーン上の取引先や顧客にあたる企業から人権配慮を要請される事例も見られます。ケースによっては、レピュテーションリスクを超え、より直接的な経済的影響を受けるリスクも高まっており、海外と取引のある日本企業にとっても重要な課題になっていることが窺えます。
また、今回の調査では、新たに、アクティブ運用機関全社が「気候変動」及び「資本効率」を重大な課題として捉えています。この結果、「気候変動」は、パッシブ、アクティブ問わず国内株式運用機関全社が重大な課題と認識していることが分かりました。一方、「情報開示」と「気候変動」以外は、パッシブ運用機関とアクティブ運用機関で重大と考える課題が異なっており、アクティブ運用機関は、「取締役会構成・ 評価」、「少数株主保護(政策保有等)」、「資本効率」といった G(ガバナンス)の課題をより重大なESG課題と認識し、パッシブ運用機関は「ダイバーシティ」、「サプライチェーン」、「不祥事」などの E(環境) や S(社会)を含め幅広く、長期的な課題を重大なESG課題と認識していることはこれまでと同様です。
出所:GPIF の運用機関が考える「重大な ESG 課題」(2023年3月発表)
優れたTCFD開示
■2機関以上の運用機関から高い評価を得た「優れたTCFD開示」
キリンホールディングス、日立製作所、リコー、伊藤忠商事、三菱UFJフィナンシャル・グループ、商船三井、アサヒグループホールディングス、みずほフィナンシャルグループ、九州電力
圧倒的ナンバーワン評価のキリンホールディングスの評価コメントを、以下でいくつか紹介します。
リスクが発現する期間を短期、中期、長期でしっかり押さえた上で戦略に落とし込んでいる点に好感を覚える。特に気候変動に関する各課題に関してここまでやるかと思わせる徹底した深掘は、他社の模範となる水準にあり高く評価。
全要素について、取り組み内容に加えて直近1年での進捗を記載しており、変化がとらえやすい。財務インパクトも詳細に記載されており、将来の企業価値への影響が評価しやすくなっている。
リスクと機会を短期・中期・長期に分け て整理しており、財務インパクトの説明では具体的な適応策と緩和策を記載する等、随所に工夫がみられる。
出所:GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れたTCFD開示」(2023年3月発表)
注目の資料
GPIFのESG関連の取り組みがわかる資料も合わせて紹介しておきます。
■2022/23年 スチュワードシップ活動報告(2023年3月発表)
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/stewardship/2022stewardship_report.html
■2021年度 ESG活動報告(2022年8月発表)
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/esginvestments/2021_esg.html
■YouTube動画「10分でわかるGPIF」シリーズ(2022年12月発表)
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/esg-youtube.html
■第7回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果(2022年5月発表)
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/stewardship_questionnaire_07.pdf
まとめ
本記事では「統合報告書」「ESG課題」「TCFD開示」の3点についてまとめました。確かに高評価企業の開示を見ると、そのレベルの高さを感じます。特に報告書・レポート・ウェブサイトの制作会社の方は確実にチェックしてください。
統合報告書に関しては、以下でもアワード等をまとめていますので、こちらの受賞企業等をあわせてチェックしましょう。私もまだ完全にチェックはできていないのでこれから詳細を確認します。
>>伊藤忠商事、オムロン、日立製作所らが受賞「統合報告書アワード/ランキング」(2023)
日本企業であれば、GPIFの動きは非常に学びがあると思います。深くケーススタディをする必要があるかはわかりませんが見るだけ見て損はありません!
関連記事
・SX銘柄から考える次のサステナビリティ経営戦略とは
・統合報告書制作で必要なツールとしての視点
・実効性の高いサステナビリティ経営戦略は存在するのか