サステナビリティ経営戦略

サステナビリティ経営のポイント

サステナビリティ経営戦略と一言でいっても、本当にたくさんのものがありますが、最近になって改めて注目されているのがその実効性です。

「2050年サステナビリティ目標」なんてその最たるものですが、それ本当に実行できるんですか?と思ってしまう企業は少なくありません。長期目標は必要なのですが、役に立たない長期目標は必要悪というか、現場での意味合いが薄れてしまうと言うか。

そこで本記事では、サステナビリティ戦略の実効性や、サステナビリティ推進活動について、最近感じることをまとめます。完全に私見ですので、その正確性は保証できませんのであしからず。

サステナビリティの目的は何か

貴社のサステナビリティ推進活動は“何のために”しているのでしょうか。5W1Hでいえば、Whyの答えがパーパス、Whatの答えがミッション、など自社で定義できてますでしょうか。5W1Hは原始的ですけど便利なので活用してみてください。この「何のために」が定まっていなければ、結果がどんなに出せても意味がないですから。

ここ数年でサステナビリティの概念が世間一般に浸透し、ステークホルダーの意識レベルも相当高まっています。そういう状況ですので、ウォッシュ(綺麗事)ではない成果を求めているとも言えます。ステークホルダーが欲しいのは結果であり、宣言ではありません。そのサステナビリティ活動は、どんな経営課題を解決し、どんな価値を社会に提供できるものか。投資家を中心にステークホルダーは、このあたりの視点で企業をより厳しく見ています。

では「優れたサステナビリティとは何か?」という問いに、一体どのくらいの企業担当者が答えられるでしょうか。企業によって条件が変わりますが、何の基準を頼ってサステナブルな自社の未来像を描いたらいいのかわかりません。書店で並んでいる、サステナビリティ経営に関する書籍を数冊買って眺めてみても、成功企業の事例紹介(ケーススタディ)がほとんどで、結局のところ「優れたサステナビリティとは何か」という問いの答えはありません。

もう一度問います。貴社のサステナビリティ推進活動は“何のために”しているのでしょうか。どこの、誰に、どんな価値提供ができるのでしょうか。

価値を生み出すこと

私が企業分析をするときは、戦略も重要ですけどまずは活動をみます。実際の行動となるインプット(投資)をどれくらいしているのか、それによって何をアウトプット(実践)できたか、そのアウトプットによってどんなアウトカム(成果)が生まれたか、が重要なんですね。価値創造のためのロジックは重要ですが、そのロジックをまわす行動が本当にできているかを見れば、その企業のレベルがだいたいわかります。行動しか価値を生み出せないので。

個人ではなく企業レベルで行動に落としていくとなれば、やはり、中・長期の企業価値創造と直近の収益とのバランス問題にぶつかります。コスト増になるとしても、地球のことはわれわれの責任だから犠牲を払ってでもやるという企業は、オーナーシップが強いリーダーがいる企業でなければ難しいと思います。

合議体で運営される株式会社は、投資家からの期待を背負わされているので、収益を減らしてまで、地球のためという理由で大きな行動を起こすことは難しいです。気候変動課題は、ここ数年の間にようやく投資家や企業にとっても、収益性を見込める採算ラインに到達したように見ています。法制化を含めて、多くの上場企業で投資をする価値があると思われ始めた、ということです。

本当に社会にとって有意義なサステナビリティ推進活動であれば、ステークホルダーが求めていなくとも、確固たる成果とともにステークホルダーに選んでもらえる経営スタイルであるべきです。利己的だけど結果からみれば利他的。そんな自己満足なサステナビリティ経営スタイルこそが、最終形というかアイデンティティになります。界隈では対応範囲で「規定演技(法制対応など)」と「自由演技(独自の取り組み・考え方)」という表現がされますが、この価値を生み出すのは、圧倒的に自由演技の領域ですね。規定演技だけの価値創造には限界がありますから。

長期視点

サステナビリティの話は壮大なものも多く長期視点なのですが、計画も長期的に作ればいいやではなく「とはいえ明日からできること」も考えないとダメです。理想を追い続ける必要があるからこそ、まず目の前の課題にどうアプローチするかが実行フェーズで重要です。そんなの当たり前?いやいや、サステナビリティの話になると、結構、目の前の話がないがしろになることありますから。

本来、長期視点が重要なのは長期目標を達成するために、目の前のタスクで最適化された意思決定を行うためです。短期的な施策の意思決定において軸をブラさないために、長期の目標が必要なだけであり、成果を先送りしても良いという話ではありません。むしろ、目の前の推進活動の意思決定に貢献しない目標があるとあるとすれば、それは完全に失敗した目標でしかありません。

なお、サステナビリティ推進は準備に時間がかかるため、早期に検討を開始すれば試験運用に時間をとれるなどのメリットがあります。成果が複利で進むものもありますから、何をやるかより、どれだけ早く始めるか、がポイントだったりします。実際に、今ESG評価の高い企業の多くは、何年も前から取り組みをしている企業ばかりです。

サステナビリティ推進ができていない企業でも、ポジティブに考えれば、今から始めればまだ間に合うかもしれない、ということです。たとえば、3年前後で結果がでるサステナビリティ施策があったとして、今から始めれば3年後に結果を出せます。これが、スタートが1年遅れることで、成果が生まれるのが今から4年後なります。だからサステナビリティ推進で結果を出したいなら、すべきことは一つしかなくて「今からはじましょう」です。大間違いな手法でなければ何でもいいので「今からはじめましょう」です。これ以上に成果がでる方法はありません。

現場はなぜ課題だらけなのか

企業の意思決定において、費用対効果が計算できるものに投資するのは現場の仕事です。一方で費用対効果が計算できないけど、なんかやった方がいいと思えるものに投資するのは経営者の仕事です。リスクのある意思決定を下すのが、責任を取れる立場にいる、経営者の仕事だということは覚えておいた方がいいです。これを現場に丸投げすると、なかなか意思決定ができず(現場で決めても上で企画が潰される)話が進みません。

サステナビリティ推進の、特にリスク管理は、ESG課題を解決するというか、アンコントローラブルだったESG課題による自社への影響を、少しでもコントローラブルにすることで負の影響を最小化することが目的だったりします。でも、これは経営層がコントロールしてくれないと、現場だけではどうにもなりません。そう考えると、サステナビリティ推進活動は、スタートはトップダウンで、継続したアクションはボトムアップが重要、と言えそうです。

あと、サステナビリティ先進企業とされる企業だからこその課題もあります。私が、ウェブサイトや統合報告書の第三者評価/第三者意見をさせていただくのは、割合からすればすでに一定の評価を受けている大手企業からが多いです。評価されているからこそ、より高みを目指す(上層部からの指示もある)活動があるというか。

とはいえ、サステナビリティ関連のアワードやランキングで、トップグループになり“タイトルホルダー”になる企業も毎年あるわけですが、“タイトルホルダーらしいサステナビリティ推進活動”なんてなくて、それぞれの企業が自社なりのサステナビリティを進めているだけなのです。現場と経営層の意識差は致命的ですが、その差がうまり、方向性が同じになると良いという、ごく当たり前の結論になります。

仕組みづくり

サステナビリティには終わりがなく、ここまでやればOKというラインもありません。時代が変われば社会課題も変わり、求められる対応方法も変わります。何が起きても共通して必要なのは、調べる、対話する、決める、実行する、振り返る、などでしょうか。ある意味ゴールがあるとすれば、サステナビリティ推進の体制や仕組みを確立することとも言えます。

ではその仕組みとはどのように作ればいいのでしょうか。条件としては、企業が持つ個別のケイパビリティ(組織力)に根差した活動であることが挙げられます。内発的というか、自社のアイデンティティにそったものでないと、継続する動機にリンクしないのです。

つまるところ、サステナビリティ推進活動は、日々の通常業務と地続きでなければならないということです。今まで通り日々の活動を実践するだけで、それが組織や社会のサステナビリティにつながると。サステナビリティ推進を何か特別なものと従業員が認識している限り、限定的な活動になってしまうし、比例して成果も限定的になってしまいます。この話は非常に難しいですが、社内浸透施策がうまくいっている企業などが、先進事例として出てきているかなと。

なお『戦略よりも徹底的な実行が大事』と言いたいのではなく、気合いだけでは徹底的な実行は続かず、優れた事業戦略や組織戦略、財務戦略、インフラ整備、明確で具体的な戦略指示などが必要とされます。本記事は実行の側面の話がメインですが、戦略か実行かではなく、結局のところ両方大事なのです。この戦略と実行をまとめたものを「仕組みづくり」なのです。この仕組みづくりを「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」という人もいますね。

費用対効果とサステナビリティ

さて、サステナビリティの実践でも当然に費用対効果を求められます。そのため、サステナビリティ推進活動の最大のハードルは、コストやリターン(利益)などについて企業が確実な見込みを欲しがることであると言えます。特に定量化しにくい分野も多いので、かなり難易度が高いです。

そのため、それらの費用対効果をどう測定するかなど分析に力を入れることになりますが、相当ESG対応が進んでいる企業でない限り、活動の分析よりも活動の手数を増やすことのほうが優先度は高いです。成果が高い低いと分析したところで出てくる結果は大したことはない。変に分析に時間をかけるよりも、手数増やしてステークホルダーのために仕事しなさいよ、と。この正解はないのですが、バランスが必要というか、測定のために予算を使うと、インパクトを出せる活動自体の予算が減り、成果も相対的に減ると思われる、ということもあります。

費用対効果からESG施策を見ているだけでは、ステークホルダーの接点がないがしろになりがち。企業側が分析している時間はステークホルダーに何のメリットももたらしません。分析は必要だけどほどほどにしよう、という話でした。

経済合理性とサステナビリティ

サステナビリティの事業推進上の課題の一つは「社会性と経済合理性が分断されている」ことです。財務情報と非財務情報という二項対立に近い情報分断に代表されるものであり、サステナビリティは事業カテゴリとは“違う感”が、事業としてサステナビリティ推進をする邪魔をします。

サステナビリティの前提知識がない人には、サステナビリティに事業性や経済合理性が見出せないのです。サステナビリティ活動は経済合理性とトレードオフであり、利益を減らすこと(コスト)であると考えている大手企業経営が多いののも、象徴的なことと思います。

当然、トレードオフになるサステナビリティ活動もあるのは事実です。特に短期視点ではどうやっても投資以上のリターンは得られません。しかし、そうではなく無形資産の形成をはじめとした企業価値向上に貢献しうるサステナビリティ活動があるのもまた事実です。すべてを知った上でサステナビリティ推進活動をしないのであればいいのですが、残念ながらサステナビリティの本質を知らないために実施しないパターンのほうが多いのが現実です。そこには、経営者および役員レベルの知識量が、会社の器を決めてしまう当たり前すぎることが現実にあります。

社会に貢献することと商いをすることとは対立するものではなく、表裏一体のことです。例えば、社会や環境への貢献が付加価値となって事業の収益性を高め、その収益が再び社会や環境に還元される、など。そのインパクト(=良い影響)がまた付加価値となり、大きくなっていくのです。本来はこの循環こそがサステナビリティです。企業のサステナビリティを追求することで、社会のサステナビリティにも貢献するという。

最近気付いたのですが、サステナビリティ推進活動には「非合理性の中の“合理性”」という現象があります。例えば、障害者雇用における特例子会社の存在などです。本社では障がい者雇用は「非合理的な判断」でした。同じ給料払うなら健常者を選ぶ方が合理的です(倫理的に正しいかは別問題)。しかし、特例子会社という存在を通じて、本社等の一部では非合理的な判断も、特定ルール内では障害者雇用が合理的判断とされるようになります。

サステナビリティの多くの活動はまさに「非合理性の中の“合理性”」なのではないでしょうか。サステナビリティ活動と業績との因果関係を証明できず、サステナビリティ推進活動には経済合理性がないと判断されがちですが、グローバル市場や特定条件下では、経済合理性が存在する場合があります。

つまり何が言いたいかというと、サステナビリティ推進活動には、経済的側面でも必ず成果が見込める領域があるということです。理想は、これがマテリアリティ(経営上重要なESG課題)であるべきだし、この当該領域をインセンティブをつけて社内でも推進していきたいです。

まとめ

つらつらと、実務でどのように戦略と実践を考えるべきかと言うのを、いくつかの視点にまとめて紹介しました。

私は最近「身の丈に合ったサステナビリティ推進」というワードを研修で使います。理想やイメージが高すぎて実践が進まないのであれば、長期目標は一旦考慮せず、まずは目の前のタスクから始めるのもいいと。前述したように、行動することこそが重要であるため、まずは、身の丈に合った活動からでいいよと。

サステナビリティ推進活動には、無限に重要なことがありますが、何よりもまず行動すること。行動を妨げる要因を解決し、継続した取り組みを行うこと。「千里の道も一歩から」です。まずは一歩踏み出すこと。どんな不恰好な一歩でも、その一歩目を評価してくれる人はたくさんいますよ!

関連記事
サステナビリティ経営で戦略以上に必要な柔軟性とは
マテリアリティにおけるKPIは目的か手段か
サステナビリティにおける信頼構築と情報開示