インテグリティ

サステナビリティ経営にインテグリティが必要な理由

サステナビリティ経営において、私が以前から重要だと考えている概念の一つが「インテグリティ(Integrity)」です。日本語では「誠実さ」「高潔さ」などと訳されますが、単なる個人の性格や精神論ではなく、企業文化の根幹に関わる考え方です。総合すると、インテグリティは「企業倫理」あたりが訳として考えられます。
昔は統合報告書(サステナビリティレポートの代替品だった時代)でよく使われていた概念です。最近はほとんど見なくなりました。現時点では、欧米の倫理観の視点が重要な大手グローバル企業を中心に、部分的に使われる程度の印象です。

「誠実(日本語)」を英訳するとインテグリティにはなるけど、インテグリティを日本語訳しても誠実にはならない、と聞いたこともあり、日本だと英語圏と文化的背景がことなるので、日本語の文脈でインテグリティという考え方を理解するのは難しいかもしれません。個人的な解釈では「誠実=その人の行動」で「インテグリティ=より内面的な倫理観」みたいなカテゴライズです。

で、私が最近感じるのは、サステナビリティに積極的であることと、誠実な企業であることは必ずしも一致しない、という点です。サステナビリティ/ESG評価が高い企業でも、必要悪とされる事業やCtoCサービスでトラブルばかりが起きる事業を抱えていてネットは常に叩かれていたり、従業員と労働問題の訴訟をいくつも抱えている企業もあります。

では、企業は何をもって「真っ当な経営」を実践していると言えるのでしょうか。ここで重要になるのがインテグリティと考えます。私は、サステナビリティ経営におけるインテグリティとは「企業が掲げる理念や価値観と、実際の意思決定・行動が一致している状態」だと考えています。いわゆる言行一致です。本記事では、インテグリティとサステナビリティの関係を整理し、企業が倫理的な組織文化を構築するためのポイントを考えてみます。

インテグリティと企業倫理の関係

インテグリティを理解するうえで、まず整理したいのが「道徳」「倫理」「コンプライアンス」の違いです。サステナビリティの概念自体を道徳の延長で考えている人も多いです。また、道徳と倫理は日常的には同じ意味で使われることも多いですが、ここでは道徳を個人や社会に共有される善悪の価値観、倫理を「何が正しい行動なのか」を合理的に考え、判断するための原則としてまとめます。

例えば「嘘をついてはいけない」は道徳的な規範です。しかし、企業活動では、顧客への情報開示、取引先との交渉、従業員のプライバシー保護など、複数の価値観が衝突する場面があります。そこで何を優先し、どのように判断すべきかを考えるのが倫理です。ステークホルダーエンゲージメントの基礎になる概念でもあります。

また、コンプライアンスは法令遵守を中心とする概念です。もちろん重要ですが、法令違反でなければ何をしてもよい、というわけではないため、コンプライアンスだけでは企業経営はできません。例えば、法律上問題のない取引であっても、取引先に過度な負担を強いていれば倫理的な問題が生じます。環境配慮を強調した広告でも、消費者の誤認を招く表現であれば問題です。このように、インテグリティはコンプライアンスよりも広い視点で、企業の判断と行動のあり方を問う概念だといえます。

制度面でも企業倫理は推進されています。たとえば、2026年7月改訂のコーポレートガバナンス・コード(基本原則2)で、取締役会・経営陣が健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきとされています。基本原則2・解釈指針では「上場会社は、ステークホルダーとの適切な協働やその利益の尊重、健全な事業活動倫理などについて、会社としての価値観を示しその構成員が従うべき行動準則を定め、実践すべきである。」としており、企業倫理は、もはや従業員個人の心がけではなく、明確な経営課題なのです。上場企業はインテグリティを追求することが(事実上の)ルール化された、ともいえます。(事業活動倫理という表現はあまり見たことありませんが…)

違法ではないものの「道徳的に考えたらやるべきではないこと」を、たとえ自分がやらなくても他の誰かがやってしまう局面において、どのような行動を取るかが問われるわけです。ここが、インテグリティは企業文化である所以です。

インテグリティを企業文化にする企業の事例

以下の企業らに共通するのは、理念を掲げるだけでなく、実際の行動や仕組みに落とし込もうとしている点です。サステナビリティの考え方は抽象的なものが多く、制度を実行するルール等が重要になります。

三井物産

三井物産は、信用こそがビジネスの基本であり、信用を守る必要条件がコンプライアンスであると考えます。そして、コンプライアンスの追求においては、法令や規範の遵守にとどまらず、企業人としての良識や品格、すなわちインテグリティを持って行動することが必要不可欠です。
当社グループが真に社会から信頼される企業グループであり続けるために、社員⼀人ひとりにコンプライアンス意識を徹底させ、インテグリティを持って行動することを求めるとともに、コンプライアンス違反を未然に防ぎ自浄作用を発揮するインテグリティのある組織づくりにグローバル・グループベースで取り組んでいます。
三井物産|コンプライアンスとインテグリティ

パナソニックホールディングス

持続的な価値創出を可能にするための経営基盤の構築・強化にも注力します(=基盤マテリアリティ)。「コーポレート・ガバナンス」「ビジネスインテグリティ」「人権の尊重」「多様な人材・組織のポテンシャルの最大発揮」といった取り組みに加え、「責任あるAIの最大活用」によって、商品・ソリューションの進化を通して事業を強化し、業務・プロセス革新を通して競争力の源泉を強化します。
パナソニックホールディングス|価値創造プロセスとマテリアリティ

ユニリーバ

■倫理的で誠実なビジネス
サステナブルなビジネスは、責任あるビジネスであることから始まります。私たちは、従業員の安全、製品の品質・安全、責任あるマーケティング・広告、イノベーションなど、ビジネスのさまざまな面における非常に高い倫理基準を設けています。また、ユニリーバで働く一人ひとりが高い倫理基準に基づいて行動し、私たちが大切にしている価値観である「インテグリティ(誠実さ)」「敬意」「責任」「先駆的であること」の4つを体現し、守っていくことを求めています。
ユニリーバ|責任あるビジネスと企業行動原則

企業担当者が押さえるべき3つの実務ポイント

では、サステナビリティ推進担当者は、インテグリティを企業文化として定着させるために何をすべきでしょうか。私は以下の3つが重要だと考えています。

1. 経営層の意思決定と行動を変える

最も重要なのは経営層のリーダーシップです。経営者が倫理の重要性を語っていても、実際には売上や利益を最優先し、不適切な行動を容認していれば従業員の意識は変わりません。短期的利益と社会的責任が衝突したとき(トレードオフ)、経営層は何を優先するのか。インテグリティが最も試されるのは、こういった場面です。経営方針への明記だけでなく、重要な意思決定のプロセスにも企業倫理の観点を組み込む必要があります。

2. 企業倫理を抽象論で終わらせない

「誠実に行動しましょう」というメッセージだけでは、従業員の行動変容は期待できません。例えば、納期を守るために取引先へ過度な負担を求める、環境データの不都合な情報を開示しない、営業目標を優先して顧客に不十分な説明をする、といった具体的な場面を題材にした研修が有効です。正解を一方的に教えるのではなく、複数のステークホルダーの視点から「なぜその判断が適切なのか」を対話する機会を設けるべきでしょう。このエンゲージメントこそが、倫理を文化にするのです。

3. 意見を言える組織文化をつくる

インテグリティの高い組織とは、問題がまったく発生しない組織ではありません。問題を発見し、指摘し、改善できる組織です。内部通報窓口の整備は当然として、従業員が上司や経営層に異論を唱えられるか、問題提起した人が不利益を受けないか、といった心理的安全性も重要です。特に注意すべきは、不祥事の報告件数が少ないことを安易に高く評価しないことです。報告件数の少なさは、健全性ではなく、声を上げにくい組織文化を示している可能性もあります。このあたりはコンプライアンスのとインテグリティが重なる部分でもあります。

まとめ

ここまで、インテグリティとサステナビリティ経営の関係について整理しました。インテグリティというと、個人の誠実さや道徳観の問題として理解されがちです。しかし、企業経営において重要なのは、個人の善意に依存するのではなく、倫理的な意思決定が組織として実践される仕組みをつくることです。

私は、インテグリティとは企業のサステナビリティ経営を支える基礎的な組織能力だと考えています。企業理念、パーパス、マテリアリティ、サステナビリティ戦略。どれだけ素晴らしい言葉を並べても、企業としての行動が伴わなければ意味がありません。

サステナビリティ経営の成熟度を測るうえでも、インテグリティという視点をもっと重視すべきではないでしょうか。皆さんの会社では、売上や利益と企業倫理が衝突したとき、何を基準に意思決定が行われているでしょうか。そして、その判断に疑問を持った従業員は、安心して声を上げられるでしょうか。私は、こうした問いに正面から向き合うことこそが、サステナビリティ経営の実効性を高める第一歩になると考えています。

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