サステナビリティマネジメント

サステナビリティ・マネジメントとは

全上場企業のサステナビリティサイトを毎年チェックして感じるのが、最近は「サステナビリティ・マネジメント」というコンテンツが増えているということです。

サステナビリティ・マネジメントとは、文字通りサステナビリティを経営に組み込みどのように管理していくかという話です。「サステナビリティ経営」というコンテンツ名にする企業もあります。内容としては、サステナビリティの経営計画、推進方針、推進体制、マテリアリティ、あたりが多いです。

とはいえ、残念ながら開示と実務は乖離があるものです。サステナビリティ・マネジメントといっても、実際にはいろいろな社内の事情もあり、イメージどおりにマネジメントされることはあまりないでしょう。では、実務としてのサステナビリティ・マネジメントはどのようにあるべきか。

というわけで本記事では、サステナビリティ・マネジメントの実務から考える、経営管理のやり方と考え方をまとめます。例によって事例紹介ではなく、私がこの15年の支援キャリアの中で感じたことを中心にまとめています。

マネジメント手法としてのサステナビリティ推進戦略

サステナビリティ戦略の立案をごく簡単にまとめると以下のようなプロセス(サイクル)があります。

1. 経営課題を抽出する(現状分析)
2. 優先課題を決める(マテリアリティ特定)
3. 優先課題の解決策を決める(戦略策定)
4. 実践する(推進活動)
5. 評価する(効果測定

→1番に戻る

たいていこれらのプロセスのどこかにボトルネックがあって、すんなり1〜2年で1サイクルまわるということは珍しいでしょう。これから本格的にサステナビリティ推進をするという企業では、3番から決める会社もありますが、現状分析、マテリアリティ特定をしていないので、表面的な薄っぺらい戦略になりがちです。

現状分析を飛ばしてマテリアリティ特定にいってしまう企業も多いです。たとえば「価値創造プロセス(価値創造ストーリー)」で左側に位置する「価値創造の源泉(インプット)」は、まさに自社の財務および非財務資本をいかに現状分析できているか、が現れるところでして、ここの資本の整理状況を見れば、サステナビリティ視点で現状分析ができているかが、だいたいわかります。曖昧にごまかしている企業も多いです。

あと、統合報告書を発行するレベルの企業でも、マテリアリティが決められていないこともあり、マテリアリティがなければ本来は活動できないはずなのですが、戦略として成立しないのが残念な感じです。というように、実は、統合的にサステナビリティ戦略を考えられている企業は多くなく、またそれを実践できている企業となるともっと減ってしまうという。それくらい難しい話なのですが、サステナビリティ・マネジメントでさらっと解説しておわりというような、消化不良な開示があるのも事実。ですので、どのフェーズの企業であっても、常に上記の5つの点を振り返りボトルネックの対応をしていくべきです。

機会創出と付加価値

そもそもサステナビリティ経営とは、事業活動を通じて「企業価値を最大化しリスクを最小化させる経営手法」です。ですので、言わずもがな、サステナビリティマネジメントで重要なのは「リスクと機会」の分析です。

リスクの分析とは、ビジネスモデルの中長期的なリスクを特定し、それらにどのように備えるかを検討することです。たとえば人権リスクなどがあります。機会の分析とは、事業活動を通じて社会の持続的発展に貢献する事業機会があるか、その機会を事業展開に活かす可能性があるかを検討することです。社会の変化による事業リスクを認識し対応できているのか、ESG強化による収益性改善や事業機会創出に対応できているのか、あたりの視点です。

ですので結局「そのサステナビリティ推進活動は御社にとってどのような付加価値を生み出しますか」が座右に置くべき問いとなります。付加価値は時代によってその要素が変わっていくものです。ですので、気候変動対応などの長期トレンドを追いながらも、社会の短中期トレンドも注意する必要があります。つまり、ビジネスモデルの付加価値を高められないサステナビリティ推進活動があるとすれば、それはマテリアルではないし、競争優位性の向上にも貢献しないテーマになります。(やらなくていいとは言っていない)

サステナビリティしたら儲かりますよ、という人間を信じてはいけません。サステナビリティは売上に直結するセールスやマーケティングの仕組みとは別のレイヤーの話です。あくまで付加価値をいかに生み出すかがポイントです。まぁ「儲かるサステナビリティ」がないわけではないですが、「儲かる」と「儲からない」と間には「儲かるけどコストがそれ以上にかかる」「儲かるけど反対意見が多く難しい」「儲かるけど年商売上の1%未満の貢献度」とかどさまざまなフェーズのグラデーションがあって、専門家ほど簡単に儲かるとは言い難いはず。

これも極論ではありますが、サステナビリティ・マネジメントとは、企業がサステナビリティ情報を意思決定に使うかどうかだと思います。現在はステークホルダーへ説明するためだけのものであって、事業投資や人材活用戦略などの策定に関する意思決定プロセスには組み込まれていないというケースが多いと思います。これらをビジネスモデルに組み込めると、まさにリスクと機会をマネジメントできるようになるわけですが、ここまでくるのに数年どころか10年単位でかかるかもしれません。

ですので長期視点がないと、そもそもサステナビリティ戦略が成立しないんです。短期視点では、サステナビリティなんてせずに、後先考えないビジネスのほうが儲かるしコストもかからないわけですから。なのでサステナビリティに必要なのは大局観であるとも言えます。部分最適より全体最適、短期より中長期を戦略上重要視する、など。それぞれの利害が一致しないものなので、これも簡単な話ではないのが難しい所。

サステナビリティ戦略の方向性の種類

サステナビリティマネジメントに関する事例やノウハウは、特に関連書籍等ですでにオープンになっています。それでも、これだけ“ほぼ正解とされる戦略立案”をできない企業が多いのはなぜか。もちろん、理由は企業ごとに状況が違いますが、一つの注目点として「そのサステナビリティ推進のきっかけは何か」があります。サステナビリティ戦略の意義と意味は全世界共通ですが、その始まり方は各社各様です。たとえば以下のようなタイプがあります。

1. リスク管理型:事業等のリスクを基点とした、リスクマネジメントにフォーカスしたサステナビリティ戦略(CSRなど)
2. 価値創造型:財務と非財務のインパクトの統合を行い、経済的価値および社会的価値を同時に生み出すことを目指したサステナビリティ戦略(CSVなど)
3. パーパス推進型:理念や企業文化から自然発生的に派生した方法論(レスポンシブルビジネス)

サステナビリティ戦略を具体化するには「サステナビリティに関する経営指標構築」「経営層のサステナビリティの理解促進」「サステナビリティの社内浸透活動」の3つは、ほぼすべての企業で課題としてあげられるものです。しかも10年以上前から存在する経営課題ですが、なかなか解決することができません。やはり、サステナビリティ戦略は事業戦略とは別と考える人が多く、サステナビリティと事業活動は相互に影響し合うものである認識がないのが問題です。自社のサステナビリティ戦略が、上記の3つのタイプのどれに当たるかを理解し進めると、よりスムーズに進むかもしれません。

サステナビリティ推進の起点は誰か

さて、サステナビリティ戦略の起点の3つのタイプを紹介させていただきました。では戦略実行となる起点はどこになるのか、という話です。拙著「創発型責任経営」でもボトムアップ型のサステナビリティ推進活動の可能性をまとめていますが、トップダウン/ボトムアップではなく、その中間の「ミドル・ボトムアップ」というのが大事だと思います。

部課長のような中間管理職や、部署/チームごとの推進リーダーなどが中核となり、現場の課題を吸い上げ、それをマネジメントに提言し、戦略や施策に落としていくような流れです。もちろん、これができるのはマネージャーが、サステナビリティを理解し、現場の業務とサステナビリティ課題を結びつけられることができてからです。

サステナビリティ課題の難しい点のひとつは、当事者側から解決することが難しいことがあります。何かしらの外部からのサポートがなければ解決できないのです。労働問題でいえば、現場の一般従業員レベルではほとんど解決できず、組織側で社内ルールを変える必要があります。そのため、完全なボトムアップでは通常、組織レベルのサステナビリティ課題を解決できません。でもトップダウンで思考停止なサステナビリティ推進も長期的には機能しないこともある。その解決法としてミドル・ボトムアップ/ミドル・トップダウンがあるのかなと。これはまだ仮説レベルですが。これらの推進の起点となる人と仕組みづくりが、サステナビリティの社内浸透を促し、ステークホルダーを巻き込み、大きなムーブメントになっていくでしょう。

まとめ

自分がサステナビリティの基礎概念を繰り返し伝える理由は、サステナビリティ対応手法を知らずorやらずに倒産する企業はほとんど無いけど、リソース投下の順序を誤ったり、投下量が過小で競合に評価負けしている企業は沢山あるからです。管理するとは関与することです。特に成熟した産業で、新たな価値創造を行いたいとなれば、予算も時間も人的リソースもかけずにできることなどないので、外部リソースを使うのか、サステナビリティ推進の専任従業員を増やすなどが必要です。

戦略の意思決定においては、サステナビリティ戦略が正しければ正しいほど、社会課題の矛盾や解決不可能な空気感などが表出する瞬間が来るでしょう。その時に戦略に関わる全従業員が本質を理解しているのかが問われます。戦略の方向性を“体感”しているかが、自分ごとになるきっかけとなりますが、現場の従業員が「経営者が勝手に決めたこと」などという“他人事意識”を持っていたとしたら、正しい戦略の意味がなくなってしまいます。

当たり前ですが、サステナビリティ・マネジメントは奥が深い。本当に深いです。マネジメントをする際には、戦略立案以上に戦略の実行側面によりフォーカスしてみてはいかがでしょうか。ということで、何かのヒントになれば幸いです。

関連記事
パーパス経営の本質は「サステナビリティの全体最適」にある
社内浸透は理解促進よりも行動促進を先にしよう
統合報告書制作で必要なツールとしての視点