サステナビリティレポート

イシュー特化型のサステナビリティレポート

あなたは最近「イシュー特化型のサステナビリティレポート」を読みましたか?

本記事のテーマはズバリ「イシュー特化型レポート」です。ある特定の開示フレームワークやテーマによるレポートのことです。最近でいえば「TCFDレポート」や「人的資本レポート」などです。これらの今後の展開を考えますと、私の見解としては、今後も流行らないでしょうね。予算がある会社や、とにかくやっていることをアピールしたいという会社以外はあまり意味がないように思えます。

ということで本記事では、各テーマごとに事例を紹介しながらどんなレポートがあるかをまとめます。なお、投資家向けの「統合報告書」、マルチステークホルダー向けの「サステナビリティ・レポート」、環境領域に特化した「環境報告書・環境レポート」(環境・社会報告書)は従来からあるので除きます。すべて日本語版です。

特化型サステナビリティレポート

TNFDレポート

・NEC「TNFDレポート2023」
・KDDI「TNFDレポート2023」
・SMBC「TNFDレポート2023」
・花王「生物多様性がもたらすビジネスリスクと機会〜TNFD評価 地域特性を踏まえたケーススタディ 2023」
・資生堂「2023 Shiseido Climate/Nature-related Financial Disclosure Report」

TCFDレポート

・みずほFG「TCFDレポート2023」
・東京海上ホールディングス「TCFD REPORT 2023」
・リコー「TCFDレポート2023」
・野村グループ「TCFDレポート2023」
・武田薬品工業株式会社「TCFDレポート2022」

人的資本レポート

・NECソリューションイノベータ「人的資本レポート2023」
・東京海上ホールディングス「Human Capital Report 2023」
・リンクアンドモチベーション「Human Capital Report 2022」
・豊田通商「Human Capital Report 2022」
・Modis「人的資本経営レポート2022」

人権レポート

・MUFG「人権レポート2023」
・みずほFG「人権レポート2023」
・積水ハウスグループ「人権レポート2023」

D&I

マイクロソフト「2022 年グローバル ダイバーシティ&インクルージョン レポート」
小田急グループ「ダイバーシティ&インクルージョン レポート」

インパクト

すららネット「インパクトマネジメントレポート2022」

レポートの雑感

特定テーマのレポートを発行する企業数は多くても数十社(全上場企業の1%以下)であり、現状普及しているとは言えません。あと、TCFDやTNFDは「サステナビリティ関連財務情報開示」と呼ばれる枠組みであり、まさに統合報告書で開示すべき内容です。特定レポートにまとめても統合報告書の切り抜きみたいになるはずなので、必然性というのがイマイチ理解できていません。

もちろん、必ずしも冊子の形に情報を取りまとめる必要はなく、サステナビリティサイト(サステナビリティ関連情報のウェブコンテンツ)の該当コンテンツの充実化をさせる企業も多くあります。私も予算や時間を考えれば、個別レポートよりもサステナビリティサイトの充実で間に合うのではないか、とは思っています。

今まではイシュー特化型レポートも意味があった場面もあるかもしれませんが、昨今はウェブサイトを積極的に活用する企業も増えていますので代替できるでしょう。逆にサステナビリティサイトの情報を冊子形式(PDF)にまとめてレポートとする、という企業は増えておりこちらはかなり現実的でしょう。統合報告書発行企業だと、サステナビリティレポートを廃止してサステナビリティサイトのみの開示も増えているので、この考え方は私だけではないことはお伝えしておきます。

上記以外で、統合報告書よりですがシスコが「2022年版 シスコ パーパスレポート」というレポートを出しています。これもシングルイシューといえばそうですが、統合報告書でも「バリューレポート」という名称のものがあるように、シスコもそれに近いものかなとは思います。

TNFDは2023年9月に正式版が発表される予定なのに、その前の段階でTNFDレポートを出す企業はすごいとしか言いようありません。TNFDレポートほどではないけど、統合報告書やサステナビリティレポートなどでTNFDの枠組みでの開示をしている企業もありますが、これらの企業は生物多様性対応を従来からしていて、枠組みに合わせて開示しているだけようにも見えます。

私は、メディアは絞って制作・運営リソース(予算・人材)を集中させたほうがいい、という立場です。ただ、何かしらの目的があって、特定テーマのレポートが必要なのであれば、それはそれで悪いことではないと思います。結局はいつも言っている通りで、戦略(目的)とコンセプト次第ですね。大事なのでもう一度いいます。開示は目的とコンセプト次第でその手法が大きく変わります。事例に振り回されない軸を持つようにしましょう。

まとめ

統合報告書やサステナビリティレポートではない、シングルイシューのレポートを紹介しました。他のジャンルや事例もあると思いますので、興味があれば他にも調べてみてください。

統合報告書を出していてサステナビリティレポートを出している企業がまだあり、しかも内容もわりと近いものも多いので、有価証券報告書のサステナビリティ開示を含めて、メディア選定がまた一大テーマになりそうな予感がしています。なんにせよ、サステナビリティ関連の開示メディアを増やすのであれば、各メディアの棲み分けを明確にして、意味のある形で開示をしていきましょう。

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