統合報告書アワード
あなたは日本で一番評価の高い統合報告書を知っていますか?と質問するものの、私自身もどの企業が一番かわかっていないのですが“一番である可能性が非常に高い企業”の事例は知っています。
ということで、本記事では統合報告書のアワードの結果(2021年発行分)と、2021年の各種サステナビリティ情報開示のアワード/評価をまとめて紹介します。受賞社多数の場合は原則上位企業を紹介することとします。
統合報告書の作成担当者はもちろんのこと、統合報告書の制作会社の方には特におすすめの情報となっておりますので、ベンチマーク企業を探すヒントにしてみてください。
日経統合報告書アワード
グランプリ:双日
準グランプリ:伊藤忠商事、荏原、三菱ケミカルホールディングス
ES賞:三井化学
G賞:オムロン
出典:第1回日経統合報告書アワード(2022年2月発表)
WICIジャパン統合リポートアウォード
ゴールド:伊藤忠商事、MS&ADインシュアランスグループHD、ニチレイ、日本精工
シルバー:デンソー、日立製作所
ブロンズ:住友金属鉱山、東京応化工業、ナブテスコ
スペシャル:アンリツ、三菱UFJフィナンシャルグループ
出典:WICIジャパン 統合リポート・アウォード2021(2021年11月発表)
優れた統合報告書
■4機関以上の運用機関から高い評価を得た「優れた統合報告書」
日立製作所、リコー、三菱UFJフィナンシャル・グループ、東京海上ホールディングス、オムロン、伊藤忠商事
ちなみに、GPIFの発表では「統合報告のなかで運用機関が特に重視する項目や記載を充実してほしいと考えている項目」という項目をプレスリリースに記載しており、こちらが非常に重要と思っております。その重要な項目の中でも私が注目したのは「トップメッセージ」です。トップメッセージの指摘は他の項目に比べてかなり多いです。
我々は、我々のアワード「サステナビリティサイト・アワード」で、2年前からトップメッセージを重要項目として評価比重を高めていますが、GPIFに言われなくても、元からみんなトップメッセージを重要視していたので、そういう評価形式にしてます。これを言われないと気付かないというのは、逆に制作会社等の怠慢かなと思っています。ここ大事やで。
他に指摘が多いのは「マテリアリティ」と「価値創造プロセス」です。詳しくはGPIFの資料を見ていただきたいですが、この3点セット「トップメッセージ」「マテリアリティ」「価値創造プロセス」は、多くの運用機関が注目しているというのが改めてわかったので、今後統合報告書を発行する企業は、昨年よりもさらに意識して開示しましょう。
出典:GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」(2022年2月発表)
参考データ
IR優良企業賞
東急建設、パーソルホールディングス、ワコールホールディングス、三菱ケミカルホールディングス、野村総合研究所、エーザイ、ファンケル、LIXIL、日立製作所、大崎電気工業、日本電気、ヤマハ発動機、ネットワンシステムズ、三菱地所、京浜急行電鉄、ブックオフグループホールディングス、オートバックスセブン
出典:IR優良企業賞2021「“共感!”IR賞」 本年評価テーマ|サステナビリティ(持続可能性)に貢献するIR活動(2021年11月発表)
環境省
■環境サステナブル企業部門
金 賞:味の素、積水ハウス
銀 賞:住友化学、セイコーエプソン
銅 賞:アサヒグループHD、伊藤忠商事、積水化学工業、ユニ・チャーム
特別賞:塩野義製薬、ジェイテクト、ダイセキ環境ソリューション、ブリヂストン、メルカリ
出典:第3回「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」(2022年2月発表)
金融庁
■気候変動関連
J.フロント リテイリング、リコー、丸井グループ、カゴメ、オカムラ、セイコーエプソン、不二製油グループ、豊田合成、味の素、旭化成、東京瓦斯、第一生命ホールディングス、オムロン
■経営・人的資本・多様性等
オムロン、丸井グループ 、第一生命ホールディングス、旭化成、不二製油グループ本社、滋賀銀行、戸田建設、イリソ電子工業、J.フロントリテイリング、コスモエネルギーホールディングス、住友商事、村田製作所、明治ホールディングス、双日、アンリツ、カゴメ、三浦工業、TOTO、味の素、リコー、ダイフク
出典:記述情報開示の事例集2021|サステナビリティ情報に関する開示(2021年12月発表)
海外アワード事例
・International ARC Awards
・Asia Sustainability Reporting Awards
・CR Reporting Awards
雑感
3つのアワード(評価)で、2つ以上で重複する、伊藤忠商事、日立製作所、オムロン、三菱UFJフィナンシャル・グループあたりは、2021年のベスト統合報告書と言って良いでしょう。業種問わず、まずはこの4社をベンチマークしましょう。統合報告書単体ではないですが、他の関連アワードの上位企業の動きも注意して観察しましょう。
ちなみに、環境省「環境コミュニケーション大賞」が廃止になって、サステナビリティ・レポートのアワードがなくなった印象があります。サステナビリティレポートを作成している企業が減少傾向にある(統合報告書にどんどん移行しているため)からというのも理由でしょう。海外でも大きなものは数えるほどでそんなものなかなと。
まだ本買う的なサステナビリティ情報開示をしてない企業も、初年度にサステナビリティレポートを作って次年度に統合報告書ではなく、初年度でウェブサイトをメインにサステナビリティ関連情報を開示し、次年度からいきなり統合報告書(内容はともかく)となるところも増えている印象です。
我々もサステナビリティレポートのアワードをしようかと検討していた時期もありますが、今の国内動向を考えると、サステナビリティレポートはニッチな開示書類、というポジションになるのかもしれませんね。国内の全上場企業と非上場大手企業約4,000社のサステナビリティサイトを毎年チェックしていますが、「統合報告書 + サステナビリティサイト」という開示形式がメインストリームになりそうな潮流を感じます。
まとめ
いくつかの統合報告書のアワードや、関連する評価プログラム等を紹介しました。これらのアワード・ランキング・調査で重複する企業が見えてきたと思いますので、ぜひベンチマークして切磋琢磨していきましょう。
統合報告書のアワードは玄人が評価している以上、どんどん先鋭化していくというか“評価されるための統合報告書”になっていくのは間違いありません。これはそういうものなので、国内の統合報告書のレベルはどんどん上がるわけですが、一方、本当にわかりやすいかというと、評価する先生方の“好み”に実際は左右されている側面を少なからずあり(人間が点数化する以上しょうがない)、どこまで本当に評価されているのかはわからなかったりします。
私がアドバイザーとして統合報告書制作プロジェクトに関わることも多いですが、2022年のテーマは一周まわって「わかりやすさ」になるかなと。
あなたにとって「良い統合報告書」とはどんなものでしょうか。今一度振り返ってみましょう。
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