サステナビリティ情報開示

サステナビリティ情報開示のガイドライン

サステナビリティ情報開示のガイドライン、あなたは何個くらい認識していますか?

統合報告書やサステナビリティレポートの制作に関わった人であれば、有名どころのガイドラインを5〜6個挙げることができると思いますが、情報開示にも関わる活動指標を含めると実は結構あります。

この5年くらいは、情報開示ガイドラインが多すぎるという話をされてきましたが、それがISSBのガイドラインで一旦集約されそうとなっていますが、それでも他にも考慮すべきものもあり、残念ながら当面は企業担当者が楽になることはなさそうです。

というわけで、私がこの10年ほどのキャリアの中でよく見聞きしたものを中心に、ガイドラインを集めてみました。合わせて、2021年に発表された情報開示に関する参考資料もまとめました。この記事で紹介したガイドラインや参考資料を見ていけば、かなり情報開示全体の理解ができると思います。全部見ていくとそれだけで1年くらいかかりそうですけどね。

報告ガイドライン

<総合>
ISSBガイドライン(ISSB)
IRフレームワーク(IIRC)
SASBスタンダード(SASB)
統合思考原則(VRF)
GRIスタンダード(GRI)
ESGメトリクス(世界経済フォーラム)
価値協創ガイダンス(経済産業省)
ESG情報の報告に関する企業向けモデルガイダンス(JPX)
WICIインタンジブルズ報告フレームワーク(WICI)
SDGsを企業報告に統合するための実践ガイド(国連など)
SDGsに関するビジネス・レポーティングにおける投資家ニーズへの対応(国連など)
各ESG評価機関の格付基準
各証券取引所の推奨開示ガイドライン
各業界団体の推奨開示ガイドライン

<イシューベース>
TCFDガイダンス(TCFD)
CDSBフレームワーク(CDSB)
ISO30414(ISO)
コーポレートガバナンス・コード(JPX)
環境報告ガイドライン(環境省)
TNFDフレームワーク(TNFD)
CDP気候変動/水/森林(CDP)

<活動ガイドライン>
ISO26000(ISO)
投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁)
ビジネスと人権に関する指導原則(国連)
SDGs実施指針/SDGsアクションプラン(日本政府)
グローバルコンパクト10原則(国連)
多国籍企業行動指針(OECD)
経団連企業行動憲章(経団連)
気候変動枠組条約(パリ協定)

<そのほか注目ガイドライン>
CSRD/SFDR(欧州委員会)
EUタクソノミー規則(欧州委員会)
人的資本および気候変動情報の開示義務化(SEC)

■備考
・個別活動のガイドラインは多いので有名どころを抜粋
・現在策定中のガイドラインも一部含む

参考資料

・KPMG|日本企業の統合報告の取り組みに関する意識調査2021(2021)
・KPMG|日本企業の統合報告に関する調査2020(2021)
・KPMG|日本におけるサステナビリティ報告2020(2021)
・経産省|非財務情報の開示指針研究会「非財務情報の開示指針研究会 中間報告」(2021)
・JPX|ESG情報開示実践ハンドブック(2021)
・アビームコンサルティング|日本企業における非財務情報活用とその実態調査(2021)
・金融庁|IOSCO「企業のサステナビリティ開示に関する最終報告書」概要(2021)
・金融庁|記述情報の開示の好事例集2021(2021)
・金融庁|ESG要素を含む中長期的な持続可能性について(2021)
・金融庁|第1回 金融審議会ディスクロジャーワーキング・グループ 事務局説明資料(2021)
・金融庁|第2回 金融審議会ディスクロジャーワーキング・グループ 事務局説明資料2(2021)
・金融庁|第3回 金融審議会ディスクロジャーワーキング・グループ 事務局参考資料(2021)

対応方法

膨大な情報をまとめておいて申し訳ないのですが、これらのガイドラインの存在は認知すべきですが、すべてに準拠する必要はまったくありません。逆に情報整理に時間がかかりすぎて悪ですらあります。統合報告書であれば「IRフレームワーク」、サステナビリティレポートであれば「GRIスタンダード」が、主要ガイドラインになるでしょう。個別イシューでいえば、TCFDが必須で、ISO30414やTNFDあたりが次点でしょうか。

IRフレームワークに満足に対応できない企業が他のガイドに手を出したところで、結果は…わかりますよね。最も重要なことを言いますが、開示義務化項目でない項目は、読者の情報ニーズを満たすことが最優先されなければなりません。ガイドラインの条件を優先したところで、読者には関係ない場合も多いですから。

とにかく、中級者以上のすべての方はまず経産省「経済産業省|非財務情報の開示指針研究会 中間報告」を読んだほうがいいです。これさえ読めば、2022〜2023年の情報開示のポイントが理解できるかと思います。

一言アドバイスがあるとすれば「“知っていること”と“出来ること”には乗り越え困難な大きな壁がある」ということです。知識は時に足枷にすらなります。きちんと社内で「我々にとって統合報告書/サステナビリティレポートはどうあるべきか」を議論し、対応ガイドラインの絞り込みをしましょう。イメージとしては「あるべき姿」ではなく「なりたい姿」を中心とした議論が理想です。

余談

余談ですが、最近、私はサステナビリティレポート(CSR報告書/社会・環境報告書など)の立ち位置がわからなくなってきてます。ESG評価を獲得するのに「統合報告書 + サステナビリティサイト」という構成をメインに開示を進める企業が増えていて、そもそもマルチステークホルダー向けのレポート形式媒体の意義が失われつつあるのかなと。「ESGサイト格付け「サステナビリティサイト・アワード2022」を発表」の調査リリースでも書きましたが、サステナビリティサイトもIRコンテンツ化が進んでおり、読者の明確化が進んでいると思います。

これは以前からあった議論ですが、サステナビリティレポートのコンテンツをマルチステークホルダーよりにすればするほど、輪郭がぼやけて少しサステナビリティの話が多いだけの、いわゆる「会社案内パンフレット」になってしまうのです。と言いますか、2021年時点では、もうサステナビリティレポートって会社案内的な立ち位置ですよね。(会社案内がダメという話ではない)統合報告書でさえ、会社案内に近いものも多いわけですから…難しい所です。

そもそも情報には万人受けするものというのは存在しません。マルチステークホルダー向けというときは、逆に読者ターゲットを絞らない思考停止で誰にも刺さらないメディアになりがちなのではないか、と。私は以前から言っていますが、予算と時間に上限がないのであれば、各ステークホルダー向けにメディアを準備すべきという立場です。理由は簡単でステークホルダーごとに情報ニーズ(知りたい情報)が異なるからです。

で実際、サステナビリティレポートの社会的意義の減退を知ってか、サステナビリティレポートのアワード(ランキング)も減りましたよね。統合報告書アワードに移行するか廃止のどちらかかと。むしろサステナビリティレポートの格付け・ランキングって、どこが残っていたかなぁ…。

私は、情報開示は「まず宛名を書く」ことから始めるべきだと思っています。読者というかコンテンツを届けたい人を決める、という意味です。Eメールも郵送物も宛名がなければ、宛先不明で返ってきてしまいます。届いたとしても、内容が不明瞭なら受け取り拒否されることもあります。情報過多な現代において、たくさんの人に見てもらいたい(マルチステークホルダー)、ではほとんどの情報がその波に埋もれてしまいます。

そもそも、マルチステークホルダーというけど、実態としてマルチステークホルダーという人間(読者)は存在しません。各ステークホルダーのまったく価値観も情報ニーズも異なる集合体としての概念なだけですから。法人と同じです。ただの概念であり想定読者になりえない、というのが現在の私の見解です。

今一度、貴社にとってマルチステークホルダーとは誰か、本当にマルチステークホルダーはサステナビリティ情報を必要としているのか、必要としているのであればどの分野のどんな情報を求めているのか、このあたりの問いが必要と思います。

まとめ

さて、すべてのガイドラインを一通りチェックできましたでしょうか。あわせて参考資料を検索してダウンロードできましたでしょうか。サステナビリティレポートの迷いも書かせていただきましたが、情報開示は、メディアもガイドラインも過渡期であることは間違いないです。

2022年はこの10年を見ても最強に変化の多い年になります。特に2023年1月から施行の主要ガイドラインも多いので注意が必要です。2010年代前半も激動の時代と思っていましたが、あれから10年たったらもっと激動の時代になっていて、もう情報開示に平穏な時代は来ないのかもしれないと感じる今日この頃です。丸一年後、我々の界隈はどうなっているのか予想もできません。

ちなみに、2022年1月時点で、政府で人的資本を踏まえた情報開示ルールを近々で作るみたいに発言があり、まさかとは思うけどそれ日本独自のガラパゴス・ルールじゃないよね?だとすると、それを開示しながら、グルーバル・ガイドラインに修正しなおして別枠で開示しなければならないとか、実務のことは考えてないよね…。

というわけで、2022年もがんばっていきましょう。

ぜひ、このガイドラインが掲載されていない!など私の見逃しがあればご指摘いただきたいです。こちら「お問合せフォーム」よりぜひ心温まるコメントをお待ちしています。

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