サステナビリティ情報開示

主要サステナビリティ情報開示ガイダンス

2020〜2021年は気候変動関係のガイドライン/ガイダンスに大きな変化がありました。気候変動関係は11月上旬に始まったCOP26の影響も大きく、直前から世界の国々やイニシアティブなどが一斉にカーボンニュートラルのアピール合戦をしていましたね。気候変動関連の注目度が高いのは、すでに国内外で一定レベルの法制化や事実上の法制化されているというのもあります。

さて、気候変動関連以外でも、特にサステナビリティ情報開示の領域で大きな動きがいくつもありまして、それらをキャッチアップしないと、2022年以降にとんでもなく苦労しそうだぞ、ということがわかってきました。

サステナビリティ情報開示(サステナビリティ・コミュニケーション)のトレンドは、毎年のように変わっており、専門家レベルでもキャッチアップが難しい状況が続いています。しかし、その中でも、企業経営において重大な影響を与えそうな話をまとめます。2022〜2023年の活動の参考にしてください。

ISSB

11月、IFRS(国際財務報告基準)がCOP26において、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の設立を発表し、非財務情報開示のガイダンス(プロトタイプ)を発表しました。そこにIIRCやSASBを運営するVRF(価値報告財団)や環境基準団体のCDSBも統合されるという。これは多くの人が驚いたと思います。ISSBが事実上のスタンダードになった瞬間です(今現在は)。今後は、本格的なフレームワーク作りが進み、2022年6月以降に発表されるとのことです。

COP26で新たにサステナビリティ報告基準を出したISSBは、世界の会計基準の重鎮の一部であり、統合報告書で最も参照されるIIRCとアメリカのSASBが統合したVRFが合体したわけで、最強でないはずがない!というわけです。もちろん、日本の金融庁もISSB設立に資金拠出してたりと、国内企業にも多大なる影響を与えるのが、現時点で確定しています。金融庁が深くISSBにタッチしているので、ISSBの動きが国内の開示法制化に与える影響は大きいでしょうね。

変化とは「当たり前を変えること」です。社会が変われば当たり前の基準も変わります。サステナビリティ報告もそういうフェーズに入ってきました。しかし、その変化も前触れがなかったわけではありません。

2014年に設立されたCorporate Reporting Dialogue(CRD)という、サステナビリティ報告に関するガイドラインやフレームワークを提供する規格団体が集まったワーキンググループがあります。ここに、IFRS(IASB)、CDSB、IIRC、SASB、があって、すでに連携関係にはあったもののまさかの統合ですよ。

ちなみに、CRDにはGRIとISOもいるのですが、方向性やCEOの考え方の差などからか、ISSBには統合されませんでした。ISO26000は、私も好きだし日本での存在感は落ちてるもののなくなってはいませんでしたが、2020年代のグローバルスタンダードかというと、難しくなってきたようにも思います。

GRIスタンダード

10月、サステナビリティ報告の国際的ガイドラインである「GRIスタンダード」の共通スタンダードが改訂されました。もともと、GRIスタンダードはモジュール構造になっており、項目ごとに随時改定が進んでいます(207,306とか)。今回の改訂は「共通スタンダード」と呼ばれる、100番台のものが改定になりましたというものです。加えて、他のカテゴリ分けも変わっているようで、割と大きな変化の話です。基準点が変わるわけですから。

このスタンダードの発効は「2023年1月」です。GRIスタンダードに準拠したレポートを作成してる企業は、早ければ2022年発行分の各種レポートに組み込むと思いますが、普通に2023年1月1日以降に発行される報告書から適用で問題ありません。たとえば、2023年1月施行とはいうものの、2023年発行分のサステナビリティ・レポートや統合報告書からすべての企業が対応するかというとそうでもないでしょう。ご存じない方が多いと思いますが、今の「GRIスタンダード(2016年10月発表)」の前に「GRI/G4(2013年5月発表)」という規格がありまして、G4からスタンダードへの変更も界隈では大騒ぎでした。その時は全上場企業の1割も即対応してませんでした。たしか、数十社もなかった程度かと。

時代が進んだとは言え、2023年に準拠企業ですらユニバーサルスタンダードに完全対応するとは考えられないし、ISSBの内容次第では、GRI対照表を作る企業すら減りそうな感じです。というのも、GRIは設計思想がイシューベースであり、GRI対応と価値創造や企業価値向上との関係性が不透明で、昨今の統合報告書の話もあり下火になり始めている傾向もありましたので。

実は大きな変化とは思うのですが、GRI/G4からGRIスタンダードへの変更を彷彿とさせる混乱があると思いきや、TCFDの話題が大きくてサステナビリティ関連メディアでもあまり取り上げられていません。こんなに変わったのに。よもやよもや、です。

2022年春には公式日本語訳版が発表されると聞きますが、より財務インパクトやアウトカムを求められるであろう上場企業では、GRIスタンダードはあくまでも参照程度で、主軸のガイドライン/ガイダンスからはずれてしまうかも…。現在、世界で最も参照されているというGRIスタンダードでも、2023年までには開示ガイダンスの勢力図が変わりそうです。

TCFD

10月、TCFDが新ガイダンスを発表しました。重要なレポートは3つあります。「2021 Status Report」「Guidance on Metrics, Targets, and Transition Plans」「Implementing the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures」です。企業がパリ協定に沿ったネットゼロ移行の計画を開示するための新たなガイダンスです。

今年だけでも、8つの国・地域の公的機関が、気候関連の報告を義務付けることを発表する際に、TCFDを言及。また、G7やG20の財務大臣や中央銀行総裁、IFRS、欧州委員会など、国際的な基準設定機関や規制当局も、TCFD提言に沿った取り組みへの賛同を表明していて、グローバルスタンダードとしての地位を確立しました。国内でも6月のコーポレートガバナンス・コード改定で、TCFDの言及がありまして、プライムいくなら対応必須ですよ、と書かれてしまいました。(私にもTCFD対応のご相談が急増中です)

財務的影響を評価する上で特に重要な7つのカテゴリにおける業界横断的な指標を紹介されています。スコープ1・2・3の温室効果ガス排出量、気候関連の移行や物理的なリスクと機会に関する指標、資本分散、内部炭素価格、報酬などです。ちなみに、TCFDの法制化の流れでは、フレームワーク(4つのカテゴリ)ですべてが対象というよりは、「ガバナンス」などが規定演技で「指標」が自由演技みたいな形で話が進んでいるようです。

COP26で、TCFD以外も新たな気候変動関連のガイドライン・ガイダンス・イニシアティブがいくつも登場し、企業は、今後、より大きな枠組みから気候変動対応のプレッシャーを受けることでしょう。時代の流れを読めておらず、2022年からTCFDに対応するという9割以上の上場企業の皆様。急ピッチで進めないと今後どうなっても知りませんよ。

参考 ブルームバーグ|第4回TCFD現状報告レポート:TCFDの採用が過去最大幅で増加したことが明らかに(日本語)

IIRC

1月、IIRCのIRフレームワーク(国際統合報告フレームワーク)の改訂版が発表されました。元々、2013年発表でしたから、やっと改定というイメージでしょうか。

細かい改定内容はさておき、個人的には「アウトプットとアウトカムの定義を明確にする」というポイントが重要かと思います。IRフレームワークで最も参照されているであろう「オクトパスモデル」に改良が入ったわけですから、今後の統合報告書は必ず新バージョンを参照する必要があります。今後「アウトカムとアウトプットを明確にしていない価値創造ストーリーを書いている企業」は……それ以上言いませんが、そろそろ来年発行分の準備を始める企業も多いでしょうから、注意しましょう。

他には「ポジティブ/ネガティブの両面を開示せよ」という方向性です、企業は、当然ながらネガティブな情報を能動的に開示することはありません。でもそれではだめです、と。資本管理のガバナンスとも言えるでしょうか。資本とは「価値の蓄積」であり「価値創出の根源」であります。資本は、事業活動の成果が増減して変換されるものです。一般的には「お金(財務資本)」を指すことが多いですが、企業を取り巻くビジネスモデルには、財務以外の価値もたくさん生まれます。そのため、それらの総合的な資本の増減(資本へのポジティブ/ネガティブな影響)を開示しましょうと。

日本企業のここ10年以上の動きを見てきて思うのは、ローカライズ課題があります。IIRCだけではなく、GRI・TCFD・SASBなどの主要ガイダンスの日本語版がでないと、ローカルでは先進企業の数十社程度が最新で対応する程度かなと予想してます。英語版をなんとか読めても、ニュアンスが読み取れないところがありますから。ただ、日本語版が出た後の普及スピードはそれなりにあるので、あまり心配はしてません。(意訳:早く日本語版ください!)

官公庁

官公庁では、非財務情報開示に関連するワーキンググループ/研究会がいくつかあります。まさに国内屈指の有識者が集まり、国際情勢を考慮した議論が日本語で読めるのはとてもよい情報源です。公的機関での情報は特に社内での認識共有に役立つことが多いので、適宜チェックしてみてください。

特に注目は、金融庁「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第2回・議事次第)、経産省「非財務情報の開示指針研究会」(中間報告)、JPX「ESGナレッジハブ」あたりでしょうか。

特に金融庁では、TCFDを有価証券報告書へ組み入れようという実務的な議論もされています。最短で2023年施行というから結構早いスパンです。もう、日本でも、TCFDを含めて「開示義務化(法制化)を前提とした議論」が進んでいます。つまり「法制化しようか・しないでおこうか」という話ではなく「法制化するならどのようにするか」です。経産省、環境省、金融庁、JPX、と上場企業の監督官庁が、急速にサステナビリティ推進に動いています。

時代は変わりました。御社はいつ変わりますか?

まとめ

速報的な内容もあるので、私自身が完璧に追えていないので、まとまった情報を入手したらこのブログでまたお伝えします。

結局、2013年にIRフレームワークが登場しましたが、それから8年たっても日本の統合報告書発行社数は、全上場企業の2割に満たないし(統合報告書って実はマイナーなレポートなのです)、GRIもTCFDも無視する会社は全上場企業でみれば半分以上あるわけだし、非上場企業のサステナビリティ報告を含めれば、まだまだこれから。2022年が本当のサステナビリティ情報開示のスタートになりそうです。

とりあえず、2023年発行分のサステナビリティ・レポートおよび統合報告書は、大きく変える必要がある可能性が高いです。その変化を見据えて2022年発行分のレポーティングを進めないと、二度手間になりますので注意しましょう。

サステナビリティ・レポートや統合報告書の制作をする会社で、このあたりをキャッチアップしたい方がいましたら、制作プロジェクトに第三者の専門家として参加できますので、お声がけください。

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