サステナビリティ・マーケティング

サステナビリティ・マーケティングの未来

ここ数年で、サステナビリティ・マーケティング(サステナブル・マーケティング)はだいぶ波に乗ってきました。SDGsの認知拡大からか、マーケティング分野からもサステナビリティの話題をよく見聞きします。

中小中堅の上場企業でも、新規事業創出のような文脈で、サステナビリティ・マーケティングに取り組むところも増えましたよね。ほとんどがたいしたビジネスになっていないのですが、ビジネスの根幹からサステナビリティの視点を取り入れるというのは、とても素晴らしい動きだと思います。

さて、マイケルポーターらのCSVから10年となった2021年ですが、私も現場の人間としてこの10年以上見てきたわけですが、「マーケティング関係者が語るサステナビリティ・マーケティング」と「サステナビリティ関係者が語るサステナビリティ・マーケティング」って全然違う、と。

というわけで、ここらで、マーケティングが専門ではない私が、サステナビリティ視点でみたマーケティングについてまとめます。異論は認めます。

※ここでいうサステナビリティ・マーケティングは、CSV・コーズマーケティング・SDGsマーケティング・ESGマーケティングなど、サステナブルなマーケティング全般を指すものとします。

マーケティングの勘所

SDGs文脈で多いですが、サステナビリティ推進をマーケティングに活かすという話であれば、「誰も考えていなかった解決策を実行して成功」ではなく「誰もがわかっていたけど、手を付けられなかったことをやりきったから業績に貢献」がほとんどです。サステナビリティをマーケティングに無理やり組み込むならば、普通のマーケティング施策やったほうが成果でやすいですよ、と。

ある種、経済合理性だけでは解決できなかった社内外のESG課題をビジネスを通じて解決しましょう、というのがサステナビリティ推進なのであって、サステナビリティにマーケティングの“ウルトラC”が隠されているわけでもなく、地道にサステナビリティをマーケティングに統合していくしかないと思います。よく事例に出される「コーズマーケティング」も、あまりにもマーケティングの一部分であり、また継続的に成果が出てる施策ってほとんどないし、現状ではまず取り組むべき手法とは言えません。

なぜそうなるかというと、例えばSDGsの17のゴールもしくは169のターゲットを思い浮かべて欲しいのですが、ステークホルダー(特に投資家・従業員・顧客)の直接的な利益とはかなり離れた座標にあり、思ってた以上にリターンが遠回りになってしまいます。このあたりの「サステナビリティ・マーケティングの直接的利益貢献」については、相応に議論が必要かと思っています。

では儲かるのか

さて、ではサステナビリティ・マーケティングにおける命題である「サステナビリティ推進は儲かるのか」というの話ですが、これはいつもお伝えしている通り「儲かることもあるし、儲からないこともある」が世界の真理です。儲からないし単なるコストだと言われれば、それはあなたが儲かるやり方を知らないだけとなりますし、絶対儲かると豪語するコンサルがいれば、それは言い過ぎでそうでない事例の方が多いよね、となります。当たり前ですがやり方次第です。

儲かるかどうかの議論で雑に扱われすぎるのは、ESG課題を解決するという「目的」と、儲ける方法を選択するという「手段」が混同されてしまっている点でしょう。まずはこの2つは分けて考えるべきです。ESG課題を解決するという「目的」を据えながら、きちんと儲かる「手法」で考えることが大切です。

「経済価値が先行して社会価値を生み出す」と「社会価値を追求することで経済価値がついてくる」では、アプローチの仕方が180度異なります。「マーケティングの社会性を高める」か「社会貢献活動をビジネス化する」くらいの差です。一般論ではなく企業ごとに個別具体的に考えましょう。

長期目線のマーケティング

これからの時代、企業はいかに儲けるかだけではなく、持続可能な企業を目指さないことによって「発生するリスク」を考えなければいけません。こちらも考える必要があります。つまり、サステナビリティ文脈におけるマーケティングであれば、やはり「長期目線」というのがポイントになります。

マーケティング自体は専門ではありませんが、数年単位で成果を最大化させるマーケティングって、社内的な同意が非常に取りにくいでしょう。少なくとも1年以内に成果がでないであろうプロジェクトに、リソース(予算・時間)を投じることができる企業は少ないでしょうね。これが、多くのサステナビリティ・マーケティングと言われる施策が単発・短期で終わる理由の一つです。

これはマーケティングの話だけではありませんが、長い時間をかけて作られたもの(企業文化など)に、小手先の工夫は勝てません。一つの施策に長い時間をかけることは、常識的に考えると非効率であるため、逆に希少性が高く独自性につながるというパラドックスのようなものがあります。しかし、前述したように実践するのは相当の決断が必要になります。

サステナビリティの社内の立ち位置

サステナビリティの取り組みは、目先の売上よりも将来のためのリスクと機会に対する施策ではありますが、それでも事業である以上、利益責任もあります。いつまでに何にどれくらい投資して、いつ回収できるのか。未来のための投資とはいえ、事業会社にいると予算スケジュールは年単位であり、回収に最低5年はかかります、というような計画は相当なメリットがないと稟議が通りません。

しかし、サステナビリティは本来的に利益獲得を目指す活動ではありません。ではどうするか。答えは明確で、利益を出せる事業にサステナビリティを組み込むしかありません。サステナビリティを事業戦略に組み入れるには「事業部門がサステナビリティ目標を作る」必要があります。サステナビリティ部門が戦略を作っている時点で、残念ながら他部門のKPIにランクアップすることはまずありません。

サステナビリティの取り組みが事業部門のKPIになってこそ、ビジネスモデルに組み込めたと言えるのあって、中期経営計画にサステナビリティ要素を入った程度では、実行できているとはいえません。ただこれは理想論であって、ここまでの会社は実際どこまであるかというと…日本では100社ないでしょう。

ビジネスにおいては「金になる=社内理解が得られる」です。サステナビリティ推進に課題を抱える企業は、サステナビリティ推進がいかに自社にメリットがあるかを先に考えたほうがいいです。

消費者の傾向

最近の消費者調査で顕著な傾向が「サステナビリティに貢献する商品・サービスを積極的に選びたいが、価格が見合うかも重要視する」というもの。結局、競合の“普通の”商品よりも高ければどんなに環境配慮な商品でも買われません。「エコだから/SDGsだから買って」より、「かわいい/便利だから買う」→「実はサステナブルな商品なんだ!」という「あとからサステナビリティ」が重要です。あくまで商品の価値があってのサステナビリティ訴求です

で、社会では誰がそのコストを引き受けるのか、という話が問題。これは非常に難しい問題ですが、現時点では企業が引き受けるしかありません。BtoBでもあって、調達企業は、調達先にESGを求めますが、それによる追加コストはを引き受けることはない、とか、これはいろんな企業で担当者の方から聞く話。完成品メーカーも必死なのはわかるけど、ただ言えばいいってものでもないのですよ。

さて、サステナビリティ訴求をするのはいいですが、顧客が気に掛けるESG問題はどこにあるのかを知ることは重要ですね。そして自社商品ならばどこに、どんな意味・意義を作り出せるのか。これを正しく認識することで、顧客のための価値を高めることができ、それによりブランドの意義はさらに高まり、注目も集まると。

マーケティングとは、対応するステークホルダーは顧客がメインなので、マルチステークホルダーの利益に資する活動となるサステナビリティの概念と、そのままいくと対立しかねない概念です。顧客を向きながらもより広い視野で社会を見ることができるかですね。(難易度が高いのは重々承知です)

マーケティングの社会的意義

加えて、世の中のすべてのビジネスで環境負荷がゼロのものはありません。ですので、わずかでも環境負荷をかけてでも、相応の商品・サービスを顧客や社会に提供する価値があるとすれば、それは意味・意義があることと言えます。環境負荷をかけてもたいした社会価値を生まない商品だとしたら、そんな商品や販売会社は社会からなくなることが正義である、となってしまいます。御社のビジネスは、環境負荷をかけてでも、社会や顧客に貢献できる意義のあるものですか?

あと「我々は社会課題を解決するこんな事業を行っている」とPRする企業は多いですが、調べてみると、その事業はボトムアップで始めた小さなプロジェクトで、リソース(ヒト・モノ・カネ)が配置されず、戦略的にも重要案件と位置づけられていないものであることが多く、PR以外に大した価値はなく、経済的・社会的インパクトが出せていないのである。それ事業なの?と。

単発で全体の売上からすれば1%にも満たない規模のマーケティングをサステナビリティ・マーケティングと呼んでいいのかというと、ダメでしょ、と。その程度の活動でサステナビリティ的な何かを生み出せたとしてもインパクトなんて限られるし、結果としても、残念ながら企業も社会もサステナブルにはなりません。

マーケティングとしてのパーパス

サステナビリティ分野でも最近よく聞くようになったパーパス(社会的な存在意義)。現状で言えば、パーパスがよく取り上げられるのは、サステナビリティ分野よりもマーケティング領域のほうが多い印象です。

企業の売り物は商品・サービスだけではく、企業の姿勢(=パーパス)も含まれるようになってきました。極端な話、寄付型NPOなんかは売上の多くは寄付であり、寄付は組織のパーパスに共感をして初めてもらえるわけです。組織に信頼もなくパーパスもない組織に寄付しようなんて人はいないはずです。そう考えると、パーパス自体が売り物になっていると言えるでしょう。これがパーパスとマーケティングの究極の関係性と思っています。

これは「自社の存在意義=社会への提供価値」となっている状態を指します。だからパーパスを見つめ直すことで、マーケティングにつながるのです。手法だけのサステナビリティ・マーケティング(パーパス・マーケティング/パーパス・ブランディング)は必要十分な条件を満たせていません。

「自分の会社が世の中から無くなったら世界は何を失うか?」の答えが思い浮かばないのならおそらく「要らない会社」ということなのでしょう。これがまさにパーパス。マーケティングは社会にどんな便益を提供できるか。パーパスは社会がどんな便益を失うか。その接点こそがサステナビリティ・マーケティングかと。

パーパスはどんな価値を生むか

パーパスは、相対的価値ではなく絶対的価値を社内外に伝えるものです。「競合より素晴らしいパーパス」というものは存在しませんし、競合と比べた競争優位性をアピールすることではない。だから、信念/志であり、価値観であり、存在意義、文脈、であると思うのです。

でも今はそうした「ビジネスマーケットにおける自社」ではなく「社会における自社」が語れることが重要になってきます。競合との差別化も重要なことですが、社会に必要とされない企業は、長期的にマーケットにいることすら難しくなります。たとえば労働条件が劣悪な企業は、ネット叩かれます。ですので、まずは長期的に価値を高める組織づくりが大切なのです。

そのためにパーパスが共有されていることはとても重要ですが、ビジネスの現場では常に「立派なパーパスがあるのはいいけど、それで本当に売れるのか?」ということが問われます。実際に現場では非常によく聞く疑問だと思います。そして、社会に良いことをしよう、というパーパスを体現したコンセプト、たとえば環境に良いものです、というような訴求を含むコンセプトを調査すると、非常に訴求力が高いということがわかります。

しかし、調査結果を信じて実際にモノを世に出してみると、思っていたほど売れないという。前述したように、通常、パーパスだけで売上があがるのは、熱烈なファンコミュニティがある企業だけです。99%の企業は、パーパスだけではなく、商品そのものに圧倒的な価値がなければなりません。ですので「パーパスで商品は売れるのか」に対しては、「サステナビリティで売上は上がるのか」とまったく同じ回答しかありません。「パーパスで売上があがる企業もあるし、そうでない企業もある」です。

サステナビリティ・パラドックス

サステナビリティ推進活動も通常の事業活動と同じで合理性が求められますが、結局合理的な考え方の主語は自社なわけで、必ずしも社会やステークホルダーにとって合理的であるとは限りません。

ちなみに、サステナビリティ関連のアワードを受賞しているレベルの企業(もちろんサステナビリティ・マーケティングもしてる)で、労働問題や不適切会計などの不祥事が起き続けることがあります。つまり「サステナビリティ・マーケティングをしている企業が倫理的であるとは限らない」ということがわかります。

これは企業だけではなくすべてのセクターで起きうるジレンマです。たとえば、環境系NGOで労働条件悪い“やりがい搾取”のところ多く労働問題を抱えている、とか。人権配慮を訴える人権系NGOで、アナログな業務ばかりで環境負荷を一切考慮していないとか、自分たちの考える正義には進むものの、その他の要素を無視してしまうことはよくあります。(実例)

例えば、コットンとレザーはどちらがサステナブルなのかという議論があります。製造時の環境負荷を基本指標にすると、レザーはコットンの何倍も環境負荷が高いとされます。しかし、レザージャケットは手入れをしながら10年以上着続けられます。そう考えると、そこまで耐久性のないコットン製品よりもレザー製品のほうが耐久性が高く廃棄がすくないため、環境に優しいサステナブルな素材とも言えます。ただし、エシカルかと言われると、動物愛護の視点が入ってくるのでコットンに軍配があがるでしょう。つまり、どの時点で何を指標とするかで、そのプロダクトが倫理的なものか変わってくるということです。

これはサステナビリティ・マーケティングに限りませんが、物事には必ず矛盾が存在します。世の中のほとんどの企業は、ステークホルダーのためといいながら、ステークホルダーにネガティブな影響を与え続けるのです。その程度に差があるだけです。この大変重苦しい前提を理解しながら、マーケティング施策を実施する必要があります。

まとめ

知識なくしてマーケティングは不可能。しかし、知識だけでもマーケティングは不可能。マーケティングのひとネタとしてサステナビリティを取り入れようとすると、いわゆる“サステナビリティ・ウォッシュ”な状態になりがちなので、マーケティング関係の方は注意してください。

サステナビリティ推進担当者は、社内で、特にBtoC企業はこの手の話が出てくると思いますが、前述したような課題や注意点をチームに共有いただけるとありがたいです。仮にマーケティングとして成果が出たとしても、アウトカムとしてサステナブルな社会に貢献しないビジネスモデルは、ただのウォッシュですらね。またサステナビリティ・マーケティングを煽るコンサルは増えていますが、このあたりは注意が必要です。

このあたりは、サステナビリティ経営の専門家として、マーケティングやブランディング支援の会社と協業してお客様に真実を伝えていきたい!と思うのですが、どなたかこんな会社がパートナーにいいよと教えてくださいませ(自薦・他薦問わず)

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