パーパス

パーパスと企業経営の考え方

昨今、サステナビリティの分野でも「パーパス(社会的存在意義)」への言及が増えてきています。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー ≒ 理念体系)は昔からありますが、その延長線上だったり、サステナビリティのスローガン的なものだったりと実態はさまざまです。

パーパスドリブンな組織としては、よく事例として挙げられるオールバーズやパタゴニア、ベン&ジェリーズ(日本撤退済)あたりのBcorp企業はわかりやすいです。日本にも中小中堅のパーパスドリブンな企業はたくさんあると思いますが、有名なところはあまりないですね。

パーパスとは社会に存在している意義があることを指します。つまり、パーパスがあるってことは社会に必要とされる企業であるということです。そういう企業は、自社の社会的な存在意義をステークホルダー目線で整理し、経営に反映することができています。とはいえ、企業理念でさえ社内浸透していない程度の企業が、パーパスを実践し続けるのは不可能です。ではどうすればよいか。そのあたりの課題についていくつかの視点をまとめます。

パーパスの意義

私は、一橋大学の名和先生のパーパスの訳語が「社会的な存在意義」ではなく「志」としたのは、とても良いと思っています。存在意義の主語は社会ですが、志の主語は企業なので、現場もイメージしやすいかなと。コンサル系やブランディング系の方がパーパスを大プッシュしていますが、サステナビリティ分野では著名な大学教授の影響も大きいですよね。

で、パーパスは私も重要だと思って、ずいぶん前からプッシュはしているものの、現実的には浸透は難しかったです。まず大前提として、企業のパーパス自体を従業員含むステークホルダーが信じているかどうかが決定的に重要です。過半数の従業員が「ウチのパーパスってなんだっけ?あったとしても綺麗事だしどうでもいいです」と思っていたら意味がありません。実態を偽ったパーパスを掲げる企業はアウトです。自社従業員が心の底からパーパスに共感して、自分は業務を通じてこれをやり遂げるんだという信念をもてるかどうか。そんなものは無理と思うのであれば、最初からパーパスには手を出さないほうが賢明でしょう。

では、従業員をはじめとするステークホルダーが、パーパスを自分ごととして感じてもらうにはどうしたら良いか。たとえば、パーパス・ステートメントの中に、1つは「動詞」を入れましょうと私は言っています。これはレトリックの問題で、パーパス(なぜそれをやるのか)、ミッション(果たすべき使命)、ビジョン(将来あるべき姿)は、結局何をやりたいかという「動詞」で表せるはずなのです。他にも理由があり、動詞がないパーパスは実践が非常に難しいのです。ただでさえ抽象的になりやすいので、キーワードを一つ以上含めて、具体的なイメージを持ちやすい表現は欲しいですね。

パーパスは万能ではない

とはいえ、パーパスが盛り上がっているのは良いことだと思う一方、過度なパーパス信仰はちょっと怖いなとも思っています。どういうことかと言いますと、パーパスの意味や意義があるのは、創業からソーシャルビジネス的な動きをする企業か、事業がある程度うまくいっている会社の2パターンしかないのかなと。そうでない企業には効力が発揮しにくいように思います。

たとえば、パーパスっていうほど顧客には意味がないわけですね。パーパスがすごくても、すごくなくても、目の前のプロダクトやサービスが変わるわけではありませんから。どこでもいいですが、お店でモノを買う時、すべての商品にいちいち共感するとか、パーパスを調べて買うなどもしませんよね。いろんな調査を見ても、大多数はコンテクストではなく、値段と表面上の品質が主な購買要素になります。

パーパスの存在は投資家・評価機関などにはポジティブ評価になる可能性は高いのですが、顧客のメリットにはなりにくい。「商品・サービス・値段は一切考慮せず企業のパーパスが良いから買った」なんてことは絶対起きません。NPOなどパーパス自体が商品に近い業種は顧客(寄付者)への一定の影響は見込めますが…。

ダノンなどはその典型例で象徴的なものでした。全世界でサステナビリティ先進企業と評価されていた企業が、競合に勝てず、業績や株価の伸び悩んだ結果、CEOが解雇。業績不振だけではなくガバナンスの問題もあったとされますが、結局は業績ですよ。パーパスはめちゃくちゃ大事だけど、それだけでやっていけるほどビジネスは甘くないということです

現実的に素晴らしいパーパスを掲げながら、それが社内に浸透しながらも、市場競争力が悪化し、衰退する事業と企業をいくつも見てきました。その現実を目の当たりにしたら疑問を持たざるをえなかったです。極論、儲かっていない企業の後付けパーパスは意味がない、と。

これらの事例から考えるに、パーパスは一番じゃないんですよ。一番はビジネスモデル。「道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である」ですよ。だからパーパスが意味がないとは言いませんが、いやミッションじゃないパーパスだ、いやパーパスじゃない志だ、とかいう議論を現場でしているのはあまり意味がない。「パーパスは大事だよね」でよくて、まずビジネスしようよ。これだけ何十年も環境だサステナビリティだといって問題が解決しないのは、このように議論だけで実践がぜんぜん進まないからなんですね。

ちなみに、このあたりは先日Markezineというメディアで「社会課題に寄り添うパーパスドリブン・マーケティング マーケティングと企業理念を両立させるには」というインタビュー記事で語っているので参考までに。

パーパスの主語は誰か

マーケティングやブランディングとしてのパーパス(顧客しかみないパーパス)はいずれ破綻します。成功し続けている企業はほとんど見たことがありません。パーパスを手段として考えている時点でもうダメですね。SDGsと一緒。パーパスもSDGsも手段ではく目的でなければなりません。

パーパスは企業のものというか、ステークホルダーのもの、というイメージです。結局自社が主語になるならミッションと変わらんやん、という。ちなみに看板だけのパーパスはもってのほかです。10年前であれば、パーパス自体が新しく差別化を生み出す力がありましたが、今やどのグローバルブランドでも、自ブランドには正義や環境など社会に対する大きな役割を果たす社会的意義のあるパーパスがあると訴えるようになってきています。

「我々は正義の味方である!」そんな風にまるで企業がヒーローのように振る舞っていますが、消費者からするとどれも似たり寄ったり。真剣にパーパスを追求したり社会に意味のある変化をもたらしているブランドが、一体どれなのか見極められなくなってしまっています。消費者はブランドの理念ではなく行動を期待している側面もあります。重要な課題・問題に対する姿勢や行動を求めているのです。そう考えると、パーパスはミッション(企業理念)よりバリュー(行動指針)に近いのかもしれません。

目的としてのパーパス

前述したように、理念としてのパーパスが流行りすぎたことで、ちょっと危険な気がしています。理念として重視されたために、行動のとしてのパーパスが軽視されてしまっている点です。

「サステナビリティはパーパスから始めるのが理想だが行動を最優先しなさい」とかしないと、非生産な犯人探しを繰り返すだけの時間を費やしてしまいそうです。パーパスが素晴らしい企業というのは、総じて従業員の行動やビジネスモデルにパーパスが反映されているものです。体現できないパーパスは単なる独り言ですから。

あと、そもそものパーパス自体がステークホルダーにとって魅力的である必要があります。企業としては「パーパスから始める事」が重要なのではなく「ステークホルダーを惹きつけるパーパスがあること」が重要なのです。そもそもパーパスって手段ではなく目的なので「つくる」ものではありません。成功するためにパーパスからはじめるといいらしい、じゃあパーパスを考えようと凡庸なパーパス(らしいもの)を作っても意味はありません。パーパスは手段ではなく目的であるべきです。

たとえば「地域のためのパーパス」もあります。海外進出する該当地域の国々で、社会課題解決に貢献するという名目だと受け入れられやすいというのはあるそうです。ファーストリテイリングの柳井社長もインタビュー等で言っていましたが、海外では「では御社は我々(現地)に何をもたらしてくれるのか」を率直に問われると。そこで企業の社会的存在意義となるパーパスの登場ですよ。

あと、創業したばかりの企業は、 パーパスを根本から事業に組み込むことができるものの、伝統的企業(創業100年越えの大手製造業とか)はパーパスドリブンな経営に方針転換するにあたり、より険しい道を進む必要があります。状況によっては、現在儲かっているビジネスモデルでさえ変更を迫られるわけで、反発もすぐに予想できます。たとえば、石油石炭・ギャンブル・アルコール・タバコあたりは、反ESG的(必要悪)な要素満載ですので、社会的な存在意義を突き詰めた結果、自社の存在意義がないことに気付くなんてことも…。

パーパスの社内浸透

サステナビリティやパーパスが大事なことは、程度の差こそあれ、今や多くのビジネスパーソンがわかってることです。それを全従業員に伝え、浸透させるためには言語化が大事なこともわかっています。でもその言語化作業は、明文化するだけではなく社内文化と整合させなければなりません。

パーパスが上意下達で上手く行く例は少ないです。従業員に必然性や当事者意識を持ってもらう努力も必要です。そういう意味では、組織はもっと“かっこつけてもいい”と思います。トップが「誰が何を言おうと、我々は〇〇の社会課題解決に全力に取り組むんだ」とドヤ顔で宣言するのです。精神論でありますが組織のサステナビリティ推進に大きな影響を与えます。社長をはじめとするトップが本気で考えるなら、従業員の我々もがんばろうと。

問題なのは、言行一致してないトップですね。言っていることとやっていることが違うとまず信頼されません。当たり前ではありますがこれ非常に難しいです。だからこそ、できているととても高い評価を受けます。拙著でも書かせていただいた、オムロンや丸井グループは、トップが言動だけではなく行動もしており、その本気度がうかがえます。

まとめ

パーパスについていくつかの視点でまとめてみました。パーパスは広義な概念であり、マーケティング分野の人はパーパスをマーケティング視点で語るし、ブランディング分野の人はブランディング視点で語るし…と、良くも悪くもポジショントークが多いため、サステナビリティの現場担当者でパーパスを毛嫌いする方も一定数います。(そして私はサステナビリティ文脈でパーパスを語るという…)

私の観測範囲でいうと、狭義のパーパスは、サステナビリティ的には馴染まないように思います。パーパスでもMVVでもなんでもいいので、組織としての重要な考え方が明確になっていることはとても良いことですので、うまく取り込んでいきましょう。

いくつかのポイントをまとめましたが、本記事が貴社のパーパス特定や見直しのヒントになれば幸いです。

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