パーパスドリブン

パーパスドリブンなサステナビリティ戦略

サステナビリティ界隈では、昔からミッション・ビジョン・バリューなどの理念体系が重要だと言われていました。

社会やテクノロジーそして社長を含む自社従業員も時が経てば変わりますが、理念は時を超え語り継がれる、変化しかない時代で唯一と言っても過言ではない変わらない概念であります。そして、その延長線上でこの界隈でも語られるようになってきたのが「パーパス」です。日本語では、社会的な存在意義・理念・志・大義などと訳されます。

変化の多い時代だからこそ、変わらないものに目を向けて、中長期的な経営をしていきましょうよ、という趣旨です。パーパスドリブンなサステナビリティ戦略に関しての話は、他にも記事にしているので、文末のリンクからどうぞ。

そんなパーパスですが、本記事では、最近の調査動向や事業事例をまとめながら、「パーパスと実践」について考察していきます。

マーケティング視点の事例

先日、パーパスドリブンなマーケティングについての、私のインタビュー記事が、マーケティング系で有名なメディアMarkeZineさんで掲載いただきました。

>>社会課題に寄り添うパーパスドリブン・マーケティング マーケティングと企業理念を両立させるには

マーケティング系のメディアは随分前に、宣伝会議さんに寄稿したきりで、久しぶりのマーケティング系メディアの露出でした。言っている内容は、マーケティングを長期視点で考えよう、というものです。かなり実践的な内容になっていると思いますので、サステナビリティ・マーケティング/サステナビリティ・ブランディングに興味がある方はチェックしてみてください。

調査事例:博報堂

1、生活者に共感されるブランドパーパスのテーマ
・生活者は、身近な社会問題への関心が高く、暮らしを左右するテーマでブランドパーパスを設定することが求められる。
・ライフスタイルやライフステージによって切望する社会の姿や生き方が異なり、共感するポイントも異なる。それぞれの価値観に寄り添って後押しするようなパーパスが、共感を生むと考えられる。

2、マーケティングにおけるブランドパーパスの役割
・最もブランドパーパスを重視しているのは20代。
・生活者はブランドパーパスに共感すると、値引きがなくても買ってくれ、自らブランドの情報を取得し、周りの友人や家族に勧める。ブランドパーパスへの共感向上がマーケティング効果を高めると考えられる。
・「共感するブランドがある」生活者は1割強にとどまる。

3、経営や組織におけるブランドパーパスの役割
・経営理念を認知している従業員は多いが、共感度は低い。
・従業員が会社のパーパスに共感すると、勤続意向やモチベーションが高まる。
博報堂、「ブランドパーパスに関する生活者調査」を実施 ―生活者が共感するブランドパーパスの視点と、パーパスのマーケティング・経営上の効果を分析

パーパスが確立できており、ステークホルダー・エンゲージメントに落とし込めていれば、ビジネス的には“堅い”と。ブランドパーパスは、顧客だけではなく、従業員にもポジティブに働く可能性が高いようです。

調査事例:電通

・シフト1:環境・社会課題の「自分ゴト化」が加速
・シフト2: “持続可能性”の意味を実感
・シフト3:環境・社会問題は“世界課題”との理解が進む
・シフト4:多様な環境・社会課題への気づき
・シフト5:共通の目的に向かって力を合わせる“共創”を重視
よりサステナブルな世の中へ。コロナ禍がもたらした生活者意識の「5つのシフト」

「コロナ下の生活者意識から考えるサステナビリティとパーパス」という電通の調査です。私はサステナビリティ畑が長い人間なので、コロナで大きな意識変化はありませんが、少なからず社会課題への意識や行動が増えているようです。

事例:ユニリーバ

これまで、私たちは多くのことを学んできました。常にうまくいっていたとは言えませんが、サステナビリティをリードする存在でありたいという強い想いを常に持ちつづけ、行動しつづけてきました。その原動力となった3つの信念があります。パーパス(目的・存在意義)を持つブランドは成長する、パーパスを持つ企業は存続する、そしてパーパスを持つ人々は成功するということです。

ユニリーバは、すごく努力しているし、だからこそ結果がでて、グローバルで先進企業と言われるレベルにもなりました。2010年に導入した、成長とサステナビリティを両立するビジネスプラン「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」は有名な戦略です。次のステップとして以下のような話をしています。

私たちは、ビジネスを成長させながら、ビジネスの在り方をこれまで以上に変えていきたいと考えています。そのために新しい戦略「ユニリーバ・コンパス」を導入しました。ユニリーバ・コンパスは、ステークホルダーへの貢献をすべての活動の中心に置いています。その中では、人権の尊重を決して譲れないものとして重視しています。そして、現代の最重要課題に取り組むための野心的な行動計画とプログラム、期限つきの目標を設定しました。私たちのブランドの規模と影響力をフルに活かし、より速く、より遠くまでよい変化を起こしていきます。

いつもいいますが、サステナビリティ戦略の実践は長い年月が必要です。戦略実行も社内浸透も財務インパクト創出も、10年単位の仕事です。企業ごとに色々な課題があるのは知っておりますが、たいした努力もせず「サステナビリティやパーパスが社内浸透しません」と語る企業担当者が多いので、そこはもう少し頑張ってくださいとしか言えません。

引用:地球と社会

事例:パタゴニア

今のパタゴニアのパーパス(ミッション)は「私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む」です。パタゴニアは2019年にミッションステートメントを変更しています。他にもウェブサイトの価値観というページでは以下のように説明しています。

■ビジネスを手段に自然を保護する
私たちの社会が直面している問題には優れたリーダーシップが必要です。一旦問題を認識したら、私たちは行動を起こします。リスクを進んで受け入れ、生命網の安定性と全体性と美を守り、修復するために、私たちは活動します。
価値観と事業

パタゴニアは、ミッションのためならばいわゆる政治的な活動もします。なんといっても“地球を救う”がミッションなのです。そこらの企業とはビジネスの熱量がそもそも違います。そして自身らを“アクティビスト(活動家)”というくらい、アクションを起こしています。

多くの日本の大手企業にように事なかれ主義ではありません。他に、アクティビスト的な動きをする企業といえば、アイスクリームブランドのベン&ジェリーズ、オーガニック化粧品のラッシュ、などでしょうか。

もちろん、企業が社会的責任を果たすのに、必ずしもアクティビストである必要はありませんが、こういう企業もあるということで。私もパタゴニアの商品を持っていますが、自社の社会的存在意義を明確にし、効率性とは短期的に相反していたとしても、社会にとって良い事を実践する企業を消費者は見逃さないということです。

パーパスの実践

パーパスは実行されてナンボであります。ユニリーバもパタゴニアも、パーパスの実践を長きにわたって行なっています。パーパスは表明するだけでは不十分で、企業活動の中で実際に行動に移してこそ意味のある概念です。むしろ表明することよりも実践のほうが重要です。

社長を含むすべての従業員がパーパスを念頭にいた行動をしなければ意味がありません。理想的なパーパスの実践は、サステナビリティ推進と同じく、方針(ポリシー)を明確にし、KPIをさだめPDCAプロセスに落とし込み、最終的に利益につながる効果測定をすべきです。

パーパスが行動を伴わないとしたら、それはパーパスではなく単なる“願望”ですね。独り言/寝言、ともいいます。紙に何かを書くのは簡単ですが、その言葉を実現するにはより多くの努力が必要なのです。

パーパスが組織に馴染んで実用性が高まるのが理想ですが、それには10年単位の時間がかかります。今、世界でサステナビリティ評価の高い企業でも、1990年代にNGOに叩かれてから、本気で社会課題に向き合って優等生となっているパターンは多いのものです。理想としては、パーパスの実践が通常業務に含まれている状態にすることです。通常業務とパーパスを別のものと考えている時点で間違っています。

パーパスと行動指針

もし、多くの従業員が自社のパーパスに合意できない状態であるとしたら、その妨げとなる要因を先に解消する必要があります。実行と同じく重要なのが「パーパスに反する行為」を予防する取り組みを行わなければならないことです。パーパスの実践と同時に、パーパスの実践の障害となる壁を取り払わないと、アクセルとブレーキの同時踏みになってしまうので注意です。

また、パーパスは理念ではありますが、バリュー(行動指針)でもあります。身も蓋もない話ですが、パーパスが浸透している、もしくは価値創出の根源となっている企業の共通点が「本気である」ことです。アップルもスターバックスもパタゴニアもユニリーバも、パーパスの達成に本気なんです。

本気とは、トップが社内外に何度も公言し、リソース(予算と人)をかけて、本気でパーパスを達成しようとするのです。パーパスがあるのに、結果がでてないのであれば、それはまだまだ本気になれていない、ということです。うわべだけのパーパスである「パーパスウォッシュ(Purpose Washing)」ではない、パーパスの特定と実践をしましょう。

パーパスの分野では、ソーシャルベンチャー含めて、日本企業の事例がほぼ出てこないので、2020年代には巷でよく語られる日本企業が増えてほしいです。またそうなるよう、私自身も動いていきます。

まとめ

本記事では、調査事例や企業事例を紹介してきました。ありきたりの企業事例ですが、そのエッセンスを紹介できたかと思います。

特に大手上場企業では、サステナビリティのために、新たにパーパス(ミッション)を定めるというのは難しいかもしれませんが、長期視点をもって、取り組みを進めていただきたいです。

とにかく、本記事でお伝えしたいことは「パーパスウォッシュ」にならないように、スローガン作成よりも実践に重きをおいていきましょうね、ということです。それだけ覚えていただければ結構です。

関連記事
サステナブル・マーケティングとしてのCSVとパーパス
パーパスが変えるサステナビリティ経営戦略
サステナビリティにおけるブランドとパーパスの立ち位置