SDGsアジェンダ

SDGsと2030アジェンダ

「企業のSDGs推進の課題」を当ブログではよく取り上げる話題の一つですが、「安藤さんはSDGsに批判的ですよね」と言われることがあります。私としては“叱咤激励”なつもりなのですが、表現がうまくなくSDGsクレーマーになってしまっているかもしれません。反省です。

そして本記事も「叱咤激励系」の記事です…。(でもSDGsを絶賛する人しかいないのでたまにはアクセントになっていいですよね?)

ということで本記事では、SDGs登場から5年ということで、改めて「2030アジェンダ」を読み直してみます。盛り上がっている時こそ、波に飲み込まれないように原点回帰しましょう。

2030アジェンダ

このアジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画である。これはまた、より大きな自由における普遍的な平和の強化を追求するものでもある。我々は、極端な貧困を含む、あらゆる形態と側面の貧困を撲滅することが最大の地球規模の課題であり、持続可能な開発のための不可欠な必要条件であると認識する。

すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する。我々は、人類を貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒やし安全にすることを決意している。我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に 移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う。

今日我々が発表する17の持続可能な開発のための目標(SDGs)と、169のターゲットは、 この新しく普遍的なアジェンダの規模と野心を示している。これらの目標とターゲットは、 ミレニアム開発目標(MDGs)を基にして、ミレニアム開発目標が達成できなかったものを全うすることを目指すものである。これらは、すべての人々の人権を実現し、ジェンダー平等とすべての女性と女児の能力強化を達成することを目指す。これらの目標及びターゲットは、統合され不可分のものであり、持続可能な開発の三側面、すなわち経済、社会及び環境の三側面を調和させるものである。

※「外務省|我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」より引用

2030アジェンダの問題点

たとえば、2030アジェンダは「すべての人々の人権を実現し」とありますが、人権はSDGsの17目標に組み込まれず、ターゲットではかろうじて「4.7」に、教育を通じて獲得すべき知識の一つとして挙げられるのみです。他は国際人権法は出てきますが、人権という単語自体でそもそも出てきません。

ただSDGsは総合的に人権の話ではあるので、必ずしも人権への言及がないというわけではありませんが、明確なゴールや指標には含まれていないのも事実です。SDGsの崇高な世界を“世界の最大公約数”に落とし込むとこうなってしまうのでしょう。これは責めてもしょうがないです。

200近くの国と地域が賛同するには、根本的な社会課題であっても深く言及できません。ターゲットやインジケーターを見てもらえばわかりますが、CSR/サステナビリティ界隈で見聞きする、アノ問題もコノ問題も取り上げられていないことが理解できます。建設的妥協、とでもいうのでしょうか。

「誰一人取り残さない」など、2030アジェンダの前半には、凝縮された社会性が随所に見受けられます。日本語訳もなかなか解釈が難しい部分もありますが、SDGsブームで本質が語られにくくなっている今だからこそ、その姿勢は今一度学ぶべきといえます。

ここ数年で、SDGs支援は儲かると匂いを嗅ぎつけた企業が(ビジネス的には非常に正しいが)、SDGsについて様々な形で語っていますが、そんな時だからこそ、原点回帰といいますか、もともとのアジェンダを読み直した方が良いです。SDGsを誰がどう言おうが大元のアジェンダが正解です。偉い先生や有名コンサルの発言が必ずしも正しいわけではありませんので、惑わされないように注意しましょう。

SDGsと企業経営

あと、最近よく言われる「SDGsを経営に組み込む」ということはどういうことか理解していますでしょうか。簡単にいうと、たとえば「企業理念、中期経営計画、人事/報酬制度、行動指針、新規事業」などにサステナビリティの要素を組み込むことを指します。「経営」というと何かを言っているようで、実は何も言っていないことがあるのですが、単に「日々の活動の中でサステナビリティを重視した意思決定を行う」と考えればよいでしょう。

企業がSDGsに取り組む際、経営理念とSDGsを統合し企業活動の中核に位置付けする。そして、中長期的な視点をもって推進することが理想とされていますが、現実的には不可能(企業理念の変更はまずできない)なので少なくとも以下のタスクはこなしたいところです。

・社会およびステークホルダーに与えるポジティブもしくはネガティブな影響を把握する(バウンダリ特定)
・社会およびステークホルダーへ上記の影響について、今後どのように対応していくか明らかにする(「リスクと機会」の特定と対応)
・社会およびステークホルダーの期待に応えられているか、対話などを繰り返し常に確認する(ステークホルダーダイアログ)

CSR/サステナビリティ分野では、マテリアリティなどの戦略が重要視されますが(重要でないわけではないが)、それらを担保する具体的な推進活動があってこそ、意味を持つことを今一度振り返りましょう。

SDGsのトレードオフ現象

また、そのほかにも留意しておきたいのがSDGs推進活動の中で発生する“予期せぬトレードオフ”についてです。

たとえば、貧困撲滅を目的とした開発が自然環境に深刻なマイナス影響を与えるなど、社会課題間の予期せぬトレードオフが発生することがあります。これは実際にはよくある話なのです。現地を本当に知っていれば起きにくいのですが、善意が先行し現場外の人間が主導することで起きやすくなります。NGOのプロでさえこういう事態になりますから。

企業サイドでみても、バウンダリが明確になっていれば大きな過ちは起きないはずなのですが、サプライチェーンのバウンダリ特定をする前に「我が社もSDGsだ!」といって、少ないリソースでスタートするので、たいていトレードオフの問題が起きてしまいます。

この2030アジェンダにある指摘を本当に経営に組み込めるのか。現場レベルでいえば、SDGsだろうがCSRだろうが、事前にやるべきことがあるのでは、と。

SDGsの中長期視点

あと、一番のSDGsウオッシュ/レインボーウォッシュの要因は「長期視点の不足(インサイドアウト思考)」です。SDGsのゴールと事業との紐付けはいいのです。どうぞやってください、と。しかし、その成果(アウトカム)として、中長期の戦略や具体的な成果がなければ、それはただの独り言であり、たいした意味はありません。

今現在の行動は「過去」と「未来」に引っ張られて行われます。過去が勝てば現状維持(以前にこうやってうまくいったから今回もやる)となり、「未来」が勝てば新たなチャレンジ(こうするれば将来うまくいくはずなのでやってみる)となります。サステナビリティとは「未来志向」の意思決定方法であります。「過去」と「未来」が意思決定において天秤にかけられたとき、常に「未来」が勝つようにすることがサステナビリティでもあります。

CSRやサステナビリティは、日々の事業活動を未来志向にしてくれるものでもあります。逆にいえば、従来通りの意思決定機構を使いながらサステナビリティと宣言するのは間違っていると。だからか“雇われ社長(任期が原則決まっている社長)”の上場会社は、目先の利益が重要になり、中長期のコミットメントがしにくいのでしょう。これは事実なので変えられることはまずないでしょう。そういう前提を理解してそれでも変えられる部分を見つけることがSDGs推進担当者の腕の見せ所ということなのです。

企業では、SDGsにむけた多くの努力がなされておりコミットメントを増やしています。しかし、口先だけでの約束で低い実施レベルのままでは、2030年の目標達成は不可能です。といいますか、どのSDGs進捗レポートみても、どの分野も著しく進捗が遅れている、というレベルです。SDGsを主導する国連でさえ赤字(12月時点で1,000億円レベル)で、そもそもお金なくて本部のエスカレーターが2ヶ月以上止まっているらしいですね。(噂では“見せしめ”という話もありますが)

まずは企業も国連も素直に“負け”を認めましょう。SDGsは現時点で夢物語でしたと。今まで社会課題の解決や緩和にほんとど関与できなかったと。しかしそれらは恥ずべきことではありません。多くの企業がそうだからです。今から変えればいいのです。今ならまだ間に合います。まだ10年あります。この10年間は働き盛りのミレニアル世代(20代後半〜30代後半)がもっと活躍してくれているはずです。(私もがんばります)

まとめ

すでに169のターゲットの中には、2020年が目標達成年になっているものもあり(確か10項目以上あったはず)、2020年はSDGs推進にあたり節目となる年になることは間違いありません。

SDGsって、2030アジェンダから話をする人、ほんといなくなりましたよね(元からほぼいませんが)。CSVもですが、元の論文を読まないというか「大元に当たる(一次情報にあたる)」ことをしなくなってきている気がします。確かに大元を探して確認するのは面倒ですよ。でも、色々動いていると、本質的なことからずれてしまうこともあります。やはり振り返りは大事です。

前に進むことは重要ですが、時には一旦立ち止まり、振り返ってみて自社の進む道は間違っていないか確認してみましょう。

関連記事
キリン・コニカミノルタ・リコーがトップ、日経「SDGs経営調査」(2019)
CSR/SDGsの広報はサステナビリティ経営に貢献できるのか
SDGsへむけて日本企業が取るべき行動とは