統合報告書/統合レポートの最近

年末年始は何かとCSR/ESG系アワードの発表が集中しがちです。

見逃している方もいるとは思いますので、本記事では、この年末年始(2018年12月〜2019年1月ごろ)に発表された統合報告書やCSRコミュニケーション関係のアワード、ランキング等をまとめて紹介したいと思います。未上場でも大手企業であれば参考になると思います。

ここ数年のESG投資の増加を背景に、投資家やCSR/ESG評価機関からの評価を経営陣らが意識するようになったことで、CSR部にますますCSR/ESGに関する情報開示への対応が求められています。業務としてはIRだと思いますが、その情報内容自体はCSRなので、CSR部門としてのIR業務が増えているということです。その一つが統合報告書です。

そんな中で絶対に挙がる話題が「評価の高い統合報告書の事例」です。そんな時に、2019年いっぱいは使えるであろう、先進事例と、そのポジショニングについてまとめます。

2018年発行分(約410社)の統合報告書については「国内自己表明型統合レポート 発行企業リスト2018年版」(2019年2月発表)を参考にしてください。

アワード

GPIF

GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」

日本ではいくつか統合報告書のアワードがありますが、世界のGPIF(厳密には運用機関)に“優れた”と言われる報告書は、現時点でのベストプラクティスと考えてよいでしょう。2019年発表分で、特に評価が高いのは、伊藤忠商事、丸井グループ、大和ハウス工業、味の素、オムロン、でした。

環境省

第22回環境コミュニケーション大賞

環境省の歴史あるアワードです。統合報告書も評価対象です。今年の大賞は、トヨタ自動車、味の素、イオン、です。

日経

第21回日経アニュアルレポートアワード

2019年発表分では、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス、大和ハウス工業、中外製薬、三井化学、コニカミノルタ、丸井グループ、などが高評価でした。

日本IR協議会

IR優良企業賞2018 受賞企業

統合報告書のアワードではありませんが、最近は受賞コメントに「非財務情報」「ESG」という単語がほとんどの企業に入っており、IR領域のアワードに関しても、ESGや非財務情報がテーマ(評価項目)に含まれるようになった、という点でCSR担当者には学びがあると思います。

エーザイ、住友化学、ソニー、ピジョン、不二製油グループ本社、三井物産、三菱商事、三菱UFJフィナンシャルグループ、などが高評価を獲得しています。

参考資料

新時代の非財務情報開示のあり方に関する調査研究報告書(企業活力研究所、2018年3月)
日本企業の統合報告の取組みに関する意識調査2018(KPMG、2018年5月)

CSR/ESGを事業戦略に組み込むこと

環境コミュニケーション大賞も、統合報告書やアニュアルレポートが多く含まれてますし、従来のCSR報告書よりも、統合報告書のほうがアワード関係は多いです。逆にCSR/サステナビリティ・レポートのみを評価する有名なアワードって何か残っていましたでしょうか、というレベルです。(環境コミュニケーション大賞も「環境レポート」の部門はまだありますが)

ESGはあくまで「中長期的な企業価値の向上」のモノサシの一つです。「女性役職者数」でも「CO2排出量」でもなんの数字をKPIにしてもいいけど、それが自社としてステークホルダーの価値向上にどう貢献しているか示してもらわないと、評価しようがないというか、意味がないのです。

一部の企業をのぞき、CSR/サステナビリティ要素を事業戦略に組み込む箇所の開示が少ないに思います。よくみられる傾向が、統合報告書の前半では事業の話しかしておらず、後半でサステナビリティ活動の要旨やデータを載せるというもの。これではただ1冊にしたというだけで統合とはいえない。非財務情報を財務情報(事業パート)で語らないと、「だからどうしたの?」と解釈させれてしまう可能性すらあります。

投資家が求めているマテリアリティとは「ビジネスモデルの持続性に影響を及ぼす、重要な“リスクと機会”の課題」だと聞いたことがあります。これはかなり納得できました。ビジネスモデルの持続可能性にリスクあるなら、今後その課題にどうやって対応していくのかを示す必要があります。逆にビジネスモデルが少なくとも10年以上続くと確信しているなら、そうなのであれば、その根拠(エビデンス)は何か。このあたりをどのようにまとめられるかが、統合報告書のポイントの一つになってきます。

「負の外部性」をマネジメントすることが ESG対応の根幹にあります。例えば、業界ごとに差はありますが、企業は基本的にサプライチェーン上に大きなESGリスクを抱えています。そのため、ビジネスモデルの持続可能性を知るには、サプライチェーン上のリスクマネジメントができているかどうかで、ある程度判断できるということもあります。

これもよく言われることですが、投資家はCSR活動自体に何かを求めているわけではなく、CSR活動の結果として生まれた成果に期待しているだけです。「CSRをがんばっているから評価して!」という精神論の話ではないと。投資家がESGを含む非財務情報の開示から読み取ろうとしているのは「ビジネスモデルの持続性をどう担保するか」です。CSR(特に社会貢献カテゴリ)をベースとしたESG開示はこの視点が欠落しており企業価値評価に結び付きにくい。逆にそこが表現できれば、一定の評価は得られるでしょう。

リターンへの執念を

統合報告書で重要なことは経済的・社会的リターンに対する長期的な視野と積極的な開示です。CSR/サステナビリティ報告は、この10年間・毎年100社を超える企業のものを見てきましたが、どちらかというと定性的といいますか、リターンはあまり意識されていない気がします。いわば、リスクマネジメント的というか。

社会的なリスク/機会の要因がグローバル企業の信用格付にどう影響するか。社会的リスクは環境リスクよりも顕在化頻度は少ないですが、顕在化すると格付への影響は大きいというのが昨今の見解のように思います。特に「人」に関する部分。

現時点でのESG情報は非財務情報と言われていますが、近い将来に財務面への大きな影響を与える(財務パフォーマンスに影響を与える)カテゴリーです。非財務情報が現時点でコストだと判断し、対応を怠ることによって起きる、将来の財務面への影響機会を失うのはもったいないです。

これまではCSRは、株主価値創出は定量的にリンクづけされてきませんでした。CSR活動は株主のためにしているのではないと。ただし、上場企業であれば当然、株主・投資家は重要なステークホルダーであり、本来はもっと情報開示をしたり、理解してもらう活動(IRやエンゲージメント)をすべきなのです。株主にどんなリターンを返せるのか、CSR文脈では難しいのはもちろんなのですが、上場会社はそれを諦めたら終わってしまいます。

まとめ

統合報告書の普及により、CSR/ESG情報のIR化といいますか、昔、CSRには投資家目線が足りないという議論があったかと思いますが、投資家を含めた、文字通りのマルチステークホルダーに向けた情報発信に企業が力を入れ始めたようです。今後、さらに一歩先の評価獲得というところで、予算なり時間なりをうまく使いたいところです。

統合報告書は、よりビジネスマインドが必要となってきているので、CSR担当者ではすべてをカバーできないと思います。ツール制作を一つのきっかけとして、社内での連携強化を進めていきましょう。

統合報告書を発行している400社のうち、前述したアワード上位の顔ぶれはあまり変わらず20〜50社程度でしょうか。その中の企業はさらなる努力をするとして、そこにまだ入れない企業は相当の工夫が必要です。がんばりましょう。

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