評価の高い統合報告書

ここ数年で統合報告書のレベルも格段に上がり、多くの企業がガイドラインやイニシアティブによりすぎないオリジナリティのある統合報告に仕上げてきています。

そんな中で「評価される統合報告書」があります。評価機関/イニシアティブの評価が高かければ良いというわけではないと思いますが、それでも国内の現状ですと民間企業によるアワードやランキングはほとんどないため“世間の評価が高い統合報告書”となるとそれらの情報を参考にするしかありません。(CSR評価が高い企業の統合報告書が評価が高いわけではないのです)

というわけで本記事では、統合報告書に関する調査・アワードに相当するデータをまとめたいと思います。

優れている統合報告書

GPIFは去年から株式運用機関から「優れている統合報告書」に関するデータを集め発表しています。2018年1月発表分は以下の通りです。

■特に多くの運用機関から高い評価を得た「優れた統合報告書」
味の素、コニカミノルタ、オムロン、伊藤忠商事、丸井グループ

■特に多くの運用機関から高い評価を得た「改善度の高い統合報告書」
大和ハウス工業、住友金属鉱山、オムロン、住友商事
GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」より引用)

オムロンはさすがということで重複してますが、合計8社は現時点は投資家目線で最高レベルの企業ということなのでしょう。ちなみに上記の8社では、CSRウェブコンテンツでもハイレベルな情報開示をしているところがほとんど。IRでもCSRでも情報開示への取り組み自体が優れている(頑張っている)ということなのでしょうか。

統合報告書発行企業

今年の1回目も例年同様、「統合報告書を発行している会社」をご紹介します。まずは結果をご覧ください。
「あり」:22.7%(234社)
「なし」:61.0%(630社)
「作成予定」:8.4%(87社)
「その他」:7.8%(81社)
(CSR企業総覧2018 東洋経済「第13回CSR調査」業種別集計結果)

統合報告書の発行企業(国内で300〜400社程度)は、評価とか色々盛り上がっていますが、国内全体でみれば、ごく一部のマクロな視点にすぎません、ということ?

上場企業は、ゆくゆくは統合報告書でなくても、統合報告書的な何かを発行する方向になりますが、そういう企業はCSR報告書/サステナビリティレポートを統合報告化していくのでしょうね。逆に今統合報告書を発行している企業は、読者ターゲットの棲み分けにより、統合報告書とサステナブルレポートを分けて発行しているところが多い印象。

サステナビリティの課題

統合報告書におけるサステナビリティの意味は、どちらかというと本来の「“社会の”持続性」ではなく「“企業の”持続性」を表現すべきです。このあたりの議論が混在しているからCSR担当者とIR担当者の意識差が埋まらないのかもしれません。

ざっくりいえば、統合報告の主語は企業です。CSR報告書は社会が主語(社会に対し自社のインパクトを報告する)です。この根本的な差を理解しない限り、CSR報告書を廃止してアニュアルレポートに統合した統合報告書を作るという、読者不在のアクションが続くのでしょう。

2013年前後からの統合報告書の潮流を見ている限り、やはり“社会の持続性”は、様々な理由から統合報告書ですべてを伝えるのは無理だと感じています。投資家としては社会的インパクトよりも、それが最終的にどのように経済インパクトにつながるのか(成長戦略のストーリーテリング)を開示しなければなりませんから。

あと、特に統合報告書では業界特性(インダストリー・マテリアル)がCSR報告書よりも大きく影響するはずですが、IIRCを含めてセクターごとの議論というのは、国内でほとんど進んでいないように思います。(SDGsは最初から業界特性の手引きがある)

非財務情報を掲載する各種レポートを作成する時に「目的適合性」という考え方が必要になります。大前提として、それぞれの企業の「統合報告書」を何人が能動的に読みたいと感じているのか。99%のステークホルダーは「読まなくても困らない」という現実からスタートしなければなりません。

加えて、幼少のころから情報過多の時代で生きている「Z世代」や「ミレニアル世代」の人は、コンテンツ(ウェブ、リアル問わず)を“広告”だと認識した瞬間避けるようになる。もはや生理的といってもよいレベルで。

エンドユーザーも含めたステークホルダーを意識するなら、この報告書は、どういうシチュエーションだったら読んでもらえるだろう。どういう場なら話題のネタにしてくれるだろう、というコンテクストの視点も重要。投資家の評価を上げればよいという企業も多いと思いますが、サステナビリティレポートを統合・廃止している企業は、もっと広い視点でステークホルダーをみる必要があります。

「ESGが企業の哲学や文化に統合されているか」「ESGが“金儲け”につながる仕組みにつながっているか」などはまさに統合報告らいしい部分になるでしょう。

統合報告の表彰

厳密にいうと統合報告書の話ではない部分もありますが、参考になるアワードだと思いますので紹介します。

IR優良企業賞

■IR優良企業大賞
小松製作所、塩野義製薬

■IR優良企業賞
ダイキン工業、大和ハウス工業、ナブテスコ、野村総合研究所、ポーラ・オルビスホールディングス、丸井グループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ
第22回「IR優良企業賞」発表

WICIジャパン

■統合報告優秀企業大賞
伊藤忠商事、オムロン

■統合報告優秀企業賞
MS&ADインシュランスグループホールディングス、日本精工

■統合報告奨励賞
味の素、住友金属鉱山、第一工業製薬
第5回WICIジャパン「統合報告優良企業賞」の審査結果と表彰式

企業調査レポートアワード

■ESG
1位エスプール、2位クラウドワークス、3位メディカルシステムネットワーク、4位イーレックス、5位サカタインクス

■CSR
1位KDDI、2位アサヒグループホールディングス、3位イオン、4位花王、5位NTTデータ
機関投資家&アナリスト 企業調査レポートアワード 2016 年度

参考記事

統合報告/統合報告書に関する調査・データも紹介します。お時間がある時にチェックしてみてください。

KPMG|日本企業の統合報告の取組みに関する意識調査2017
統合報告書、活用できていますか?エンゲージメントのツールとしての統合報告書
信頼できる企業とは、「製品・サービスが優れている。技術力がある」が75%-「生活者の“企業観”に関するミニアンケート」の結果について-

まとめ

統合報告ではSAPという会社のように「非財務情報カテゴリのKPIが1%改善されると、営業利益が〇〇億円上昇します」というようなものが投資家としては一番わかりやすいのかもしれません。

ただ、非財務情報の経済的インパクトばかりが注目されると、経済的インパクトを産みにくい活動はダメなCSR活動となってしまうので、社会的意義をどれだけ丁寧に説明できるかにも注目です。

あと最近感じるのは、統合報告書は明らかに「強みの強調」「戦略要素の充実」「読み物化」の3つが進んでいます。このあたりはCSR担当者だけではなく制作サイドもきちんと理解しておくべきでしょう。

今回挙げた調査・アワードの上位企業のものはかなり参考になると思います。業種・規模でも変わらない普遍的なストーリーテリングを学べることでしょう。統合報告書制作の担当者は必ずチェックしておきましょう。

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